余命僅かの悪役令息に転生したけど、攻略対象者達が何やら離してくれない

上総啓

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学園編

55.わがままな願い事

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誰もいない屋上についてどれほど経っただろうか。
ライネスと他愛もないお喋りをしていると、時間はあっという間に過ぎていった。

遠くから後夜祭の始まりを告げる放送が聞こえて、僕はハッとして柵の傍に近付いた。


「フェリ、気を付けて。落っこちないようにね」

「む、落っこちないよ」


心配そうに腰を抱いてくるライネスに眉尻を下げる。
なんだか、ライネスは稀に僕のことを幼児と勘違いする時がある気がする。

数年前の感覚がふとした拍子に蘇るのだろうか。
お出かけの時にかなりの確率で、馬車に乗る際に抱っこしようとしてくるのだけれど……あれは流石にそろそろやめてほしいところである。


「ライネス。あのね、僕はお兄さんだよ。子供じゃないの」

「うん?うん、そうだね?フェリはお兄さんだよ。しようと思えばすぐに結婚出来る、立派なお兄さんだね」

「むぐぅ」


サラッと不意打ちを受けたので、思わずおかしな声を発してしまった。
ライネスはたまにこうして無意識の攻撃を仕掛けてくるから恐ろしい。諦めてお口チャックして、これから始まるであろう花火に集中しようと前を向く。


「……ね、ライネス」

「なぁに?」


花火まだかな……とそわそわ考えつつも、どこか冷静な頭が催促してくる。
早くあの話を伝えてしまおう。遅くなればなるほど緊張が増してしまうから。


「あのね……僕、卒業したら、すぐにライネスと結婚するでしょ?」

「うん、そうだね。今から式が楽しみだよ」


僕が切り出すと、ライネスはすぐさま嬉しそうに笑った。
間を置かないその反応が、ライネスがどれだけ僕との結婚を心待ちにしてくれているかを思い知らせてくる。

それと同時に、少しだけ躊躇してしまった。
もしかすると、僕の夢はライネスにとって良くないものなのかもと思って。

学園を卒業したら、帝国を出て色々な国を回ってみたい。
そんなことを言ったら、ライネスはどんな反応をするだろうか。

普通に考えて、お嫁に入る側の貴族が帝国を出て各地を巡るなんて、よほどの理由がないとおかしなことだ。
ましてや大公家の妃となると、その立場は他よりもっと縛られたものになるはず。

帝国の外に想いを馳せる暇なんてそもそもないのでは?
考えれば考えるほど深みに嵌ってしまいそうになって、僕は慌てて頭をぶんぶんっと振って余計な不安を振り払った。


「その……結婚したら、僕の生活はどんなふうに変わるのかな……」


ぎこちなく尋ねる。ライネスは一瞬訝しそうな表情をしたけれど、すぐに僕の問いに答えてくれた。


「……あまり変わらないよ。というより、変わらないようにする。慣習として大公妃も領地経営に関わることになっているけれど、したくなければもちろんしなくてもいい」


なんだか、僕でも分かるくらい言葉を選んでくれているような気がする。
もしかして、察しの良いライネスは悟ってしまったのだろうか。僕が良くない相談をしようとしていることを。


「フェリに負担は掛けさせないと誓うよ。フェリはただ、したいことを自由にしてくれていいんだ」

「……したいこと、自由に」


柵を掴む手に力が籠る。
余計に不安が増してしまったのは、ライネスの言葉が少しだけ引っかかったからだ。

当然だけれど、彼の言う『したいことを自由に』というのは、あくまで大公家……ヴィアス領の中に限られたことなのだろう。
僕がまさか帝国の外を夢見ていることなんて、きっと考えもしないはず。

どう切り出したものか……。
ぐるぐると悩んで、僕はまた恐る恐る言葉を紡いだ。


「ううん。僕、全部がんばるよ。ライネスのお嫁さんとしてのお仕事、全部やる。領地経営、も……難しそうだけど、いっぱいがんばる」

「フェリ……」


ライネスが心配そうに眉尻を下げる。
これに関しては、きちんと本音だ。もちろん仕事を疎かにするつもりはない。

したいことだけするなんて、そんなことは望んでいない。
僕は僕としての責務を果たして、その上で夢も叶えたい。なんて、言葉にしてみれば僕ってものすごく強欲だ。

ライネスはもっとわがままになれって言ったけど、僕はとっくに欲深い人間だったのかも。
わがままは駄目と言った手前、かなり恥ずかしいけれど。


「あのね、ライネス。僕、実は……──」


僕はとっくにわがままだ。

それを自覚したら、なんだかヤケにも似た感覚になって。
その勢いのまま全てを話そうとしたその時、ふとヒューッと例の音が聞こえた。

これは、と思い慌てて振り返った瞬間。
暗色の空に、ふと大輪の花がキラキラ輝きながら咲き誇った。


「わぁっ!」

「花火、始まったね」


ドーン、と大きな音が鳴り響く。
薄らと生徒達の歓声が届いて、それが余計にこの空間の静寂さを際立たせた。

あれだけ待ち望んだ花火なのに、なぜかどうしても集中できない。
僕は花火に夢中になっている体を装って、次々に咲く大輪の花を見つめながら、ぽつぽつとさっきの続きを呟いた。


「……あのね、僕はもちろんライネスが好きだし、結婚も楽しみだよ。お仕事だって、ちゃんとする」


でもね、だけどね。
躊躇うような言葉が続く。隣に立つライネスはずっと黙り込んでいたから、思い切って視線を向けてみた。

そして、少しだけ目を見開く。
ライネスは花火を一瞥もしていなかった。感情の読めない、けれど凛とした瞳を僕に向けて、静かに口を閉ざしていた。

待ってくれている。
それを察したから、僕はもう躊躇を捨ててはっきり告げた。


「それ以外も、あるの」


待ち望んだ身近な未来だけじゃない。それ以外も、望んでしまったのだと。


「僕ね、外の世界を知りたいの」


真っすぐにライネスの瞳を見据えて告げる。

ずっと表情を変えなかったライネスが、ほんの微かに息を呑んだ。
そんな彼から咄嗟に顔を背けてしまいそうになったけれど……僕は気合でそれを止めた。

目を逸らしちゃいけない。向き合わなきゃ。
ライネスの反応だけじゃない。僕は僕自身の選択に、しっかり責任を持って向き合わなきゃいけないのだ。


「帝国の外……いろんな国とか、森とか、海とか。帝国にはない花とか遺跡……とにかく、いっぱい見てみたい」


思い返すのは、一人で調べて何度も食い入るように読んだ資料、他国の文献。
考えるだけで胸が高鳴る。こんなに緊張する状況なのに、僕は鼓動を鳴らしてしまっていた。



「知らないこと、知りたいの」



声が震える。でも、伝えたい。
他でもないライネスだから、僕が抱える全ての気持ちを隠さず伝えたい。

花火の音は、気付けば意識の遠くに聞こえている。
今はただ、目の前に立つ彼の反応だけが気になっていた。
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