155 / 220
第127話 決断
しおりを挟む「もう1度殺す……」
大切な誰かが死ぬ。
俺が魔法を崩すために動けば、その誰かを殺すことになる。
「辛い戦いになる。アンク、それでもあんたはその誰かを思い出したいと思うか?」
ユーニアの言葉に心の中で天秤が揺れる。
思い出したい。
その感情は俺の中でふつふつと大きくなっているのが分かっていた。会いたいという気持ちが、どうしようもなく膨れ上がっている。
彼女たちにもう1度会いたい。
「でもアンクは後悔するよ。彼女たちにもう1度会った時に、もう別れは始まっているんだから」
リタは沈んだ顔で言った。
「私もどうすれば良いのか分からなかった。でもアンクがどっちを決断しても、私は協力したいと思っている。私にはどっちも否定できない」
天秤が揺れている。
どちらも正しい選択で、どちらも間違った選択だ。どちらも残酷で救いようのない答えだ。
「後悔しないとは……言い切れない」
「……じゃあ、やめる?」
「それも許せないんだ。俺は彼女たちに会いたい」
「じゃあ……」
どちらも嫌だ。
天秤に置かれたどちらの選択を取っても、納得できるはずがない。
「おかしいだろこんなの」
命を救われたはずなのに、そのことを思い出せない。それほど大事な存在だったはずなのに、名前すらも思い出せない。会いたいと思っていた存在なのに、その姿すら見えない。
「違う。こんなのは矛盾仕切っている」
何かを解決しているようで、何も解決していない。
こんな結末を認めてしまったら、誰1人として幸せにならないままで終わらせてしまったら、今まで戦ってきた意味がない。
答えは1つだ。
「俺は……やるよ。瞑世の魔法を崩す」
「後悔、しない?」
「後悔はどっちにしたってするさ」
目を閉じて、未来のことを思う。全てが終わった後で、手のひらの中に何も残っていないことを想像すると、最悪な気分になった。
「俺はその娘たちのことを思い出したい。戦う理由はそれだけで十分だ。それに……策なら1つある」
「へぇ、何がある?」
俺の言葉にユーニアが反応した。ぴくりと眉をあげて、俺に視線を送った。
「どちらの天秤を落とすこともない方法があるなら、聞かせて欲しい」
「解法だ」
「……解法」
俺の答えを聞いたユーニアは大きくため息をついた。目を閉じて呆れたように息を吐いた。
「私も余計なことを教えたもんだ」
「出来るよな」
「出来るよ、あんたの魔法ならね。ただ、それは私が知る限りで1番最悪の選択肢だ。それこそ何の解決にもなっていないことくらい分かるだろ。解法は魔力炉に過度の負担をかける。1度発動するだけでも致命傷だ」
ユーニアは少しためらったように視線を動かすと、言った。
「記憶を取り戻す前に、お前が死ぬぞ」
「そんな……アンク」
リタが目を見開いて、俺のことを見た。
解法は諸刃の剣だ。
人間離れした強力な魔法を放てる代わりに、人体に深いダメージを与える。その反動についても当然、知っている。
「それでもやるよ」
「自分が死んでもか。安い自己犠牲だぞ。あの娘たちはお前を救うために、自分たちを犠牲にしたのに。お前が死のうとするのか」
「あぁ、構わない」
「……本当にあきれた」
ユーニアは腰掛けていた鍋の縁から身体を起こすと、俺に近づいた。
「頑固だな。私がどう言っても、きっと答えは変わらないんだろうな」
「あんたに育てられたおかげだ。俺は自分の正しさを守りたい」
「そうか、分かった」
ユーニアは腕を組んで大きく頷いた。顔をあげた彼女はどこかすっきりしたような表情をしていた。
隣に座るリタは悲しそうにうつむいて、俺たちの言葉を聞いていた。
「リタもそれで良いか」
「……反対したい。でも私には決められなかった。アンクがそういう道を選ぶのなら、私は協力する。協力せざるを得ない」
「ありがとう」
リタにお礼を言う。
これで準備は整った訳だ。後は実行に移すだけだ。
大きく息を吸って、緊張している身体に力を入れる。ぼやぼやしている暇はない。
「ユーニア、早速教えてくれ。どうやって記憶を取り戻すのか」
「場所を移動しよう。欠けていた記憶を取り戻すには、お前とそいつにとって最も思い出深い場所に行かなきゃ意味が無いんだ」
ユーニアは立ち上がり、階段を上がるように言った。
「何、そう遠い場所じゃない。3日もすればたどり着く。あ、鍋の中身を忘れ無いように取ってきてくれ」
「鍋の中身……?」
「それが『死者の檻』を解呪する鍵になる」
ユーニアは俺に小さなガラスの瓶を投げると、大鍋にかかっているお玉を指差した。
「分かった」
「私は先に行ってる。3つ分だぞ、忘れるな」
ユーニアに指示された通り、鍋にかかったお玉をとると、異臭というより激臭が嗅覚器官に遅いかかかった。
「くっっっさっ!!」
近づいただけで、瞳から涙が溢れ出した。何を混ぜればいったいこんなものが出来るのか、訳が分からなかった。臭い。ひたすらに臭い。
「こんなもの何に使うんだ……?」
「アンク」
小言を言いながら、得体のしれない紫の液体を小瓶に入れていると、リタが声をかけてきた。
「なんだ、リタ」
「……私からは何も言えない。アンクがこれからどんな道を歩むことになると知っていながら、私には何も出来ない。何を言いたいのかは分からないかもしれないけれど、私はそれがすごく辛いんだ」
リタは自分の拳を強く握りしめると俺に言った。
「どんな決断をしても、私はあんたの味方だ。そうあろうと決めた。だから何でも言ってくれ」
「……迷惑ばかりかけて済まないな」
「迷惑じゃないよ」
リタはフッと微笑んで言った。
「きっと、私もあの娘たちと同じ気持ちだからさ。なんだかんだ、みんな、あんたのことが大好きだから」
0
あなたにおすすめの小説
クラスのマドンナがなぜか俺のメイドになっていた件について
沢田美
恋愛
名家の御曹司として何不自由ない生活を送りながらも、内気で陰気な性格のせいで孤独に生きてきた裕貴真一郎(ゆうき しんいちろう)。
かつてのいじめが原因で、彼は1年間も学校から遠ざかっていた。
しかし、久しぶりに登校したその日――彼は運命の出会いを果たす。
現れたのは、まるで絵から飛び出してきたかのような美少女。
その瞳にはどこかミステリアスな輝きが宿り、真一郎の心をかき乱していく。
「今日から私、あなたのメイドになります!」
なんと彼女は、突然メイドとして彼の家で働くことに!?
謎めいた美少女と陰キャ御曹司の、予測不能な主従ラブコメが幕を開ける!
