魔王を倒して故郷に帰ったら、ハーレム生活が始まった

スタジオ.T

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第152話 擬似心臓

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 混沌の初生児アヒ・ヴリトラはプルシャマナの神話上で、原初の悪竜と称される。

 もっともそれは物語で語られる存在であって、本来は実在するものではない。今、俺たちの目の前にいるヴリトラは『異端の王』が再現した幻影魔獣だ。

 ……それでもこいつが底知れない力を持っていること位、分かる。
 巨大な瞳はそれぞれ頭に1つ。鼻はなく、真っ二つに裂けた口から醜悪な瘴気が漏れ出している。対峙するシュワラも雨で顔を濡らしながら、驚嘆の声をあげた。

「こんなものが……」

「こいつを見ちゃダメだ!」

 俺たちを捉える琥珀色の瞳に気がついて、リタが声をあげる。だが、すでにヴリトラの瞳は俺たちをとらえて、まっすぐ見えていた。

「……!」

 息が、出来ない……! 
 肺が消えてしまったみたいに呼吸が……!

「地の魔法、そびえ立つものプリティブ・ムル!」

 俺たちの目の前に土の壁がせり上がっていく。琥珀色の瞳から守るように壁が出来て、なんとか呼吸が出来るようになった。

「アンク、大丈夫?」

「あぁ……なんとか」

「ヴリトラの瞳は呪いの力を持っている。魔力炉がまともに機能していないアンクは、近づいたらいけない。ナツ、アンクを連れて下がっていてくれ」

「分かった」

 ナツに抱えられて後方に離脱する。周りに土の壁を作りながら、俺たちはヴリトラから少し離れた広場の端まで移動した。

「くそっ、情けない」

「ごめんね、私に魔法を使ったから……」

「いや、ナツのせいじゃない」

 ただ自分が不甲斐ない。
 全てを救うと覚悟を決めたにも関わらず、いざという時に何も出来ない自分に腹がたつ。

「俺にもっと力があれば……」

 いくら魔力を温存したところで、鍵までたどり着けなければ意味がない。俺たちの道を塞ぐようにして現れたヴリトラを倒さなければ、この先すらもない。

「きっとあの2人なら大丈夫だよ」

 ナツは俺を励ますように肩を叩いた。
 視線の先には、戦闘態勢を整えているリタとシュワラがいた。どちらも敵に臆することなく、3つ首の龍に対して武器を構えていた。

「さぁ、行くわよ。準備は良い、シュワラ?」

「そちらこそ、私の足手まといにならないでくださいね」

 2人とは比べ物にならない位の巨躯きょく。押しつぶされようもなら、即死は間違いない。

 口から真っ黒な毒息を吐いたあと、悪竜は雄叫びをあげた。

「オオオ゛オオオ゛オ゛オオ゛オオ」

 大気が震える。広場の地面が震えて、割れ始める。
 雄叫びをあげた首の1つをめがけて、シュワラは魔法を構えた。

「隙だらけですわよ! 火の魔法、拝炎阿遠ガリア!」

 彼女の右腕から炎の槍が放たれる。首へ目掛けて放たれた無数の槍を、陰から現れたもう1つの首が突風のような息を吐き出して、迎え撃った。

 ろうそくの火でも消すように軽々と、炎の槍はき消された。視線を動かし俊敏しゅんびんな動きで、悪龍はシュワラへと襲いかかった。

「…………ちっ! 模造品の癖に生意気ですわね」

「シュワラ、毒息が来る! 下がって!」

 間髪入れずにもう1つの首が、2人向かって真っ黒な息を吐き出した。
 霧のように広がった息を、リタが扇を使って一掃いっそうさせた。視界が開けて、左腕に魔力を溜めているシュワラが明らかになる。

「空の魔法・雷電の舞クードフードル

 電撃による激しい雷鳴が轟く。シュワラから放たれた電撃が龍の首を捉える。

 だが、その攻撃をもう1つの首がかばうように立ちふさがった。
 鉛のような色の龍の鱗が電撃を吸収する。直撃したにも関わらず、本体にほとんどダメージは通っていなかった。

