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雨宮神社

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「…はぁ。」

他の部屋と違って天井は白くて、お風呂の真上には網があり、大きなプロペラのようなものが見える。
おそらく、換気口なんだろう。

それにしても、あのリンスはすごい。
びっくりするくらい髪がつやつやになった。

あれは何でできているんだろう。



ーーそれにしても何というか…。

時雨があまりにも動揺していないから、私たちもなんとなくここにいるけれど、いったいここは何処なのだろう。

改めて考えてみると、まだ大事なことは何も聞けていない。

時雨は私たちの事を“迷い人”と言ったけれど、私達は本当に迷っているだけなの?
…だって私は。


ふと喉元に触れる。

鏡で見ても傷ひとつなく、まるで自分が死んだとは思えない。
リーネの背中も、服こそ破れていたけれど、傷がなかった。

私達は、どうなったの…?


それに、こうも不思議な事に見たことない物ばかりの世界。
異国に連れてこられたと思うには、少々おかしい。
マリュース帝国は大国だ。
こんなにも発展した機械があるならば、伝わってきていないはずがない。


あとは、ここにくる前に見たあの夢。
あの子供は何者だったんだろう。

ああーっ、考えれば考えるほど分からなくなってきた!


「…悩んでいても仕方ないわね。」

私はお風呂から上がる。


ーー


私は、時雨の用意してくた服を着ると、さっきの部屋へ戻った。

「お、お風呂ありがとう。」

時雨は先程お茶の準便をしていたカウンターで、何やら料理をしているようだった。
こちらを見ると、すぐに作業に視線を戻す。

「どういたしまして。…良かった、母さんの服がピッタリだね。」


ブラウスのような襟のついた、薄手のワンピースだった。
膝ほどの丈で、淡い水色のそれは、綺麗に畳まれていた跡がついている。

「まぁ生活用品は揃えないと。次花子いっておいで。」
「え⁉︎こ、皇女様と…」
「名前。」
「は…蓮音さんと同じ浴槽になんて…」
「1つしかないから、行ってきて。」


時雨は、花子にも服とタオルを渡すと行ってくるよう指をさす。


「そ、それにしてもリンスという物は凄いですね!髪がサラサラです!」
「あぁ、なんせこの家今女性がいないから男物だけど、気に入ってもらえたなら何よりだよ。」

…そういえば、お父様はいたけれど、お母様は?


時雨は私の疑問を察したのか、ため息を吐いて言う。

「俺が生まれる前に死んだよ。」
「そ、それは失礼を…。」


…ん?


「生まれる前に?」
「そう。」

こ、この世界では死者が子を産めるの?

「そ、そうなんですね。」
「ん。」

時雨はそれ以上話すつもりは無さそうだった。
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