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仕事を見つけること

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数分後、2人は並んでキッチンに立つ。
時雨は濡れた髪を、首にかけた軽くタオルでガシガシと拭く。

…なんでこの人、あんなに髪がツヤツヤなのかしら。

「花子お待たせ、やろう。」
「かしこまりました。」

時雨はエプロンを2つ取り出すと、1つ花子に手渡した。

「蓮音様。」
「どうしたの、太郎?」

太郎は真剣そうな表情で問いかけてくる。

「慣れない事が続いております、平気ですか?」
「ええ。」

そう返事をすると、太郎は目線を逸らした。

「…蓮音様程の高貴な方にこのような所で過ごさせるなど、」
「太郎。」
「ですが!」
「仕方ないのよ。」


これは神様の悪戯。
きっといつかは醒める、悪い夢なのだから。

あちこち痛み、傷ついた体を見る。
そうでも思わないと、心が折れそうだった。


「お昼できましたよー!」

蓮音の楽しそうな声がして、私と太郎はキッチンに急いだ。


ーー

「…これは。」
「祖国の料理なんだって?」

時雨はそう言って、私達の前に皿を置く。
今までは私達3人と時雨だったが、今日は花子が時雨側に座った。

「なんか、マカロニみたいな食べ物だね。」
「ピェンっていいます。」
「アホみたいな名前。」

時雨は花子にお礼を言うと、頂きますと言って手を合わせた。

私は目の前のそれを見つめる。
…白いスープの中に浮かぶ、懐かしい見た目。
ここに来てたった3日なのに、こんなにも懐かしい。

慣れ親しんだその味は、心から私たちを温めてくれた。


ーー


午後になると秦さんが帰って来た。

「時雨、広瀬さんいらっしゃる。」
「分かった。」

時雨はパタパタと着替えて戻ってきた。

「そう言えば花子、紅茶淹れられるんだっけ。」
「は、はい!」

花子は突然呼ばれて姿勢を正す。
時雨はニコッと笑うと、茶葉やポットの場所を教える。

「申し訳ないんだけど、2人来客があるから。」
「承知いたしました。」

花子は見慣れた綺麗な礼をして見せた。

「さすが、プロは違うね。」
「お言葉、恐れ入りますわ。」

間もなく本堂の方のインターホンが鳴って、時雨がはーいと返事をする。

「頼んだよ。」

時雨はパタパタと本堂へ出ていった。


ーー


花子はお茶の葉が入った缶を開けると、軽く香りを嗅いだ。

「文句なくいい茶葉ですね…。」
「へぇ、時雨って貴族なのかしら。」
「わかりませんね。」

花子はうーんと唸りながら、お茶を淹れ始めた。
慣れない道具ながらも、サクサクと用意を進める。

間もなく、少し酸味のあるお茶が入った。
それを花子はお盆に乗せる。

「さて、お出しして参りますね。」
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