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仕事を見つけること

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本堂に行くと、変わった服装の背丈の高い男性と、私達が貰ったような、ブラウスに足に張り付くようなズボンの女性がいた。

「失礼いたします。」
「あれ、時雨くん彼女?」

男性がそう尋ねたのに対して、時雨は軽く笑って否定する。

「遠方から来てうちに滞在しているんです。こちらが花子、蓮音。」

私達は時雨の紹介にならって、挨拶をして礼をする。
そして、花子は客人から先に、秦さん、時雨まで4人の前にお茶を置いた。

「こんにちは。」

その男性の声は大変落ち着いていた。

「私は広瀬ひろせ なお。こっちは妻の春紀はるきです。」
「よろしくお願いします。」

春紀さんは元気よく挨拶してくれる。

「あともう1人、太郎ってのがいます。」
「さっき階段で草刈りしてるところを見たよ。こんな時間に草刈りなんてとおもって、お茶を渡したら、ビシッとお礼言われた。」
「なんか、キリッとした子だったね。」
「…」

時雨は考え込むように沈黙する。

「大丈夫、暑くなってきたからそろそろ撤退するって言ってた。」
「なら良いのですが。」



話が落ち着いたのを見計らって、秦さんが付け足す。

「こちらの広瀬さんは、有名な茶道の先生だよ。」
「茶道…?」

私が思わず口を滑らせると、尚さんはクツクツと笑った。

「蓮音ちゃんは正直だね。」
「ご、ごめんなさい…」
「いいんだよ、茶道なんてあまり縁もないだろうし。」


尚さん曰く、この国特有のお茶の文化らしい。
そして来ているものは“着物”というこの国の伝統的な衣装だとか。
秦さんや時雨が着てるもの…また、祖国の神官達が着ていたものも、改めて思い出せば“着物”だったのかもしれない。

…しかし、同じ着物を着ていても、どうも尚さんは軟派な印象だ。


花子の紅茶を、尚さんは一口啜った。
…そして、目を見開いた。


「にしても、この紅茶は花子ちゃんが淹れたの?」
「はい。」

花子はハキハキと返事をする。

「見事だね。」

尚さんの口から出たのは、賞賛の言葉だった。

「あれ、尚さんが褒めるなんて珍しいね。」
「いやー、時雨くんのは不味いもん。」
「…ねぇ。」

2人がそう言い合うのを無視して、春紀さんが声をかけてくる。


「でも、尚が人のお茶を褒めたのなんて、初めてなんじゃないかな。すごいね、どこで勉強したんだ?」
「あ、ありがとうございます!」

花子は嬉しそうに、春紀さんと語らっている。
…花子、すごいなぁ。

私は、赤くなった手のひらをボーッと見つめた。


ーー



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