魔王を倒して故郷に帰ったら、ハーレム生活が始まった

スタジオ.T

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第171話 贖い

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「サティがこの作戦を考えた……? あいつ生きているのか?」

 ラサラの言葉はにわかには信じ難かった。
 女神だったサティは地下裁断でレイナたちに封印されたはずだ。その彼女が俺たちを導けれるとは思えない。

「女神は封印されました。正確に言うなら、女神が打った布石です」

「布石……?」

「気がつきませんでしたか。ここに至るきっかけとなったそもそもの出来事。シュワラ・シャラディの記憶は女神の加護によるものでした」

「そういえば……」

 シュワラの記憶が保持されるきっかけはサティが渡したブレスレットだった。女神の加護によって、シュワラは攪亂輪天具足ランチャ・ヴァダーラに巻き込まれずに済んだ。

「そして女神が打った2つ目の布石こそが、この神の座への道。サティ・プルシャマナは、あの地下祭壇で私の魂に交渉し、この座に封印しました」

「なんのために……?」

「あなたを助けるためです」

 衣れの音がする。
 するりと服を脱ぐ音がして、ラサラの声は俺の正面に移動した。

「あなたがいうところの待っていた意味です。問答をするために待っていたのではなく、私は女神に依頼されてここで待っていました」

 ラサラが俺に近づいてくるのが分かる。
 服を脱いだ彼女は這うように進み、俺に手を伸ばしていた。

せないな」

「……何がでしょうか」

「おまえは邪神教の人間だろう。女神の言うことをそうやすやすと聞くとは思えない」

「もちろん女神のことは嫌いです」

 彼女の手は蛇のように俺の肌に沿い、頬に触れた。冷え切ったラサラの手が、俺の肌をこするように撫でる。

 そこにはべったりとした血が付いていた。
 むせかえるような鉄の臭いが、鼻腔へと入ってくる。

「なんだ……?」

「私の血です」

「どうしてお前がそこまでする」

「気休めです」

 ラサラは無感情に言った。

「私が女神に選ばれたのは、少なからずの罪の意識を見抜かれたからでしょう。教祖やバイシェにはなかった、救われなかった少女たちへの悔恨の念が心の奥底にあったゆえに選ばれた」

「好んで子どもをさらっていた女の言うこととは思えないな」

「行動と感情は必ずしも結びつくものではありません。あの時はそれしか方法がなかったのですから」

 ラサラの手は俺の眼球付近にくると、愛おしげにその表面に触れた。俺を組み伏せるように倒れこむと、彼女は口を開いた。

「目を開けて」

「どうして」

「私の眼を預けます」

 ラサラはそう言うと、俺の顔を掴み、眼に何かを押し当てた。
 丸い何かが、俺の中へと入ってくる。

「あ、あ……」

 ラサラは手に力を込めてパズルのピースをはめこむみたいに、俺の眼の中に何それを突っ込んだ。

 眼球が侵入し、傷口から魔力が侵入してくる。

「ぐ……あぁあああああああああ!!!!!!!!」

 熱い、熱い。
 眼球が燃えるように熱い。地面を転げ回っても消えない火。自分の身体に何が怒っているのかも分からない。ただ暴力的な痛みと熱だけが襲ってきた。

「あ゛ああ゛あああ゛あああああ゛!!!!!」

 叫ぶ。
 血管が張り裂けて、だらだらと血が流れていく。脳がショートしたように、意識が消えたり弾けたりする。頭がザクロのようにぱっくりと割れたようだった。血が、大量の血が流れている。

 叫んで、叫んで、痛みに耐える。永遠に続く嵐のような激痛が俺の頭を襲っていた。

 ラサラは俺の顔を押さえつけて言った。

「耐えてください。私の贖罪しょくざいのために」

「く……ぁあ……!」

「生きてください。私の罪を罪で終わらせないために」

「じ、ぶん……かっ……て……な!」

 頭蓋骨がバラバラに叩き割れたように、硬い物質が脳を突き刺す。異物を排除しようと、魔力炉が暴れている。

 目がなじむ前に、自我が崩壊する。

「ふ……ざけんな……っ!」

 自分勝手にもほどがある。
 俺にあがなえだと。知ったこっちゃない。お前の罪は俺の罪じゃない。

 俺はただレイナに会いたいだけだ。

「はぁ……はぁ……」

 祝祭のように目に光が流れ込んでくる。

 痛みが終わっている。
 頭がグラグラしているが、ちゃんと動いている。なんとか呼吸を落ち着かせて、自分の身体に起きた異変を確認する。

「…………見え、る」

 視界が開けていた。
 揺れてたり、色調がおぼつかないが、目の前に風景が見える。感知出来なかった世界が認識出来る。

 神の座だと認識していた場所は、玉座のみが残された寂しい空間だった。豪奢なステンドグラスも、きらびやかな絨毯じゅうたんも存在していない。

 太陽も月ない空が広がっていた。

「これで私の役目は終わりです」

 俺の上にまたがったままラサラは言った。服を脱いだ彼女は、眼球があったところから血を流していた。
 
 彼女の血は、その肢体したいに沿うように流れ、俺のところまで続いていた。

「短い間でしたが、楽しかったですよ、大英雄」

 彼女の足元には割れたマグカップが転がっている。
 中身は床にこぼれ、ミルクの白色と交わった血液が、渦を巻いて広がっていた。

くのか」

「はい、今度こそ」

「礼は言わない。お前のために贖罪しょくざいもしない。犯した罪はゆるされるものじゃないんだ」

「……えぇ、そうですね」

 ラサラはにっこりと微笑んで言った。
 乱れた髪の隙間から紫色の斑点はんてんが見える。彼女が憎んだあざは未だにそこにあった。

「全てが上手くいくことを願っています。あなたが世界を救われて、望む結末が得られることを、1人の女として祈ることにしましょう」

「……いや、別に世界は救わない」

「? そうなんですか?」

「女に会いに行くだけだ。たったそれだけのことだ」

 目を白黒させたラサラは、ふふと笑い声をらして言った。

「あなたらしいですね」

「ところで……出口はどこだ」

「目を閉じて、もう1度開けるだけです。そこで彼女は待っているはずです」

「そうか、世話になったな。目、ありがたく使わせてもらうよ」

「えぇ、さようなら」

 目を閉じる。
 もうラサラと会うことはあるまい。そうならないことを願う。彼女が無駄な望みを抱かないことを願う。

 こんな形のあがないなんて、誰も救われないのだから。

「本当にさようならだ」

 目を開ける。

 巨大な森のどこか。迷い込んでいた森の一部分。
 広場のように円形に開けた場所には、すでにラサラはいなかった。

 代わりに女が1人。
 倒れた木に腰掛けて、白い髪をなびかせて、俺を見ていた。

「おはようございます、アンクさま」

 毎朝、聞いていた声だ。そうだ、彼女だ。
 サティが着ていたような真っ黒な修道衣に身を包んだレイナは、俺と視線を合わせるとはっきりと良く通る声で言った。
 
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