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【聖者の薔薇園-プロローグ】
167.ちっこい嫁とアレな話
しおりを挟む「レオ。だっこ」
レオとギデオンの間に割って入ってぴょんぴょん跳ねる。二人の話が続いて僕の話を誤魔化されてはだめだ。はやく本題に入らないと。
そのために、さっきのように逃げられることがあってはならない。というわけで、話している間もきちんとレオを拘束しておくことにした。
「あ、その…抱っこはちょっと…」
またもや赤い顔でもじもじし始めるレオ。そう言われるだろうとはもう予想していたから、しょんぼりせずに作戦を実行することができた。答えを無視してとたとた近寄り、レオの服の裾をちょんちょんと引っ張る。
反射的に膝をついたレオに、タイミングを見計らってむぎゅっと抱き着いた。
ぽすっとレオの腕の中に無理やり収まった瞬間、引っかかったなと言わんばかりにふふんとどや顔を浮かべる。
「レオつかまえた。ぎゅってする。これで、もう逃げられない」
「……え」
コアラみたいに足と腕どころか全身を使ってむぎゅーっと抱き着く。
えっへん見たことか、これでレオはもう逃げられないぞと胸を張っていると、あんぐりと目を見開いたレオがぷるぷる震え始めた。
「きゃ、きゃ…きゃわっ…!!」
がくがくぶるぶる。小刻みに震えているけれど、どうやら何かに怖がっているわけでも怯えているわけでもないらしい。
むぎゅっ!と突然強く抱き締めてくるレオにぱちぱちしていると、頭上から「可愛い可愛いかわいい」という不服極まりない単語が繰り返し零される。頭もうりうり頬擦りされてあわあわ状態だ。
されるがままにむぎゅむぎゅされていると、しばらくしてレオがハッとした様子で我に返った。
真っ赤な顔で再びひょいっと持ち上げられると、下ろされるまではいかなくともぴょーんと距離を離される。そうなって初めて、僕はこの作戦の欠陥に気が付いた。
しまった…!そうか、僕よりレオの方が身長も体格もはるかに大きいから、距離を離そうと思えばいつでもどうとでも離せるんだ。僕が精一杯むぎゅむぎゅしたところで、レオにとってはなんの拘束にもなっていなかったんだ。
ようやく思い至って戦慄して、両脇をがしっと持ち上げられた状態でわなわな涙を滲ませる。大の字になっていた腕をレオの方に伸ばし、うるうると震えた声で懇願する。
「れお…ぎゅー…」
「っ…!」
「ぎゅ…ぎゅー…れお……」
「くッ…!!」
見つめ合ったまま数十秒。最終的に折れたのはレオの方だった。
うるうるしょぼぼんとする僕をそろりそろりと腕の中にすっぽり戻し、コアラになった僕を仕方なさそうにぎゅーっと抱き締める。あったかいぽかぽかに戻った喜びですりすりうりうりと擦り寄ると、例の謎の呻き声が再び聞こえてきた。
「っ…はぁ…苦しい…」
「ご安心を殿下。ネコを抱えている時は皆その想いを味わっています」
「君は味わう暇もなく丸呑みしているでしょう」
さり気なく淡々と挟まれる二人の会話。会話の意味が理解出来ないという経験は何度かあるけれど、レオとギデオンの話に関しては特にそうだ。何の話をしているのだろうといつも気になる。
主語が曖昧だったり、単語自体の意味が分からない時が多いからそうなるのかもしれない。
今の会話も正直よく分からないけれど、僕なりの解釈でなんとか理解は出来た。
レオはぎゅーが苦しい。たぶん、抱き締める力の加減が分からないのだろう。だから、ぎゅっとすると苦しくなる。ギデオンも同じ気持ちを抱えているらしいから、きっとギデオンもレオと同じ。力の加減が分からなくて、ぎゅっとすると苦しくなる。
そうか。レオがどうして僕を避けて、ぎゅーを嫌がっていたのか。それが今ようやく分かった。
ぎゅーの力加減。レオはこれに悩んでいたのだ。
名探偵フェリアルにかかればこれくらいの難事件、ちょちょいのちょいと真相に辿り着いてしまえるのである。えっへん。
「レオ、まかせて!」
「え…え、何をでしょうか…?」
困惑顔のレオからんしょんしょと離れる。ぱっと振り返って、無口無表情で立っていたギデオンに助走をつけてわしっと抱き着いた。
ギデオンは僕から見ると巨人だぁと思うくらい大きいので、正面から抱き着くと鍛え上げられたお腹に顔が埋まる形になる。むぎゅむぎゅと抱き着いて、ふふんとギデオンの顔を見上げた。
「このくらいのちからだと、ちょうどいいと思う。苦しくない」
「……」
力加減を僕がお手本で教えてあげるのだ。実際にむぎゅっと抱き着いてみて、これくらいなら苦しくないよーと親切に。
どうかな、わくわく。なんて思いながら瞳をきらきらさせていると、無表情で僕を見下ろしていたギデオンが不意に「ふぅ……」とやけに満足気な溜め息を吐いた。
どうしたのかなと首を傾げると同時に、何やら背後から聞こえてくる「な、なっ、なっ…!!」という動揺に塗れた声。振り返らずとも真っ青な顔が想像できる。
「なるほど。イラマに丁度良い身長差……ですか」
「……?」
「ですが残念。その小さなお口に私の愚息が根元まで挿入るとは思えません。流石に幼子の喉奥に突っ込むのは窒息が心配ですし」
淡々と紡がれる言葉にぽかんとしていると、不意に背後から勢いよく抱き寄せられてぎょっとする。びっくりして振り返ると、そこに立っていたのはさっきとは別の感情を顕に顔を真っ赤にしたレオ。なぜか鬼の形相でギデオンを睨んでいた。
それにはっと息を呑んだギデオンが、突然あたふたと瞳を揺らし始める。
「お前…」
「誤解です殿下。私からは一切触れていません」
「関係ない。直接触れるのは処罰対象です」
「お待ち下さい殿下!」
「これから一週間禁欲。命令です」
「殿下…!ご慈悲を…!!」
突如始まった迫真の断罪シーン。きんよく、と言われた瞬間のギデオンの顔には、珍しく人間味のある絶望の表情が浮かんでいた。
急にどうしたのだろう。どうしてレオは突然怒り始めたのだろう。僕だけが状況についていけず眉を下げていると、不意に二人がピタリと動きを止めた。
今度はなんだなんだと更にあわあわしていると、ふと気が付く。目の前に立つギデオンの表情が、初めて見る畏怖の色に染まっていたのだ。
視線の先は、僕をぎゅっとするレオ以外誰も居ないはずの背後。
「クソほど下劣な言葉が聞こえたが、俺のちっこい嫁に猥談をかましたのは貴様か?」
ふわっと一筋の風が頬を撫でるようにして去っていく。かと思うとその風は棘のように鋭くなって、吹いた先に唖然と立っていたギデオンを軽々と吹き飛ばした。
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