羅刹伝 雪華

こうた

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第二十七章-羅刹VS冥獄鬼-

第179話「霊刀・村正」

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「あなた、本来は人間でしょ? それが私に無傷で勝てるって?」
「そのぐらいまでは強くなった実感があるからな」
 冥獄鬼の女と対峙する、軍服風の羅刹装束をまとった涼太。
 左手に握っている刀は、自らの魂装霊倶だ。
「人間の羅刹化なんて、そう簡単にできるものじゃないはずよ……」
 冥獄鬼の女は、涼太をにらみつける。
「優月にできたことが、おれにできない訳ねえだろ」
 初代羅刹王のように個人の力だけで実現したのではなく、霊子学研究所と聖羅学院の助力があってのことだが、涼太の才能が優れているのは間違いない。
「大した自信だけど、一時的に羅刹化した程度で冥獄鬼を倒せると思わないことね!」
 冥獄鬼の女は、刀から神気を飛ばしてくる。
 涼太は、魂装霊倶の刀で受け止めて、斬り払う。
「霊刀・村正むらまさ!」
 反撃として涼太も刀から光の刃を放つが、それを見た冥獄鬼の女は、回避しながらも驚きの声を上げた。
「なによそれ!? 妖力ようりょくが混ざってるじゃない!」
「そりゃ、如月家の倉庫からパクった妖刀ようとうを素材にして作ったからな」
 魂装霊倶生成に際しては、高純度の霊子を帯びた希少な金属を用いたりするが、異世界の武器をさらに羅刹の武器に変えるというのは変則的な方法だ。
 霊刀・村正の元になった妖刀・村正には、妖魔ようまが使う妖力が宿っていた。それと涼太の霊力が融合しているのだ。
「せっかく創意工夫したのに悪いけど、折らせてもらうわよ、その刀」
「やれるもんならな」
 接近してきた敵の刃を俊敏にかわし、霊刀・村正を振るう。
 涼太の刃は敵の身体を斬り裂くが、返り血は浴びない。
「はあッ!」
「ふっ」
 徐々に必死な表情になっていく冥獄鬼の女に対し、涼太は余裕顔のままだ。
 斬り合いを続ける二人。涼太は宣言通り傷を負わず、冥獄鬼の女を追い詰めていく。
「血を吸い取って斬れ味を増す……。まさに妖刀ね……」
「てめえら冥獄鬼にも血が流れてて助かったぜ」
 涼太が返り血を浴びていないのは避けているからではなく、刀身が吸収しているから。
 血を吸うほどに刃が強化されるのが霊刀・村正の能力の一つ。そして――。
戦騎血槍せんきけっそう!」
 刀身に溜め込んでいた血液が放出され、数多の槍となる。
血閃けっせんまで使えるの!?」
 刀の一振りと共に飛ばされた血の槍の一本が、敵の腹に突き刺さった。
「ぐ……」
 かつて羅刹の王族の血でしか発動できないとされていた『血閃』。
 それは王家の権威を維持するための方便であり、実際には、誰の血液でも霊力を込めることで武器化できる。
 王家の末裔でもなければ、生来の羅刹ですらない涼太の血閃が、冥獄鬼をも圧倒するのでは、己の血の力を信じて戦い死んだ真羅朱姫が浮かばれまい。
 現実も才能も残酷なものだ。
「羅刹の世界がこんなことになるなんてね……。やはり危険だわ……」
 冥獄鬼の女の言葉に、涼太の眉がかすかに動く。
「そういや、お前らの目的はなんなんだ? 断劾が気に食わないっていっても、今まで適当な距離を保ってきたんだろ?」
 気配を見る限り、霊京に出てきた冥獄鬼はそれなりの数で、なおかつ一体一体の力も強大だ。
 灼火の目的は、未来を見る能力を持っていた千秋を殺すことだった。今は失われているとはいえ、千秋の能力の特別さを考えると相応の事情があって冥獄鬼が動いたといえよう。
 しかし、この前現れた凪などは、何がしたかったのか分からない。
 可能性としては、千秋同様、特別な力を持つ羅刹が、理によって定められた寿命を迎えたといったところか。
 だとすると、その者だけを襲わない理由が不明だ。
「教える訳……ないでしょ……」
 冥獄鬼の女は、腹から槍を抜いて、刀を構える。
 かなり弱っているようだ。
「だったらもう用はねえな」
 一気にカタをつけようと、涼太が突進する。
「せめて相打ちに――」
 迎撃しようとする冥獄鬼だが、涼太の方が速かった。
 敵の心臓に刃を突き立てる涼太。
「秘奥血閃『戦騎紅龍破せんきこうりゅうは』!!」
 冥獄鬼の体内に流れる血がすべて涼太の武器となり、赤き龍の姿で空へと昇っていく。
 言うまでもなく、敵の身体は粉砕された。
 秘奥血閃――莫大な量の血液を必要とする術で、朱姫は自らの心臓を貫いて発動した。
 敵の心臓を使うというのも涼太の機転だ。
「…………」
 倒しはしたが、情報は得られなかった。
(今の奴の目的は、元々おれを殺すことって訳じゃなかった。優月を殺すことでもなさそうだった。羅刹を根絶やしにして断劾を消そうなんて野望は持ってなかっただろうな。となると――)
 目的を隠すことが目的だとしたら。
(どこか一か所が本命ってことか……?)
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