羅刹伝 雪華

こうた

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第二十六章-聖羅学院文化祭-

第169話「閉店後」

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 夕方が近づいて、喫茶店を閉めることになった。
 普通は生徒が交代して文化祭開催中ずっと営業しているものだが、龍次・涼太・惟月・真哉・怜唯が全員抜けたら、この店に価値はほとんどなくなるということで、前半だけに全力を注ぐことになったのだった。
 実際、現時点で相当な利益が出ている。
「みなさん、お疲れ様でした。優月さんの男装姿もご立派でしたよ」
 惟月が皆を労ってくれる。
「あ、ありがとうございます……」
 高評価だった男装だが、今はいつもの服に戻って、髪も惟月の治癒術で元の長さに戻してもらっている。
「普段が立派じゃなさすぎるんだよな。さっきまでも別に立派って感じじゃなかってけど」
「涼太君……」
 なかなか手厳しい涼太に龍次も反応に困っている。
「店が成功したのは怜唯様と惟月様のおかげです。俺たちの力など微々たるものですから」
 相変わらず真哉は怜唯を褒め称えることを忘れない。
「このあとどうする~? オレは怜唯ちゃんと一緒に他のところ回るけど」
 約束しているかのような口振りだが、これは千尋が勝手に決めたこと。
「千秋さんとも一緒に回るというお話になっているのですが、構わないでしょうか?」
「もちろん。真哉くんも来るよな?」
「当然だ。どんな時でも怜唯様の護衛をするためにこの学院に来たんだからな」
「じゃあ、千尋君も草薙君もよろしくね」
 真哉・千尋・怜唯・千秋の四人が共に行動することになった。
 優月たちは。
「龍次さんと涼太は、わたしと一緒に回ってくれますよね?」
 どちらの名前を先にするか迷ったが、涼太に指摘されたあと何度か涼太を先にしたので、今回は龍次を先にした。
 それから、龍次と涼太の両方に話しかけるに当たって、敬語を使うかどうか迷ったが、使って悪いことはないだろうと敬語にしておいた。
「今さら何聞いてんだ。お前と行くに決まってんだろ」
「涼太……」
「俺もだよ。文化祭の話が出てから、優月さんと一緒に回るのを楽しみにしてたんだから」
「龍次さん……」
 この程度のことでいちいち、と思われるかもしれないが、それでも感動してしまう。不遇だった期間が長かっただけに。
「私もご一緒したいのですが、お邪魔でしょうか……?」
 惟月が遠慮がちに尋ねてくる。
 龍次と涼太が優月の恋人なので、そこに入り込むのは気が引けるということだろう。
 しかし、それでも同行したいというのも妙な話だ。優月が怜唯のような美少女だというならともかく。
「わたしはいいですけど、龍次さんと涼太は……」
「いいよ。今日は文化祭だし、にぎやかな方がいいんじゃないかな」
「おれも別に。如月と違って惟月なら邪魔ってこともないからな」
 二人の承認も得られた。
 そこへ担任の中鏡が惟月を呼びながら教室に入ってくる。
「蓮乗院、いるかー?」
「中鏡先生。いい加減、惟月様を呼び捨てにするのを直していただけませんか? この学院の面目というものがありますので」
 教頭の女性も同伴だ。
 霊極ともなると教師より立場は上。羅仙界の神ともいうべき存在に敬意を払っていなければ、むしろ教師が礼節を弁えていないことになる。
「しょうがないだろ、俺はこいつがただの羅刹だった頃から担任だったんだし」
「惟月様は元から貴族だったでしょう」
「そういう扱いはこいつ自身が一番嫌ってるだろ。なあ」
「教頭先生を責めるつもりはありませんが、その点については中鏡先生のおっしゃる通りです」
 惟月は呼び捨てにされることについても、望まない貴族としての扱いをされたことについても怒りを見せていない。
 優月から見ても寛大だと思う。
 優しさだけが取り柄の自分と比べたら、すべてにおいて勝っているのでは、と。
「今のは失言でした」
 教頭も前言を撤回した。
「それで、どうかされましたか?」
「ああ、二年B組のたこ焼きで具材の衛生管理に不備があったらしくてな。食べた奴と残った具材の浄化を頼む」
「分かりました」
「人間はともかく傷んだ食材まで直せるのか。器用な奴だな」
 涼太は感心している。
(涼太もかなり器用な方だと思うけどな……)
 優月が不器用すぎたせいかもしれないが、その面倒を見てきた涼太は大抵のことを上手くこなせる。
「それでは、私は後で合流させていただきますね。それまでは三人で楽しんでください」
 惟月は微笑びしょうを残して中鏡たちの後についていった。
 まずは恋人と過ごして、そのあとで惟月も加える――ちょうどいいのではないかと考えていたのだが、一つ問題が発生。
「ねえねえ、涼太くん! あたしと一緒に回ろうよー」
 クラスメイトの女子が涼太を誘っている。
「いや、優月と回るって言ってたのが聞こえてなかったのか?」
「天堂さんって日向くんと二股かけてるんでしょ? あっちが二股なんだから、涼太くんだって他の女子と遊んでいいと思うけどなー」
 それも道理のような気はする。
 自分が二股なのに、涼太には自分以外の女と遊ぶなとは言えない。
「他の奴でいいぐらいなら、そもそも実の姉と付き合ってねえんだよ」
(た、確かに……)
 今さらながら、涼太が一途である理由が分かり、納得してしまう。
 ただ、そうなると龍次とも実の弟の涼太とも付き合っている自分はなんなのか。
「いいじゃん、いいじゃん。向こうが浮気してるんだから、こっちも浮気し返しちゃえ!」
 涼太を引っ張ろうとする女子の腕を優月がつかむ。
「涼太の恋人として言う資格はないですけど……、単なる姉として言わせてもらえるなら……」
「なによ」
「わたしの弟を誘うなら、わたしを倒してからにしてください……」
 なにかの漫画で読んだようなセリフ。一度言ってみたかったが、意外なところで言うことになった。
 優月にしては、かなり強気に出られたといえる。逆にいえば、これ以上強気なセリフを吐くことはできないのだが。
 女子は涼太の袖から手を離した。
 普段の振る舞いからは想像できないが、優月は霊力の奥義である断劾を会得している。一介の学生が敵う相手ではないのだ。
「てっきり天堂さんって、控えめな人かと思ってたけど、すごく図々しい人だったのね」
「ヘタレなだけで控えめではないです。多分……」
 強く自己主張することは苦手だが、かといって控えめな人間が二股をかけるとは思えない。
 結局、相手の女子は引き下がったので、龍次と涼太を連れて教室を出ることにする。
「姉弟だからってのはアレだけど、ちょっとは言うこと言えるようになったじゃねーか」
「かっこよかったよ、優月さん」
 二人からはちょっとした賛辞をいただけた。
 最近、龍次や惟月からは何をしても褒めてもらえている気がする。
 涼太も照れ隠しはしていても似たようなものだ。
 彼らの気持ちに応えるためにも、この文化祭で精一杯エスコートしなければ。
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