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雨宮神社

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…さて。

「これは…」

目の前にある、歪な茶色い物体と緑の液体を見つめる。

特に茶色い方。
てらてらと光って、それが余計に気味悪い。

「し、時雨は食べ物だと申しましたが…見たことは…?」

卿…太郎がそういうのに、花子も賛同する。

「私も、このような物は見たことありません…。」

かりんとう、と言ったか。
木のボウルに山に積まれたそれは、とても食欲をそそられる見た目とは言えない。


「こ、これはリーネ殿が先に…」
「いえいえ、遠慮なさらずヒルディ卿が…」

…しかし、出された物を下げさせる行為は、失礼に値する。
し、仕方ない!

私は小さそうなそれを1つ摘む。

「!」

べ、ベタベタする…⁉︎

「皇女様⁉︎」

匂いは…甘い。
ええい、ウジウジしてても仕方ないわ!
私はそれを口に放り込んだ。

「…!」
「だ、大丈夫ですか⁉︎」
「美味しいわ!2人も食べてみて!」

私は2人の手にそれを1つずつ乗せる。


「べ、ベタベタしますね…これは砂糖でしょうか?」

花子はそう言いつつ、恐る恐る端の方を齧る。

「お、美味しい!」

といった後ろで、太郎は慌てた様子で緑の液体を飲んでいた。

「…美味い?」
「卿⁉︎それは…!」

太郎は、一瞬何が起きたか分からない顔をしたものの、あっと気づく。

「そ、そのかりんとうが甘過ぎて…」
「どんな味でした?」


花子がそう尋ねると、太郎は唸りながらもう一口それを啜る。

「苦味があって、口の中が浄化されるような…」


私も、一口飲んでみた。
…確かに、かりんとうで甘くなった口の中が、緑茶によって程よく調和されていく。
その味わいは、祖国では味わえなかったものだ。


「美味しい…。」
「そりゃ何よりですよ。」

その声に振り向くと、時雨が立っていた。

「あ、時雨…」
「風呂の用意ができたよ。」

時雨はそう言って、濡れたナプキンを私に手渡した。
私はお礼を言って指を拭う。

「で、ちょっと説明したいから来てくれる?」
「わかったわ。」

私達は、一同お風呂へ向かった。


ーー



…浴室はとても狭かった。
湯船は3方向が壁にくっついているし、壁には大きな鏡と、シャワーがかかっている。


「色々あるんだけどな。」

そう言いつつも、時雨はとりあえず水の出し方の説明を始める。

変わった形で、右のバルブを上に捻るとシャワーが、下に捻ると蛇口から水が出てくる。

「す、すご…」

花子は感心してそれを見つめている。

「左は温度だから、赤い方が熱い。」


そのあと、3つのボトルの中身を教えてくれた。


「こっちがボディソープで、これはシャンプー、これはリンス。」

順番に用途を説明していく。
石鹸って、そんなに何種類もあるのね…。


「とりあえず以上だけど、聞いときたいことある?」

…すでに頭がパンクしそうよ。
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