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仕事を見つけること

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「あっ!」

突然引っ張っていた草がなくなり、体が後ろに倒れる。
慌てて手摺りを掴んで事なきをえた。

…あまり、草を引っ張りすぎてもダメね。


「蓮音、大丈夫ー?」

遠くから時雨の声が聞こえる。

「だ、大丈夫ー!」

なんとかそう返すと姿勢を立て直して、散らばった草を拾い集めるとビニールに入れた。
すると、奥の方でガサガサ聞こえる。

何かしら?

そう思って袋を覗き込むと、黒いものが飛んできた。

「きゃぁぁぁぁ!!」

今度は思いっきり姿勢を崩して、階段を踏み外す。

「あっ、」

手摺りには…届かず。
次の瞬間、私は広い段に尻餅をついていた。

下の方から始めて良かったわ…。

「…大丈夫?」

突然後ろから声がして振り向くと、そこには時雨の姿があった。

「む、虫が…」
「あぁ、草刈りには付き物だよ。」
「虫が⁉︎」

祖国では虫などほとんど出なかった。
背中に汗が伝うのが分かる。

「…やめる?」

やめようかな、と言う考えも頭をよぎった。
しかし、始めた事を投げ出すなんて…。

「も、もう少し頑張るわ。」
「分かった、無理はしないで。」

時雨は私を助け起こすと、軍手をはめ直しながら戻っていった。

「…頑張ろう。」

そう思い直して、草刈り鎌を握った。


ーー


ジリジリと日差しがうなじを焼く。
ようやく3段目が終わった頃だった。

「……どう?」


遠慮がちな時雨の声が聞こえた。
振り向くと、既に下20段に草はなかった。
ビニール袋も、いつの間にか3袋になっていた。

比べて私は、あと17段も残ってる。

上からは、太郎の声も聞こえる。

「時雨、終わったぞ!」
「ありがと、今行くから来なくていいよ。」
「分かった!」

時雨は自分の鎌を私に預け、私の分も袋を持つと、ズンズン階段を上がっていった。

…なんでそんなに元気なのかしら。

なれない作業だったからか、腰が痛い。
手も痛い。
全身がジトッとする。

「とりあえず、シャワー浴びておいで。」
「ありがとう…。」

私はシャワーをサッと済ませて、別の服に着替えた。

「お帰りなさいませ、蓮音様。お髪を失礼いたします。」
「ええ。」

太郎を交代にシャワーに行かせると、花子は私の髪を丁寧に梳かす。

「蓮音は根っからのお嬢様だよね。」

時雨がそう言うと、花子はこくんと頷いた。

「蓮音様は…あれ?」

花子の言葉が止まる。

「いい、解ってる。でも慣れていって。」

時雨の横顔は、いつもと変わらない。


しばらくすると洗面所でバタバタと音がする。

「僕も行ってくるから、戻って来たらお昼にしよう。」
「あ、お手伝いさせて下さい。」
「花子も2本も縫ったら疲れたでしょ、休んでていいよ。」

時雨が気遣うが、花子は首を振る。

「いいえ、ミシンのおかげで随分楽させて頂いたので、是非。」
「わかった。戻ってきたら一緒にやろう。」
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