【完結】姫ポジ男子は王子様に敵わない

じょうがさき

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第9話

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「奏、なんか怒ってる……?」
「……怒ってない」
「目合わせてくれない」

 朝の食堂で、向かいに座る朔をなるべく見ないように目の前の食パンだけを見つめた。
 顔が見れない。見たくない。
 目が合ったら、意味のわからない怒りをぶつけてしまいそうだったから。

「部活行ってくるね」
「……うん」
 
 ぽんぽんと優しく頭が撫でられて、朔は席を立った。返却口へトレイを戻して、そのまま部活に向かう朔を目で追いながらハア、とため息を吐いた。

 今日は土曜日だから、朔は午前中だけ部活がある。僕は特に予定がないけど、午後に朔と顔を合わせたくない。

 そのため、午前中に洗濯を済ませて、昼前に外出することにした。

 最寄りの駅前まで歩いて、日用品や洋服の買い物を済ませた後カフェに寄った。窓際の席に座って、好きな音楽を聴きながらぼーっと外を眺める。
 
 昼頃に部活を終えた朔から連絡がきていたけど、未読無視している。
 朔は何がなんだかわからなくて、びっくりしているだろうな……。

 本当はちゃんと聞きたいこと、いっぱいある。

 なんでそんな物持ってるの?とか、先輩と部屋で何したの?とか、僕のこと好きなんじゃないの?とか。
 聞いて、どうするんだよって話だけど。

 駄目だ。結局、朔のこと考えちゃう。

 この後何しようかな、と朔からの連絡を避けてスマホを見ていた時だった。
 ぽんぽんと肩を叩かれた。
 イヤホンを外し振り返ると、見覚えのある顔にびっくりして一瞬時が止まる。

「あ、やっぱり♡」
「……ど、どうも」

 僕からしたら、全く逢いたくなかった人物が立っていた。
 そこに居たのは、私服姿の魔性先輩だった。

「偶然だね、ひとり?」
「はい……」
「上園と一緒に来れば良かったのに♡」
「別に、ひとりで大丈夫です」

 わざわざ煽るような言い方に、無理に作った笑顔が引き攣る。

「もしかして、オレのせいで喧嘩しちゃった?」
「いえ……」

 そんなの自意識過剰じゃないか。別に魔性先輩のせいでムカついてる訳では……あるけど。
 いや、そもそも別に喧嘩するようなことでもないし、僕が勝手に無視してるだけで……。

「今日の午前練、上園が同室の子に目合わせてもらえなくなったって落ち込んでたからさ」
「そ、……そうですか」

 朔、落ち込んでたんだ……。
 そりゃ、あからさまに目を合わせなかったし。
 今朝は、『怒ってる?』なんて聞かれちゃったもんね。

「昨日の上園、勉強熱心だったからなぁ……♡」

 昨日、という言葉にピクッと反応してしまう。思い出したくない想像がまた頭の中に流れてくる。

 勉強ってなんだ、絶対えっちなことだろ!

 気になるけど、怖くて聞けない。
 テーブルの下の手をぎゅっと握りしめて、精一杯愛想笑いをすると、食堂の時と同じく、こそっと耳打ちするように魔性先輩が近付いてくる。

「胡桃川くんさえ良ければ、上園のこと、……また借りちゃおうかな♡」
 
 僕が何も言えずにいると、クスッと笑って「じゃあ、またね」と言い、魔性先輩はその場から去って行った。

 店の前にテイクアウトで購入したコーヒーを2つ手に持った人が立っていて、魔性先輩はその人からコーヒーを受け取ると仲良さそうに歩いて行った。
 よく見ると、あの空き教室で一緒に居た人によく似ている。

 ……く、くそびっちじゃないか。

 腹が立ってきて、半分以上残っている目の前のアイスカフェラテの氷をストローでぐさぐさと刺す。
 朔が恋愛に疎いからって弄びやがって。朔が格好良いからって手出すなんて魔性でもなんでもない。くそびっちだ。

 朔が、魔性先輩にゾッコンになっちゃったら、もう今みたいに四六時中一緒に居ることもなくなるのかな。
 ……それは嫌だ。

 僕は知らない間に、朔がくっついてないと寒く感じるようになってしまったんだ。

 じわっと涙が浮かんできて、心を落ち着かせるように残りのカフェラテをゆっくり飲み干した。
 お店の空調が寒くて、外の空気も吸いたくなってきた。
 でもまだ寮には帰りたくない。何も決めていないまま、行くあてもなくお店を出た時だった。

「……奏」

 ボリュームこそいまひとつだが、聞き慣れた低い声が耳に届いた。

「え……、なんでいるの?」

 街の通りには、学校には居ない歳の近い女の子がいっぱい居る。可愛いな、とは思う。
 なのに、部屋着のTシャツに下はジャージのまま走ってきたのであろう朔が、人混みの中でもやけに目立っていて、光っていた。

 可愛い女の子さえも背景になってしまった。

「見つけられて、良かった」

 真っ直ぐに僕だけ見て駆け寄ってくると、空調とアイスカフェラテのせいで冷え切った手を優しく握られる。

「奏の手、冷たい」
「……寒かった」

 街中で、男同士で手を握り合うなんて、少し前の僕なら恥ずかしくて出来なかった。
 周りの視線も少しは感じるけど、今はそんなことどうでも良かった。

「朔の手、……あったかい」

 寒さを口実に、結局そのまま手を握って、寮に向かってゆっくり歩いた。
 学校でお姫様ポジションが定着してしまったせいか、思考がおかしくなってきたかもしれない。


 朔が、王子様に見えるなんて。───
 


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