羅刹伝 雪華

こうた

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第二十三章-運命を超える力-

第149話「望まない運命の再会」

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 雷斗の断劾で理の力を打ち破ることにした一行は、霊京を出てしばらく歩き、平原の適当な位置で喰人種の襲撃を待つ。
 喰人種に逃げられると状況がややこしくなるため、雷斗と惟月は姿と霊気を消している。
(わたしを殺す喰人種……。どんな人なんだろう……)
 千秋が身を固くしていると、暗雲が立ち込めてきた。
(雲の中になにかの気配が……!)
 視力を失って感覚が研ぎ澄まされたからこそ分かることがある。
 おそらく喰人種だ。
「兄さん、来たみたい」
「分かった。オレの後ろに隠れてろ」
 春人は、腰の刀に手をかける。
 空から青い光が降ってきた。
 落下地点から放たれる衝撃波を抜刀した春人が防ぐ。
「来たな」
「まるで、あたいが来るのが分かってたみたいな口振りだね」
 姿を現し、春人と対峙したのは、爪や牙が伸びて獣じみた容姿になった女。
 着物もボロボロで、がさつそうな印象を受ける。
 むき出しになった腕や頬には黒い線が浮かんでいる。
 もっとも、これらは大抵の喰人種に共通することでもある。
「兄さん、この人?」
「ああ、間違いない。こいつが千秋を殺したんだ」
 もはや隠す意味もないし、守れるという確信もできたからか、春人ははっきりと教えてくれた。千秋としても、その方がすっきりする。
「『殺した』なんて人聞きの悪い。まだ殺してないじゃないか」
 喰人種の女は、軽い調子で言う。
 人を殺すことに罪悪感を覚えていなさそうだが、これは喰人種化して以降戦い続けた結果、感覚がマヒしているせいかもしれない。
「オレには予知夢を見る力があってな。お前の顔は忘れちゃいないぜ」
「ほう……、そんな力が。だったらなんで逃げずにいるんだい? 殺されるんだろう?」
 喰人種の女はニヤリと笑うが、直後に表情を一変させる。
「オレ一人だったらな!」
 春人がさけぶと同時に、視覚と魄気を遮断する結界を解いて雷斗と惟月が現れる。
「な――ッ」
 雷斗は、危険度S級の喰人種を幾度も倒してきた。今回の相手もそれなりには強そうだが、恐れおののくのが当然だ。
「助っ人を呼んでた訳かい……。しかし、こっちにとっても好機といえるかもね」
 発言の意図には察しがついた。
 喰人種としての変異を止めるには、高い霊力の持ち主を喰らうのが有効だ。
「あんた、月詠雷斗だろ? 霊京の近くで戦っててあんたへの対人属性たいじんぞくせいを用意しない喰人種なんていない。しかも、あんたは前の戦いで失った力が戻ってないはずだ」
 対人属性とは、特定の人物にだけ有利になる霊力の属性のこと。他者の魂を喰らう存在だからこそ、その魂を組み替えることで特別な属性を生み出すことができるのだ。
 さらに、魂を多く喰らっていれば、それだけ霊力も高まっている。条件が対等ではないのだから、最強クラスの羅刹である雷斗でも苦戦しないとはいいきれない。
「くだらん……。その程度で私に勝てるつもりか」
 雷斗も剣を抜いて喰人種の女に向かう。
「千秋! 惟月と一緒に逃げろ!」
 背後に声をかける春人だったが。
「片桐春人。貴様もだ」
「え……」
「戦いの邪魔だ」
 雷斗は一人で戦うつもりらしい。
 だが、いくら春人は断劾を使えないとはいえ、他ならぬ千秋の命を救うための戦いだ。春人としては雷斗に加勢したいようだ。
「……春人さん。ここは雷斗さんに任せましょう。喰人種と戦うより、千秋さんのそばについていてあげてください」
 惟月の言葉は、千秋にとってもありがたかった。
 兄を余計な危険にはさらしたくはないし、そばにいてほしいとも思う。
「兄さん、行こう。雷斗様が負けることなんてあるはずないもの」
「そ、それもそうか……」
 春人も納得してくれた。
「雷斗さんが負ける心配はない……。しかし、それだけでは……」
 惟月には、まだ憂慮することがあるようだが、なんにせよ三人で逃げることになった。
「一対一とは、なめられたもんだね。蓮乗院惟月を残したら良かったんじゃないかい?」
「無駄口を叩くな……」
 走り出した千秋たちの後方で、雷斗と敵の霊気がぶつかりあう。

 千秋たちは、惟月に先導されながら霊京の方へ移動していく。
「雷斗が断劾を使ってくれれば、千秋が死ぬ運命はなくなるんだよな。屋敷まで戻って休んでてもいいのか?」
「わたしたちだけ休んでるのも気が引けるけど……」
 春人と千秋は、自分たちのやるべきことが残っていないように思っていたが、その考えは否定される。
「どうやら、終わっていないようです」
 惟月が足を止めた。
 その前方に、赤い円が出現する。
「なんだ!? 界孔かいこうか!?」
「でも、色が赤いよ!?」
 界孔とは、世界そのものに空いた穴。ここを通じて狭界きょうかいと呼ばれるなにもない空間に出て、異世界に渡ることができる。
 狭界にはなにもないため、界孔は普通黒く見えるのだが。
「紅蓮の炎。獄界ごくかいと通じているようですね……」
 獄界――地獄とも呼ばれる世界で、生前重い罪を犯した者の魂が囚われる場所だ。
 その獄界とつながった界孔から、何者かが飛び出してくる。
「よう。俺の顔に見覚えはねえか? ま、今は見えてないだろうけどな」
 現れたのは、炎を思わせる赤の和装束をまとった男。
 先ほどの喰人種とは違い身なりの整った彼は、すさまじい力を放っている。
(すごい霊気……。いや、霊気じゃない……?)
 千秋の感覚は正しかった。
 この男の持つ力は霊力ではない。
冥獄鬼めいごくき灼火しゃっか……!」
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