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君と出逢った日(4)
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野良猫にしては毛艶の良い、膨よかな体の四匹の猫が口を揃えて鳴く。
四匹の中で一番ほっそりとした猫に、近くにいた日向が手を伸ばす。猫はその手を避けて、修治の後ろへ逃げた。そして大きく喉を鳴らしながら、額や鼻先を修治の脛にすりつける。
大地の色をした体。頭部から背骨に沿って尾の先まで伸びる黒い筋。目を縁取る白。口周りも白い。首の下から胸、腹部、足の内側までに広がる淡黄。おおよそ四色からなる毛並み。
体は細いのに、口いっぱいに食料を詰め込んだリスのように頬の張った丸顔。これは彼がこの一家の父親と示すものでもある。
家族にすらほどんど懐いていない人見知りの名を、修治は呼ぶ。
「リン」
リンが懐いているのとは反対の足を、ツン、と湿った鼻先でつつくのは、猫の紅一点。
三匹の雄猫は同色だが、この雌猫だけはキャラメルのように薄い、色違いの同種であった。
彼女は、じっと見つめてくる日向を横目に背筋を伸ばして座っている。
夫であるリンを筆頭に猫に対しては激しい気質を見せるが、人に対しては冷静でそこそこ寛容なのだ。
「アリス」
修治が屈もうと背中を丸めると、その上にトンと何かが飛び乗る。驚いて上に伸びた背中に爪を立ててよじ登り、それは修治の肩に乗った。
母猫の生写しで、四匹の中で一番大きな猫。
「シャオリン、痛っ」
肩幅が足りないせいか、修治の頭を支えに肩の上で立ち上がり姿勢を安定させる。
爪が頭皮に食い込んで修治は思わず声を上げた。顔の左側に当たる密集した柔らかい毛の感触。ずっしりとした重み、温もりと安らぐ匂いに唇を噛み締める。
——ミャァオン
足元で鳴くのは、一番小柄な末っ子。成猫だというのに、仔猫の頃からの愛嬌は変わらず、家族以外にも喉を鳴らす人懐っこい甘えん坊。
今も修治に全身で擦り寄りながら、興味津々に周りの人間を見回して、その場をぐるぐると歩き回っている。
「クク」
耳をピンと立て、ククは修治を真っ直ぐ見上げた。
シャオリンを下に降ろし、揃った四匹の猫は修治の足元にぴたりと寄り添う。
「わわわ、可愛い」
しゃがみ込んだ日向は、手を伸ばし「おいでおいで」と指を動かして招く。ククがそれに反応して、日向に近づいた。目を細めて、手のひらに頭を擦り付ける。
日向の後ろで立って見ていた夢原も、うずうずと体を揺らしてから勢いよく日向の隣にしゃがみ、一緒にククを撫でた。
甘えん坊は尻尾を真っ直ぐ上に伸ばして、その愛嬌を惜しみなく少女たちに振りまく。
なぜ、四匹はここにいるのだろう。
「こいつら、松原の飼い猫なのか?」
古河の問いかけに修治は頷いた。
一匹であれば見間違い、猫違いの可能性もあった。しかし、四匹揃ってとなると、間違うなど絶対にありえない。
「放し飼いしてんのか」
「いや……うちは完全室内飼いだ」
去勢されていない猫を外に出すなんてできるわけがない。
「脱走か?」
その問いかけに修治は黙する。
家から出たことがない猫たちが、自宅からかなり離れたこの場所まで来れるものだろうか。ここにいる理由はさっぱりだが、今はどうでもよかった。
鳴きながら膝に爪を立てて掴まり立ちしてくるリンを抱き上げる。ごろごろと喉を鳴らし、頭を力一杯頬に押し付けてくるリンを撫でていると、常ノ梅が慈愛に満ちた顔で見ていることに気づいた。その視線がなんだか恥ずかしくて、リンを降ろす。足りないと抗議するように鳴くのを、頭を撫でて宥めた。
薄暗い屋敷の中を窓から覗き込む。やはり誰かがいるようには見えない。
女子二人は松原の猫に夢中で、新井はその光景をつまらなさそうに見ていた。あいつは、常ノ梅がこの場にいることも気に食わないのか、日向たちを案内してたときとは違って、ずっと不機嫌な顔をしている。足元の小石を蹴り、中を窺いながら窓や扉に手をかけて、固く閉ざされているのを確認しては「くそっ」と悪態をついている。
