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異世界?

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「ただいまー」

30分ほど経過した頃、先に秦さんが帰ってきた。

「時雨…は、買い物みたいだな。」


…そうだ、秦さんならこの違和感の正体がわかるかもしれない。

「し、秦さん!」
「はい蓮音さん、何でしょう?」

秦さんはそう平然と返事をする。
それが、余計に緊張した。

…大丈夫、この人はただの人。

「時雨は…何者なのですか?」
「その質問をしたくなる気持ちは分かるが、それは時雨に直接聞いた方がいい。」

まぁもっとも、と言って秦さんは続ける。

「時雨自身、分かってないかも知れないけどな。」
「え?」
「なんでもない。」

…改めて見ると、時雨と秦さんは確かに似ているのだけれど、あまり似てない。

口元とか、なんとなくは似ている。
血のつながりを感じるくらいには。

しかし、時雨は圧倒的に美しすぎるのだ。
そんな私たちの疑った様子を見て、秦さんは肩の力を抜いて笑った。


「時雨は愛想ない奴だけれど、君達の1番の理解者だと思う。今は不安かも知れないけれど、もう少し一緒にいてみると良い。」

…確かに、唐突にこの世界に連れてこられて、私達には他に頼れる人もいない。

「今日はゆっくりして、それで明日から時雨の手伝いをしてやってくれ。」

秦さんは私の頭をポンポンと撫でると、着替えてくると言って2階に上がっていった。

「太郎は時雨についてどう思う?」
「本来なら、こんなにも怪しいはずなのですが…」

太郎は言い淀んだ。

「はず?」

花子が先を促すように、そう言う。

「2人が目覚める前の事です。」

そう言えば太郎だけは、私達2人よりも先に目を覚ましていた。
私達はまじまじと太郎の顔を見つめる。

「俺ら、あの本堂で倒れていたのです。」
「え?」

花子と顔を見合わせる。
そういえば目覚め時…気づいたら、2階のお布団にいた。

「時雨は、俺らを見るなり慌てた様子で駆け寄って来て、声をかけて…俺は、そこでようやく意識がはっきりしてきて、知らない場所に居ることに気付きました。」

普通はそうだよね。
突然知らない場所で、知らない人がいたら…それも、本堂なんて少々薄気味悪い場所では仕方ない。

「時雨はすぐに気付いて、俺の視線に合わせて屈むんですよ。」

太郎が視線をそらす。
隣の花子が顔を赤くする。
…たしかに、あの顔がそんな事したと思うと、赤くもなりたくなる。

「…女神かと思いましたね。」

その感想も、わかる。
なんというか、中性的な美人なんだ。

太郎は咳払いすると、話を戻す。

「大丈夫か、どこから来た?って、優しい顔で言うんですよ。」
「…時雨が?」
「俺、その顔を見て妙に安心してしまって…また気を失った様でした。」


…時雨が微笑んだ?
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