魔王を倒して故郷に帰ったら、ハーレム生活が始まった

スタジオ.T

文字の大きさ
157 / 220

第129話 天の岩壁

しおりを挟む

 記憶を取り戻すための場所に行く。
 そう言ったユーニアは俺たちが住んでいたサラダ村から、かなり離れた場所まで歩いていた。カルカットよりも幾分か遠い。

 もうすぐ海の近くまでたどり着く、それくらいの距離まで歩いた時だった。

「見えてきた。覚えているかい、アンク」

「あれは……」

 ユーニアが指差したものを見て、リタは思わず「すごい」と声を漏らした。

「天の岩壁がんぺきと呼ばれている場所だ」

 まっすぐに空まで伸びる直線的な造形物。
 形は綺麗な台形で、高さはどんな建物よりも高い。登るだけで半日はかかりそうな巨大な岩が目の前にあった。

「懐かしいな。そういえば、こんなところまで来た」

「その時のこと覚えてるか?」

「あぁ、なんとなくな。怪物退治だったか」

 印象的なシーンは覚えている。
 この先にある小さな港町から怪物退治の依頼がユーニアに舞い込んできた。

「結局何もいなかったよな、あそこには」

「そうそう。という訳でここに登るぞ」

「……どうして?」

「どうしても、だ」

 ユーニアは岩壁の頂点を指差すと、登り始めた。軽々と岩肌を進んでいくユーニアは、もうだいぶ高いところまで来ていた。

「おーい、早くー」

「行くかぁ、仕方がない」

 俺に続いてリタが進んでいく。
 ゴツゴツした岩肌は掴むことは難しくはなかったが、なにぶん距離が遠い。何時間か進んでいたが、まだ半分もたどり着いていなかった。

「はぁはぁ……リタ、大丈夫か」

「な、なんとか……」

 上を見ると、ユーニアはもう頂上近くまで進んでいる。ほとんど衰えていない。全盛期より進化しているくらいの、体力で彼女は岩肌を超えていた。

「ほんと、何してたんだろな。あの人」

「さ……さぁね」

 リタから疲れ切ったような返答がかえってくる。体力も限界に近い。
 下を見上げると地上は遠く、さっきまで近くにあった木はほとんどミニチュアのようにしか見えていなかった。

 頂上に近づくに連れて、空気が薄くなっていくのもまた体力を消耗させた。

「あと、少し……」

 休憩もろくに取れず、踏ん張りながら頂上にたどり着いたころには、すでに時刻は正午になっていた。平面な地面にギラギラと太陽が照りつけている。

 ユーニアと言えば、地面にあぐらをかいて遠くの大地を見ていた。俺たちがたどり着いたことに気がつくと、振り向いて言った。

「お、もう着いた。子どもの時より1時間早いぞ。成長したな」

「お、おかげさまで……」

 木も生えない固い岩盤は、まるでハサミで真っ二つに切ったようにまっすぐな地面だった。凹凸の1つもない広い岩盤が広がっている。

 部屋の反対側に立ったユーニアは、黒いマントを脱いでいた。タイツのようにぴったりとした服は、彼女が戦闘服として使っていたものだ。すらりと伸びた長い脚が、地面に影を作っている。

「なんで着替えているんだ?」

「今に分かる」

 頂上にたどり着いたリタも呼吸を落ち着けて、頂上からの景色に目を向けた。汗をぬぐいながらリタは感嘆の声をあげた。

「わぁ……海、見えるんだ」

 この光景はここまでこなければ絶対に見えないものだ。
 ミニチュアのような港町の先に、視界いっぱいの海が広がっている。穏やかな波を讃えて、太陽に水面をきらめかせている。

