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第20話
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『障害物&借り物競走の方、待機してくださ~い』
体育祭本番の日がやってきた。
僕が出場する種目がそろそろ始まるので、友達と一緒に整列した。
念のため朔の居場所も確認しておく。無難なお題を引いて朔じゃなくても問題ないのが1番ではあるんだけど。
学生寮ということもあって遠方から来ている生徒も多く、外部の人は来ない体育祭だ。
ちょっとしたお祭りのような、友達との交流を深めるような行事の雰囲気はちょっと楽しい。
「あっ、胡桃たんだ、頑張ってね」
「胡桃たん頑張って~」
「あ……はい、頑張りま~す」
テンションが上がっているからなのか、整列中に知らない上級生や、他のクラスの人からも話しかけられた。
胡桃たん呼びが広まってるのはちょっと複雑だけど、応援されるのは素直に嬉しい。
「胡桃たん可愛いし良い子だから、人気者だね♡」
「べ、別に人気者じゃないし」
「ツンデレじゃん~♡」
友達に揶揄われながら話し込んでいると、スタート位置につくように指示された。
無難なお題がきますように、と繰り返し祈りながら立っているとスタートの合図が鳴らされた。
所詮お遊び競技なため、みんなクラスの友達に手を振ったり話しながらゆっくりスタートした。
練習同様、網をくぐったり平均台を渡ったりして、ついに試着室ゾーンへきた。
前回はセーラー服だった。先輩の中にはスクール水着の人もいた。スク水だけはやめてほしい。
悩んでいると、次々と試着室が埋まっていく。
最後だと色々と注目を浴びそうで嫌なので、とりあえず空いているスペースに飛び込んだ。
「な、なにこれ、も~……」
置いてあったのは、薄ピンクでひらひらとした可愛いドレス。丁寧にミルクティブロンドのロン毛のウィッグとティアラまである。
急いで着替えて試着室を出ると、クラスの友達からおお~っと歓声が上がった。
「胡桃たん~超かわいいよ~」
「こっち向いて~♡」
友達がカメラを向けていて、手を振って応えた。恥ずかしいけど、ネタの競技なんだから照れすぎるのも変だと判断した。
誰でも着れるように大きめだからなのか、僕にはドレスの丈が長くて走りにくい。
仕方なく両手で裾を持ち上げるように進む。ガラスの靴じゃなくて運動靴が丸見えなのが不恰好だけど、さっさとゴールしたいから仕方ない。
なんとかくじ引きエリアまでたどり着いて、お祈りした後に1枚引いて、ゆっくり開いた。
「……え」
くじ運、どこかに落としてきたのかな。
「なになに……、うわあ……ぴったりのお題だね」
僕が固まっていると、くじ引き係の人に中身を覗き込まれ、お姫様コスプレ中の姿を見て楽しそうに頑張って~と声をかけられた。
『お題』に当てはまる人なんて、そうそう居ない。適当に選ぶにしても思いつかなかった。
ただ、僕にとっての1人を除いて。
意を決して両手で裾を持ち上げながら一直線に狙いを定めて駆け寄った。
背が高いおかげで人に囲まれていても、すぐに見つかった。
「……朔!」
周辺がざわざわとしているけど、僕に名前を呼ばれて朔がすぐに走り寄ってきてくれた。
「……奏、かわいい」
「お題、朔のこと選ぶから一緒に来て」
「うん、勿論」
お題の中身すら聞かずに、朔は僕に手を引かれてついてきた。
ただ片手で裾を持ち上げているせいで、何度もつまずきそうになり朔に身体を支えられる。
「……うわあっ、……朔?」
支えられた身体がぐいっと引き寄せられて、そのまま地面から足まで浮いていた。
「俺が連れてく」
なんとお姫様コスプレ中にお姫様抱っこされてしまった。みんなが見ているのに!
