没落貴族でビジネス聖女の私は、顔面国宝騎士団長に溺愛されています?

鳴音 伊織

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5.艷夜の誘い 1

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「どどどど、どうしよう……」

 勢いよくシャワーから溢れる湯を頭から被ったまま、広いバスルームの中にひとり佇んではや数十分。

「えっと、この、この流れって、この後……」

『お前が望むなら、してみるか?』
『恋人らしいこと……って、やつを』

 先程の、彼が発した甘い声と台詞を思い出し、顔面が勢いよく大沸騰する。
 それって……あ、ああアレしかないわよねぇ!?


◇◇◇

 バーを出て、肩を抱く彼がいざなうまま、辿り着いたのは、ピンク色をした大きな建物だった。

 噂に聞いた事あるけど――貴族が目的で使うと云う宿泊場。
 まさか、自分が足を踏み入れる日が来るなんて思わないじゃない!?
 チラッとジルレスター様の方に視線を向けると「どうした?」なんて相も変わらず甘い視線を私に送っている。

 こうして広いエントランスを抜け、豪華な部屋へと導かれ……部屋に着くやいなや、2つあるバスルームのひとつへと逃げ込むように入ったのだった。

◇◇◇



「い、いや……別に嫌って訳じゃ無いんだけど……」

 純血乙女を貫いて早22年。機会に恵まれ無かっただけで、興味のない事柄ではない。

「でも、その……これ……」

 チラッと己の視線を下へと向ける。
 顔面が特化した分……悲しい程に貧祖な身体……。
 全体的に細身な身体に比例して豊満とは言えない胸、申し訳程度にクビレはどうにかあるけれど……色気があるかと言われれば、10人が10人中「ない」と即答するであろう。

「は、肌……肌はどうにか綺麗よ……多分……」

 如何せん、誰かに裸体など見せた事が無い。
 ましてやこれからの行為なんて経験があるわけがない。
 そんな経験不足で未熟な脳が考えてしまうの……やはり殿方は、豊満な胸を携え、締まるとこが締まった色気ある女が良いのだろうな、という事。
 
『なんだ、アイリーンは顔だけか』

「ひっ、つ、辛すぎるそんなの」

 手の中に収まるほどの胸を、ツンと指で弾く。

「……バストアップの体操とか食事とか、しとけば良かった……」

 そんな事を呟きながら、キュッとシャワーの蛇口を捻った。


◇◇◇

 おそるおそるバスルームを出て、広い室内にひょこっと顔を覗かせる。
 豪華なメインの照明シャンデリアは影を隠し、隅に置かれた幾つかの間接照明と、テーブルの上に灯った蝋燭、更には外から射し込む眩いばかりの月明かりが主張する室内。――そんな幻想的な部屋の中で、真ん中にある上等なソファーにジルは腰掛けていた。
 ワイングラスを傾ける彼と目が合えば、それだけで身体中の体温が急上昇してしまう。

 かっこいいにも程がある……!!

 紺色のバスローブに身を包む彼は、その姿だけで殺傷能力が1億を超えている。
 少し湿った金髪を掻き上げるその仕草で、一体何人の女性が崩れ落ちるのだろうか。

「おいで、アイリーン。お前も飲むか?」

 扉の影に隠れた私を見つけたジルレスター様が「おいでおいで」と手招きをする。
 コクンと頷き、おずおずと彼の座るソファーへと近寄った。
 隣に腰掛ければ、忽ち私の全身は深い彼の香りに包まれる。

 ど、どうしよう……心臓、もうおかしくなりそうなくらい爆発してる……

 熱い頬を両手で押え、アタフタとしている私の前に、ワイングラスが差し出された。

「お、美味しそう」
「飲めよ……お前の好きな味だと思うぞ」
「……ありがとう」

 どうにか正気を保ったまま、そのワイングラスを受け取る。
 震える己を押し込むよう、グイッと赤紫色の葡萄酒を喉に流し込むと、瞬く間に口内が凝縮された果実の味で満たされた。
「ほうっ」と息を吐き、余韻に浸っていると、同じくワイングラスを持った彼が「乾杯」と囁き、上品にそれを口へと運ぶ。

