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学園編
58.大公は思い返す(ライネスside)
夢を見る。
それは、忘れてはならない前世の記憶。
死を目前に控えたとある夜の思い出。
もうすぐ、忌々しいハッピーエンドが訪れる。
そんな時ようやく出会った。出会ってしまった。全てを照らす本当の光に。
彼は、フェリは覚えていない。どうやら、あの記憶はすっぽり抜け落ちているらしい。
私と彼の本当の出会いは、今世ではなく前世にあること。
処刑の日が刻一刻と近付く中、私は一度だけ彼と顔を合わせたことがある。
そして私は、彼の本当の姿を知った。
噂とは、流れている罪の話とはまるで違う。無垢な少年の姿を。
私は呪った。自分自身を、裁きの業火で焼き尽くしてほしいと神に願った。
そうして、祈った。
『──もしも、全てをやり直せるのなら』
彼の目の前でみっともなく嘆いた。
その姿を思い出される方が嫌だから、覚えていないことに実は少しほっとした。
そう、彼は覚えていない。
フェリは前世の記憶を全て思い出したと誤解しているけれど、それは少しだけ間違いだ。
でも、それでいい。
そのまま、記憶なんて蘇らなくていい。もう苦しむ必要なんてない。
ようやく訪れた平穏な今世を、ただ幸せに過ごしていてほしいから。
***
「……夢、か」
暗闇を静かに駆ける馬車の中で、私は独り呟いた。
窓枠についた肘とは別に、もう片方の手を開いてじっと見下ろす。
その手には、まだあの子の温もりが残っているような気がした。だからどこにも触れたくなくて、不格好だけれどこうしてずっと手を浮かせている。
思い出すのは、フェリが楽しそうに語っていた夢の話だ。
「外の世界を知りたい、知らないことを、知りたい」
あの子の言葉なら一語一句覚えられる。
私はその全てを思い返し、口にして、そうして思わず微笑んだ。
「……やっと、ここまで来たのか」
あの子が夢を語ってくれるようになるなんて。
どうせ未来なんてないのだからと、先のことを一切考えていなかった彼を思い返せば、今の変化は驚くべきものだ。
数年前の自分に伝えたところで、きっと信じてはもらえないだろうな。
「フェリ、楽しそうだったなぁ」
学園でのフェリは、私の知っているどんなフェリとも少し違って見えた。
あれが学友の前で見せる顔なのか。私の知らないフェリがいることに、少しだけ……いや、かなり寂しくなったけれど。
しかしこれもまた成長だ。愛するフェリが成長している、それこそ愛すべきことだ。
あの子の全てを愛する私は、この寂しさまでも愛おしく思ってしまう。
「友達も……この短い間に、たくさん出来て」
背凭れに身を預ける。
私と校内を回っている時、フェリはなるべく私との時間に集中しようとしてくれていたけれど、周囲はあの子を放っておかなかった。
少し歩けば必ず誰かがフェリに声をかけて、フェリはそれに朗らかな雰囲気で応えて。
人見知りで、舞踏会ではいつも私の後ろに隠れていたフェリ。
そんなフェリがあれだけ成長したことに、正直かなり驚いた。でも、子供の成長というものは本来これだけ早いものなのだろう。
「……寂しいなぁ」
我ながら情けないことを言っている。
それは分かるが、少しくらいは吐き出してもいいだろう。あの子がいない今だけは。
フェリは、自分の変化で私が離れてしまうのではと恐れているようだった。
けれどそれは大きな間違いだ。私からすれば、その不安は立場的にもまるで真逆。
恐れているのは、私の方だ。
フェリにはこれからも更なる成長が訪れることだろう。
人との交流を知り、友が増え、知識を深め、また新たな夢を見る。
そんなフェリの成長に、変化に、一番怯えているのは私だ。
フェリには大きな変化が待っていて、それが私への気持ちにも変化を与えないとは断言出来ない。
こんなことを言えば、きっとフェリはあの天使のような相貌を崩して烈火の如く激怒することだろう。
だから、あの子には言えないけれど。
「大人になっても……私を、愛してくれるのかな」
柄にもなく身体が震える。
あの子の大きな変化を考える度、喜びと共に恐怖が生まれる。だが本来、こんなことを思うことすらフェリに対して失礼だ。
だから、抑え込まなければ。
なんたって、私は大人なのだから。大人として常に冷静でなければならない私は、フェリの前では常に余裕を演じるべきなのだ。
「やめよう。あの子を見習わないと」
悪い考えが深みに嵌りそうになり、私は慌てて頭を振った。
無理やり思考を変え、考えるのはやっぱりあの子のこと。
そうだ、フェリが言っていた夢のことでも考えようじゃないか。
聞いていて、私も高揚感を抱いてしまったあの夢の話。
帝国を出て、遠い国へ行く。見たこともない海や森や、果ては植物や遺跡。それらを見て、知らないことを知る。
あぁ、いいな。考えれば考えるほど、いい。
壮大な自然の前で瞳を輝かせるフェリ。
どこまでも広がる海を目前に海鮮を食らうフェリ。
図鑑にも載っていない鮮やかな植物で花冠を作るフェリ。
もう想像するだけで満腹だ。流石はフェリ、夢まで最高だ。
「……いっそ独立でもしようかな」
一瞬、大真面目に考えてしまった。
帝国から独立して、ヴィアス家として国を建てるのもいい。
そうすれば帝国から預かる仕事はなくなるし、一度国王になってすぐに王位を適当に譲り、後は隠居してフェリと悠々自適なセカンドライフを──……
あぁどうしよう。普通にそっちの方が良さそうだ。
「……でも、フェリはたぶん許してくれないな」
我ながら最高の案だと思ったが、すぐにフェリがぷんすかと頬を膨らませる様子が目に浮かんだので泣く泣く諦めた。
とにかく、今は大人しくフェリが卒業するのを待とう。
密かに抱えている不安も、それ以外も、全てはその後だ。
大公家への長い道のりは、フェリの花嫁姿を想像していれば上機嫌に耐えることが出来た。
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コメント、エール、いいねお待ちしております♡
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