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第十三章-血と心-
第73話「人羅戦争終戦」
「お父様が……、一族のみんなが、私に力を貸してくれてる……! 勝つわ! 私は絶対に負けない!!」
朱姫は決意を新たに優月に向かっていく。
「戦姫血槍!」
戰戻によって強度を増した上、天理石の加護まで受けた朱姫の血閃は、優月に傷を与えていく。
さらに剣技の腕では優月より朱姫の方が上のようだった。
優月は戦いを始めてからというものずっと霊力頼りだったのに対し、朱姫は王家の者のたしなみとして少しは剣術を習ったことがある。
しかも、優月の刃が朱姫に当たりそうになると、空間が変動して無理矢理外されてしまう。
軌道を逸らされるというのならばと、距離を取った優月はもう一つの断劾を放つ。
「断劾――霜天雪破」
優月が刀を高く掲げると、空を暗雲が覆い尽くした。そして、そこから大量の雪が降り注ぐ。
これが霜天雪破の本来の攻撃形態だ。今までは優月の力が未熟である為、天を支配するには至らず自分の周囲から放っていた。
降り注いできた雪片の刃は朱姫を包囲するように展開する。
全方位からの攻撃であれば躱されることはない。そう期待しての一撃だったが。
地中から炎が噴き出してくる。その炎によって雪片は全て焼き払われてしまった。
――これが罪人を裁く獄界の炎か。
さらに天からも、霜天雪破で生み出された暗雲を突き破って光の渦が降り注ぎ、優月の身体を斬り裂く。
――こちらは天界の光だろう。
天も地も朱姫に味方している。この状況でどうやって戦えばいいのか。
「優月さん!! 優月さんなら勝てる!!」
龍次が叫んだ。
(龍次さん……!)
今までの龍次はずっと優月を戦いから遠ざけようとしていた。断劾の開発も本人の身を守る為のものだった。
しかし、今の龍次は優月が戦うことを認めたように思える。
――自分は戦えるのだ。
優月の内側に静かな闘志が湧き上がっていた。
そしてそれは朱姫も同じのようだった。
「王家は――羅仙界は私が守る……!」
朱姫は霊剣・紅桜を自らの胸に突き立てる。
「秘奥血閃――戦姫紅脈閃!!」
幾条もの紅い筋が優月に襲いかかってくる。
(すみません、朱姫さん……。今のわたしは……)
おこがましい話だが、龍次が、涼太が、雷斗が、惟月が、沙菜が、皆が信じてくれているというなら自分でも信じていいのかもしれない。
紅の筋が優月の四肢を貫く。
(多分……あなたより強い……)
貫かれながらも優月は霊刀・雪華で朱姫の血閃を薙いだ。
「翻刃一閃」
霊刀・雪華の刃に触れた血閃は、優月の血も混ざって逆流し朱姫のもとへ向かう。
汎用戦技――翻刃一閃。
前に惟月から霊子学を教わった時に、雷斗が使っていた技としてついでに教わっていたものだ。
敵を上回る器と支配力が求められるこの技は――、格下にしか通じない。
少し前までの優月ならそんな技を使うという決断はできなかっただろう。
皆の信頼があってこそ、優月は自分の強さを認めることができた。
「――!!」
切り札だった秘奥血閃を跳ね返された朱姫は目を見張る。
今の攻撃には天理石の加護も乗っていた。それも含めて跳ね返されたのだ。
空間の歪曲も今度は起こらず、朱姫はペンダントごと胸を貫かれた。
「そん……な……」
仰向けに倒れ込んだ朱姫は、何かにすがるように天へと手を伸ばす。
「お父様……、百済隊長……、久遠……。ごめん……なさい……」
やがて朱姫は息絶えた。
「勝ちましたね、優月さん」
沙菜の言葉を皮切りに、仲間たちに優月が勝ったという実感が広がっていく。
「優月さん!」
「優月!」
龍次と涼太が優月のもとへ駆け寄る。
「龍次さん……涼太……」
自分が勝てたのは二人が今までずっと支えてくれたおかげだ。感謝してもしきれない。
「あまり嬉しそうではありませんね。やはりこんな雑草を刈り取ったぐらいでは喜べませんか」
沙菜は優月のところではなく朱姫の傍に寄って、その死体を蹴り飛ばした。
「死体を蹴るな、死体を」
涼太の抗議を気にも留めず飄々とした態度のままの沙菜。
「残しといたって仕方ないでしょ」
朱姫の死体は風に吹かれた砂のように消えていった。
「朱姫さん……」
優月は彼女に対して何の恨みもない。自分と同年代でありながら立派に女王としての務めを果たしていたと思う。
「それにしても、とっさに相手の血閃を自分の血閃で飲み込むとはなかなか機転が利くじゃないですか」
「え……?」
沙菜の言ったことの意味が分からず首を傾げる優月。
「血閃って、羅刹の王家の人にしか使えないんじゃないんですか?」
「何言ってるんですか。同じ羅刹同士、王族かそれ以外かで流れてる血の性質に違いなんてある訳ないじゃないですか。生物学的に考えて」
血閃は王家の者だけが使える特別な力――それは全くの幻想だった。
実際には、魄気や流身同様羅刹の基本能力であり、誰でも使えると知っている者はそれなりに存在していた。
ただ王家の威光を保つ為に秘密にしていただけだ。
「生まれ持った身分じゃない、生まれ持った個性こそが重要なんです。優月さんは真羅朱姫よりもよほど羅刹の名に相応しい存在だった。それだけですよ」
沙菜が語り終わると、霊京中に惟月の声が響き渡った。
「真羅王室及び霊神騎士団総員に告ぐ。騎士団長は敗れ、羅刹王は死んだ。戦いは終わりだ。直ちに投降せよ!」
人間の羅仙界侵入に端を発した戦はこれにて幕を閉じた。
これから新しい世界が始まろうとしている。
朱姫は決意を新たに優月に向かっていく。
「戦姫血槍!」
戰戻によって強度を増した上、天理石の加護まで受けた朱姫の血閃は、優月に傷を与えていく。
さらに剣技の腕では優月より朱姫の方が上のようだった。
優月は戦いを始めてからというものずっと霊力頼りだったのに対し、朱姫は王家の者のたしなみとして少しは剣術を習ったことがある。
しかも、優月の刃が朱姫に当たりそうになると、空間が変動して無理矢理外されてしまう。
軌道を逸らされるというのならばと、距離を取った優月はもう一つの断劾を放つ。
「断劾――霜天雪破」
優月が刀を高く掲げると、空を暗雲が覆い尽くした。そして、そこから大量の雪が降り注ぐ。
これが霜天雪破の本来の攻撃形態だ。今までは優月の力が未熟である為、天を支配するには至らず自分の周囲から放っていた。
降り注いできた雪片の刃は朱姫を包囲するように展開する。
全方位からの攻撃であれば躱されることはない。そう期待しての一撃だったが。
地中から炎が噴き出してくる。その炎によって雪片は全て焼き払われてしまった。
――これが罪人を裁く獄界の炎か。
さらに天からも、霜天雪破で生み出された暗雲を突き破って光の渦が降り注ぎ、優月の身体を斬り裂く。
――こちらは天界の光だろう。
天も地も朱姫に味方している。この状況でどうやって戦えばいいのか。
「優月さん!! 優月さんなら勝てる!!」
龍次が叫んだ。
(龍次さん……!)
