魔王を倒して故郷に帰ったら、ハーレム生活が始まった

スタジオ.T

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【共犯者たちの憂い(No.17)】

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 どうして人は自らを犠牲にしてまで、他人を生かしたいと思うのだろう。彼は自分が助からないと知ってもなお、戦うことをやめないのだろう。

 あるいは私が————

 どうして私は自分の記憶を消してまで、彼を生かしたいのだと思ったのだろう。他の選択肢へ進むという疑念さえ持たないまま、この物語を選んだのだろう。

「つまりそれって愛じゃない?」

 この疑問をパトレシアに言うと、彼女は迷いなく即答した。

「愛……ですか」

 口に出すとこれほど軽い言葉はない。たった数文字で自分の感情を表せられるのだとしたら、こんなに簡単なことはない。

 こんなにむなしいことはない。

 諦めに似ている。
 私には『愛』という言葉の先にもっと強い何かがあるような気がしている。

「私は壁なんてものはないと思うよ。愛の先には何もない。だって古今東西、すべての物語は愛に結びついてきたもの。女は王子さまと結びついて終わり、英雄は民を愛して終わり、神様は人間を愛して終わり。つまり、そこから先には何も物語は生まれない、めでたしめでたし」

「……だとしたら愛とは不毛なのですね」

「どうして、そう思うの?」

 パトレシアは首をかしげた。

「めでたし、めでたしだよ。でたし、愛でたし。祝福されるのはともかくとして、虚しく思うのはナンセンスだよ」

「現に私たちはその愛のために争っています。これを不毛でなくて、何と呼ぶのでしょうか」

 ふと自分たちがやっていることを疑問に感じることがある。
 彼をだまして、彼を裏切って、彼を傷つけて、結局私は何がしたかったのだろうかと思う時がある。

 自分の選択が全て間違っていたのではないかと、不安に思う時がある。

「互いが互いを思いやっているのに、私たちは何を争っているのでしょうか」

「愛を試すためだよ。どちらの愛が深いかをアンクとレイナちゃんは競っているんだよ」

「どちらの愛が深いか……ですか?」

 私の言葉にパトレシアは頷いた。

「愛の強さだよ。この勝負はね、心が揺らいだ方が負けなんだと思う。アンクは解法モークを使ってまで、ナツちゃんを助けた。アンクの覚悟の方が強かった。だから私たちは負けた」

「私たち……」

「私たちの心にはすきがあった。手段を選ばなければ、アンクを止めることだって出来たはず」

 パトレシアの言うことは間違っていなかった。
 多少リスクを伴っても天罰として、アンクを止めることは出来たはずだ。

 私たちはそれをしなかった。

「ね?」

「パトレシアさんの……言う通りです。私は『世界の目ビジョン』で2人の戦いを見ていたのに加勢しなかった」

「思わず見届けたくなってしまった。彼の言葉を、彼の行動を見届けたいと思ってしまった」

「だから……私たちは負けてしまった」

「どうする? このままだと本当に私たちは負けちゃうよ」

 パトレシアは本気だった。
 逆に言えば、今だったら引き返すことが出来る。アンクの作戦に乗って、めい世の魔法を途中でやめれば良い。

 けれど、そうしたら、彼は……。

「……やはりダメです。あの人は自分を犠牲にして私たちを守りたいと考えている。それを認める訳にはいきません」

「私も同じ考え。それを私たちが許す訳にはいかない」

「……あの人を死なせたくはありません」

 アンクの使った解法モークは非常に危険な魔法だ。
 たとえ神の加護を持って生まれた身体だったしても、魔力炉の暴走を引き起こすのは危険過ぎる。あと、1回でも行えば彼の身体は再起不能になる。

「アンクさまを止めます。その為には瞑世めいせの魔法の完成が不可欠です」

「あと、どのくらいかかるの?」

「少なく見積もっても、1週間はかかる予定です」

「1週間か……遠いね」

「アンクさまたちも私たちの時間がないことは気がついているでしょう。すぐに次の『死者の檻パーターラ』の解除にかかるはずです。そうなった場合、私だけで瞑世の魔法を完成させなければいけません」

 その言葉を聞くと、パトレシアは思い悩むように視線を下げた。

「1人で出来るの?」

「出来ないことはありません。ナツさんとユーニアさんからは、あらかじめ魔力を補填ほてんしてもらっています。あとは封印した女神の力を一気に流し込めば、瞑世の魔法の完成まではまもなくです」

「そうなると……女神の封印がネックになってくるってことか……」

 自分の髪に触れながら、パトレシアはしばらく考え込んでいた。

「レイナちゃん、頼みがあるんだけど」

「何でしょうか」

「時間稼ぎ。全部、私が請け負うわ。だから、レイナちゃんは女神の封印に専念してもらえない?」

「それはありがたいのですが……どうやってアンクさまに干渉するつもりですか?」

「私が、風神ヴァーユの力も引き継ぐ。それで十分でしょう」

「それは……」

 パトレシアの発言に頬に冷や汗が伝う。

「パトレシアさんにかかる負担が大きすぎます。パトレシアさんにはすでに天空神インドラ水神アパームの力を需要してもらっています。さらに風神ヴァーユまで加えれば、精神への汚染は一層激しいものになります」

 私がサティの力を取り込んだ時と同じように、元素神げんそしんの力を吸収すれば、精神への汚染はまぬがれない。神の力を取り込む代わりに、本来の人間性の喪失は進んでしまう。

「でも、レイナちゃんのめい世の魔法の完成は早くなるでしょ。一石二鳥じゃない」

「ですが……」

「やるわ」

 私の言葉をさえぎって、パトレシアは言った。

「勝機が少しでも高くなるなら価値はある。場所があそこなら、時間を稼ぐにはちょうど良いから」

「パトレシアさんの精神が持つかどうかが保証は出来ません。そうなると、あなたの本来の目的が……」

「大丈夫よ、レイナちゃん。前に言った通りこれは覚悟の戦いなの。心の隙を見せた方が負け。愛が深い方が勝って、少ない方が負ける」

 パトレシアは私の側から立ち上がって、壊れかけたステンドグラスを見上げた。全くの躊躇ちゅうちょもなく、意志の揺らぎもなく、彼女は風神ヴァーユを奉納しているステンドグラスに手をかざした。

「パトレシアさん……本当に……」

「これはね、私の戦いでもあるの。一度死んだ私が、生き返った意味があるとするならば、今度は足を踏み出すことを恐れないこと」

 ステンドグラスから魔力が放たれる。
 その光がパトリシアを包んだ。彼女の綺麗な金髪を、七色に染めていく。

 光の中心に立ったパトリシアは、力を身にまとい大きく息を吸い込んだ。

「じゃあ、レイナちゃん頑張って。どうか全てが上手くいくように祈ってるわ」

「はい。パトレシアさん、どうかあなたが自分の幸福を得られることを祈っています」

「私は死者だよ。もうこの先なんて無い」

「……死者だからこそです」

 毅然きぜんとした姿勢で、自らを魔力の暴風の只中に置く彼女に語りかける。パトレシアの身体は奔流する魔力に、おくせずにさらに踏み込もうとしていた。

「死者だからこそ、パトレシアさんはより幸福な結末を選んでほしいのです。後悔しないことも大事ですが、意地ではなく意志で進んでください。私はあなた方を不幸にしたくて、呼んだのではありませんから」

「……ありがとう、レイナちゃん」
 
 彼女はにっこりと笑って、さらに一歩。まばゆい光の中へと進んでいった。彼女の身体に、大量の魔力が流れ込み、彼女の魂を変化させていくのが分かった。
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