170 / 313
第二十三章-運命を超える力-
第149話「望まない運命の再会」
しおりを挟む
雷斗の断劾で理の力を打ち破ることにした一行は、霊京を出てしばらく歩き、平原の適当な位置で喰人種の襲撃を待つ。
喰人種に逃げられると状況がややこしくなるため、雷斗と惟月は姿と霊気を消している。
(わたしを殺す喰人種……。どんな人なんだろう……)
千秋が身を固くしていると、暗雲が立ち込めてきた。
(雲の中になにかの気配が……!)
視力を失って感覚が研ぎ澄まされたからこそ分かることがある。
おそらく喰人種だ。
「兄さん、来たみたい」
「分かった。オレの後ろに隠れてろ」
春人は、腰の刀に手をかける。
空から青い光が降ってきた。
落下地点から放たれる衝撃波を抜刀した春人が防ぐ。
「来たな」
「まるで、あたいが来るのが分かってたみたいな口振りだね」
姿を現し、春人と対峙したのは、爪や牙が伸びて獣じみた容姿になった女。
着物もボロボロで、がさつそうな印象を受ける。
むき出しになった腕や頬には黒い線が浮かんでいる。
もっとも、これらは大抵の喰人種に共通することでもある。
「兄さん、この人?」
「ああ、間違いない。こいつが千秋を殺したんだ」
もはや隠す意味もないし、守れるという確信もできたからか、春人ははっきりと教えてくれた。千秋としても、その方がすっきりする。
「『殺した』なんて人聞きの悪い。まだ殺してないじゃないか」
喰人種の女は、軽い調子で言う。
人を殺すことに罪悪感を覚えていなさそうだが、これは喰人種化して以降戦い続けた結果、感覚がマヒしているせいかもしれない。
「オレには予知夢を見る力があってな。お前の顔は忘れちゃいないぜ」
「ほう……、そんな力が。だったらなんで逃げずにいるんだい? 殺されるんだろう?」
喰人種の女はニヤリと笑うが、直後に表情を一変させる。
「オレ一人だったらな!」
春人がさけぶと同時に、視覚と魄気を遮断する結界を解いて雷斗と惟月が現れる。
「な――ッ」
雷斗は、危険度S級の喰人種を幾度も倒してきた。今回の相手もそれなりには強そうだが、恐れおののくのが当然だ。
「助っ人を呼んでた訳かい……。しかし、こっちにとっても好機といえるかもね」
発言の意図には察しがついた。
喰人種としての変異を止めるには、高い霊力の持ち主を喰らうのが有効だ。
「あんた、月詠雷斗だろ? 霊京の近くで戦っててあんたへの対人属性を用意しない喰人種なんていない。しかも、あんたは前の戦いで失った力が戻ってないはずだ」
対人属性とは、特定の人物にだけ有利になる霊力の属性のこと。他者の魂を喰らう存在だからこそ、その魂を組み替えることで特別な属性を生み出すことができるのだ。
さらに、魂を多く喰らっていれば、それだけ霊力も高まっている。条件が対等ではないのだから、最強クラスの羅刹である雷斗でも苦戦しないとはいいきれない。
「くだらん……。その程度で私に勝てるつもりか」
雷斗も剣を抜いて喰人種の女に向かう。
「千秋! 惟月と一緒に逃げろ!」
背後に声をかける春人だったが。
「片桐春人。貴様もだ」
「え……」
「戦いの邪魔だ」
雷斗は一人で戦うつもりらしい。
だが、いくら春人は断劾を使えないとはいえ、他ならぬ千秋の命を救うための戦いだ。春人としては雷斗に加勢したいようだ。
「……春人さん。ここは雷斗さんに任せましょう。喰人種と戦うより、千秋さんのそばについていてあげてください」
惟月の言葉は、千秋にとってもありがたかった。
兄を余計な危険にはさらしたくはないし、そばにいてほしいとも思う。
「兄さん、行こう。雷斗様が負けることなんてあるはずないもの」
「そ、それもそうか……」
春人も納得してくれた。
「雷斗さんが負ける心配はない……。しかし、それだけでは……」
惟月には、まだ憂慮することがあるようだが、なんにせよ三人で逃げることになった。
「一対一とは、なめられたもんだね。蓮乗院惟月を残したら良かったんじゃないかい?」
「無駄口を叩くな……」
走り出した千秋たちの後方で、雷斗と敵の霊気がぶつかりあう。
千秋たちは、惟月に先導されながら霊京の方へ移動していく。
「雷斗が断劾を使ってくれれば、千秋が死ぬ運命はなくなるんだよな。屋敷まで戻って休んでてもいいのか?」
「わたしたちだけ休んでるのも気が引けるけど……」
春人と千秋は、自分たちのやるべきことが残っていないように思っていたが、その考えは否定される。
「どうやら、終わっていないようです」
惟月が足を止めた。
その前方に、赤い円が出現する。
「なんだ!? 界孔か!?」
「でも、色が赤いよ!?」
界孔とは、世界そのものに空いた穴。ここを通じて狭界と呼ばれるなにもない空間に出て、異世界に渡ることができる。
狭界にはなにもないため、界孔は普通黒く見えるのだが。
「紅蓮の炎。獄界と通じているようですね……」
獄界――地獄とも呼ばれる世界で、生前重い罪を犯した者の魂が囚われる場所だ。
その獄界とつながった界孔から、何者かが飛び出してくる。
「よう。俺の顔に見覚えはねえか? ま、今は見えてないだろうけどな」
現れたのは、炎を思わせる赤の和装束をまとった男。
先ほどの喰人種とは違い身なりの整った彼は、すさまじい力を放っている。
(すごい霊気……。いや、霊気じゃない……?)