こうなっては、あいつが目論んでいた肝試しはできそうにないし、そろそろ帰るべきだろう。
庭への出入りの為のガラス張りの扉。新井のようにドアノブに手をかけてみるが、やはり開きはしない。
ガラス部分に顔を寄せて、もう一度屋敷の中を覗く。
吊り下がった影が見えた。
風もないのにその影はなぜか、ぶらり、ぶらりと——
「うわっ!?」
修治たちが猫と戯れていると、屋敷を除いていた古河が突然叫んだ。見開いた目でガラス張りの扉の方を凝視し、口は魚のように空気を食む。
日向と夢原は首を傾げた。
「古河くん?」
「なに、どうしたの?」
「今、人が……」
精悍な顔から血の気が引いていく。
「どうしたの古河君」
常ノ梅の声に反応して、呆然とした様子で修治たちの方を振り向く。
「人影が見えた」
「うん」
「浮いてたんだ」
「え、幽霊ってこと!?」
日向の声に驚いて、彼女の手に甘えていたククが修治の後ろに走って隠れた。
修治はしゃがんで、両脇にいるリンとシャオリンの頭に両手を乗せる。二匹は耳を立て、喉を鳴らした。アリスは我関せずという感じで舐めた自分の手で顔を洗っている。
なんだか雲行きがらしくなってきたな。
隣をちらっと見上げると、常ノ梅は静かに続きを促していた。
古河は頭に付いた何かを払うように首を振る。
「紐が見えた。あれは……ぶら下がってたんだと思う……」
修治はガラス張りの扉に近づき、扉に手をあて中を覗き込んだ。
僅かな夕明かりでうっすらと輪郭を捉えるのがやっと。ところどころ穴の空いた荒れた床と、少し広めの空間に階段があるのはわかる。人影に見間違えそうな物も、ぶら下がっていたというナニかもない。
隣で新井が同じように覗いている。見えるものは修治と変わらないだろう。肩透かしを食らった顔で扉を蹴った。
「なんだよ。何もねぇじゃん」
何か金属が動いたような小さな音がした。それまで無言を貫いていた古びた扉が、キィと鳴いて、僅かな隙間を生む。
「お、開いた」
新井は隙間に手を差し込み、扉を引いて入り口を広げた。どうやって、という古河の呟きが届かなかったのか、振り返ることなく意気揚々と踏み入る。
直接光が入り込んだことでより明るく、見やすくなった屋内。
修治は床に落ちている財布に気づいた。
「だ、ダメだよ新井くん!」
慌てた日向が修治の横を通り過ぎていく。
角の擦れや表面の傷など、使い込まれた感じの財布を、すぐ後ろまで来ていた常ノ梅に渡した。
少し考えるように財布を見つめてから、常ノ梅は中身を改め、男の顔写真が入った免許証を見つける。
奥に進もうとしている新井を日向と夢原が腕を掴んで引き止めていた。こういうときは一番力のありそうな古河の出番だろうに、彼は外で立ち尽くしたまま。
常ノ梅が口を開いたそのとき、声が聞こえた。
彼の声ではない。
この場にいる誰のものでもない。
体が強張り、耳を澄ませる。
——誰か、いるのぉ
上階から。床や壁に遮られているせいか聞こえづらいが、おそらくは女のもの。
——たすけてぇ
嫌な予感がチクチクと修治の肌を刺す。
表情から穏やかさを消した常ノ梅はスマホを手にした。が、画面を見るなり何もせずポケットに戻してしまう。
修治は己のスマホを確認した。
圏外。
日向も自分のスマホを見て目を丸める。
「うそ、さっきまで使えたのに」
「松原君のも?」
「ん」
常ノ梅の問いかけに頷いて、修治はスマホをポケットにしまう。
「警察は呼べそうにないか……万が一ということもあるし、僕ちょっと確認してくるから、みんなはここで待ってて」
「待って常ノ梅くん、一人じゃ危ないよ。私も行く!」
「みくが行くなら私も」
何も言わない、目も合わせようとしない新井を一瞥してから常ノ梅は「しょうがない」と、
「みんなで行こう。何かあるかわからないから、はぐれないようにね。古河君、大丈夫?」
「あ、ああ」
戸惑いを塗りつぶすように、迷いのない足取りで古河は修治の横を通って屋敷に入った。
結局、全員屋敷に入ることになってしまった。あまりに順当な流れに、誘われているようにさえ感じる。
