176 / 220
第145話 キャッチ
しおりを挟む解法。
その呪文を口にすると同時に、魔力炉に火が灯るのが分かった。生易しいものではない、身体を焼き焦がす炎が激痛となって身体を襲った。
「……っっ!!」
あのユーニアですら、一回の発動で命を落とした。反動は俺の想像をはるかに超えていて、漏れ出した魔力が俺の身体を蝕んでいるのが分かった。
発動から数秒足らずで、身体の破壊が始まっていく。
「……くそ、が」
嫌な思考をシャットアウトする、
今は俺なんかよりナツの方が先決だ。
もう『死者の檻』の解除が始まっている。
それは死者が元いた場所に還るということだ。ラサラやユーニアがいなくなった時のように、ナツの身体もまた形を失い崩れようとしていた。
遥か上空の岩の上から自由落下の速度で俺たちは地面に落下していた。ナツの名前を呼ぶと、腕の中で涙をぬぐって彼女は言った。
「あー、あー、負けた……完敗だ。もうダメだよ、わたし、何1つ守れなかった。アンクを返り討ちにするって言ったのに」
「途中までは良かったけれどな。次回以降に活かしてくれ」
「もう……無理だよ」
ナツは悲しそうに笑って、そして崩れゆく自分の身体を見た。
「最期にアンクに会えて良かった」
「死なせはしない」
「ダメ、解法を使う気でしょう。そんなことさせない。魔力も足りていないでしょ。大人しく死なせてよ」
「……少し黙れ」
抱きかかえたナツの唇に、思い切りをキスをする。
「……!?」
驚いて言葉を失ったナツの口の中に舌を入れる。温かな感触を味わったあとで、唇を離す。
ナツは顔を赤くさせて、俺の顔をまじまじと見た。
「ちょ、ちょっと……なにしてるの!? 意味わかんないよ! さすがに心の準備とかいろいろ……」
「悪いな、そんな場合じゃないんだ。索敵」
「え……ちょっと、なに。やっ……ぁ!」
「安心しろ。俺はまだ死なない。ナツも……死なせない」
「なにこれなにこれ!? 身体が変なんだけど……ぉ!」
頭からつま先まで、ナツの身体を魔力で探っていく。身体の凹凸、胸の膨らみ、末端から先端まで。魔力で包み込んで、彼女の身体を探る。
摂取した唾液から、彼女の魔力を取り込む。これがナツの形。決して忘れないように、頭の奥深くに刻み込む。
「これ何、どういう……こと……!?」
「魔法だよ。ただの索敵」
普段の何万倍にも感度をあげているという点を除いては、索敵と変わらない。
針よりも細く、細胞の隙間に入るくらいに小さく。彼女を構成する物体を、自分の中でイメージとして収める。
情報が洪水のように流れ込んでくる。
魔力の過負荷で身体がひび割れていくような感覚があった。それで良い。ここまでは想定通りだ。
「解法、概念捕捉」
生命が描く螺旋。魔法の源、鼓動する心臓よりもさらに深く、今彼女を覆っている魔法の構造を頭の中に叩き込む。
もっと深く。
魔力の動きを把握する索敵を、限界まで暴走させる。瞳の奥で火花がバチバチと弾けている。涙のように血が溢れ出して、頬を伝っていく。
「解法、生命連結」
魔法の構造は人間には、理解出来ないほどに小さい。魔力を構成する粒の1つは肉眼では確認することは出来ない。
今やっていることは、それを手づかみで掴み取ろうとするようなものだ。頭の1つや2つ、滅茶苦茶になっても仕方がない。
でも、まだだ。
もう一押し。ここで止める訳にはいかない。
痛みを意識の外に振り払って、次の魔法を口にする。
「固定」
解除しかかっていた『死者の檻』を固定する。
抱きしめたナツの身体が白く輝く。確かな熱を持ち始めた彼女の身体を、きつく抱きしめる。
「アンク!!」
その魔法の発動と同時に俺たちの身体は地面に着陸した。
地上で待機していたリタが俺たちの身体を風の魔法で受け止めた。ふわりと風に舞い上がって、俺たちは木の葉の山のクッションの上に突っ込んだ。
「…………うわああぁ!!」
ドスン、と派手な音を立てて地面に転がる。地上の感覚がずいぶんと懐かしく思える。
「痛っ……」
……まだ、生きてる。
ナツも無事だ。致命傷になるような怪我もなく、『死者の檻』の解除も止まっている。
成功だ。
「良かった……」
ピースは寸分の違いなくはまった。魔法は完璧に発動している。
空が高くて、太陽がまぶしい。
「アンク……」
信じられないという表情で、リタが俺のことを見た。
「生きてる……解法を使ったのに、どうして……」
「ナツの魔力を借りたからかな。ほら、ご覧の通り、身体も動かせてる」
「そうか……それは……驚いた」
俺の姿を見て安心したのか、リタは腰を抜かして座り込んだ。
「すごいな……アンクは」
「大したことない。ほら、ナツ起きろ」
「う、うーん……」
落下の衝撃で目を回して倒れているナツの頬を叩く。
全身葉っぱまみれになって、すっかり汚れてしまったナツは目を開けると、信じられないという声で呟いた。
「どうして……死んでない……」
「ちゃんと責任取るって言っただろ。大丈夫、脚も生えているし、今のナツも俺も正真正銘の生きた人間だ」
「あ……」
ナツは自分の身体を見て、声をあげて笑った。
「あは、あはははは。なにこれ、信じられない」
リタの手を借りて、ナツは起き上がった。ピョンと跳んだり、くるくる回ったりしながら、彼女は自分の身体が未だにそこにあることを確認して、ますます信じられないという表情になった。
「どうして。だって『死者の檻』が解かれたのに……」
「固定魔法でナツの『死者の檻』を固定した。時間を止めたんだ。ナツは死なない」
「……そんなこと……普通の人間が……」
「出来た」
拳を握って自分の腕の感覚を確かめる。大丈夫、まだ動く。
「イメージだけはずっとあった。ただ魔力が足りなかった。魔法そのものの概念を探るには、少しだけズルを必要があったからな」
「じゃあ、わたし……」
「もっと一緒にいられる。生きられるんだ」
俺がかけた固定魔法は解けない。解法で放った魔法は残り続ける。
「ユーニアが教えてくれたおかげだ」
力の行使が終わったからか、疲労感はドッと押し寄せてきた。熱くなっていた魔力炉が急速に冷えていく。
「アンク……」
木の葉の上で横たわる俺に、ナツは近づいてきた。
背中に腕を回すと、彼女は俺の身体を優しく抱きしめた。
「私の負けだよ。降参、降参」
彼女はいつも通りの笑顔で言った。
「レイナちゃんには悪いけれど。遠慮なく裏切らせてもらう。どう足掻いても、私にアンクを説得することは出来なさそうだ」
「ようやく気づいてくれたか」
「本当に……頑固なんだから」
……これでひとまず道は繋がった。
毎回、こんなボロボロになっていては先が思いやられるが、1歩進んだことは確かだ。こうしてナツという人間の記憶を思い出して、その温かさを感じて、この選択を選んだことを改めて噛みしめる。
やっぱりこれは、忘れて良いものではなかったんだ。
「アンク、怪我大丈夫?」
「あー、あんまり大丈夫じゃないかも」
「だよね。あとは私たちが家まで運ぶから、アンクは寝ていて良いよ」
「……そうか、ありがとう」
彼女の言葉に甘えさせてもらう。ナツに折られた四肢は半端なく痛かったし、内臓もかなりダメージを受けている。
何より……解法で受けたダメージが大きい。
自分の身体がどうなっているか、正直、想像が付いていない。
「じゃあ、頼む」
