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学園編
37.伝説の双子様
しおりを挟む「……なんだ、この『あまふわパンケーキ(隠し味:天使の涙)』とやらは」
「名前の通りパンケーキなんじゃねぇか。なんかよく分かんねぇネーミングセンスだが」
「ブラックコーヒーは『黒き荘厳』とやらしかないのか。普通のコーヒーが飲みたいのだが」
「それたぶん普通のコーヒーだぜ。名前がアレなだけで」
メニューを見てブツブツと語り合う兄様達をジッと待つ。
それにしても……クラスの出し物は普通のカフェだったはずだけれど、どうやらひっそり遊び心を隠していたらしい。
使用する食材の確認はしていたけれど、さすがに名前の確認はしていなかったから僕もついさっき知った。
ディラン兄様の困惑通り、本当になんなんだろう。この斜め上に尖ったネーミングは……。
「決めた。では『黒き荘厳』を一つ」
「別に馬鹿正直にその名前で注文しなくてもいいんじゃねぇか、ディラン……」
ディラン兄様がキリッと注文してくれたので、ふむふむと内容をメモする。
『黒き荘厳(ブラックコーヒー)』を一つ、と……。おーけー、ばっちり順調である。
「ガイゼル兄様はどちらにしますか」
「あ、あー……そうだな。じゃあ俺もブラックコーヒー」
「ふむ。黒き荘厳でよろしいですか」
「……おう。その、黒きなんちゃらで頼む」
よしよし、『黒き荘厳(ブラックコーヒー)』を二つ、と……。
しっかりばっちり書き記して「以上でよろしいですか」と尋ねると、兄様達はこくりと頷いた。飲み物だけでいいのか、ちょっぴり寂しいけれど。
「では、少々お待ちくださいませ」
ぺこりと頭を下げてその場を後にする。
厨房として貸し切っている隣の空き教室へ入った途端、なぜかすぐにクラスメイト達に囲まれた。
「フェリアル様!!先程のお二人はあの伝説の双子様では!?」
「あぇ……は、はい……伝説?は、わからないけど、双子です」
なんのこっちゃ、と困惑しながらも頷くと、彼らは興奮したように騒ぎ始めた。
な、なんだなんだ。兄様達はもしかして有名人なのか?いや、公爵家の次期当主と騎士団長候補だし、そりゃあ有名ではあるだろうけれど……。
「魔術試験で学園の歴代最高点を叩き出し、常に魔法学でトップに立ち続けた孤高の天才ディラン様ですよね!?」
「そしてご一緒のお方は剣術大会で指導教師をも打ち負かし、優勝の座を三年間なんなく保持し続けた騎士団の若きエース、ガイゼル様ですよね!!」
え、そ、そうなの。兄様達、そんなにすごい生徒だったの。
学園で伝説と語り継がれるくらい有名な卒業生だったなんて。
僕、仮にも兄様達の弟なのに、そんなこと全然知らなかった……。というか、なんでそんなすごい話を兄様達は聞かせてくれなかったんだ。
ちょっぴり不貞腐れそうになりながらも、僕はなんとかクラスメイト達を躱してブラックコーヒー……こほん、『黒き荘厳』を取りに向かった。
「ふぅ……」
「ようフェリアル。もう疲れ切ってんな」
「はっ!ア、アディくん!」
奥へ行くと、そこには裏方の担当であるアディくんがいた。
慣れた手つきで飲み物を淹れているアディくんに駆け寄り、へなへなと情けなく縋り付く。
「おつかれさま、アディくん……」
「お前の方がお疲れ様だよ。まだ始まったばっかなんだから気張っていけ」
スパルタなアディくんにとほほ……と肩を落としながら頷く。
注文内容を伝えると、アディくんはすぐにコーヒーを淹れて渡してくれた。
「兄貴たちが来てるんだって?それじゃ、いいとこ見せねぇとな」
そう言ってニッと笑うアディくんに頬が緩む。
アディくんと話したらすっかり疲労も回復して、僕はその言葉に強く頷き、さっきよりもずっと軽い足取りで教室に戻った。
***
「──お待たせしました!」
兄様達は、いつの間に集まってきたのか、遠巻きに黄色い悲鳴を上げる生徒達に囲まれながら待っていた。
僕が戻ってくると二人の無表情は嬉しそうな顔に変わる。飲み物を渡してそそくさと下がろうとするけれど、兄様達はそれを引き留めるように話しかけてきた。
「なぁチビ、お前空いてる時間あるか?」
「校内を回る時はぜひ兄様達を誘ってほしい」
もちろん断らないよな?と言いたげに自信満々な笑みで尋ねてきた兄様達に、僕は思わず「あ……」と煮え切らない返事を零してしまった。
僕の動揺はすぐに悟られ、二人の表情はたちまち鋭いものに変わる。
「……先客でもいるのか、フェリ」
「さすがに俺らと過ごす時間くらいはあるよな?チビ」
指先をつんつんと合わせながら、眉尻を下げて俯く。
確かに二日目と三日目は全て自由時間だし、それを言うなら兄様達と過ごす時間はたっぷりある。
でも、だめなのだ。なぜなら僕には、一番重要な大仕事があるから。
そう……未だに良い進展のない、ローズの件である。
「ご、ごめんなさいディラン兄様、ガイゼル兄様。その……僕ちょっぴり、いやすごく、かなり、とっても、忙しくて……」
ぐらぐらと分かりやすすぎるくらいに瞳を揺らすと、兄様達は訝し気な表情で互いに顔を見合わせた。
ローズのことは兄様達には話していないから、あまり下手なことは言えない。
きっと兄様達のことだから、僕がローズの腕を治そうとしていることを知ったら、色々と過保護な勘違いをしてしまいそうだし……。
神殿の件以来、絶対に使わないように言われている例の力。
魂を消耗するあの力を使うことは禁じられているから、そもそも今の僕に力を使えるかどうかを確認したことすらない。
けれど兄様達はきっと、ローズの件を知れば不安に思って誤解してしまうだろう。僕が力を使うつもりだと。
だから、絶対にバレるわけにはいかない。
「あっ、と、えっと……あ!そう、僕、生徒会に入ったんです!お手紙でも、教えましたよね?これが、もうすごく、すっごく忙しくて」
「何?愛らしいフェリをこき使うなど、今代の生徒会はよほど肝が据わっているらしい」
「あえぇ……」
ど、どうしよう。誤魔化そうとしただけなのに、なんだか余計に悪い方へ向かってしまったような……。
「生徒会長は確かシュタインの後継者だろ?護衛のくせに何やってんだ。チビがわざわざ生徒会に入ってやったんだぜ?泣いて喜んで敬意を示せっての」
ディラン様だけでは留まらず、ガイゼル兄様までブツブツと嫌味を言い始めてしまった。
どうしたものか……と頭を抱えた時、ふと教室の入り口から声がかかった。
「フェリアル様!あなたのシモンがフェリアル様の素晴らしい勇姿を拝みに参りました!」
「姫ぇ!お仕事がんばってますかー!」
「頑張ってるに決まってるでしょう当然のことを聞くんじゃありませんよ」
「アッすんません」
きゃっきゃと楽しそうに騒ぎながら顔を覗かせたのは、シモンとグリードだった。
背後からガイゼル兄様の「うるせぇのが来やがったな」という呟きが聞こえて、僕は嬉しさと疲労が混じる複雑な気持ちを抱いてしまう。
「ごめんね……ローダ、ブレイド……」
今日はローズ探しに協力することは難しそうだ。
僕はガックシと肩を落として、新たなお客さんを案内するべくとぼとぼと入り口へ向かった。
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