 互いがワインを飲み、何かを言うとこもなく、静かにその美味しさに舌鼓を打っていた。

 ふと彼の手元が、私の首から下げられた円柱のネックレスへと伸びる。

「珍しい形のネックレスだな。そういえばこの前も付けていた……」

 彼は長細い金色の小さな筒を指で持ち上げ、それをまじまじと見つめる。
 無邪気にそれを見つめる姿に、少しだけ緊張感の解けた私は「ふふっ」と笑う。

「……覗いてみる?」
「覗く、とは?」

 私の言葉に「理解出来ない」と首を傾げる彼に、ワイングラスをテーブルに置き、そのネックレスを首から外し差し出す。
 「望遠鏡みたいに、覗いてみて」と私が促すと、彼はおそるおそるその筒に片目を近付けた。

「ほう、これは凄いな……」

 あからさまに彼の瞳が大きく開かれる。
 予想通りの反応に気を良くした私が「ゆっくり回してみて?」と言えば、彼は再び感嘆の声を上げた。

「綺麗でしょ。お父様が異国で買ってきて下さった万華鏡カレイドスコープ……私の宝物なの」

 「ありがとう」と私の中に帰ってきた金色のそれを、じっと見つめる。

『わぁ! すごい……綺麗……』なんて、一日中万華鏡を見ていた子供の頃を思い出して、自然と笑みが零れた。

「いい父親だ」

 そんな事言いながら、ジルは再び手元のワインを再びそっと飲み始めた。


「……ウイスキーばかり飲んでるイメージだったけど、ワインも飲むのね」

 ネックレスを付け直した私は、月明かりを背にグラスを傾ける彼をじっと見つめる。
 ジルの所作のひとつひとつ――ステムを持つ手がゴツっと骨ばっていて厭に男性的であるとか、ワインを飲み込む時に動く喉仏とか――それらがやけに美しく見えて、思わず目を奪われてしまったのだ。

「偶にな。……それにには、ワインがお誂え向きだろ?」

 少しだけ濡れた薄い唇が、ニヤッと弧を描く。
 青い瞳に射抜かれる私の視界の端で、首を這い鎖骨の窪みに掛る白金のチェーンピアスが互いに擦れ音を奏で揺れる度に、私の心音はバクバクッと高鳴り続ける。

 ダメだ、全然お酒に集中出来ない……もう彼が顔を傾けるだけでもドキドキする……

 テーブルの上に置かれた蝋燭が、一際強く燃え上がった気がした。

「……っ、お、おかわり貰おうかしら……」

 場の空気に酔ってしまいそうで、慌ててテーブルに置いた中身の無いグラスを手に取り差し出す。すると彼の大きな手がそれを取り上げた。

「おかわりは……こっち」

 フッと目を細め色香を纏った笑みの彼が、段々と視界の中で大きくなる。
 思わずキュッと目を閉じると次の瞬間……フワッと香る芳醇なワインの吐息と共に、唇に何か柔らかい物が触れた。

「……っ、ふ……それワインじゃ、な、い……」

 それが彼の唇だと気が付いたのは、少しだけ開いていた私の口内に熱い舌が潜り込んで来た時だった。

「……ワインの方が良いか?」

 ちろちろと彼の舌が私の舌先を舐め、そのまま歯列、上顎と這いずる。

「あ、ふっ……んんッ……」

 その初めての感触に、ゾクゾクっとした得体の知れない感覚が全身を走り抜ける。
 ザラザラとした舌を擦り合わせ、キュッと彼の舌が器用に私の舌を巻き取ると「はふっ」と息が上がり、密着した身体に触れる紺色のバスローブを、キュッと握り締めた。

「なぁ、アイリーン……どっちが欲しい?」

 漸く唇が離され、「ハッハッ」と肩で息をする私に、銀糸で繋がったままの薄い唇がそう問う。

「どっち、って……」

 チラッと目線を彼へと向けると、そこにあるのは欲の滲んだ雄の顔。
 蒼い瞳は影を帯び、射抜くような眼差しで私をじっと見つめる。形の良い唇が、ペロッと舌舐りする所作に……ドクンッと鼓動が高鳴る。