カクヨム、小説家になろうの方でも連載しています!
戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件
さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。
数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、
今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、
わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。
彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。
それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。
今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。
「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」
「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」
「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」
「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」
命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!?
順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場――
ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。
これは――
【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と
【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、
“甘くて逃げ場のない生活”の物語。
――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。
※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
僕に仕えるメイドは世界最強の英雄です1~またクビになったけど、親代わりのメイドが慰めてくれるので悲しくなんてない!!~
あきくん☆ひろくん
ファンタジー
仕事を失い、居場所をなくした青年。
彼に仕えるのは――世界を救った英雄たちだった。
剣も魔法も得意ではない主人公は、
最強のメイドたちに守られながら生きている。
だが彼自身は、
「守られるだけの存在」でいることを良しとしなかった。
自分にできることは何か。
この世界で、どう生きていくべきか。
最強の力を持つ者たちと、
何者でもない一人の青年。
その主従関係は、やがて世界の歪みと過去へと繋がっていく。
本作は、
圧倒的な安心感のある日常パートと、
必要なときには本格的に描かれる戦い、
そして「守られる側の成長」を軸にした
完結済み長編ファンタジーです。
シリーズ作品の一編ですが、本作単体でもお楽しみいただけます。
最後まで安心して、一気読みしていただければ幸いです。
なお、シリーズ第二作目が、現在なろう様、カクヨム様で連載しています。
2月13日完結予定。
その後、アルファポリス様にも投稿する予定でいます。
ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話
桜井正宗
青春
――結婚しています!
それは二人だけの秘密。
高校二年の遙と遥は結婚した。
近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。
キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。
ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。
*結婚要素あり
*ヤンデレ要素あり
天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】
田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。
俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。
「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」
そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。
「あの...相手の人の名前は?」
「...汐崎真凛様...という方ですね」
その名前には心当たりがあった。
天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。
こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。
最強賢者の最強メイド~主人もメイドもこの世界に敵がいないようです~
津ヶ谷
ファンタジー
綾瀬樹、都内の私立高校に通う高校二年生だった。
ある日、樹は交通事故で命を落としてしまう。
目覚めた樹の前に現れたのは神を名乗る人物だった。
その神により、チートな力を与えられた樹は異世界へと転生することになる。
その世界での樹の功績は認められ、ほんの数ヶ月で最強賢者として名前が広がりつつあった。
そこで、褒美として、王都に拠点となる屋敷をもらい、執事とメイドを派遣してもらうことになるのだが、このメイドも実は元世界最強だったのだ。
これは、世界最強賢者の樹と世界最強メイドのアリアの異世界英雄譚。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる