70 / 400
攻略対象file4:最恐の暗殺者
104.切り札と救世主
しおりを挟む「ア、アラン……」
体を包む温もりに思わず縋り付く。
ぎゅうっとしてくるアランにぎゅっとし返すと、ローズの反応がよく見えず少し不安になった。
肩越しにそろりと顔を上げて初めてローズの表情を知る。
そこには苛立ちも何も無いただただ不穏な色があった。
「……っ」
それを見てハッとする。
強ばった体のままそろりとアランから離れ、ぎゅっとしがみついてくる震えた体をよしよしと撫でてあげた。
ローズには情も何も伝わらない。アランが僕を庇ってくれたとしても、この状況でローズを説得することは不可能だ。それなら何をしたってアランが危険になってしまう。
きっとローズには理解出来ない。ローズの無の心情を、僕が上手く理解出来ないように。
「……無駄な殺しは避けたいが、邪魔をするなら殺すぞ」
低く這うような声にビクッと肩を揺らす。アランの体も明らかに震えているのに、決して僕から離れる気配は無かった。
「は、離れたらフェリアル殺すんでしょ。分かってて離れる馬鹿が居ると思う?」
いっそ苦しいくらい抱き締められて、何だか心もぐーっと苦しくなった。
一見冷たそうで、いざと言う時にも冷静に対処していそうなアラン。けれど実際はこんなにも必死で、冷静からは程遠い判断ばかりだ。
本来アランは関係無いのに。僕から離れるだけで、アランの無事は保証されるのに。それなのに、今もこうして僕を隠すように前に出て。
ぐーっと苦しい胸を押えて、僕はようやく決心した。
友達は守るもの。大切なもの。アランのことは、友達でお兄さんの僕が必ず守る。
と言っても、僕自身の力で出来ることなんて何も無いけれど。
「アラン。ありがとう」
耳元でこそっと囁くと、アランは驚いたように目を丸くした。
「……い、言っとくけど、自己犠牲とか全然綺麗じゃないから。そういうの面倒なだけだから」
やがて何やら焦燥した様子で呟き始めたアラン。今度は僕の方がきょとんとして考え込み、その言葉の真意に気が付いて思わず頬が緩んだ。
どうやらアランは、僕の今の『ありがとう』を遺言と捉えたらしい。
今にもアランの拘束を外そうと抵抗の前触れを見せているし、そう思われても確かに仕方ない。
誤解でも何でも、そう思った上で僕を引き留めようと言葉を選んでくれているアランが、僕は更に大好きになった。
出会ったばかりとか、そういうことは関係無い。
危機的状況でこそ人の本性が現れるとはよく言ったもので、忠告とも取れるその言葉の真意は言葉通りのものではない。
現れた本性を見た上で、それでも自分は相手と関係を続けられるかどうか。その言葉は相手を試すものではなく、自分を試すものなのだ。
そして、今の僕に試練なんて無かった。
アランはただただ優しくて、温かい。この状況でも信頼と好意が増していくだけなのだから。
「大丈夫。アラン、守る。僕も、守る」
ふにゃ、と緩んだ頬で一度アランをぎゅっと抱き締め返し、弱い力でそっと拘束を解く。
アランは未だ瞳に不安を滲ませていたけれど、僕の決意を読み取ったのか抵抗を止めることは無かった。
数歩退いた場所にアランを下がらせ、じっと様子を窺っていたローズに向き直る。
ローズがくるりとナイフを構え直したところで、ふらりと力無く床に膝をついた。
「……命乞いしても無駄…──」
一瞬ピクリと硬直したローズだったが、直ぐに無表情を戻して低く呟く。
それが紡がれる前に、言葉を遮るようにして声を上げた。へたりと膝をついたことで手が届くようになった、足元の影に手のひらで触れて。
「シモン……!」
ローズがハッとした様子で動き出す。
素早く振り下ろされた刃は、僕の体に届くほんの数ミリ直前でぐっと静止した。
影から突如伸びてきた真っ黒な触手が、ローズよりも速く動いてナイフにくるりと絡んだのだ。
それに一瞬目を見開いたローズは、即座にナイフを小さく回転させて触手を切り刻み、三歩程退いた場所に軽く飛んで着地した。
「……」
ローズの無表情が僅かに強ばる。
一連の流れを呆然と見つめていたアランを横目に、ふと突然視界が高くなり始めた。
「ピンチの最中じゃなく、ピンチの直前に呼んでくださいとあれほど……」
影からうにょうにょと伸びて人の形を作り上げたそれは、最終的にシモンの形と色に変化して落ち着いた。
困り顔で呟きながら現れたシモンにぎゅうっと抱き着き、抱っこされた状態でうりうりと首元に頬擦りする。
「ぴんち。だからちゃんと呼んだ」
「ピンチになってからじゃ遅いんです、という話をしているんです!」
一応説教しているという体を示す為なのか、シモンはうりうりむぎゅむぎゅと僕を強く抱き締める。確かに少しばかり苦しいけれど…これではお仕置きにならない気がする。
「ごめんなさい」
「うーん、可愛い!許しちゃいます!」
結果的に無事だからいっか!と緩みきった笑顔を見せるシモン。よかった、どうやら許して貰えたようだ。
ほくほくと安堵しながら抱きつく僕に、シモンは「ところで……」と笑顔を消してローズを見据えた。
さっきまで浮かんでいた笑顔がすんと消えたことで体が震える。そんな僕の様子には気が付かないまま、シモンは低く問いを紡いだ。
「この男は殺しても良いんですよね?」
844
あなたにおすすめの小説
公爵家の末っ子に転生しました〜出来損ないなので潔く退場しようとしたらうっかり溺愛されてしまった件について〜
上総啓
BL
公爵家の末っ子に転生したシルビオ。
体が弱く生まれて早々ぶっ倒れ、家族は見事に過保護ルートへと突き進んでしまった。
両親はめちゃくちゃ溺愛してくるし、超強い兄様はブラコンに育ち弟絶対守るマンに……。
せっかくファンタジーの世界に転生したんだから魔法も使えたり?と思ったら、我が家に代々伝わる上位氷魔法が俺にだけ使えない?
しかも俺に使える魔法は氷魔法じゃなく『神聖魔法』?というか『神聖魔法』を操れるのは神に選ばれた愛し子だけ……?
どうせ余命幾ばくもない出来損ないなら仕方ない、お荷物の僕はさっさと今世からも退場しよう……と思ってたのに?
偶然騎士たちを神聖魔法で救って、何故か天使と呼ばれて崇められたり。終いには帝国最強の狂血皇子に溺愛されて囲われちゃったり……いやいやちょっと待て。魔王様、主神様、まさかアンタらも?
……ってあれ、なんかめちゃくちゃ囲われてない??
―――
病弱ならどうせすぐ死ぬかー。ならちょっとばかし遊んでもいいよね?と自由にやってたら無駄に最強な奴らに溺愛されちゃってた受けの話。
※別名義で連載していた作品になります。
(名義を統合しこちらに移動することになりました)
この世界は僕に甘すぎる 〜ちんまい僕(もふもふぬいぐるみ付き)が溺愛される物語〜
COCO
BL
「ミミルがいないの……?」
涙目でそうつぶやいた僕を見て、
騎士団も、魔法団も、王宮も──全員が本気を出した。
前世は政治家の家に生まれたけど、
愛されるどころか、身体目当ての大人ばかり。
最後はストーカーの担任に殺された。
でも今世では……
「ルカは、僕らの宝物だよ」
目を覚ました僕は、
最強の父と美しい母に全力で愛されていた。
全員190cm超えの“男しかいない世界”で、
小柄で可愛い僕(とウサギのぬいぐるみ)は、今日も溺愛されてます。
魔法全属性持ち? 知識チート? でも一番すごいのは──
「ルカ様、可愛すぎて息ができません……!!」
これは、世界一ちんまい天使が、世界一愛されるお話。
ブラコンすぎて面倒な男を演じていた平凡兄、やめたら押し倒されました
あと
BL
「お兄ちゃん!人肌脱ぎます!」
完璧公爵跡取り息子許嫁攻め×ブラコン兄鈍感受け
可愛い弟と攻めの幸せのために、平凡なのに面倒な男を演じることにした受け。毎日の告白、束縛発言などを繰り広げ、上手くいきそうになったため、やめたら、なんと…?
攻め:ヴィクター・ローレンツ
受け:リアム・グレイソン
弟:リチャード・グレイソン
pixivにも投稿しています。
ひよったら消します。
誤字脱字はサイレント修正します。
また、内容もサイレント修正する時もあります。
定期的にタグも整理します。
批判・中傷コメントはお控えください。
見つけ次第削除いたします。
悪役令息を改めたら皆の様子がおかしいです?
* ゆるゆ
BL
王太子から伴侶(予定)契約を破棄された瞬間、前世の記憶がよみがえって、悪役令息だと気づいたよ! しかし気づいたのが終了した後な件について。
悪役令息で断罪なんて絶対だめだ! 泣いちゃう!
せっかく前世を思い出したんだから、これからは心を入れ替えて、真面目にがんばっていこう! と思ったんだけど……あれ? 皆やさしい? 主人公はあっちだよー?
ユィリと皆の動画をつくりました!
インスタ @yuruyu0 絵も動画もあがります。ほぼ毎日更新!
Youtube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます。動画を作ったときに更新!
プロフのWebサイトから、両方に飛べるので、もしよかったら!
名前が * ゆるゆ になりましたー!
中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!
ご感想欄 、うれしくてすぐ承認を押してしまい(笑)ネタバレ 配慮できないので、ご覧になる時は、お気をつけください!
