魔王を倒して故郷に帰ったら、ハーレム生活が始まった

スタジオ.T

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第163話 もぐもぐ、あーん

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「はい、あーん」

 目を覚まして以降、俺は見事に甘やかされ始めた。
 ナツやパトレシアはおろかリタにまで、至れり尽くせり面倒を見られていた。

「もぐもぐ」

「どう、おいしい?」

「おいしい」

 その返答にナツが満足そうに「どんどん食べてね」と、次から次へと俺の口にハンバーグを差し入れてくる。それを平らげると、今度はパトレシアがデザートのケーキを作ってくれていた。

「どう、おいしいかな?」

「うまい」

「本当!? たくさん作ったの。いっぱい食べてね」

 ……甘やかされすぎではないだろうか。自分でも少し不安になる。

 しかし数日経っても、目が見えないのに変わりはなく、立ち上がるのも精一杯という生活を送っていた。

 身体が満足に動かない。
 戦闘はおろか普段の生活をすることすら覚束おぼつかない。

「……こんな調子で戦闘に言っても負けるだけだよ。なんか知らないけれど、瞑世めいせの魔法は発動していないみたいだし、少し休めっていう事じゃないの」

 リタは呑気な調子でそう言うと、一旦自分の家に荷物を取りに行った。ユーニアが残してくれた文献のいくつかに、瞑世の魔法の弱点が書かれているかもということだった。

「そうそう休んだ方が良いよー」

「ねー」

 この事態にもっとも楽観的なのはナツとパトレシアの2人だった。
 すでに役目を終えたと考えているのか、俺の家に勝手に居候いそうろうして、ご飯を作ったり夜いを仕掛けたりと自由気ままな生活を送っていた。

「どんどんご友人が増えていきますなぁ」

 仕事場であるキッチンを2人に侵略されてしまったニックは、全てを諦めたような顔でお茶を飲んでいた。食材の買い出しに専念して、肝心の料理作りは張り切る2人に丸投げしていた。

「あっしとしては楽として良いですが。2人ともいつまで滞在されるおつもりですか?」

「俺にも分からん……」

 これからの予定は全く見えてこなかった。
 シュワラも前回の戦いでスーツをダメにしてしまって、戦えるような状況ではない。ナツとパトレシアは元より戦うつもりはないし、女神としての力も『死者の檻パーターラ』の消滅と同時に失ってしまっている。

「協力したいのはやまやまなんだけれどね。私たちに出来ることはたかが知れているし」

「そもそも私たち、まだ完全にアンクの味方になった訳じゃないし」

「冷たいね」

 残されたもう1人の新しい女神。
 結局のところ、彼女を打倒しなければ、今までの戦いは全て無駄になってしまう。瞑世の魔法とやらが発動すれば終わりだというのにも関わらず、手がかりはほとんど見えていなかった。

「……今日、また夢を見たんだ。今度はもっと不思議なイメージだった。泡のようなものが沢山……」

「泡?」

「水槽のみたいな箱の中で、泡が立ち上っている」

 ……例えるなら、ガラスで出来たショーケースのようものだろうか。あくまでおぼろげなイメージの範囲内だが、俺にはそういう風に見えた気がした。

「何か大事なものを囲うようなショーケース。その中には何も入っていないんだけれど。その中で泡が浮かんだり消えたりしている」

「ショーケースねぇ……私たちにもちょっと分からないな」

 首をかしげてパトレシアは申し訳なさそうに言った。

「こればっかりはね。私よりも本当はアンクの方が付き合いが長いからね。その話もきっとどこかで聞いているんじゃないのかな」

「全ては俺の記憶の中か。しかし記憶も戻らないんじゃなあ……」

「そうそう、はい、あーんして」

「……あーん」

 さっきから隙あらばご飯を与えられている。生まれたてのヒヨドリというか、これはフォアグラにされるカモだ。

「……ごちそうさま、もう良いよ……」

「はい、あーん」

「……あーん」

「ほらほら、まだあるよ」

「あ……ぐ……」

「こっちも食べなー」

「む……ぐ……」

 両脇から次々とどんどんご飯を突っ込まれる。
 頬袋がパンパンで、もう限界だと言う言葉すら発せない。まだまだ

「ちょっとちょっとストーーーーーップ!」

 間一髪、ドアを開けて入ってきたリタが、2人の餌付けを静止させる。スプーンを運ぶ手を止めて、キョトンとした様子でナツが返答した。
 
「え? どうしたの?」

「見て分かるでしょうが! ほら、アンクが冬眠前のリスみたいになってる!」

「もごもご……」

「だって美味しそうに食べてくれるから、嬉しくなっちゃって」

「そういう問題じゃない! ほら、アンクも断る時はちゃんと断らなきゃダメだよ! この2人を好き放題させたら、どうなるか今回の件で十分身にしみたでしょうが!」

「……む、ぐ」

「ニック、水! 水! アンクが死んじゃう!」

「へ、へい!」

 ニックから水を渡されて、なんとか死を免れる。

「本当に危なかった……」

「全く何をやってるのよ。戦いはまだ終わってないって言うのに……」

 リタは大きなため息を吐いて、席についた。彼女が頭を抱えていることは、目が見えなくても分かった。
 
「相当悩んでいるみたいだな」

「そりゃね……パトレシアの情報が本当なら、瞑世の魔法はいつ発動してもおかしくない。今この瞬間にもあの娘は本物の女神へと確かに近づいている」

 パトレシアが一時的に3柱の魔力を請け負ったことによって、負担が軽減され女神封印までのスピードが早まった。当初はあと2週間と見ていた時間も、今すぐ発動してもおかしくないほどになっていた。

「ごめんねー、私のせいで」

「謝る気ないのに謝らないでくれる?」

「……ごめん」

 リタの口調からすると相当やきもきしているようだった。
 連戦で体力も回復していない俺たちからすると、この状況は万事休すと言っても良い。

 過去、現在、未来、全てにおいて、俺は彼女と永遠に出会えなくなってしまう。一片の思い出さえも残さずに、彼女はこの世界からいなくなってしまう。

「ユーニアの工房からは何か見つかったか、リタ」

「見つかりすぎたというべきね。はいこれ」

 ドスンとテーブルの上に何かが置かれる。音的にはかなりの重量がありそうなものだった。

「なんだこの大量の紙束は……」

「瞑世の魔法に関するユーニアの調査記録よ。まったく整理するのが苦手なのは、死んでも変わらなかったみたい」

 手を伸ばすとテーブルいっぱいの紙束が、うず高く積まれていたのが分かった。

「これ、私たちで解読するわよ。なんとしても弱点を見つけてやるんだから」 
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