「……綺麗」

「あたしもここを初めて見た時は感動した。世界中どこに言っても、ここが1番美しい景色だった」

「確かに……こんな視界いっぱいに海が見えるなんて初めて」

「あたしの故郷なんだ、ここ」

「ユーニアの?」

 そう言われて、ふいに奇妙な予感が胸をよぎる。
 ざわざわするというか、俺はここまで来たという意味をもっと考えるべきだったんじゃないのか。

 どうして、ユーニアがここに案内したのか、それにもっと考えを巡らせるべきだったのかもしれない。
 
「さぁ、アンク、それを飲むんだ」

 景色に目を向ける俺に、ユーニアが言った。

「あの液体を飲めば記憶が蘇る。『死者の檻パーターラ』の解除が始まるよ。課題クリアだ」

「これは……」

 ユーニアはなんて言った。
 あの店の地下室でなんて言ったんだ。思い返せ。

『場所を移動しよう。欠けていた記憶を取り戻すには、お前とそいつにとって最も思い出深い場所に行かなきゃ意味が無いんだ』

「ここはどういう場所だ。誰との思い出だ?」

 ユーニアの方を見ると、彼女は静かに笑っていた。

「さぁ、覚悟を決めたんだろ」

 液体の入った小瓶を見下ろす。
 ちゃぷちゃぷと波打つこれを飲み干せば、きっと『死者の檻パーターラ』の解呪が始まるだろう。

「……良いんだな、ユーニア……!」

「どうして私に聞く? これはお前の選択だ」

 怖い、と言いたくなった口を閉ざす。
 ユーニアとリタの言った通りだ。俺はもっと深く考えるべきだった。

 けれど、後戻りは出来無い。今更そんなことできない。

「……ごめん」

 一思いに液体を飲み下す。
 出来ることならある。それがあるなら、立ち止まっているよりずっとマシな選択だ。
 
「う……ぐ……!」

 喉を通っていく液体は、飲んでみると想像よりさらに臭かった。鼻から抜けてくる匂いで、吐き気が一気に増してくる。

「ぅ……ぇ……!」

 吐き気よりも、液体そのものまずさよりも、この選択をした恐怖に押しつぶされそうだった。
 うめきながら、せり上がってきた液体を押しとどめて、なんとか呑みくだした。

「あ、あ、あ……!」

 ようやく飲み込んだと思った時、次の異変が現れた。
 視界が暗転する。頭の中で鳴る乾いた音。カラカラカラとスピードを早めて、徐々に大きくなってくる。

 フィルムが回る音だ。
 閉ざされていた記憶が、蘇ろうとしている。

「『死者の檻パーターラ』と『記憶改ざん』はセットなんだ。だから、当然お前が思い出すは死者の記憶だ」

 過去の記憶が頭の中に現れる。
 だからリタは俺を心配してくれたのか。後悔しないのか、と声をかけたのはこういう理由があったからか。

 涙があふれ出てくる。
 開かずの扉の鍵を壊して現れた記憶を、俺はただ外側から見ることしか出来なかった。

 ユーニアは死んだんだ。
 あと時、この場所で、俺の目の前で。
 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

クラスのマドンナがなぜか俺のメイドになっていた件について

沢田美
恋愛
名家の御曹司として何不自由ない生活を送りながらも、内気で陰気な性格のせいで孤独に生きてきた裕貴真一郎(ゆうき しんいちろう)。 かつてのいじめが原因で、彼は1年間も学校から遠ざかっていた。 しかし、久しぶりに登校したその日――彼は運命の出会いを果たす。 現れたのは、まるで絵から飛び出してきたかのような美少女。 その瞳にはどこかミステリアスな輝きが宿り、真一郎の心をかき乱していく。 「今日から私、あなたのメイドになります!」 なんと彼女は、突然メイドとして彼の家で働くことに!? 謎めいた美少女と陰キャ御曹司の、予測不能な主従ラブコメが幕を開ける! カクヨム、小説家になろうの方でも連載しています!

戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件

さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。 数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、 今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、 わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。 彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。 それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。 今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。   「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」 「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」 「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」 「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」   命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!? 順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場―― ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。   これは―― 【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と 【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、 “甘くて逃げ場のない生活”の物語。   ――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。 ※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

僕に仕えるメイドは世界最強の英雄です1~またクビになったけど、親代わりのメイドが慰めてくれるので悲しくなんてない!!~

あきくん☆ひろくん
ファンタジー
仕事を失い、居場所をなくした青年。 彼に仕えるのは――世界を救った英雄たちだった。 剣も魔法も得意ではない主人公は、 最強のメイドたちに守られながら生きている。 だが彼自身は、 「守られるだけの存在」でいることを良しとしなかった。 自分にできることは何か。 この世界で、どう生きていくべきか。 最強の力を持つ者たちと、 何者でもない一人の青年。 その主従関係は、やがて世界の歪みと過去へと繋がっていく。 本作は、 圧倒的な安心感のある日常パートと、 必要なときには本格的に描かれる戦い、 そして「守られる側の成長」を軸にした 完結済み長編ファンタジーです。 シリーズ作品の一編ですが、本作単体でもお楽しみいただけます。 最後まで安心して、一気読みしていただければ幸いです。 なお、シリーズ第二作目が、現在なろう様、カクヨム様で連載しています。 2月13日完結予定。 その後、アルファポリス様にも投稿する予定でいます。

ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話

桜井正宗
青春
 ――結婚しています!  それは二人だけの秘密。  高校二年の遙と遥は結婚した。  近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。  キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。  ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。 *結婚要素あり *ヤンデレ要素あり

天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】

田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。 俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。 「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」 そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。 「あの...相手の人の名前は?」 「...汐崎真凛様...という方ですね」 その名前には心当たりがあった。 天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。 こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。

最強賢者の最強メイド~主人もメイドもこの世界に敵がいないようです~

津ヶ谷
ファンタジー
 綾瀬樹、都内の私立高校に通う高校二年生だった。 ある日、樹は交通事故で命を落としてしまう。  目覚めた樹の前に現れたのは神を名乗る人物だった。 その神により、チートな力を与えられた樹は異世界へと転生することになる。  その世界での樹の功績は認められ、ほんの数ヶ月で最強賢者として名前が広がりつつあった。  そこで、褒美として、王都に拠点となる屋敷をもらい、執事とメイドを派遣してもらうことになるのだが、このメイドも実は元世界最強だったのだ。  これは、世界最強賢者の樹と世界最強メイドのアリアの異世界英雄譚。

処理中です...