115 / 423
【聖者の薔薇園-プロローグ】
160.もふもふと来客
しおりを挟むうとうと。ベッドに座って本を読んでいると、ふと頭がこくりと揺れ始めた。
熱も大分下がってきた日のお昼時。冬と春の間みたいな、ちょうどいいぽかぽかが眠気を誘う。ふるふると慌てて首を振り、重い瞼をかっと開いた。
今、物語はとっても良いところに突入したばかり。
騎士様が敵をばったばったとやっつけて、ついに囚われのお姫様のもとに辿り着いた。ここまでたくさんの困難が騎士様を阻んだから、感動と喜びが絶えることなく湧いてくる。
もうちょっとだ、がんばれーと応援しながらも、僕も敵…眠気に必死に対抗する。騎士様が頑張っているのだから、僕も頑張ってこの壁を乗り越えるのだ。
むむ…とページを必死に捲っていると、ふいに部屋の扉がこんこんとノックされた。
ノックすると同時に問答無用で入ってくる様子がないから、来客はどうやらシモンではないらしい。兄様たちはそもそもノックをしないから別として。
「はい、どーぞ」
ちょうど展開が盛り上がってきた物語から名残惜しくも視線を逸らし、本をぱたりと閉じて顔を上げる。
同時に扉を開けて入って来たのは、予想外の人物…いや、人ですらなかった。
もふもふ、とふわもふの足でとことこ歩いてくる、長い耳が特徴的なお友達。瑠璃色の瞳をくりくりと輝かせたぬいぐるみのウサくんは、なぜかクマくんを豪快に俵担ぎして近付いてきた。
「フェリくん。このクマがフェリくんのチーズケーキつまみぐいしようとしてたぴょん。食べる口がないのにお馬鹿さんぴょん」
「この失礼なウサギはなんだクマ!許せないクマ!クマをお馬鹿さんっていったクマ!」
「フェリくんのおやつを盗むようなお馬鹿クマだぴょん。お馬鹿さんにきまってるぴょん」
ウサくんは可愛い見た目に反して、意外と力が強いらしい。ばたばたと暴れるクマくんをぴくりともせず担ぎ続けている。
ぱちぱちと瞬いて二人を見つめ、仲が良さそうな二人にくすくすと笑みが零れた。同じぬいぐるみ同士仲良くなれたみたいでよかった。
心なしかウサくんの方が上の立場っぽく見えるけれど…きっとそういう遊びなのだろう。クマくんもばたばた楽しそうだし、よきよき。
「ウサくん、おしえてくれてありがと。クマくん。クマくんはぬいぐるみだから、チーズケーキたべられないの。もふもふが汚れちゃうだけなの…」
「う…わかってるクマ…ごめんなさいクマ…」
「ごめんなさいできるクマくん。とっても偉い。賢い。いいこいいこ」
「…!ふんっクマ!当然クマ!クマは偉くて賢いクマだクマ!!」
なでなで。クマくんの丸い耳を撫でると、しょぼんと元気のない毛がぶわぁっともっふもふになった。
クマくんのもふもふ加減はその時の気分に左右されるから、情緒が不安定なクマくんはもふもふだったりしおしおだったりと常に手触りが違う。今は褒めたから、数秒前のしおしおと違いもっふもふになっている。
むぎゅーっと抱き締めてもふもふを堪能し、すんと佇んでいるウサくんも一緒に抱き上げた。ウサくんはいつも冷静に見えるけれど、顔に出ないだけで意外と寂しがり屋さんなのだ。
「ウサくんもよしよし。いいこいいこ」
「フェリくん優しいぴょん。フェリくんいい子いい子ぴょん」
長い耳がぴくぴく動く。二人分のもふもふに顔を埋めてうりうりしていると、不意に扉が再びこんこんとノックされた。
今度はノックの主の正体が一瞬でわかる。とりあえず挨拶挨拶っという軽いテンション感の「失礼します」が聞こえたと同時に、問答無用で扉がガチャリと開かれた。
「フェリアル様、来客が……って、えっ。少し目を離した隙に天国が爆誕してるんですが…??」
颯爽と入ってくるところまではかっこよかったのに、僕達の様子を視界に入れるなりぶわっと鼻血を吹き出したシモン。