これは、当たりなんじゃないか。
続いて中に向かう修治の足元で、四匹の猫が四方を囲むように連なっていた。
四匹の中で一番ほっそりとした猫に、近くにいた日向が手を伸ばす。猫はその手を避けて、修治の後ろへ逃げた。そして大きく喉を鳴らしながら、額や鼻先を修治の脛にすりつける。
大地の色をした体。頭部から背骨に沿って尾の先まで伸びる黒い筋。目を縁取る白。口周りも白い。首の下から胸、腹部、足の内側までに広がる淡黄。おおよそ四色からなる毛並み。
体は細いのに、口いっぱいに食料を詰め込んだリスのように頬の張った丸顔。これは彼がこの一家の父親と示すものでもある。
家族にすらほどんど懐いていない人見知りの名を、修治は呼ぶ。
「リン」
リンが懐いているのとは反対の足を、ツン、と湿った鼻先でつつくのは、猫の紅一点。
三匹の雄猫は同色だが、この雌猫だけはキャラメルのように薄い、色違いの同種であった。
彼女は、じっと見つめてくる日向を横目に背筋を伸ばして座っている。
夫であるリンを筆頭に猫に対しては激しい気質を見せるが、人に対しては冷静でそこそこ寛容なのだ。
「アリス」
修治が屈もうと背中を丸めると、その上にトンと何かが飛び乗る。驚いて上に伸びた背中に爪を立ててよじ登り、それは修治の肩に乗った。
母猫の生写しで、四匹の中で一番大きな猫。
「シャオリン、痛っ」
肩幅が足りないせいか、修治の頭を支えに肩の上で立ち上がり姿勢を安定させる。
爪が頭皮に食い込んで修治は思わず声を上げた。顔の左側に当たる密集した柔らかい毛の感触。ずっしりとした重み、温もりと安らぐ匂いに唇を噛み締める。
——ミャァオン
足元で鳴くのは、一番小柄な末っ子。成猫だというのに、仔猫の頃からの愛嬌は変わらず、家族以外にも喉を鳴らす人懐っこい甘えん坊。
今も修治に全身で擦り寄りながら、興味津々に周りの人間を見回して、その場をぐるぐると歩き回っている。
「クク」
耳をピンと立て、ククは修治を真っ直ぐ見上げた。
シャオリンを下に降ろし、揃った四匹の猫は修治の足元にぴたりと寄り添う。
「わわわ、可愛い」
しゃがみ込んだ日向は、手を伸ばし「おいでおいで」と指を動かして招く。ククがそれに反応して、日向に近づいた。目を細めて、手のひらに頭を擦り付ける。
日向の後ろで立って見ていた夢原も、うずうずと体を揺らしてから勢いよく日向の隣にしゃがみ、一緒にククを撫でた。
甘えん坊は尻尾を真っ直ぐ上に伸ばして、その愛嬌を惜しみなく少女たちに振りまく。
なぜ、四匹はここにいるのだろう。
「こいつら、松原の飼い猫なのか?」
古河の問いかけに修治は頷いた。
一匹であれば見間違い、猫違いの可能性もあった。しかし、四匹揃ってとなると、間違うなど絶対にありえない。
「放し飼いしてんのか」
「いや……うちは完全室内飼いだ」
去勢されていない猫を外に出すなんてできるわけがない。
「脱走か?」
その問いかけに修治は黙する。
家から出たことがない猫たちが、自宅からかなり離れたこの場所まで来れるものだろうか。ここにいる理由はさっぱりだが、今はどうでもよかった。
鳴きながら膝に爪を立てて掴まり立ちしてくるリンを抱き上げる。ごろごろと喉を鳴らし、頭を力一杯頬に押し付けてくるリンを撫でていると、常ノ梅が慈愛に満ちた顔で見ていることに気づいた。その視線がなんだか恥ずかしくて、リンを降ろす。足りないと抗議するように鳴くのを、頭を撫でて宥めた。
薄暗い屋敷の中を窓から覗き込む。やはり誰かがいるようには見えない。
女子二人は松原の猫に夢中で、新井はその光景をつまらなさそうに見ていた。あいつは、常ノ梅がこの場にいることも気に食わないのか、日向たちを案内してたときとは違って、ずっと不機嫌な顔をしている。足元の小石を蹴り、中を窺いながら窓や扉に手をかけて、固く閉ざされているのを確認しては「くそっ」と悪態をついている。
こうなっては、あいつが目論んでいた肝試しはできそうにないし、そろそろ帰るべきだろう。
