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第142話 地神との戦い
しおりを挟むリタは構えていた扇を地面に向けて魔法を放った。大地に向けて放たれた魔力は、凄まじい上昇気流を発生させた。
「風の魔法、走蓮の飛!」
飛翔というより発射に近い。風の力によって、浮き上がった俺たちの身体は猛スピードで土人形の元へと向かっていった。
風を切って進む。肌がビリビリと震えるような衝撃が走った。
俺の身体をつかむリタの手にも力が入るのが分かった。
「ぐぉおぉぉおお。思っていたより、す、ごいな……」
「出力調整は出来ないって言ったでしょ! ここで気絶したら殺すからね!」
「わ、かってる……!」
「ほら来てる! 止めて!」
リタが視線を送った方向からは、岩で作られた尖った棘が迫っていた。土人形の脇腹付近から生成された棘が、ミサイルのように俺たちに向かっていた。
「固定!」
索敵《サーチ》でとらえて、固定魔法で止めていく。衝突するギリギリのところで刃を止めていく。
「くっ……!」
飛んでくる攻撃の数が尋常ではない。
捕捉出来なかった棘のいくつかが、俺たちの身体をかすめていった。
「危なぁ! ちょっとなにやってんの!」
「固定魔法の癖をつかまれてるんだ。数が多いと索敵《サーチ》でとらえきれない……!」
「じゃあもっとスピード上げるわよ! しっかり捕まっていて!」
リタは再び扇を構えた。
高い岩の壁はどこまで行っても先が見えない。あたりの大地を飲み込んで、土人形は恐るべき高さまで成長していた。
迫り来る棘をギリギリでかわす。先端を尖らせた岩のミサイルは、雨のように降り注いできていた。撃ち落としても撃ち落としても、次々と精製されてくる。
ようやく土人形の腰部まで進んだ時、岩全体をナツのオレンジ色の魔力が包んだのが分かった。
「なんだ……?」
岩がゆっくりと動き始める。
緩慢な動作で動き始めた土人形は、その一瞬でスピードを上げた。
視界から土人形の姿を消えた。
「消えた……!?」
視界を覆ったのは巨大な影。
通り越したはずの土人形の足が、俺の頭上に見えていた。信じられないくらいの俊敏な動作で、土人形は動いた。
「跳躍した!?」
「リタ軌道変更を……! 固定!」
「押しつぶされる!」
頭上に跳んだ土人形の動きを固定魔法で止める。
その一瞬の隙で、リタが「走蓮の飛」を唱えて飛翔する軌道を横方向に変えた。
間一髪。
1秒でも遅れていたら、下敷きになっていたタイミングで、俺たちは土人形の跳躍をかわした。ここまで聞こえてくる地響きの音に、心臓を高鳴らせながら自分たちが生きていることを確認した。
「なんてスピードだよ……チートだろ……」
「魔力を使って俊敏性能を向上させたんだ。本当に死ぬかと思った……」
「……また、光っているような気がする」
「ちょっと止めてよ」
リタは顔をひきつらせて、ナツの土人形を見ていた。
目の前の岩の壁は再びオレンジ色に発光している。さっきと同じ、ナツ自身の魔力を土人形を流し込んでいる。身体中に血液を行き渡らせるように、巨大な土人形は再び力を漲らせていた。
「来る……!」
ゆっくりとした動きから一転。
まるでプロボクサーのように素早いステップで土人形は動いた。腰をひねり、左腕から拳を放つ。
「風の魔法、裂戒の飛!」
土人形が繰り出した左ストレートと、リタが放った風の壁が真っ向からぶつかる。
互いの魔力が混じり合い、凄まじい対流が発生した。衝突点から突風が舞い上がり、宙に浮かんでいた俺たちはあっけなくと吹き飛ばされた。
「うわぁああああああ!!!!」
視界が何度も回転する。
魔法の衝撃で吹き飛ばされた俺たちは、地面に向かって真っ逆さまに落下していく。
「くそっ……!」
着地の寸前、リタが地面に向かって魔法を叩きつける。落下の寸前でふわりと浮かぶ上昇気流に助けられた俺たちは、折り重なるようにして地面に倒れた。
「ぶへ」
泥の上に倒れたリタは、真っ黒に汚れた顔をぬぐって立ち上がった。
「ちくしょう、やってくれる!」
「リタ、だめだ落ち着け。1回立て直そう」
このまま同じ手で舞い上がっても、返り討ちに合うことは目に見えている。超高速で繰り出される攻撃に対応する方法を考えなければいけない。
頭を使え。
ユーニアがよく言っていたことだ。ただガムシャラにやれば全てが救われるなんて甘い話じゃない。気合でどうにか出来るほど、この戦いは簡単じゃない。ナツは本気だ。
土人形から少し離れたところで考えを巡らせていると、土人形の方からナツの声が響いてきた。
「『あっははは。さすがにこの質量差はどうにも出来ないでしょー。さっさと私に潰されちゃいなさーい』」
「……勝ったつもりでいるな」
「気のせいか生き生きしてるね。ストレス溜まってたのかしら」
上空に上がろうと思っても、超高速移動で撃墜されてしまう。さっきの衝撃を見る限り、相手の攻撃を1度でも喰らったらアウトだ。
となると出来ることは1つしかない。
「よし、リタ飛ぶぞ」
「結局同じことする……訳ないよね。作戦はなに?」
「隙を作る」
不思議そうな顔をするリタに、今回の作戦を伝える。一通りの作戦を聞いたリタは、仕方なさそうに頷いた。
「雑な作戦だけれど、それが良いかもね。その代わり最初のタイミングはアンクが作ってよ」
「いけそうか」
「まぁ……やるしかないね」
頭上を見上げると、ナツの土人形が俺たちのことを見下ろしていた。余裕たっぷりに近づいてきた巨体は、ゆっくりと足を踏み出そうとしていた。
「『どう? 覚悟は出来た?』」
「そっちこそ。降りてきたらたっぷりお説教してやるからな」
「『……やってみやがれー!』」
ナツの叫び声と共に、土人形の足が振り下ろされてくる。落ちてくる巨体に対して身構えた俺はその場を動かずに、全力の魔力を放った。
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