今までの龍次はずっと優月を戦いから遠ざけようとしていた。断劾の開発も本人の身を守る為のものだった。
しかし、今の龍次は優月が戦うことを認めたように思える。
――自分は戦えるのだ。
優月の内側に静かな闘志が湧き上がっていた。
そしてそれは朱姫も同じのようだった。
「王家は――羅仙界は私が守る……!」
朱姫は霊剣・紅桜を自らの胸に突き立てる。
「秘奥血閃――戦姫紅脈閃!!」
幾条もの紅い筋が優月に襲いかかってくる。
(すみません、朱姫さん……。今のわたしは……)
おこがましい話だが、龍次が、涼太が、雷斗が、惟月が、沙菜が、皆が信じてくれているというなら自分でも信じていいのかもしれない。
紅の筋が優月の四肢を貫く。
(多分……あなたより強い……)
貫かれながらも優月は霊刀・雪華で朱姫の血閃を薙いだ。
「翻刃一閃」
霊刀・雪華の刃に触れた血閃は、優月の血も混ざって逆流し朱姫のもとへ向かう。
汎用戦技――翻刃一閃。
前に惟月から霊子学を教わった時に、雷斗が使っていた技としてついでに教わっていたものだ。
敵を上回る器と支配力が求められるこの技は――、格下にしか通じない。
少し前までの優月ならそんな技を使うという決断はできなかっただろう。
皆の信頼があってこそ、優月は自分の強さを認めることができた。
「――!!」
切り札だった秘奥血閃を跳ね返された朱姫は目を見張る。
今の攻撃には天理石の加護も乗っていた。それも含めて跳ね返されたのだ。
空間の歪曲も今度は起こらず、朱姫はペンダントごと胸を貫かれた。
「そん……な……」
仰向けに倒れ込んだ朱姫は、何かにすがるように天へと手を伸ばす。
「お父様……、百済隊長……、久遠……。ごめん……なさい……」
やがて朱姫は息絶えた。
「勝ちましたね、優月さん」
沙菜の言葉を皮切りに、仲間たちに優月が勝ったという実感が広がっていく。
「優月さん!」
「優月!」
龍次と涼太が優月のもとへ駆け寄る。
「龍次さん……涼太……」
自分が勝てたのは二人が今までずっと支えてくれたおかげだ。感謝してもしきれない。
「あまり嬉しそうではありませんね。やはりこんな雑草を刈り取ったぐらいでは喜べませんか」
沙菜は優月のところではなく朱姫の傍に寄って、その死体を蹴り飛ばした。
「死体を蹴るな、死体を」
涼太の抗議を気にも留めず飄々とした態度のままの沙菜。
「残しといたって仕方ないでしょ」
朱姫の死体は風に吹かれた砂のように消えていった。
「朱姫さん……」
優月は彼女に対して何の恨みもない。自分と同年代でありながら立派に女王としての務めを果たしていたと思う。
「それにしても、とっさに相手の血閃を自分の血閃で飲み込むとはなかなか機転が利くじゃないですか」
「え……?」
沙菜の言ったことの意味が分からず首を傾げる優月。
「血閃って、羅刹の王家の人にしか使えないんじゃないんですか?」
「何言ってるんですか。同じ羅刹同士、王族かそれ以外かで流れてる血の性質に違いなんてある訳ないじゃないですか。生物学的に考えて」
血閃は王家の者だけが使える特別な力――それは全くの幻想だった。
実際には、魄気や流身同様羅刹の基本能力であり、誰でも使えると知っている者はそれなりに存在していた。
ただ王家の威光を保つ為に秘密にしていただけだ。
「生まれ持った身分じゃない、生まれ持った個性こそが重要なんです。優月さんは真羅朱姫よりもよほど羅刹の名に相応しい存在だった。それだけですよ」
沙菜が語り終わると、霊京中に惟月の声が響き渡った。
「真羅王室及び霊神騎士団総員に告ぐ。騎士団長は敗れ、羅刹王は死んだ。戦いは終わりだ。直ちに投降せよ!」
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