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学園編
31.黒い箱
見回りは拍子抜けするほどあっさり終わった。
落ち着いた三年生のクラスだった上に、生徒会の活動に慣れているグリーン先輩が一緒だったからだろうか。
とはいえ、まさか一日で三学年の見回りが全て終わるとは思わなかった。
「グリーン先輩。一緒に見回りしてくれて、ありがとうございました!」
「いえいえ、とんでもないです。こちらこそお役に立ててよかった」
ニコッと軽快に笑うグリーン先輩を見上げて、思わずキラキラと瞳を輝かせた。
グリーン先輩、すごい。なんだかすごく、できる先輩って感じだ。まるでシモンみたいだ。
彼が生徒会の一員に選ばれた理由が、改めてよく分かった気がする。
一緒に見回りをしたからか、グリーン先輩に対する年上への緊張感みたいなものはかなり薄れた。
今なら、僕から会話を持ちかけてみることも出来るかも。受け身の会話でも、生徒会に関する話でもない。そう、普通の世間話を。
廊下を並んで歩きながら、僕は思い切ってグリーン先輩に話しかけた。
「えっと、あの、グリーン先輩は、ご出身はどちらでしたでしょうか」
切り出してすぐにガクッと肩を落とす。
またもや緊張しておかしな語尾になってしまった……。それに、なんだか問い掛けの内容がお見合いとか尋問みたいだ。
僕に引いてないかな……と不安になりながら視線を上げるけれど、グリーン先輩は至って普通の様子だったのでほっとした。
「出身ですか?隣国のリーベルタースですよ」
「……リーベルタース?」
聞き覚えのある単語に目を見開く。
獣人の国とも呼ばれる隣国、リーベルタース。
国の規模は小さいけれど、技術力は帝国にも並ぶほど。
闇属性の優れた能力を支援して優遇するような、属性差別のない多様性が魅力の国だ。
グリーン先輩がリーベルタースの出身だったなんて。
あ、でも、そういえばグリーン先輩には留学生のお知り合いが多かったような。彼も帝国の外から来た人間だからだったのか。
「あの、それじゃあ、グリーン先輩は獣人、なんですか?……あっ!これ、聞いちゃだめなやつ……?」
何気なく聞いてからハッとした。
獣人は身体的特徴だし、もしかすると繊細な話題だったかもしれない。
あわあわと冷や汗を掻く僕を、グリーン先輩はきょとんと見下ろしてからおかしそうにクスクス笑った。
「ふはっ!大丈夫ですよ、全然そういう感じのアレじゃないんで」
「むっ、そうですか、よかった」
ほっと息を吐く。
よかった、無意識にしてしまう失礼が一番失礼だものね。
それで、やっぱりグリーン先輩も獣人さんなのだろうか?
僕がぱちくりと瞬くと、グリーン先輩は一度ピタリと固まって、そして気まずそうに顔を逸らした。どうしたのだろう。
「そんで、えっと、俺が獣人なのか、って話ですよね」
「……?」
「それはその、実は俺……──」
瞳を揺らしたグリーン先輩は、やがて覚悟を決めたみたいにグッと頷く。
急に空気が変わったけれど、本当にどうしたのかな。大丈夫かな……と眉尻を下げた時、ふと背後から騒がしい声が聞こえてきた。
「うん?……あれ、なんでしょう」
「えっ。あぁ、二年の出し物みたいですね」
振り返った先には、いかにもという感じの工作品を持った生徒達が、興奮した様子でざわざわと語り合っていた。
見る限り、展示物の出し物のようだけれど。
「あそこは確か、魔術発明品の展示をするクラスですよ。あの手のクラスは毎年何かしら事故を起こすんですよねー」
事故を起こす……!?
サラッと語られた内容に青褪める。そ、そんな軽い感じでいいのかな。
でも確かに、魔術発明品という名前からしてもう慌ただしい。
あれかな、博士が発明品を作ってボンッと爆発させるやつ。ああいう感じなのかな。
よく分からないけれど、聞いたところ怪しいクラスのようなので、とにかく見回りをした方がいいかもしれない。
そう思い慌てて駆けだそうとした時、ふいに騒ぎの声がドッと大きくなった。
なにごと?と視線を向けてぎょっとする。何やら集団の一人が抱えていた魔術発明品が、突然ガタガタと暴走を始めたのだ。
「うわっ!やばいどうしよう!?」
「お、おい!早く緊急装置を起動しろ!」
「え、緊急装置なんて付けてないけど」
「はぁ!?お前は馬鹿か!?」
な、なんだなんだ。よく分からないけれど、どうやらマズい事態らしいのは理解した。
でもただ突っ立って見ているわけにもいかない。
僕はこれでも一応は生徒会なわけだし、こういう場を収める立場にあるんじゃないか?
そう思い引っ込めていた足をもう一度踏み出した直後、ふと一際大きな声が響いた。
「うおっ!?やべぇ止まらな──って、危ない!!」
「へ……?」
あれ、気のせいだろうか。
暴走した例の道具が、火花を散らしながら真っすぐこちらに飛んできているような……。
「えぇっ!?」
ようやく事態を理解した時にはもう遅かった。
とてつもない速度で向かってくる道具を避ける反射神経なんて僕にはなくて、両手で頭を抱えるというなんの気休めにもならなさそうな受け身しかとれない。
激痛を覚悟して体を強張らせた直後。
酷い焦燥感を滲ませたその声が響き渡った。
「────姫ッ!!」
ひめ、ひめ……姫??
何やらありえない、けれど聞き慣れた呼び方を耳にして息を呑む。
こちらに向かってきていた道具の騒音が、一瞬にしてシーンと止んだ。
恐る恐る目を開き、頭を抱えていた両手を下ろす。
ゆっくりと顔を上げると、そこには……異様な黒い箱が浮かんでいた。
「姫!ご無事ですか!?」
「……へ?」
黒い箱の内側には、さっきまで大暴走していた例の魔術発明品が収納されている。
状況が理解出来ないまま声の主へ視線を向けた。
「グリーン、先輩」
間違いない。彼はグリーン先輩だ。翳した手の先に黒い箱を浮かばせている彼は、確かにこの学園で初めて出会ったグリーン先輩……だけれど。
この黒い箱。リーベルタースの出身であるという話。
思わず撫でたくなる無造作な茶髪と、黒曜みたいな瞳。そして何より、姫という呼び方。
全てが、僕の意識をまったく別の結論へと導いた。
「……グリード?」
これでもかと目を見開いてその名を零すと、グリーン先輩……いや、犬獣人である侍従のグリードは『あちゃー』とでも言いたげに視線を逸らした。
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