余命僅かの悪役令息に転生したけど、攻略対象者達が何やら離してくれない

上総啓

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学園編

54.大公の胸中


もうすぐ後夜祭が始まるという時間になると、シモンは「では仕事があるので!」と言って立ち去った。

学園外から来たお客さん達は全員帰ったのに、よりにもよって大公が残っているのがバレたら大騒ぎになってしまう。
そう考えて、僕は生徒達がグラウンドへ集まる中、少し早いけれどライネスを連れて屋上に向かうことにした。


「ライネス、今日は楽しかった?」


生徒に鉢合わせないように特別棟の廊下を慎重に進む。
僕達以外誰もいない空間を歩いていると、音が消えたみたいな静寂が気になったのでふと当たり障りのない問いを投げかけてみた。

さっきまで夕焼けの赤色が窓から射し込んでいたけれど、今はどこもほんのり薄暗い。
どこか哀愁さえ漂っているように感じる廊下を歩く中、ライネスは僕の問いにふわりと微笑んだ。


「もちろん。だってフェリが居るんだよ。それだけで、もう楽しいに決まってる」


いつもながら、ライネスらしい真っすぐな答えだ。
それでもいつまで経っても慣れない僕は、途端にライネスと繋いでいた手に熱を込めてしまった。

全身を熱く火照らせたことはすぐにバレてしまっただろう。
惜しいことに夕日は沈みかけているので、染まった頬を誤魔化すことも出来ない。


「そ、そっか。うん、うん、僕も……たのしいよ。ライネスが、一緒だもの」


言葉を紡ぐにつれてぽつぽつと声が小さくなっていく。
顔を隠すために俯いてはみたけれど、考えてみれば真っ赤な耳は丸見えなので、僕が照れていることはバレバレだろう。

ライネスのクスクスとした笑い声で、火照りは更に増してしまった。


「からかっちゃ、だめだよ……」


真っ赤な顔のままむぅっと唇を尖らせる。
ライネスが「ごめんね、可愛くて」と答えるから、もっと不服な気持ちが膨れ上がる。


「かわいくないよ。僕、かっこいいの」

「おっと、そうだね。そうだった。フェリはかっこいいね」

「うん。僕、かっこいいの」


そう、僕は可愛くなんてない。かっこよくなきゃ。
うむうむと頷く僕を見てライネスはまた笑うけれど、ふいに何か思い直した様子でふと立ち止まった。


「……?ライネス、どうかした?」


突然動きを止めたライネスを不思議に思って、僕もその場で立ち止まって首を傾げる。
ライネスは柔らかい微笑みをそのままに、僕と繋いだ手にそっと力を込めた。


「……ううん。やっぱり、フェリは可愛いよ」

「んなっ!」


何かと思えば、僕をからかうなんて!

ライネスらしくない騙し討ちにぷくっと頬を膨らませる。
からかわないでと言ったのに、それを聞かないでからかうなんて酷い。
不満を表情に滲ませると、ライネスは困ったように笑って首を横に振った。


「違うよ、フェリ。からかっているわけじゃないんだ」

「む……それじゃ、かわいいだめだよ」

「うーん。それは聞けないかな。だってフェリは本当に可愛いから」


なんなんだ、と不服ゲージがどんどん上がっていく。
ライネスを相手に後ろ向きな気持ちはなるべく抱きたくないけれど、こうして意図的にからかわれるとなると別だ。

僕の気分が本格的に下がっていくのを感じたらしいライネスは、少しだけ焦った様子でセリフを続けた。


「本当に違うんだ。フェリはかっこいいよ。でも、可愛くもあるんだ」

「……僕、かっこいい?」

「うん。かっこよくて、可愛いよ」


かっこいい。ひとまずその言葉を聞けて機嫌が戻る。
でも、やっぱり可愛いは訂正してもらえないようで複雑だ。

ライネスは何とも言えない顔をする僕の前に、ふと貴公子みたいに膝をついた。


「わっ!ライネス、お膝よごれちゃうよ!」


慌てて立ち上がらせようとするけれど、ライネスがその動きをやんわりと拒む。
何か言いたげなその空気を察したから、僕は反射的にむぐっと口を噤んだ。


「フェリ、さっき少しだけ話してくれたよね。かっこよくなきゃいけないって」


さっき……それは、学園長室で吐露した気持ちのことだろう。
前世を引き摺ってしまっていることとは別に、周囲から向けられる期待へのプレッシャーについても、確かに少しだけ話した。

