191 / 220
第158話 こじれた愛
しおりを挟む足は動く。
魔力炉は静かに再燃し始めている。それで良い。今、使えなければ、もう魔法なんて最初からなかった方が良い。
「ナツ、悪い、俺行くわ」
「え? ちょっと待ってよ。魔力炉がボロボロだって、アンクだって分かるじゃん。このままだと本当に死んじゃうよ」
「……でも、行かなきゃいけない。まだ身体が動いて、やれることがあるのなら、俺は動かない訳にはいかないんだ」
手を伸ばすナツの手を振り切って走る。遠くからナツが俺を呼ぶ。その声も振り切ってシュワラの前に立つ。
俺にはやらなきゃいけないことがある。
宙に浮き、魔法を構えていたパトレシアは驚愕の視線を俺に向けた。
「どうして、あなたがまだ動けるの? 動けるような身体じゃないでしょ。ましてや戦える身体じゃないわ!」
「昔から女の涙に弱いんだ」
「……このっ、バカ……!」
空中から雷の矢が放たれる。雷電を伴いながら、眩しく辺りを照らした魔法は凄まじいエネルギーを持っていた。
背後ではボロボロになったシュワラが立ち上がっていた。
「シュワラ! まだ動けるか!?」
「と、当然……! まだまだよ!」
「よし! 俺が道を作る! お前は最短距離で動け!」
何も言わずに頷き、シュワラが跳躍する。対する雷電の矢は4本。その全てをイメージの箱で包んでいく。
ここが正念場。あらん限りの魔力を持って、固定魔法を行使する。
「固定!」
伸ばした腕の血管がパチリと弾けて、内出血を起こす。まだ魔力がうまく回っていない。
全速のシュワラをパトレシアの所までたどり着かせるにはギリギリの間だ。雷電が彼女の頬をかすめて、地面で弾け飛んだ。
パトレシアめがけて飛んだシュワラは、拳を握り無防備のパトレシアに思い切り振り下ろした。炎を纏った拳を渾身の力で放った。
「だから、遅いって……!」
懐に入ってからの右ストレート、それを軽々とかわして、パトレシアは次の攻撃の態勢を整えていた。
「今だ!」
声を張り上げて、シュワラに合図を送る。
攻撃しようと身構えた時ほど、大きな隙が出来る。その隙を狙って、パトレシアの身体に魔力を流し込む。
「固定!」
「……っ!」
数秒の間もなく魔法が弾かれる。
だが、この時間が近接戦闘においては、十分過ぎるほどの致命傷だ。
追撃。
放たれたシュワラの左ジャブをパトリシアはかわすことが出来ない。
「火の魔法、揺火歓尼ぇえええええ!!」
腹部に向けて、シュワラの全力の拳が放たれる。真っ赤に輝いた彼女の拳を真正面から喰らったパトレシアは大きく後ろに吹き飛んだ。
「くっ……!!」
ダメージは……ある。
「くそっ! 生意気やってくれるじゃない!」
「まだまだよ!」
この機を逃さず、空中でシュワラが方向を転換する。スーツが緑色に輝き、風を巻き起こしてパトレシアに向かって直進する。
ベールをなびかせて跳んできたパトレシアは再び、雷の矢で迎え撃とうと身構えた。
「固定!」
「ちっ……!」
パトレシアの反撃は俺が許さない。
魔力炉が燃え上がり、身体の奥の方からバチバチと弾けるような音を立てている。数発の魔法を撃っただけなのに、すでに過負荷を起こしている。
シュワラの攻撃を導くことができれば十分だ。この機を逃したら、俺たちにもう勝機はない。
「火の魔法、揺火歓尼!」
今度は手加減なしの右。スピードをつけて跳んだシュワラの炎の拳が、パトレシアの無防備な右脇腹に直撃する。
「く……あっ!」
今度は逃がさない。
シュワラの瞳には強い闘気が燃えていた。
態勢を崩したパトレシアの髪の毛を掴んで、シュワラが自分の方へと引き寄せた。連続で拳を打ち付けていく。シュワラを覆うスーツが燃え上がるように赤く発光している。
ここぞとばかりに攻撃するシュワラに対して、さすがのパトレシアも凄まじい魔力で応戦した。
「あ……まり、調子に乗らないで! 空の魔法・雷電の舞!」
パトレシアの身体が激し輝く。手足から電気の束が現れ、それがシュワラの身体を包もうとしていた。
すかさずそこに固定魔法を打ち込もうと構える。
「……固……!」
……声が出ない。
続く呪文が唱えられない。
吐き出そうとした声は生ぬるい血となって、地面に落ちる。
魔法が出ない。
そのうちバチバチッと上空で凄まじい音がして、視界が白く染まる。地上にパトレシアの魔法をまともにくらったシュワラが落ちてくる。
「シュワラ!」
力なく落ちてきた小鳥のように、シュワラが倒れこんだ。もろに電撃をくらっている。着ていたスーツが破れて、外部でスパークしている。
「まだ……まだですわ」
それでも立ち上がったシュワラを見て、パトレシアはわなわなと声を震わせた。
「嘘でしょ……あんた化け物……?」
「私が強いだけのことです! アンク、まだ魔法は撃てるかしら!」
「あ、あぁ……なんとか」
手は動く。魔力炉も限界値もつかめた。
持久力はないようだが、瞬間で撃てる魔力はまだ余裕がある。反動さえ気にしなければ、援護する分には問題ない。
「行け、さっきと同じように畳み掛けろ」
「もちろん……さすが大英雄と呼ばれるだけのことはありますね」