転生したら、主人公の宿敵(でも俺の推し)の側近でした
リリーブルー
BL
「しごとより、いのち」厚労省の過労死等防止対策のスローガンです。過労死をゼロにし、健康で充実して働き続けることのできる社会へ。この小説の主人公は、仕事依存で過労死し異世界転生します。
仕事依存だった主人公(20代社畜)は、過労で倒れた拍子に異世界へ転生。目を覚ますと、そこは剣と魔法の世界——。愛読していた小説のラスボス貴族、すなわち原作主人公の宿敵(ライバル)レオナルト公爵に仕える側近の美青年貴族・シリル(20代)になっていた!
原作小説では悪役のレオナルト公爵。でも主人公はレオナルトに感情移入して読んでおり彼が推しだった! なので嬉しい!
だが問題は、そのラスボス貴族・レオナルト公爵(30代)が、物語の中では原作主人公にとっての宿敵ゆえに、原作小説では彼の冷酷な策略によって国家間の戦争へと突き進み、最終的にレオナルトと側近のシリルは処刑される運命だったことだ。
「俺、このままだと死ぬやつじゃん……」
死を回避するために、主人公、すなわち転生先の新しいシリルは、レオナルト公爵の信頼を得て歴史を変えようと決意。しかし、レオナルトは原作とは違い、どこか寂しげで孤独を抱えている様子。さらに、主人公が意外な才覚を発揮するたびに、公爵の態度が甘くなり、なぜか距離が近くなっていく。主人公は気づく。レオナルト公爵が悪に染まる原因は、彼の孤独と裏切られ続けた過去にあるのではないかと。そして彼を救おうと奔走するが、それは同時に、公爵からの執着を招くことになり——!?
原作主人公ラセル王太子も出てきて話は複雑に!
見どころ
・転生
・主従
・推しである原作悪役に溺愛される
・前世の経験と知識を活かす
・政治的な駆け引きとバトル要素(少し)
・ダークヒーロー(攻め)の変化(冷酷な公爵が愛を知り、主人公に執着・溺愛する過程)
・黒猫もふもふ
番外編では。
・もふもふ獣人化
・切ない裏側
・少年時代
などなど
最初は、推しの信頼を得るために、ほのぼの日常スローライフ、かわいい黒猫が出てきます。中盤にバトルがあって、解決、という流れ。後日譚は、ほのぼのに戻るかも。本編は完結しましたが、後日譚や番外編、ifルートなど、続々更新中。
悪役令嬢の兄でしたが、追放後は参謀として騎士たちに囲まれています。- 第1巻 - 婚約破棄と一族追放
大の字だい
BL
王国にその名を轟かせる名門・ブラックウッド公爵家。
嫡男レイモンドは比類なき才知と冷徹な眼差しを持つ若き天才であった。
だが妹リディアナが王太子の許嫁でありながら、王太子が心奪われたのは庶民の少女リーシャ・グレイヴェル。
嫉妬と憎悪が社交界を揺るがす愚行へと繋がり、王宮での婚約破棄、王の御前での一族追放へと至る。
混乱の只中、妹を庇おうとするレイモンドの前に立ちはだかったのは、王国騎士団副団長にしてリーシャの異母兄、ヴィンセント・グレイヴェル。
琥珀の瞳に嗜虐を宿した彼は言う――
「この才を捨てるは惜しい。ゆえに、我が手で飼い馴らそう」
知略と支配欲を秘めた騎士と、没落した宰相家の天才青年。
耽美と背徳の物語が、冷たい鎖と熱い口づけの中で幕を開ける。
やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。
毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。
そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。
彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。
「これでやっと安心して退場できる」
これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。
目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。
「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」
その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。
「あなた……Ωになっていますよ」
「へ?」
そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て――
オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。
【WEB版】監視が厳しすぎた嫁入り生活から解放されました~冷徹無慈悲と呼ばれた隻眼の伯爵様と呪いの首輪~【BL・オメガバース】
古森きり
BL
【書籍化決定しました!】
詳細が決まりましたら改めてお知らせにあがります!
たくさんの閲覧、お気に入り、しおり、感想ありがとうございました!
アルファポリス様の規約に従い発売日にURL登録に変更、こちらは引き下げ削除させていただきます。
政略結婚で嫁いだ先は、女狂いの伯爵家。
男のΩである僕には一切興味を示さず、しかし不貞をさせまいと常に監視される生活。
自分ではどうすることもできない生活に疲れ果てて諦めた時、夫の不正が暴かれて失脚した。
行く当てがなくなった僕を保護してくれたのは、元夫が口を開けば罵っていた政敵ヘルムート・カウフマン。
冷徹無慈悲と呼び声高い彼だが、共に食事を摂ってくれたりやりたいことを応援してくれたり、決して冷たいだけの人ではなさそうで――。
カクヨムに書き溜め。
小説家になろう、アルファポリス、BLoveにそのうち掲載します。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。