そろそろ本格的に出血が心配になってきた頃。割と致死量の分は軽く出血している気がするけれど、ぴんぴんしているからきっと大丈夫なのだろう。
「シモン。もふもふいっぱい。シモンも、もふもふする?」
「うーん…俺はどちらかと言うとフェリアル様をすんすん嗅いでむぎゅむぎゅしたいですねぇ…」
「すんすん?むぎゅむぎゅ?うぅん…うむ、する。すんすんむぎゅむぎゅする」
「たぶん何一つ分かってませんよね」
ばっちこいだよーとキリリッとした顔で頷くと、シモンはにこにこしたままふるふると首を振った。
心外だ。ちゃんと分かっている。すんすんってして、むぎゅむぎゅってする。そういうことだろう。
「すんすんとむぎゅむぎゅは後で堪能するとして……フェリアル様、第二皇子殿下がお見舞いにいらしてますが、通しますか?」
「……うん?アラン……?」
「えぇ。それに何やら、フェリアル様にご相談があるようで」
「会う……!つれてきて……!」
淡々と言っているけれど、皇子を普通に待たせるシモンがなんというか、本当に強い。
普通はどんなに具合が悪くても会うのが当然だろうに、と思いながら慌ててこくこく頷く。手遅れかもしれないけど、なるべく待たせないようにしないと。
シモンはにこっと笑ってひとつ頷き、すたすたと部屋の中に入ってきた。
あれ、行かないのかなと首を傾げると、やって来たシモンは笑顔のままクマくんとウサくんを持ち上げる。
首根っこを掴まれて連行される二人は、もふもふを為す術なくだらーんとさせて、普通のぬいぐるみにみたいになっていた。
「離してクマ!クマを捨てた先輩大嫌いクマ!」
「不服ぴょん。このクマと違ってウサは静かな偉い子なのにぴょん」
「はいはい。お話の邪魔になるので、見てるだけで気が散る喋るぬいぐるみさん達は別室で遊んでましょうねぇ」
確かに、視界の端でちらちらとぬいぐるみが動いたり喋ったりしていたら、普通はなんだなんだと困惑するだろう。
僕はもう慣れているからそうはならないけれど、初めて見る人は怖いよねとうんうん納得する。
子供をあやすような声音と口調で語ったシモンは、二人をわしっと鷲掴みしたまま部屋を出ていった。
560
あなたにおすすめの小説
公爵家の末っ子に転生しました〜出来損ないなので潔く退場しようとしたらうっかり溺愛されてしまった件について〜
上総啓
BL
公爵家の末っ子に転生したシルビオ。
体が弱く生まれて早々ぶっ倒れ、家族は見事に過保護ルートへと突き進んでしまった。
両親はめちゃくちゃ溺愛してくるし、超強い兄様はブラコンに育ち弟絶対守るマンに……。
せっかくファンタジーの世界に転生したんだから魔法も使えたり?と思ったら、我が家に代々伝わる上位氷魔法が俺にだけ使えない?
しかも俺に使える魔法は氷魔法じゃなく『神聖魔法』?というか『神聖魔法』を操れるのは神に選ばれた愛し子だけ……?
どうせ余命幾ばくもない出来損ないなら仕方ない、お荷物の僕はさっさと今世からも退場しよう……と思ってたのに?
偶然騎士たちを神聖魔法で救って、何故か天使と呼ばれて崇められたり。終いには帝国最強の狂血皇子に溺愛されて囲われちゃったり……いやいやちょっと待て。魔王様、主神様、まさかアンタらも?
……ってあれ、なんかめちゃくちゃ囲われてない??
―――
病弱ならどうせすぐ死ぬかー。ならちょっとばかし遊んでもいいよね?と自由にやってたら無駄に最強な奴らに溺愛されちゃってた受けの話。
※別名義で連載していた作品になります。
(名義を統合しこちらに移動することになりました)
悪役令息を改めたら皆の様子がおかしいです?
* ゆるゆ
BL
王太子から伴侶(予定)契約を破棄された瞬間、前世の記憶がよみがえって、悪役令息だと気づいたよ! しかし気づいたのが終了した後な件について。
悪役令息で断罪なんて絶対だめだ! 泣いちゃう!
