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第一章
第一節 始まりはどん底から②
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人の気配は辺りに数人。そして『終わった』人間の気配は二桁ではすまなかった。
「な……あ……!?」
隣でビキニが震えていた。明らかに動揺し、平静を失っている。
もはや、先程の冗談も言える雰囲気ではないと、一狼は臨戦態勢を崩さない。
「虐殺か……」
辺りを観察する。人以外の気配はない。先の話で出た『魔獣』の可能性はまずないだろう。
ではやはり、眼前に散見する騎士装束の男達が原因と見て間違いないだろう。その装備や武器に一切の血痕が見当たらないのが奇妙ではあるが、その有り余る数多の混在した『気配』は匂いたつほどに嗅覚にくる。間違いない、こいつらが全員殺した。
「どう…いうこと……だ?」
わなわなと震えながら、ビキニは一歩を踏み出した。その一歩は出会った時からは考えられない程に隙だらけであり、そして不用意であった。
「ほう、現れたか。第三王剣の巫女よ……」
騎士がこちらに気づいた。こちらを知覚しただけの視線に一狼は底知れぬ怖気を感じた。
決して悟られてはいけないと、ただこちらも一瞥を送る。現状が絶望的に危険であることに脳内が警鐘をこれ以上ないほど鳴らしている。これはただならない事態だと、自身の経験が危険の階級をトップクラスまで引き上げている。
即ち、詰みかけている……と。
「エインス……ライゼル……フローリアまで……」
横でビキニはぶつぶつと仲間の名前を唱えている。全員各所で討たれている者達のようである。
「アレシア!クラレンスは……!?」
現状を理解出来ぬままに彼女は叫ぶ。一縷の望みを抱き、しかしそれはただの願望であると理解した上で。
チッ、と内心で舌打ちをする。この場において自分がどうしようもなく冷静であることにつくづく嫌気がさして仕方がない。
「せめて、ひとしきりチュートリアルくらいは済ませてから起こってほしかったぜこの手のイベントはよ……」
愚痴に冷や汗が呼応する。口にでも出さないとこっちがまいってしまいそうだった。
(考えろ…考えるんだ一狼……)
騎士の一人が踵を返しこちらへ歩み寄る。その距離、およそ30メートル。敵意など見せるそぶりもなく優雅にこちらへ歩を進める男は、その実獲物を狩る眼差しでこちらを見つめる。
「これはこれはビキニ様、ご機嫌麗しゅうございます!」
大袈裟なそぶりに大仰な芝居。笑顔は能面のようにただただ不気味さを際立たせるーー周囲の仲間は都合七人ーー
「貴様ノーブルシュタイン隊の……!」
「左様にございます!私ヘルグニカ王国王国騎士団ノーブルシュタイン小隊が副長、アスピス・ランザスカイにございます!」
アスピスと名乗る騎士は揚々と近づく。対しビキニは怒りの表情を隠そうともせず未だ相手を睨み続けている。今にも飛びかかりそうな剣幕に空気は一層凍てついていくーー周囲の地形は山間部の丘陵地。なだらかな丘の上に作られた村と、四方を囲む森と山々。逃げ隠れるには利点が多いが、しかしーー
「探しましたよビキニ様ぁ。まさか禁呪を使ってまで逃げ延びるのかとヒヤヒヤいたしましたが……ふふ」
気色の悪い笑みがビキニを挑発させる。
「よもや、いやはやよもやよもや!助っ人を呼ぶためだったとは!実に健気!非常に感動的な場面でありますぞ!このアスピス、不覚にもあふれる涙を堪えるのに苦心いたすところにございます!」
20メートルを切った。相手は急ぐようすもない。時間を稼ぐためでも、距離を詰めるための小細工ではないようだと、そのあまりに尊大な態度に表れているーー武装は携帯する剣のみ。重厚な装備も材質は決して安物には見えない。しかし、違和感はあるーー
「白々しいぞアスピス!貴様、なぜここがわかった!いや、貴様……ここで何をしたぁッッッ!」
「見ての通りですが何か?敗残国の残党を狩っていただけですよ。別段変なことなどしておりません」
そういうとふと道化の顔が解かれる。
「嬲りもいたぶりもしておりません。我らヘルグニカの誉れ高き王剣騎士団ですから……」
そういうと剣にてをかける。荘厳な意匠の施された鞘から抜き取られた剣は冴えた空気を更に明瞭に分かつ、鈍い白銀の刃を湛えていた。
一目でわかる。これはビキニが持っていた剣と同じ種別の……更に高位に位置する剣だ。
「さっきから五月蝿いですね?」
冷ややかな声、煩わしさを隠すことない表情、そして虫を潰すような手軽な仕草で一振り。
縦一文字に。一狼の正中線上を視界に入るすべての範囲で切り裂いた。
「な……あ……!?」
隣でビキニが震えていた。明らかに動揺し、平静を失っている。
もはや、先程の冗談も言える雰囲気ではないと、一狼は臨戦態勢を崩さない。
「虐殺か……」
辺りを観察する。人以外の気配はない。先の話で出た『魔獣』の可能性はまずないだろう。
ではやはり、眼前に散見する騎士装束の男達が原因と見て間違いないだろう。その装備や武器に一切の血痕が見当たらないのが奇妙ではあるが、その有り余る数多の混在した『気配』は匂いたつほどに嗅覚にくる。間違いない、こいつらが全員殺した。
「どう…いうこと……だ?」
わなわなと震えながら、ビキニは一歩を踏み出した。その一歩は出会った時からは考えられない程に隙だらけであり、そして不用意であった。
「ほう、現れたか。第三王剣の巫女よ……」
騎士がこちらに気づいた。こちらを知覚しただけの視線に一狼は底知れぬ怖気を感じた。
決して悟られてはいけないと、ただこちらも一瞥を送る。現状が絶望的に危険であることに脳内が警鐘をこれ以上ないほど鳴らしている。これはただならない事態だと、自身の経験が危険の階級をトップクラスまで引き上げている。
即ち、詰みかけている……と。
「エインス……ライゼル……フローリアまで……」
横でビキニはぶつぶつと仲間の名前を唱えている。全員各所で討たれている者達のようである。
「アレシア!クラレンスは……!?」
現状を理解出来ぬままに彼女は叫ぶ。一縷の望みを抱き、しかしそれはただの願望であると理解した上で。
チッ、と内心で舌打ちをする。この場において自分がどうしようもなく冷静であることにつくづく嫌気がさして仕方がない。
「せめて、ひとしきりチュートリアルくらいは済ませてから起こってほしかったぜこの手のイベントはよ……」
愚痴に冷や汗が呼応する。口にでも出さないとこっちがまいってしまいそうだった。
(考えろ…考えるんだ一狼……)
騎士の一人が踵を返しこちらへ歩み寄る。その距離、およそ30メートル。敵意など見せるそぶりもなく優雅にこちらへ歩を進める男は、その実獲物を狩る眼差しでこちらを見つめる。
「これはこれはビキニ様、ご機嫌麗しゅうございます!」
大袈裟なそぶりに大仰な芝居。笑顔は能面のようにただただ不気味さを際立たせるーー周囲の仲間は都合七人ーー
「貴様ノーブルシュタイン隊の……!」
「左様にございます!私ヘルグニカ王国王国騎士団ノーブルシュタイン小隊が副長、アスピス・ランザスカイにございます!」
アスピスと名乗る騎士は揚々と近づく。対しビキニは怒りの表情を隠そうともせず未だ相手を睨み続けている。今にも飛びかかりそうな剣幕に空気は一層凍てついていくーー周囲の地形は山間部の丘陵地。なだらかな丘の上に作られた村と、四方を囲む森と山々。逃げ隠れるには利点が多いが、しかしーー
「探しましたよビキニ様ぁ。まさか禁呪を使ってまで逃げ延びるのかとヒヤヒヤいたしましたが……ふふ」
気色の悪い笑みがビキニを挑発させる。
「よもや、いやはやよもやよもや!助っ人を呼ぶためだったとは!実に健気!非常に感動的な場面でありますぞ!このアスピス、不覚にもあふれる涙を堪えるのに苦心いたすところにございます!」
20メートルを切った。相手は急ぐようすもない。時間を稼ぐためでも、距離を詰めるための小細工ではないようだと、そのあまりに尊大な態度に表れているーー武装は携帯する剣のみ。重厚な装備も材質は決して安物には見えない。しかし、違和感はあるーー
「白々しいぞアスピス!貴様、なぜここがわかった!いや、貴様……ここで何をしたぁッッッ!」
「見ての通りですが何か?敗残国の残党を狩っていただけですよ。別段変なことなどしておりません」
そういうとふと道化の顔が解かれる。
「嬲りもいたぶりもしておりません。我らヘルグニカの誉れ高き王剣騎士団ですから……」
そういうと剣にてをかける。荘厳な意匠の施された鞘から抜き取られた剣は冴えた空気を更に明瞭に分かつ、鈍い白銀の刃を湛えていた。
一目でわかる。これはビキニが持っていた剣と同じ種別の……更に高位に位置する剣だ。
「さっきから五月蝿いですね?」
冷ややかな声、煩わしさを隠すことない表情、そして虫を潰すような手軽な仕草で一振り。
縦一文字に。一狼の正中線上を視界に入るすべての範囲で切り裂いた。
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