千秋の感覚は正しかった。
この男の持つ力は霊力ではない。
「冥獄鬼・灼火……!」
喰人種に逃げられると状況がややこしくなるため、雷斗と惟月は姿と霊気を消している。
(わたしを殺す喰人種……。どんな人なんだろう……)
千秋が身を固くしていると、暗雲が立ち込めてきた。
(雲の中になにかの気配が……!)
視力を失って感覚が研ぎ澄まされたからこそ分かることがある。
おそらく喰人種だ。
「兄さん、来たみたい」
「分かった。オレの後ろに隠れてろ」
春人は、腰の刀に手をかける。
空から青い光が降ってきた。
落下地点から放たれる衝撃波を抜刀した春人が防ぐ。
「来たな」
「まるで、あたいが来るのが分かってたみたいな口振りだね」
姿を現し、春人と対峙したのは、爪や牙が伸びて獣じみた容姿になった女。
着物もボロボロで、がさつそうな印象を受ける。
むき出しになった腕や頬には黒い線が浮かんでいる。
もっとも、これらは大抵の喰人種に共通することでもある。
「兄さん、この人?」
「ああ、間違いない。こいつが千秋を殺したんだ」
もはや隠す意味もないし、守れるという確信もできたからか、春人ははっきりと教えてくれた。千秋としても、その方がすっきりする。
「『殺した』なんて人聞きの悪い。まだ殺してないじゃないか」
喰人種の女は、軽い調子で言う。
人を殺すことに罪悪感を覚えていなさそうだが、これは喰人種化して以降戦い続けた結果、感覚がマヒしているせいかもしれない。
「オレには予知夢を見る力があってな。お前の顔は忘れちゃいないぜ」
「ほう……、そんな力が。だったらなんで逃げずにいるんだい? 殺されるんだろう?」
喰人種の女はニヤリと笑うが、直後に表情を一変させる。
「オレ一人だったらな!」
春人がさけぶと同時に、視覚と魄気を遮断する結界を解いて雷斗と惟月が現れる。
「な――ッ」
雷斗は、危険度S級の喰人種を幾度も倒してきた。今回の相手もそれなりには強そうだが、恐れおののくのが当然だ。
「助っ人を呼んでた訳かい……。しかし、こっちにとっても好機といえるかもね」
発言の意図には察しがついた。
喰人種としての変異を止めるには、高い霊力の持ち主を喰らうのが有効だ。
「あんた、月詠雷斗だろ? 霊京の近くで戦っててあんたへの対人属性を用意しない喰人種なんていない。しかも、あんたは前の戦いで失った力が戻ってないはずだ」
対人属性とは、特定の人物にだけ有利になる霊力の属性のこと。他者の魂を喰らう存在だからこそ、その魂を組み替えることで特別な属性を生み出すことができるのだ。
さらに、魂を多く喰らっていれば、それだけ霊力も高まっている。条件が対等ではないのだから、最強クラスの羅刹である雷斗でも苦戦しないとはいいきれない。
「くだらん……。その程度で私に勝てるつもりか」
雷斗も剣を抜いて喰人種の女に向かう。
「千秋! 惟月と一緒に逃げろ!」
背後に声をかける春人だったが。
「片桐春人。貴様もだ」
「え……」
「戦いの邪魔だ」
雷斗は一人で戦うつもりらしい。
だが、いくら春人は断劾を使えないとはいえ、他ならぬ千秋の命を救うための戦いだ。春人としては雷斗に加勢したいようだ。
「……春人さん。ここは雷斗さんに任せましょう。喰人種と戦うより、千秋さんのそばについていてあげてください」
惟月の言葉は、千秋にとってもありがたかった。
兄を余計な危険にはさらしたくはないし、そばにいてほしいとも思う。
「兄さん、行こう。雷斗様が負けることなんてあるはずないもの」
「そ、それもそうか……」
春人も納得してくれた。
「雷斗さんが負ける心配はない……。しかし、それだけでは……」
惟月には、まだ憂慮することがあるようだが、なんにせよ三人で逃げることになった。
「一対一とは、なめられたもんだね。蓮乗院惟月を残したら良かったんじゃないかい?」
「無駄口を叩くな……」
走り出した千秋たちの後方で、雷斗と敵の霊気がぶつかりあう。
千秋たちは、惟月に先導されながら霊京の方へ移動していく。
「雷斗が断劾を使ってくれれば、千秋が死ぬ運命はなくなるんだよな。屋敷まで戻って休んでてもいいのか?」
「わたしたちだけ休んでるのも気が引けるけど……」
春人と千秋は、自分たちのやるべきことが残っていないように思っていたが、その考えは否定される。