せっかく前世を思い出したんだから、これからは心を入れ替えて、真面目にがんばっていこう! と思ったんだけど……あれ? 皆やさしい? 主人公はあっちだよー?
ユィリと皆の動画をつくりました!
インスタ @yuruyu0 絵も動画もあがります。ほぼ毎日更新
Youtube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます。動画を作ったときに更新
プロフのWebサイトから、両方に飛べるので、もしよかったら!
名前が * ゆるゆ になりましたー!
中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!
ご感想欄 、うれしくてすぐ承認を押してしまい(笑)ネタバレ 配慮できないので、ご覧になる時は、お気をつけください!
この世界は僕に甘すぎる 〜ちんまい僕(もふもふぬいぐるみ付き)が溺愛される物語〜
COCO
BL
「ミミルがいないの……?」
涙目でそうつぶやいた僕を見て、
騎士団も、魔法団も、王宮も──全員が本気を出した。
前世は政治家の家に生まれたけど、
愛されるどころか、身体目当ての大人ばかり。
最後はストーカーの担任に殺された。
でも今世では……
「ルカは、僕らの宝物だよ」
目を覚ました僕は、
最強の父と美しい母に全力で愛されていた。
全員190cm超えの“男しかいない世界”で、
小柄で可愛い僕(とウサギのぬいぐるみ)は、今日も溺愛されてます。
魔法全属性持ち? 知識チート? でも一番すごいのは──
「ルカ様、可愛すぎて息ができません……!!」
これは、世界一ちんまい天使が、世界一愛されるお話。
伝説のS級おじさん、俺の「匂い」がないと発狂して国を滅ぼすらしいい
マンスーン
BL
ギルドの事務職員・三上薫は、ある日、ギルドロビーで発作を起こしかけていた英雄ガルド・ベルンシュタインから抱きしめられ、首筋を猛烈に吸引。「見つけた……俺の酸素……!」と叫び、離れなくなってしまう。
最強おじさん(変態)×ギルドの事務職員(平凡)
世界観が現代日本、異世界ごちゃ混ぜ設定になっております。
義兄の愛が重すぎて、悪役令息できないのですが…!
ずー子
BL
戦争に負けた貴族の子息であるレイナードは、人質として異国のアドラー家に送り込まれる。彼の使命は内情を探り、敗戦国として奪われたものを取り返すこと。アドラー家が更なる力を付けないように監視を託されたレイナード。まずは好かれようと努力した結果は実を結び、新しい家族から絶大な信頼を得て、特に気難しいと言われている長男ヴィルヘルムからは「右腕」と言われるように。だけど、内心罪悪感が募る日々。正直「もう楽になりたい」と思っているのに。
「安心しろ。結婚なんかしない。僕が一番大切なのはお前だよ」
なんだか義兄の様子がおかしいのですが…?
このままじゃ、スパイも悪役令息も出来そうにないよ!
ファンタジーラブコメBLです。
平日毎日更新を目標に頑張ってます。応援や感想頂けると励みになります。
※(2025/4/20)第一章終わりました。少しお休みして、プロットが出来上がりましたらまた再開しますね。お付き合い頂き、本当にありがとうございました!
えちち話(セルフ二次創作)も反応ありがとうございます。少しお休みするのもあるので、このまま読めるようにしておきますね。
※♡、ブクマ、エールありがとうございます!すごく嬉しいです!
※表紙作りました!絵は描いた。ロゴをスコシプラス様に作って頂きました。可愛すぎてにこにこです♡
【登場人物】
攻→ヴィルヘルム
完璧超人。真面目で自信家。良き跡継ぎ、良き兄、良き息子であろうとし続ける、実直な男だが、興味関心がない相手にはどこまでも無関心で辛辣。当初は異国の使者だと思っていたレイナードを警戒していたが…
受→レイナード
和平交渉の一環で異国のアドラー家に人質として出された。主人公。立ち位置をよく理解しており、計算せずとも人から好かれる。常に兄を立てて陰で支える立場にいる。課せられた使命と現状に悩みつつある上に、義兄の様子もおかしくて、いろんな意味で気苦労の絶えない。
キュートなモブ令息に転生したボク。可愛さと前世の知識で悪役令息なお義兄さまを守りますっ!
をち。「もう我慢なんて」書籍発売中
BL
これは、あざと可愛い悪役令息の義弟VS.あざと主人公のおはなし。
ボクの名前は、クリストファー。
突然だけど、ボクには前世の記憶がある。
ジルベスターお義兄さまと初めて会ったとき、そのご尊顔を見て
「あああ!《《この人》》、知ってるう!悪役令息っ!」
と思い出したのだ。
あ、この人ゲームの悪役じゃん、って。
そう、俺が今いるこの世界は、ゲームの中の世界だったの!
そして、ボクは悪役令息ジルベスターの義弟に転生していたのだ!
しかも、モブ。
繰り返します。ボクはモブ!!「完全なるモブ」なのだ!
ゲームの中のボクには、モブすぎて名前もキャラデザもなかった。
どおりで今まで毎日自分の顔をみてもなんにも思い出さなかったわけだ!
ちなみに、ジルベスターお義兄さまは悪役ながら非常に人気があった。
その理由の第一は、ビジュアル!
夜空に輝く月みたいにキラキラした銀髪。夜の闇を思わせる深い紺碧の瞳。
涼やかに切れ上がった眦はサイコーにクール!!
イケメンではなく美形!ビューティフル!ワンダフォー!
ありとあらゆる美辞麗句を並び立てたくなるくらいに美しい姿かたちなのだ!
当然ながらボクもそのビジュアルにノックアウトされた。
ネップリももちろんコンプリートしたし、アクスタももちろん手に入れた!
そんなボクの推しジルベスターは、その無表情のせいで「人を馬鹿にしている」「心がない」「冷酷」といわれ、悪役令息と呼ばれていた。
でもボクにはわかっていた。全部誤解なんだって。
ジルベスターは優しい人なんだって。
あの無表情の下には確かに温かなものが隠れてるはずなの!
なのに誰もそれを理解しようとしなかった。
そして最後に断罪されてしまうのだ!あのピンク頭に惑わされたあんぽんたんたちのせいで!!
ジルベスターが断罪されたときには悔し涙にぬれた。
なんとかジルベスターを救おうとすべてのルートを試し、ゲームをやり込みまくった。
でも何をしてもジルベスターは断罪された。
ボクはこの世界で大声で叫ぶ。
ボクのお義兄様はカッコよくて優しい最高のお義兄様なんだからっ!
ゲームの世界ならいざしらず、このボクがついてるからには断罪なんてさせないっ!
最高に可愛いハイスぺモブ令息に転生したボクは、可愛さと前世の知識を武器にお義兄さまを守りますっ!
⭐︎⭐︎⭐︎
ご拝読頂きありがとうございます!
コメント、エール、いいねお待ちしております♡
「もう我慢なんてしません!家族からうとまれていた俺は、家を出て冒険者になります!」書籍発売中!
連載続いておりますので、そちらもぜひ♡
悪役令息ですが破滅回避で主人公を無視したら、高潔な態度だと勘違いされて聖人認定。なぜか溺愛ルートに入りました
水凪しおん
BL
BL小説『銀の瞳の聖者』の悪役令息ルシアンに転生してしまった俺。
原作通りなら、主人公ノエルをいじめ抜き、最後は断罪されて野垂れ死ぬ運命だ。
「そんなの絶対にお断りだ! 俺は平和に長生きしたい!」
破滅フラグを回避するため、俺は決意した。
主人公ノエルを徹底的に避け、関わらず、空気のように生きることを。
しかし、俺の「無視」や「無関心」は、なぜかノエルにポジティブに変換されていく。
「他の人のように欲望の目で見ないなんて、なんて高潔な方なんだ……!」
いじめっ子を視線だけで追い払えば「影から守ってくれた」、雨の日に「臭いから近寄るな」と上着を投げつければ「不器用な優しさ」!?
全力で嫌われようとすればするほど、主人公からの好感度が爆上がりして、聖人認定されてしまう勘違いラブコメディ!
小心者の悪役令息×健気なポジティブ主人公の、すれ違い溺愛ファンタジー、ここに開幕!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。