またしても、おお~と歓声が上がり、声援が多方面から聞こえてくる。
「上園やるじゃん~、頑張って~♡」
たまたまなのか近くにいた魔性先輩がニヤニヤしながら声を掛けてきた。
恥ずかしい。顔から火が出そうだ。
顔を隠すように朔の首に手を回して、そのままゴールまで運ばれた。
そして1番恥ずかしい尋問が始まる。
『胡桃川くん、ゴールお疲れ様です! さてさて、お題は……「王子様といえばこの人♡」でした! すごい、ぴったりのお題ですね。理由をお願いしま~す』
もう降ろせばいいのに、なぜか離そうとしない朔に抱っこされたまま、マイクが向けられた。
「えっと……顔?とか……背も高いし、勉強とか教えてくれるところ……とか」
恥ずかしさもあり、もごもごとしてしまう。ガチっぽい感じになってしまい、喋りながら既に後悔している。
『おお~、今もそうですけど、普段も王子様って感じなんですね~! 上園くん、選ばれた感想をお願いします!』
「……選んでもらえて、嬉しいです」
マイクに向かって答えている途中、やけにじっと見つめてくる朔に、チラッと目線を向けた時だった。
「えっ、朔、ちょっ……んんっ」
急に顔を近づけてくる朔にびっくりして腕がマイクに当たり、ガサガサッと音が入る。
そのせいもあって注目を浴びるなか、ぐいっと身体ごと引き寄せられた。
……朔のばか~~~~!!!
何を思ったのかみんなの前で、熱く唇が重ねられていた。
混乱する僕をよそに、グラウンド中からは歓声が沸いて指笛まで聞こえてくる。
数秒のことだろうが、僕には10分くらいに感じる長さだった。
顔も身体も、恥ずかしくて熱くて溶けそうだ。
『熱いキスまでありがとうございました~! お姫様と王子様、末永くお幸せに~♡』
抱っこされたまま退場中、暖かい拍手で見送られた。盛り上がったのは良かったけど、朔のやつ、やっぱり本当何考えているのかわかんない。
「朔のばかばかばか……恥ずかしくて死にそう」
「だって……、王子様に選ばれたとは思わなかったから、嬉しくて」
「だからって、あんなところでチューするな!」
「……ごめん」
やっと降ろしてもらってから、僕がぷんぷん怒っていると写真を撮られながら謝られる。反省してなさそう。
「……部屋戻ってからなら、いい?」
「それは、まあ……うん……」
「可愛い……大好き」
朔の手が頬に添えられて、じっと見つめられる。
競技は散々だったけど、朔を選んだことは後悔していない。
だって、今目の前にいる朔以外に『王子様』なんて思いつかない。
「お疲れ様~、動画撮ったからあとで送るね~♡」
「王子のキスやばかったね~!」
「胡桃たんのお姫様コスも最高~♡」
またキスしてしまいそうな雰囲気だったところに、クラスの友達が集まってきた。
「あ、あっ、応援ありがと……」
はっとして離れると、温かい目で微笑まれた。
「めっちゃ盛り上がってたよ!」
「先輩達もあいつらやるな~って燃えてた!」
恥ずかしさで顔が真っ赤になっていた僕を、友達は優しく励ましてくれた。
そして写真撮影大会が始まって、朔とのツーショットもたくさん撮られた。
その後の借り物競走では、朔に火をつけられた上級生達もふざけてキスしたり、抱きしめたりして、大いに盛り上がっていたようだった。
そのおかげで、僕と朔のお姫様抱っこキスもみんなの記憶からは若干薄れつつある……と思いたい。
後で友達が撮影した写真や動画が大量に送られてきて、僕は決心した。
来年と再来年は絶対にこの競技を選ばない、と。
色々あったけど、無事体育祭は終了して、本当にお祭りのようで全体的には楽しかった。
体育祭が終わってからは、廊下で他のクラスの子からも声をかけられるし、「胡桃たん」と呼ばれることも増えた気がする。
「付き合ってる?」って聞かれることも、やっぱり増えたけど次第に慣れて適当にあしらっていけるようになった。
普段仲良くしているクラスの友達は、朔の態度と僕の返答で、むしろもうなんとなく察している感じすらした。
ただ、変わらず仲良くしてくれる優しい友達と相変わらずの朔のおかげで、日々楽しく過ごせたと思う。───
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