「どうやら、終わっていないようです」
惟月が足を止めた。
その前方に、赤い円が出現する。
「なんだ!? 界孔か!?」
「でも、色が赤いよ!?」
界孔とは、世界そのものに空いた穴。ここを通じて狭界と呼ばれるなにもない空間に出て、異世界に渡ることができる。
狭界にはなにもないため、界孔は普通黒く見えるのだが。
「紅蓮の炎。獄界と通じているようですね……」
獄界――地獄とも呼ばれる世界で、生前重い罪を犯した者の魂が囚われる場所だ。
その獄界とつながった界孔から、何者かが飛び出してくる。
「よう。俺の顔に見覚えはねえか? ま、今は見えてないだろうけどな」
現れたのは、炎を思わせる赤の和装束をまとった男。
先ほどの喰人種とは違い身なりの整った彼は、すさまじい力を放っている。
(すごい霊気……。いや、霊気じゃない……?)
千秋の感覚は正しかった。
この男の持つ力は霊力ではない。
「冥獄鬼・灼火……!」
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
存在感のない聖女が姿を消した後 [完]
風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは
永く仕えた国を捨てた。
何故って?
それは新たに現れた聖女が
ヒロインだったから。
ディアターナは
いつの日からか新聖女と比べられ
人々の心が離れていった事を悟った。
もう私の役目は終わったわ…
神託を受けたディアターナは
手紙を残して消えた。
残された国は天災に見舞われ
てしまった。
しかし聖女は戻る事はなかった。
ディアターナは西帝国にて
初代聖女のコリーアンナに出会い
運命を切り開いて
自分自身の幸せをみつけるのだった。
愛しているなら拘束してほしい
守 秀斗
恋愛
会社員の美夜本理奈子(24才)。ある日、仕事が終わって会社の玄関まで行くと大雨が降っている。びしょ濡れになるのが嫌なので、地下の狭い通路を使って、隣の駅ビルまで行くことにした。すると、途中の部屋でいかがわしい行為をしている二人の男女を見てしまうのだが……。
還暦妻と若い彼 継承される情熱
MisakiNonagase
恋愛
61歳の睦美と、20歳の悠人。ライブ会場で出会った二人の「推し活」は、いつしか世代を超えた秘め事へと変わっていった。合鍵を使い、悠人の部屋で彼を待つ睦美の幸福。
しかし、その幸せの裏側で、娘の愛美もまた、同じ男の体温に触れ始めていた。
母譲りの仕草を見せる娘に、母の面影を重ねる青年。
同じ男を共有しているとは知らぬまま、母娘は「女」としての業(さが)を露呈していく。甘いお土産が繋ぐ、美しくも醜い三角関係の幕が上がる。
至れり尽くせり!僕専用メイドの全員が溺愛してくる件
こうたろ
青春
普通の大学生・佐藤健太は目覚めると、自宅が豪華な洋館に変わり10人の美人メイドたちに「お目覚めですか、ご主人様?」と一斉に迎えられる。いつの間にか彼らの“専属主人”になっていた健太は戸惑う間もなく、朝から晩までメイドたちの超至れり尽くせりな奉仕を受け始める。
【R18】幼馴染がイケメン過ぎる
ケセラセラ
恋愛
双子の兄弟、陽介と宗介は一卵性の双子でイケメンのお隣さん一つ上。真斗もお隣さんの同級生でイケメン。
幼稚園の頃からずっと仲良しで4人で遊んでいたけど、大学生にもなり他にもお友達や彼氏が欲しいと思うようになった主人公の吉本 華。
幼馴染の関係は壊したくないのに、3人はそうは思ってないようで。
関係が変わる時、歯車が大きく動き出す。
春の雨はあたたかいー家出JKがオッサンの嫁になって女子大生になるまでのお話
登夢
恋愛
春の雨の夜に出会った訳あり家出JKと真面目な独身サラリーマンの1年間の同居生活を綴ったラブストーリーです。私は家出JKで春の雨の日の夜に駅前にいたところオッサンに拾われて家に連れ帰ってもらった。家出の訳を聞いたオッサンは、自分と同じに境遇に同情して私を同居させてくれた。同居の代わりに私は家事を引き受けることにしたが、真面目なオッサンは私を抱こうとしなかった。18歳になったときオッサンにプロポーズされる。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる