魔王を倒して故郷に帰ったら、ハーレム生活が始まった

スタジオ.T

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第86話 イザーブの魔物

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 数歩、瘴気の中に入っただけで、俺たちは魔物達に完全に包囲されてしまった。

「まずいな」

 殺したくないとか言っている場合では無い。仲間を殺されたことで、芋虫型の魔物達は高ぶっている。ぐるぐるぐると低い呻り声が、いたるところから聞こえてきている。

「囲まれた。全部、殺すのも気分が悪い」

「わ、私も虫嫌い……。ナツちゃん、任せても良い?」

「うん、もちろん!」

 パトレシアが俺の後ろでプルプルと震えている。虫が相当嫌いなようで、倒れている虫から視線をらしていた。

「ちょっと下がっててね」

 後方にいるナツからオレンジ色の魔力が勃沸ぼっぷつした。地を滑るように地面に張り巡らされた魔力が、蒸気孔のように噴出して大地の形を変えた。

 ズズズズズ、と低い音を立てて足元の地面がうなる。

「地の魔法、そびえ立つものプリティブ・ムル

 俺たちを取り囲むように土の壁が出来ていく。敵からの攻撃を阻む高い壁は、はるか前方まで展開した。

「走ろう!」

 ナツが叫んだ。
 突然、大地の壁が出現したことに虫たちも混乱しているようだった。ガンガンと壁に突撃している音が聞こえる。ボカリと空いた穴から真っ赤に染まった敵の複眼が確認出来た。

「きゃーー、虫きらーーい!!」

 壁の上を飛び越えてきた魔物を、パトレシアが攻撃した。手から出現させた雷電の束が、次々と敵を感電させて動きを止めていく。

「空の魔法、雷電の舞クードフードル!」

 霧で真っ白な視界を、パトレシアの魔法が照らしていく。雷光で明滅する視界の中で見えたのは、今自分たちがいる場所が深い森の一端でしかないことだった。まだ、敵がそこら中にいる。

「このまま行くと、迷いそうだな!」

「大丈夫、方向感覚は分かるから。私、地元だし! ナツ、次、右だよ!」

 パトレシアが叫ぶと、ナツが魔法の軌道を変えた。敵を避けるように蛇行だこうしながら、土の壁を張り巡らせていく。

「なんだ、意外使えるじゃないか。君たち」

 サティが2人のコンビネーションを見ながら、感心したように言った。
 木々の間を抜けるたびに、森はどんどんと暗く鬱蒼うっそうとしたものになっていた。木洩れ日は姿を隠し、気味の悪いベトリとした湿気が一層肌にまとわりついた。

「パトレシア、次はどっち!?」

「右……多分!」

「多分!?」

 土の壁が右方向に曲がる。目の前に現れた芋虫の動きを固定魔法止めて走り抜ける。

 もうかなりの距離を走ってきた。
 そろそろ、立ち止まって様子を見たい。そう思った時に、木々の間から広い空間が現れた。

「広場……か? なんだあれ?」

 視界の端に壊れかけの看板をとらえた。それを指さして、パトリシアが言った。

「ついた! このあたりが孤児院の近くだと思うよ!」

「良かったぁ……。私もうへとへと……」

 走りながら魔法を展開していたナツが魔法の勢いを止める。芋虫の呻り声はまだ聞こえてくるが、この距離なら問題ないだろう。

 ホッと息をはいて、円形の広場の中心部までたどり着いた時、展開していた索敵サーチが異変をとらえた。

「……待て!」

 巨大な飛行物体が接近してくる。かなりのスピードで一直線に近づいてくるということは、完全に俺たちを狙ってきた。
 姿はまだ見えない。スモッグのような瘴気は一層濃くなっていて、視界不良は続いている。

 俺の後ろにぴったりとくっついたパトリシアが、不安そうにつぶやいた。

「これ、ちょっと今までの奴とは違うみたいだね」

「厄介だな」

「羽ばたく音が聞こえてくる……」

 バサッ、バサッと音を立てている正体が近づいてくる。その羽ばたきは立ち込めていた瘴気を飛ばし、自らの正体を明らかにした。

……!」 

 見えてきたのは俺たちの数十倍はあろうかという巨大な体躯たいくと、まっすぐに広がったベージュ色の羽だった。

「あいつらの成虫か!」

「ひゃあああ! 気持ち悪ーい!」

 パトリシアの魔力が湧き上がる。凄まじい勢いの電撃が、空を走り羽ばたく蛾の方へと向かった。

 光で視界が白く染まる。
 しかし、バリバリッと轟音が聞こえるほどの雷撃を、魔物は羽を使って強い風を発生させて霧散させた。

「ahhhhhhhhhhh!!」

「あれっ、効かない!?」

「……やばい!」

 声をあげて、3人に注意を促す。
 怒り狂った成虫が突撃してくる。鋭く尖った歯は、気味の悪い緑の液体を滴らせていた。

 毒液。
 あんなものを食らったら、ただでは済まない。

固定フィックス!」

 イメージの箱を展開して、成虫の動きを止める。後退したいが、幼虫たちも迫ってきている。ここでケリをつけなければ、事態は一向に悪くなるだけだ。

 焦る頭で次の作戦を考えていると、俺の前を颯爽さっそうとサティが走っていた。

「やれやれ、こんなやつに手こずっていたんじゃ困るな」

 彼女の行動は、時間が跳んだのではないかと思えるほどの一瞬だった。青い髪をたなびかせた女神が放ったのは、瞬き1つでカットが変わったような、超速の攻撃だった。

「天の魔法、罪には罰をトリシューラム
 
 出現したのは巨大なはこ
 彼女が魔法を唱えたと思ったと同時に、光の先端は成虫を貫いていた。ぐしゃりと肉を切り裂く音を立てて、成虫は地上にちた。

「Gyaooooooo!!」
 
 苦悶の叫びをあげて成虫は落下した。深く刺さった光の鉾は、的確に敵の急所を貫いていた。口から垂らした緑色の液体が、荒れ果てた地面の上で気色の悪い水たまりになっていく。

「すごい……」

「このくらい当然さ。ほら、後ろから芋虫ちゃんが来ている。先に進むよ」

 サティはすたすたと霧の方へと進んでいく。
 呼吸を落ち着けて、俺たちも彼女の後ろをついていく。

 瀕死の成虫は、虚ろな目で地面に倒れていた。ぐったりと羽を横たえて、泡をふいた成虫は低い声で唸っていた。

「…………ナ」

 その声は何かを訴えているようにも、叫んでいるようにも聞こえた。耳を澄まして聞こうとしたが、何を言っているかはやはり分からなかった。

 無残な姿で横たわった魔物の成虫は、しばらくすると声を発しなくなり、凍ったように動かなくなった。あっさりと絶命した成虫を前にして、追いかけてきた幼虫たちも俺たちを追うことをやめて去っていった。
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