小さく頷くと、ライネスは優しい声で語った。


「ねぇフェリ。実はね、フェリはかっこいい姿も可愛い姿も、どちらも魅力的なんだよ」

「……え」


予想もしていなかった言葉に、思わず間の抜けた反応をしてしまった。
かっこいい姿以外が魅力的に映る。その言葉への理解に戸惑っていると、ライネスは全てを見透かしているような笑みを湛えて続けた。


「フェリは責任感の強い子だから、周囲の期待に応えなきゃって思うんだよね。そして実際に、期待通りの姿になるために努力してる」

「……っ」

「そんなフェリはとっくにかっこいいと思うけれど、きっとそういうことじゃないんだよね。フェリは……怖いんだね、期待をして損をしたと思われることが」


薄暗い廊下に、ライネスの底無しに優しい声音が静かに響く。
僕は俯いて、前髪に隠れた瞳を少しだけ潤ませた。ライネスはやっぱり、いつも通り察しが良い。僕の気持ちを残さず見透かしてくれる。

僕はこくこくっと何度も頷いて、ライネスにちょっぴり縋り付きながら答えた。


「っ、うん、うん……っ、ぼくはね、英雄だからね、かっこよくなきゃ……っ、みんな、きっと失望するの……っ」


情けなくしゃくりあげながら訴える。
今の姿は、僕が追い求める『かっこいい』から一番遠いものに違いない。

それでも、不思議と絶望はなかった。ただ、安心したのだ。
目の前にライネスがいて、そのライネスが僕の気持ちを理解してくれていること。何より、抱えていた無自覚なプレッシャーを躊躇せず吐き出せることに。


「うん。フェリは少し、ワガママになる練習をしようか」

「っ……へ?わが、まま?」


僕の泣き声混じりの吐露を黙って聞いてくれていたライネスは、ふと一度頷くと笑顔で立ち上がった。


「そう、ワガママ。他人なんて知ったこっちゃないってくらい、好きに生きるワガママ」

「そ、そんなの、だめだよ。わがまま、だめだよ」

「いいや、駄目じゃない。本当に悔しいけれど、今回の悩みは私だけ動いたところで解決出来るものじゃないから……こればかりは、フェリの視点に手を加えないとね」


僕の視点?わがまま?
急に無茶でよく分からないことを言い出して、ライネスったらどうしたのだろう。

あからさまに困り顔を浮かべてみせるけれど、今回のライネスはなぜかそれに流されてはくれなかった。


「周囲の期待に応えたくて、でもプレッシャーに苦しめられる……責任感の強いフェリらしいけれど、流石にこれはフェリの心に悪い結果しか与えない」


ライネスが僕に向けるものにしては強い言葉に、思わず身を強張らせる。
僕の緊張を悟ったのか、ライネスは微かに滲ませていた険しい色を掻き消して言う。


「こんなことを言ったら、フェリは怒るかもしれないけれど。私は基本的にフェリ以外の心情に興味がないんだ」

「……え」

「それが周囲の有象無象となるともっとね。フェリにプレッシャーなんてものを与える世間に、本当はうんざりしているよ」


怒りなんて湧かない。ただ、呆然が先に来た。
ポカンと目を見開くことしか出来ない。優しいライネスがこんなに強い言葉を使うなんて。


「……君を苦しめる民衆なんて、消してしまえばフェリの心に平穏が戻るなら簡単なのに、優しいフェリは全てを愛してしまうから」


ボソッと呟きを零したライネスは、すぐに笑顔を貼り付けて明るい声を発した。


「そろそろ後夜祭が始まるね。後の話は屋上へ行ってからにしようか」

「あ……う、うん……」


僕もライネスに何か言ってあげたかったけれど、有無を言わせない力で手を引かれたので、ひとまずはぐっと言葉を飲み込んだ。

夕日が沈めば後はあっという間で、すっかり暗さが目立ってきた空を見て歩き出す。

楽しみの花火が打ち上がるまでもう少し。
僕はライネスに伝えなきゃいけない話を脳内でまとめながら、屋上への歩みをそわそわと進めた。
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