 シュワラが魔力を収めて後方へと下がる。

「それぞれの首に特性があるみたいですわね。炎も電撃も通用しないわ……!」

「裏を返せば、それぞれの首にも弱点があるってことね。大丈夫、そう時間は取らせない」

 リタが降りしきる雨を見ながら言う。イザーブに突入してから、どれくらいの時間が経っているかは確かではないが、感覚的に半日以上は経っているはずだ。

「後ろから、屍鬼ヴェータラが追いついてきている。あいつらが来る前に弱点を叩きたい。さっきからヴリトラが執拗しつように防御している箇所がある。おそらくそこね」

「早く言いなさいよ、それ。どこ?」

「様子を見たかったの。胴体、左のみぞおち。どう、やれる?」

 次の攻撃を繰り出そうとしている悪竜を警戒しながら、シュワラはその部位に目をやった。

「行きますわ」

「そう。じゃ、任せた……っ!?」

 リタが言葉を言い終えた瞬間、信じられないくらいの動きで彼女たちをヴリトラの頭の1つがとらえていた。

 首を動かして、ただなぎ払っただけの一撃。
 魔力の揺らぎもない単純な物理攻撃は、予測が出来なかった。飛び上がって交わしたリタに対して、シュワラは直撃して吹っ飛び壁に叩きつけられた。

「シュワラ!」

 レンガ造りの家の壁を、バラバラに破壊するほどの威力。
 派手な音を立ててシュワラの身体ががれきに飲まれていく。

 悪竜が歯をむき出しにして笑った。
 とどめの毒息を吐き出そうと、口を膨らませる。慌ててリタが風の魔法を繰り出そうとするが、間に合わない。

「くそっ! ……固定フィックス……」

 思わず駆け寄ろうとした俺の目に、悪竜の喉を貫く炎の槍が飛び込んできた。

「火の魔法、拝炎阿遠ガリア

 瓦礫の内側から炎の槍が次々と射出される。
 壊れたレンガの壁から這い上がりながら、シュワラが魔法を繰り出していた。恐ろしいことに、彼女の顔には傷1つ付いていない。

「ギャオオオオ゛オオ゛オ!!」

 シュワラの猛攻に悪竜は驚き後退し始めた。叫びながらバランスを崩した龍の足元で地面が激しく隆起していた。

「地の魔法、揺れ動かすものプリム・クェイド

 盛り上がった地面が敵のバランスを崩す。シュワラがオレンジ色の魔力を、右腕から放ち地面を隆起させている。

「3種目の魔法なんて聞いたことがないぞ……! ダメージもない、一体どうなってんだ!?」

「さっきから次から次へと魔力の色が変わっている……あれって」

 シュワラが放っている魔力を見て、ナツがハッと息をのんだ。
 敵のバランスを崩そうとしているシュワラに対して、悪竜も抵抗して激しい突風を吹かせ始めた。

 突風にシュワラのローブが吹き飛ばされる。
 彼女が中に着込んでいたものが明らかになった。

「わぉ」

 近くで見ていたリタが思わず自分の目を覆う。

「シュワラ……あんた……」

 黒いラバースーツがシュワラの身体を覆っている。
 身体のラインが一目で分かるその服は、ハイレグカットになっていて、下半身がほとんど露出していた。他には何も履いていない。

 リタが思わずポツリとつぶやいた。

「どすけべ……」

「うるさい! 仕方がなかったのよ!」

 顔を真っ赤にしたシュワラが悪態をつく。

「私に魔力が無いのは知っていたでしょ! だからこそ私はそれを乗り越えるために、これを作ったの!」

 シュワラの身体が水色の魔力に覆われていく。
 スーツにはいくつものラインが刻まれていていて、彼女を包む血管のように張り巡らされていた。

「シャラディ家が誇る決戦武装。魔力炉再現装置、題して擬似心臓メタモルバウト。このデザインになったのは、これが体内の魔力の流れをもっとも効率的に再現出来るものだからよ」

 言い訳がましく宣言しながら、シュワラは次の魔法を構えた。
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