庭への出入りの為のガラス張りの扉。新井のようにドアノブに手をかけてみるが、やはり開きはしない。
ガラス部分に顔を寄せて、もう一度屋敷の中を覗く。
吊り下がった影が見えた。
風もないのにその影はなぜか、ぶらり、ぶらりと——
「うわっ!?」
修治たちが猫と戯れていると、屋敷を除いていた古河が突然叫んだ。見開いた目でガラス張りの扉の方を凝視し、口は魚のように空気を食む。
日向と夢原は首を傾げた。
「古河くん?」
「なに、どうしたの?」
「今、人が……」
精悍な顔から血の気が引いていく。
「どうしたの古河君」
常ノ梅の声に反応して、呆然とした様子で修治たちの方を振り向く。
「人影が見えた」
「うん」
「浮いてたんだ」
「え、幽霊ってこと!?」
日向の声に驚いて、彼女の手に甘えていたククが修治の後ろに走って隠れた。
修治はしゃがんで、両脇にいるリンとシャオリンの頭に両手を乗せる。二匹は耳を立て、喉を鳴らした。アリスは我関せずという感じで舐めた自分の手で顔を洗っている。
なんだか雲行きがらしくなってきたな。
隣をちらっと見上げると、常ノ梅は静かに続きを促していた。
古河は頭に付いた何かを払うように首を振る。
「紐が見えた。あれは……ぶら下がってたんだと思う……」
修治はガラス張りの扉に近づき、扉に手をあて中を覗き込んだ。
僅かな夕明かりでうっすらと輪郭を捉えるのがやっと。ところどころ穴の空いた荒れた床と、少し広めの空間に階段があるのはわかる。人影に見間違えそうな物も、ぶら下がっていたというナニかもない。
隣で新井が同じように覗いている。見えるものは修治と変わらないだろう。肩透かしを食らった顔で扉を蹴った。
「なんだよ。何もねぇじゃん」
何か金属が動いたような小さな音がした。それまで無言を貫いていた古びた扉が、キィと鳴いて、僅かな隙間を生む。
「お、開いた」
新井は隙間に手を差し込み、扉を引いて入り口を広げた。どうやって、という古河の呟きが届かなかったのか、振り返ることなく意気揚々と踏み入る。
直接光が入り込んだことでより明るく、見やすくなった屋内。
修治は床に落ちている財布に気づいた。
「だ、ダメだよ新井くん!」
慌てた日向が修治の横を通り過ぎていく。
角の擦れや表面の傷など、使い込まれた感じの財布を、すぐ後ろまで来ていた常ノ梅に渡した。
少し考えるように財布を見つめてから、常ノ梅は中身を改め、男の顔写真が入った免許証を見つける。
奥に進もうとしている新井を日向と夢原が腕を掴んで引き止めていた。こういうときは一番力のありそうな古河の出番だろうに、彼は外で立ち尽くしたまま。
常ノ梅が口を開いたそのとき、声が聞こえた。
彼の声ではない。
この場にいる誰のものでもない。
体が強張り、耳を澄ませる。
——誰か、いるのぉ
上階から。床や壁に遮られているせいか聞こえづらいが、おそらくは女のもの。
——たすけてぇ
嫌な予感がチクチクと修治の肌を刺す。
表情から穏やかさを消した常ノ梅はスマホを手にした。が、画面を見るなり何もせずポケットに戻してしまう。
修治は己のスマホを確認した。
圏外。
日向も自分のスマホを見て目を丸める。
「うそ、さっきまで使えたのに」
「松原君のも?」
「ん」
常ノ梅の問いかけに頷いて、修治はスマホをポケットにしまう。
「警察は呼べそうにないか……万が一ということもあるし、僕ちょっと確認してくるから、みんなはここで待ってて」
「待って常ノ梅くん、一人じゃ危ないよ。私も行く!」
「みくが行くなら私も」
何も言わない、目も合わせようとしない新井を一瞥してから常ノ梅は「しょうがない」と、
「みんなで行こう。何かあるかわからないから、はぐれないようにね。古河君、大丈夫?」
「あ、ああ」
戸惑いを塗りつぶすように、迷いのない足取りで古河は修治の横を通って屋敷に入った。
結局、全員屋敷に入ることになってしまった。あまりに順当な流れに、誘われているようにさえ感じる。
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