シュワラは俺の声に満足そうに頷いて、再びスーツに魔力を張り巡らせた。全身に雷撃をくらってもなお立ち上がるシュワラに、パトレシアは声を震わせながら問いかけた。
「……どうして、あなたがそこまでするのよ。あなたには……シュワラには関係ないじゃない」
「それが……それが許せないと言っているのよ! イザーブの時もあなたは私を守った! それがどれほどの屈辱か、あなたは気にも留めなかった!」
「屈辱……? 違うわ、シュワラ、私はあなたを守ろうと……」
「ふざけないで! あなたは私のことを足手まといだと決めつけた!!」
シュワラはパトレシアを睨みつけた。怒りで地面を踏みしめると、スーツから電気がスパークして、地面の瓦礫を叩き壊した。
「同情されたものの気持ちが分かりますか!? 置いてけぼりにされる気持ちが分かりますか!? 10数年間、友だと信じていたのは私だけだったと気付かされた絶望が分かりますか!? あなたにとってお荷物のお人形でしかなかったということを、私は知ってしまった!!!」
「私……違う、そんなこと……」
「何も違いません! 現にあなたは私に一言も相談しようとしなかった……!」
シュワラは「それが足手まといと言わなくて何なのでしょう」と怒りをほとばしらせた。
「私はあなたを踏み越えてみせる! あなたを倒して私が1番で、あなたより優れていることを証明してみせる! それで、私はようやくあなたと対等になれるの!」
声を震わせて、泣きそうになりながらシュワラは言った。ボロボロになったスーツの胸に手を当てて、彼女は今までとは違う魔力を放ち始めた。
「最大出力……! 行くわよ、パトリシア。死んだあなたに対して、この拳が私に出来る唯一の手向けです」
シュワラの周りに炎が立ち上る。シュワラは覚悟を決めたという表情で、俺の顔を見た。。
彼女は本気だ。
この場にいる誰よりも強い意志でこの場所に立っていた。
「友人……ね。あんな下らない約束を覚えているなんて……愛がこじれているにも程があるわよ」
「あんたに言われたかないわ」
「そうね……」
上空に浮かんだパトリシアは困ったように笑った。
彼女が浮かんでいくに連れて、周りのベールがくるくると回り始めていた。星空のような綺麗な光を放ったベールは、パトレシアの頭上で巨大な輪っかを形成した。
「こんなに眩しいあなたを見逃していただなんて、本当に自分に嫌気がさす。アンク、あなた、私に言ったこと覚えている?」
「……今なら思い出せる」
「そう、全て、あなたの言う通りになった。でも、私はきっと同じことを繰り返す。自分の欲望のためなら、友達だって切り捨てる」
パトレシアは頭上に手をかざして、ベールに魔力を送った。
「空の魔法、寂定相天鼓の雷音。お願いだから、私の前に立たないで。何もしないで。私が全てを救ってあげるから」
憐憫の表情を浮かべたパトレシアは、雷鳴轟く巨大な輪を俺たちに向けた。
0
あなたにおすすめの小説
クラスのマドンナがなぜか俺のメイドになっていた件について
沢田美
恋愛
名家の御曹司として何不自由ない生活を送りながらも、内気で陰気な性格のせいで孤独に生きてきた裕貴真一郎(ゆうき しんいちろう)。
かつてのいじめが原因で、彼は1年間も学校から遠ざかっていた。
しかし、久しぶりに登校したその日――彼は運命の出会いを果たす。
現れたのは、まるで絵から飛び出してきたかのような美少女。
その瞳にはどこかミステリアスな輝きが宿り、真一郎の心をかき乱していく。
「今日から私、あなたのメイドになります!」
なんと彼女は、突然メイドとして彼の家で働くことに!?
謎めいた美少女と陰キャ御曹司の、予測不能な主従ラブコメが幕を開ける!
カクヨム、小説家になろうの方でも連載しています!
戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件
さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。
数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、
今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、
わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。
彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。
それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。
今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。
「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」
「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」