「まだワインが欲しいか? ……選べよ、アイリーン」
 
 名前を呼ばれるだけで、身体全部がおかしいくらいに熱くなる。

 半分だけ空いたカーテンから射し込む月明かりが、彼の顔を照らす。その美しさに操られるかのように――小刻みに震える人差し指で、彼の薄い下唇をフニっと押さえた。

「……こっ、ち……」

 きっと今わたしは、身に付けている桃色バスローブよりも真っ赤な顔をしているのだろう。
 そんな私の後頭部を、彼の大きな手が掴んだ。

「なら遠慮なく……味わえ」

 熱い吐息を吐く唇は、嬉しそうに笑う唇に覆われた。


◇◇◇

「あっ、あのっ……あの……」
 
 シルクのシーツに埋もれ、彼の手が腰に巻かれた紐に掛かった時……思わず声を上げた。

「どうした? 怖くなったか?」

 彼の手はそこでピタッと止まり「無理しなくていい」と、額に優しく口付けた。

「ち、違っ……そ、その……」

 そんな彼の優しさに、キュンっと胸をときめかせながらも、赤い顔を慌てて横に振った。

「うん?」

 不思議そうに顔を覗き込む彼の視線から逃れるよう、少しだけ顔を背けて、ゆっくりと唇を開いた。

「……身体見て、ガッカリしない……?」

 そう呟いた瞬間、覆い被さる大きな身体が痛い程に私を抱き締めた。

「なに可愛いこと言ってんだよ……」
「だ、だって! 周りの令嬢みたいに……スタイル良くないから……胸も、その……大きくないし……」

 思い浮かぶのは、彼に茶会求婚を申し込んだ面々。
 私がまだ伯爵令嬢だった頃、何度かお会いした人もいれば、パーティーで遠巻きに見た事のある人――いづれも皆「これぞ女!」と云わんばかりの魅惑の身体付きの面々。
 「それに比べて自分は……」と、いう思いコンプレックスをどうしても打ち消す事が出来なかったのだ。

 少しだけ身体を起こしたジルレスター様が、すっかり眉の下がってしまった私の顎に指をかけ、クイッと自分の方に向ける。
 てっきり「バカな事を言ってる」と笑われるものだと思いきや――そこにあるのは、至って真面目な彼の表情だった。
 じっと私を見つめたまま、丹花の唇がゆっくりと開く。

「他の女がどうかなんて知らない、興味もない――抱いてみたいと思った女は、お前が初めてだ」

 強い眼差しのまま「ちゅ」と触れるだけの優しいキスに、思わず心が鷲掴みにされる。

「……ッッ!!」
「……どうする? 止めたいならそれで構わない。アイリーンの嫌がる事をするつもりは毛頭ないからな」

 狡いわよ。
 意地悪で強引な癖に。肝心なところで、こんなに大切に扱うなんて……
 ゴクッと唾を飲み、バスローブから離れた彼の手を思わず両手で掴む。

『ジルレスター様はあの容姿で浮いた話1つ無いのが彼を偶像にした大きな要因の1つです』

 ――ふと昼間の、教会での会話が思い出される。

『ジルレスター様は幼い頃に騎士になる事を志して以降、一切の欲を捨てて武の道に励んでいる……というのは有名な話ですよ』

 そんな彼が、抱きたい、と思った……私を……?

 ザワっと身体中が沸き立ち、心臓がドクドクと大きな音を立てる。

 ――私を、選んだ。

「……て、……」
「アイリーン?」

 不思議そうに首を傾げ、私の様子を見守るジルの目へ――今度はこっちから熱い視線を送る。
 小さく震えながらも握ったままの彼の手を、そっと自分の胸元に置いた。

「やさしく、してくれる……? ジルレスター様」

 その言葉に、彼はは花が咲いたような満面の笑みを浮かべた。

「当然だ。……あと、ジルって呼べよ。恋人だろ?」

 そう言って彼は、再び腰の紐に手を掛けた。


◇◇◇

「……っ、ん……」
「柔らかいな……ずっとしゃぶっていたい」

 先程からジルの綺麗な唇が、私の胸の頂を捉えて離さない。「綺麗なピンク色だな」なんて吐息混じりに囁いた彼は、それに口付けを落としたかと思うと、直ぐにちゅぅっと吸い付いた。
 ちゅっぷ、ぴちゅっと音を立て生暖かい口内で転がされれば、堪らず身体がピクピクっと跳ねる。