今は休もう。
戦いはまだ終わっていない。明日を再び戦うために、俺は深い眠りに落ちていった。
0
あなたにおすすめの小説
クラスのマドンナがなぜか俺のメイドになっていた件について
沢田美
恋愛
名家の御曹司として何不自由ない生活を送りながらも、内気で陰気な性格のせいで孤独に生きてきた裕貴真一郎(ゆうき しんいちろう)。
かつてのいじめが原因で、彼は1年間も学校から遠ざかっていた。
しかし、久しぶりに登校したその日――彼は運命の出会いを果たす。
現れたのは、まるで絵から飛び出してきたかのような美少女。
その瞳にはどこかミステリアスな輝きが宿り、真一郎の心をかき乱していく。
「今日から私、あなたのメイドになります!」
なんと彼女は、突然メイドとして彼の家で働くことに!?
謎めいた美少女と陰キャ御曹司の、予測不能な主従ラブコメが幕を開ける!
カクヨム、小説家になろうの方でも連載しています!
戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件
さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。
数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、
今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、
わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。
彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。
それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。
今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。
「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」
「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」
「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」
「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」
命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!?
順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場――
ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。
これは――
【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と
【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、
“甘くて逃げ場のない生活”の物語。
――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。
※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
僕に仕えるメイドは世界最強の英雄です1~またクビになったけど、親代わりのメイドが慰めてくれるので悲しくなんてない!!~
あきくん☆ひろくん
ファンタジー
仕事を失い、居場所をなくした青年。
彼に仕えるのは――世界を救った英雄たちだった。
剣も魔法も得意ではない主人公は、
最強のメイドたちに守られながら生きている。
だが彼自身は、
「守られるだけの存在」でいることを良しとしなかった。
自分にできることは何か。
この世界で、どう生きていくべきか。
最強の力を持つ者たちと、
何者でもない一人の青年。
その主従関係は、やがて世界の歪みと過去へと繋がっていく。
本作は、
圧倒的な安心感のある日常パートと、
必要なときには本格的に描かれる戦い、
そして「守られる側の成長」を軸にした
完結済み長編ファンタジーです。
シリーズ作品の一編ですが、本作単体でもお楽しみいただけます。
最後まで安心して、一気読みしていただければ幸いです。
なお、シリーズ第二作目が、現在なろう様、カクヨム様で連載しています。
2月13日完結予定。
その後、アルファポリス様にも投稿する予定でいます。
ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話
桜井正宗
青春
――結婚しています!
それは二人だけの秘密。
高校二年の遙と遥は結婚した。
近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。
キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。
ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。
*結婚要素あり
*ヤンデレ要素あり
天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】
田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。
俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。
「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」
そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。
「あの...相手の人の名前は?」
「...汐崎真凛様...という方ですね」
その名前には心当たりがあった。
天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。
こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。
最強賢者の最強メイド~主人もメイドもこの世界に敵がいないようです~
津ヶ谷
ファンタジー
綾瀬樹、都内の私立高校に通う高校二年生だった。
ある日、樹は交通事故で命を落としてしまう。
目覚めた樹の前に現れたのは神を名乗る人物だった。
その神により、チートな力を与えられた樹は異世界へと転生することになる。
その世界での樹の功績は認められ、ほんの数ヶ月で最強賢者として名前が広がりつつあった。
そこで、褒美として、王都に拠点となる屋敷をもらい、執事とメイドを派遣してもらうことになるのだが、このメイドも実は元世界最強だったのだ。
これは、世界最強賢者の樹と世界最強メイドのアリアの異世界英雄譚。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる