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学園編
23.友達になる方法
「こらシモン、先生。お口チャックする約束まもってください」
「いやいやいや!!本気ですか!?逃げましょうよ!今すぐ!」
僕を担ぎ上げて退散しようとするシモンをメッと叱る。
ブレイドにナイフを向けた時に僕が怒ったから、次はシンプルに逃亡の選択を取ったらしい。
いや、わかる。シモンの気持ちは痛いほど分かるけれど、僕はきちんとブレイドの話を聞くと決めたのだ。だから、最後まで聞かないと。
それに、ブレイドの表情が気になる。
つい数秒前に恐ろしい発言をした人と同一人物とは思えないくらい、しょんぼりと落ち込んだあの様子。
その二面性が少し怖くて、けれど知らなきゃいけないと決めたから。
「ブレイド、お話の途中でごめんね。先生のことは気にしないで、続けてくれる?」
「フェリきゅん!?」
「シモン、ちょっとお口チャックして」
「はい承知しましたフェリアル様!」
シモンに指示してソファに戻る。
それでも、せめてもの抵抗なのかシモンは僕を膝上にのせて後ろからぎゅっと固定した。
ここまでされると僕ももう諦めて、まぁいっかと大人しくシモンの腕の中に収まる。
ブレイドは改めてこくりと頷くと、僕達の姿勢を特に気にした様子もなく話を再開した。
「驚かせてしまい申し訳ございません。ただ、説明した通り先程の話はあくまで本能であり、私の本意ではありません」
「それじゃ、別にブレイドは僕の血を抜きとって、ぺらぺらの皮にはしたくないってこと?」
「はい。いえ、まぁ、はい。本能的にはそういう欲望はあるのですが、私の本意ではございませんので、そうとも言えますし、むしろその逆とも言えます」
うーん、難しい……。
いや、ブレイドの言っていることは理解出来るけれども、納得するのが難しいのだ。
本能って、意思とは違うのかな。欲望は本意と同じ意味じゃないのかな。
例えば、チーズケーキを食べたいという意思があったとしても、チーズケーキを食べたくないという本能がある、という状態なのかな。
もしもこの例えの通りだったとして、だとしたらブレイドの苦悩は相当のものだろうなと思った。
チーズケーキを食べたくても食べられない。そういうままならない制御不能な欲望を本能と呼ぶのなら、ブレイドが抱える辛さは酷く大きなものに違いない。
でも、それって本能なのだろうか?
自分の意思とはまったく真逆の、理性から独立したおかしな欲望。
それがウォード家での『本能』なら、僕が身近に感じる『本能』とはまるで違うもののように感じた。
「私は元来、争い事を好みません。特に血は苦手でして、幼少期は微量の血を前にするだけで嘔吐したことも少なくありませんでした」
「そ、そんなに……でも、今は逆だよね……?」
「はい。故に辛いのです。血が苦手ですのに、血を前にして昂りを感じる体質など……本当に、忌々しいとしか思えません」
あぁ、そうか。
だからブレイドはあの時、あんな切実な表情で、自分のことを『忌々しい血を継ぐ者』と言っていたのか。
確かにブレイドの立場からしたら、ウォード家の厄介な血なんてそれはもう忌々しいと感じてしまうだろう。
僕もチーズケーキが食べたいのに食べられなかったら……って、ブレイドの重苦しい辛さと比較するにはちょっぴり弱いかな……。
「とにかく、フェリアル様には今後ご不快な思いをさせてしまうかもしれません。ですからやはり、私のような狂人とは距離を置くべきかと」
ブレイドが俯きがちに語る。
出会った時は人形のようだと思っていた無表情には、悲しそうな色が滲んでいるように見えた。
話を聞いて改めて思った。
やっぱり、ブレイドは狂人なんかじゃない。常識人とも、言えないけれど……。
でも、ここでうんそうだねと言って距離を取っていい人じゃない。
それだけは強く思ったから、僕はすぐに首を横に振ろうとした。けれどその前に、背後からヒソヒソと内緒話みたいに声を掛けられる。
「本人もこう言っていることですし、距離置いちゃいましょうよ。このまま穏便に絶交ということで……──」
「シモン、お口ちゃっく」
「はいすみませんでした」
ブレイドを真っ直ぐに見据え、気を取り直してしっかりと首を横に振る。
包帯が巻かれている手でブレイドの手を握り締めると、ブレイドは怯えた様子で身体を強張らせた。
「フェリアル様、危険です……!」
「ううん。危なくないよ」
ブレイドが引っ込めようとした手を更に強く包み込む。
戸惑った様子のブレイドに、僕はふにゃりと笑みを向けた。
不思議と、話をする前までの不安や恐怖は既に消えている。
やっぱり話をするのは大事だ。特にブレイドみたいな分かりにくい人とは、きちんと話をした上でないと分かり合えない。
「ブレイドのこと、知れたから。だから、危なくないし、怖くもないよ。僕、ブレイドの前ではケガとかしないようにする。血も、見せないようにがんばる」
「っ……」
「だから、おねがい。僕やっぱり、ブレイドとお友だちでいたいの。僕、ブレイドのお友だちでいられるようにがんばるから、だからおねがい」
前のめりにお願いする。熱心に語り掛けると、ブレイドは紫の瞳を大きく揺らして、やがて観念したように脱力した。
「……本当に、私と友人になってくださるのですか」
「もちろん!また一緒に、お花みよう」
「性懲りもなく怯えさせてしまうかもしれません。血を前にして、万が一暴走してしまえば」
「そのときは、僕がブレイドとめる!だから、大丈夫だよ」
「……私を、止める?フェリアル様の愛らしい細腕で?」
「ぐ……た、たしかに僕はひょろひょろだけど、うーん……あっ!シモン、シモン先生も、手伝ってくれるからだいじょぶ!」
背後から「えっ」と声が聞こえて振り返る。
何やらものすっごく嫌そうな顔をしているシモンに「もちろん手伝うよね?」と首を傾げると、嫌そうな顔はすぐに満面の笑顔に変わった。
「青臭いガキの暴走なんて指一本で制圧してやりますよ!」
「シモン、お口ちゃっく」
ちょっぴり言い方がアレだけれど、ひとまず万が一の時はシモンも協力してブレイドの暴走を止めてくれるらしい。
うむうむと頷き、これならどうだとドヤ顔でブレイドを見上げる。
ブレイドは呆然と目を見開いたかと思うと、やがて小さく頭を下げた。
「……ありがとうございます、フェリアル様」
ふと窓の外の光景に気付く。あれだけの土砂降りが嘘のように、空は晴れ渡っていた。
どうやらさっきの土砂降りは、やっぱり長めの通り雨だったみたいだ。
「僕のほうこそ、お友だちになってくれてありがとう」
僕がそう言うと、ブレイドは嬉しそうに微笑んだ。
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