 ヌルヌルした感触がする度に、頭がふわふわする……口から知らない声が出る……なにこれ、きもちい……

「んぁッ……ぁ、あっ……こえ、やぁ……」

 自分の物とは思えない鼻につく甘い声を聞いていられ無くて、口を塞ごうとした挙げた手はすぐに制される。

「聞かせろよ……お前の声。めちゃくちゃイイから」

 ちゅぱっと音を立て唇を離したジルは身体を起こし、握った手の甲に優しく口付けた。

「で、でも変……」
「変じゃない。……お前の声だけでイけそう」

 レロッと指の股に舌を這わす彼の……何と妖艶で美しい事か。
 ズルい……かっこよすぎるじゃない。その顔にそんな事言われたら、抵抗なんて出来るわけない。
 力の抜けた手に、スルッと彼の長い指が絡まる。
 触れ合う肌が火を吹きそうなくらい恥ずかしい、でも嫌じゃない。
 脈打つ指先でキュッとその手を握り返すと、彼は嬉しそうに笑い、再び胸元へと舌を這わせた。

「はっ、んぅ……はげし、ァんっ……」
 
 片方の胸を鷲掴みにされ揉みしだかれ、反対の胸は彼の口内に飲まれる。胸の果実をチュウッと吸い上げ、舌先で何度も突いたり擦ったかと思えば、ザラザラとした舌全部で舐める――そんな行為の繰り返しで、どうしようもなく身体が熱く滾る。
 そんな愛撫が続けられる中で、下半身がズクっと疼く……初めての感覚に陥った。

「どうした? 痛いか?」

 モジッと身体を捩る私の動きを不思議に思ったのか、彼の唇が真っ赤に熟れた胸の頂から離れる。
 見た事無いほど紅く、そしてぷっくりと膨らんだソレから目を背けつつ首を横に振った。

「ううん、……痛くは無い、けど……」

 モゾっと内股を擦り合わせる姿に「あぁ、成程」と何かを察したジルの手が、疼いて仕方がない、ツルっとした繭玉のような下半身へと伸びた。

「もう……ぐっしょり濡れてる」
「へっ……!? え、えっと……えっと……」

 クチュクチュッと水音が耳に飛び込んでくると、飛び上がりそうになるくらいの羞恥に全身が襲われる。

「ココも……硬い」

 わざと音が響くよう蜜壷の指で擦る彼の指がそのまま秘部を這い、ツンっと尖り始めた花芯に触れ、グッと指先で押した。

「ーーッッ!! ァあっ、ぁあ! な、に、……なんか、クる……ッんァあぁああっッッ!!」

 無意識にグッと下腹部に力が入り、滾った熱が腹の下で爆発するような快楽が全身を駆け抜ける。
 お腹がキュウっと締まるような……な、なに……これ……カラダ、ヘン……

「へぇ……ココ、弱いんだ」

 ニヤリと……それ迄にみたどんな時よりも、彼の顔は愉悦に歪んでいる。
 まだ小刻みに震える私の身体をじっと見つめる獣が、花芯に置いたままの指を、クリクリっと動かした。

「だ、ダメぇ……そこっ、だめっ……ァあっぁッッ!!」

 触れた場所がジンジンする……腰が勝手に動く……こんな感覚、知らない。
 ――もっと、さわって……きもち、い……

「ダメって言いながら、自分から擦り付けてるな」
「……っぅ! ち、ちが……」
「こうされるのが好きか?」

 トプっと愛液が溢れる蜜壷に指を充て、クチュクチュ音を立てながら存分に濡れた指で、再び花芯を弄る。
 滑りの良くなったソコは今まで以上に敏感になり、クリっと擦られる度、全身の熱がそこへと集まる。

「はぅっ、ァあっ!! きもち、い……」
「こんなに濡らして、恥ずかしそうに喘いで腰振って……堪らないな……可愛いお前の全身、喰っていいか?」

 ボヤけた頭の中では、彼の言葉を拒否する理由が見当たらなくて――答えの代わりに彼の首に腕を回すと、直ぐさま彼は私の首筋へと噛み付いた。
 本当に喰べられてしまうかのように、首筋から鎖骨、二の腕へ彼の熱い唇が荒々しく吸い付く度に、ビクンビクンッと身体が悦び小刻みに跳ねる。

「ンっふ……は、はふ……」

 すごい……からだ全部愛されてる……ジルが触るところ、ぜんぶきもちいい……

「綺麗だよ、アイリーン。乱れるお前をずっと見ていたい」

 「ハァ」っと甘い息を吐く彼の指が、ップっと蜜壷への侵入を始める。

「……ッッ!! そ、そこ……」
「痛かったら我慢せず言え。無理だけはするな」

 そう言った彼の顔は――欲を帯びてはいるものの、どこまでも真剣な面持ちだった。

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