「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」
「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」
命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!?
順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場――
ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。
これは――
【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と
【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、
“甘くて逃げ場のない生活”の物語。
――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。
※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
僕に仕えるメイドは世界最強の英雄です1~またクビになったけど、親代わりのメイドが慰めてくれるので悲しくなんてない!!~
あきくん☆ひろくん
ファンタジー
仕事を失い、居場所をなくした青年。
彼に仕えるのは――世界を救った英雄たちだった。
剣も魔法も得意ではない主人公は、
最強のメイドたちに守られながら生きている。
だが彼自身は、
「守られるだけの存在」でいることを良しとしなかった。
自分にできることは何か。
この世界で、どう生きていくべきか。
最強の力を持つ者たちと、
何者でもない一人の青年。
その主従関係は、やがて世界の歪みと過去へと繋がっていく。
本作は、
圧倒的な安心感のある日常パートと、
必要なときには本格的に描かれる戦い、
そして「守られる側の成長」を軸にした
完結済み長編ファンタジーです。
シリーズ作品の一編ですが、本作単体でもお楽しみいただけます。
最後まで安心して、一気読みしていただければ幸いです。
なお、シリーズ第二作目が、現在なろう様、カクヨム様で連載しています。
2月13日完結予定。
その後、アルファポリス様にも投稿する予定でいます。
ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話
桜井正宗
青春
――結婚しています!
それは二人だけの秘密。
高校二年の遙と遥は結婚した。
近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。
キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。
ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。
*結婚要素あり
*ヤンデレ要素あり
天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】
田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。
俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。
「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」
そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。
「あの...相手の人の名前は?」
「...汐崎真凛様...という方ですね」
その名前には心当たりがあった。
天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。
こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。
最強賢者の最強メイド~主人もメイドもこの世界に敵がいないようです~
津ヶ谷
ファンタジー
綾瀬樹、都内の私立高校に通う高校二年生だった。
ある日、樹は交通事故で命を落としてしまう。
目覚めた樹の前に現れたのは神を名乗る人物だった。
その神により、チートな力を与えられた樹は異世界へと転生することになる。
その世界での樹の功績は認められ、ほんの数ヶ月で最強賢者として名前が広がりつつあった。
そこで、褒美として、王都に拠点となる屋敷をもらい、執事とメイドを派遣してもらうことになるのだが、このメイドも実は元世界最強だったのだ。
これは、世界最強賢者の樹と世界最強メイドのアリアの異世界英雄譚。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる