余命僅かの悪役令息に転生したけど、攻略対象者達が何やら離してくれない

上総啓

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学園編

13.ウォード家の常識人

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学園へ来て三日目。
しっかりと早起きした僕は、人の気配のしない寮内を速足で進んで手紙をポストに入れた。

他の皆宛ての手紙は、今日の学校終わりに書こう。
皆には何を書こうかなと悩みながら部屋に戻ろうとして、僕はふと思い立ってその足を別の方向へ向けた。


「せっかくだし、お散歩してから戻ろう」


幸い早起きしたから、登校まで時間はまだたっぷりある。
趣味である散歩をするにはちょうどいい時間だ。そう考えて、ハンス先生たちに案内されたきり行っていない中庭へ向かった。

寮の外は登校時間にならないと出てはいけない決まりだけれど、中庭は消灯時間以降でなければいつでも出入りが可能なのだ。


「きれいなお花、咲いてるかも」


暖かい季節だし、植物はきっと元気なはず。
あくまで中庭だから珍しい花はないだろうけれど、ああいう場所には素敵な野花が咲いているのが定石だ。

ワクワクしながら足を運んだ僕は、中庭に出たところでふと立ち止まった。


「あ……」


これは予想外。どうやら中庭には既に先客がいたらしい。


「すごく、早起き……」


なんだか締まらない感想が零れてしまってハッとする。
とりあえずお口チャックして、先客の邪魔にならないように静かにその場を後にしようとした……その時だった。



「……フェリアル様?」



聞き慣れた呼び方だったものだから、反射的に立ち止まってしまった。

恐る恐る振り返ると、そこにはやっぱり例の先客さんがいた。
それなりに距離があったはずなのに、いつの間に近付いてきたのだろう。首を傾げながらも、彼の姿をジッと見つめる。

ほんの少しだけ緑がかった黒髪に、不思議な印象を受ける紫の瞳。
肌は僅かに褐色寄りだろうか。ほんのりと異国風な雰囲気も感じ取れる彼は、なんだか誰かに似ているような気がした。


「えぇっと、どうも。どちらさま、です……?」


突然のことだったので、思わずおかしな聞き方をしてしまった。

何やら僕を知っているような口ぶりだったけれど、僕はまったく彼に見覚えがない。
どこかで会っていたらどうしよう、それなら僕すごく失礼だ……とビクビクしていると、彼は人形のような無表情で頭を下げた。


「突然お声掛けして申し訳ございません。お姿が見えたものですから、思わず口が勝手に」

「そ、そうですか、そういうことなら、大丈夫です」


何が大丈夫なのか自分でもよく分からないけれど。
こくりと頷きつつ、改めて彼の姿をジッと眺める。

……うーん、やっぱり誰かに似ている気がする。
特に、感情が欠落したようなこの無表情。何を考えているのか読めない紫の瞳。
そう、そうだ。目元がよく似ている。彼の鼻から下を布で隠した顔を想像すると、さっきまでのモヤモヤが嘘みたいにあっさりと面影が明確になった。


「不躾にお声掛けした無礼をお許し下さい。二年、ブレイド・ウォードと申します」

「ウォード……ウォード?」


名前を聞いた瞬間、脳内に浮かんだのは黒いフェイスベールの屈強な騎士だった。


「ギデオンの、弟さん?」


ちょっぴり失礼なくらい、あんぐりと目も口もかっぴらいてしまった。
いや、だって、嘘だろう。こんなにまともそうな……いや、まだ分からないけれど、とにかくこんなまともそうな人が、あのギデオンの弟だって?

いや待て、まだ勘違いの可能性が残っている。たまたま姓が同じってだけかも。
あまりの動揺でカタカタ震える僕の前に、ギデオンの弟疑惑が発生しているブレイドさんが恭しく膝をついた。


「不肖の兄が日頃より迷惑をお掛けしております」


お世話になっておりますじゃないのか……。

って、いやいや、反応すべきはそこじゃないだろう。
慌てて頭を振り、なんとか混乱を振り払う。いけない、またびっくりしすぎて現実逃避しそうになってしまった。

というか、本当にあのギデオンの弟さんだなんて。
ま、まぁ、別におかしくはないよね。僕だって、自分はこんなちんちくりんだけれど、スラッとしたイケメンの兄様が二人もいるわけだし。


「そ、そっか。いや、あの、そうですか。えっと、ちなみにですけれども、ブレイドさんはなにか、特殊なせーへきなどはおもちで……?」


って、なにを聞いとるんだ僕は。

さっき混乱を振り払ったと思ったけれど、それは間違いだったらしい。
もしこの人がギデオンと同じような類の人なら、きっとここぞとばかりに僕を弄り倒してくるはずだ。

とほほ……と肩を落とすけれど、予想に反してブレイドさんは至って真面目な反応を返してくれた。


「いえ、常人に忌避されない平凡な嗜好であると自負を持っております。少なくとも、ウォード家では“つまらない人間”に分類される側でしたので」

「なるほど。それはよかった。ほんとうに」


おっと、大変。思わず大真面目にしっかりと頷いてしまった。

でも本当によかった。もしも二人目のギデオンが現れたとかだったら、恥もへったくれもなくシモンに泣きつきにいくところだった。
もう既に色々といっぱいいっぱいなこの学園生活で、流石にギデオンのような人と器用に関わることはできないと思うから。


「……その反応ですと、あの愚か者は既に多くの無礼を貴方様へ働いたようですね」

「へ、あ、いや、べつに……だいじょぶ、です」


僕ってば嘘がへたっぴなので、全然大丈夫じゃなさそうな表情を浮かべてしまった。
目もすっごく泳いでいるし、嘘だってことがバレバレだ。

ものすごく気まずい感じの反応をする僕に、ブレイドさんはサッと頭を下げた。
気のせいでなければ、微動だにしない無表情がちょっぴり申し訳なさそうな色を湛えているようにも見える。


「大変申し訳ございません。例の無礼者がまた何か仕出かしましたら、どうぞ私にお伝えください。アレも一応兄、血縁の好で真っ先に首を刎ねに向かいます」

「あぇ……そ、そこまでしなくても……でも、ありがとう?」


う、うーん、確かにギデオンの弟にしては驚くほどまともだけれど。
この分だと、どうやら死生観やら倫理観やらはしっかりウォード家の血を引いていそうだ。

突然現れたギデオンの弟さんのことを、ひとまずなんとなくでも知れたからだろうか。
強張っていた身体からはいつの間にやら力が抜けていて、僕はとりあえずブレイドさんを立ち上がらせて軽く世間話を振ってみた。


「あの、ブレイドさんは、中庭でなにを?お花、みてたんですか」

「どうぞブレイドと。えぇ、この中庭は朝露の野花が美しいので穴場なのです」


そう言って歩き出すブレイドさん、改めブレイドに続く。
苔生した石畳を数秒ほど歩くと、野草と小さな花々が転々と咲き乱れる場所に出た。


「わっ、きれい……!」


思わず瞳をキラキラと輝かせる。
花壇や温室に咲くようなものではないけれど、小振りな野花が朝露に濡れて咲き乱れるそこは、確かにブレイドの言う通りとても綺麗だった。


「ブレイドは、お花が好きなの?」


しゃがみこんで花を眺めながら、隣に立つブレイドにふと尋ねる。
ブレイドは無表情のままこくりと頷くと、足元の野花を見下ろして柔く目を細めた。


「はい。花は良いです。愛らしくて、癒されます」

「……!うん、うん。わかる。お花かわいいよね。みてると、ほっこりする」


ぱぁっと表情を綻ばせる。
ブレイドは僕に続くようにしてしゃがみこむと、壊れ物を扱うような優しい手つきで花を撫でた。

大柄な身体を丸めて花を愛でる姿は、なんだかちょっぴり可愛らしい。


「……あの、ぼくも、中庭にお花みにきてもいい?あっ、朝はひとりでみたいよって言うなら、ぜんぜん……」

「もちろん、いつでもいらしてください」


あたふたと喋る僕を落ち着かせるようにブレイドが頷く。
気を遣っているような素振りも特にない。その反応を見てほっと息を吐いた。


「そもそもここはあまり手入れがされておらず、あまり人も来ませんので。フェリアル様がいらっしゃれば、野花もきっと喜ぶことでしょう」


花を撫でながらブレイドが語る。
柔らかい無表情を湛えたその横顔は、兄であるギデオンに瓜二つで……それが僕はなんだか、とっても不思議に感じた。
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