余命僅かの悪役令息に転生したけど、攻略対象者達が何やら離してくれない

上総啓

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【聖者の薔薇園-プロローグ】

179.届く報せ

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 レオと話した翌日。
 アランから届いた『兄上が元気になった』という手紙を見て、ふふんとどやりながら朝食を終えたのがついさっきのこと。
『ちょっと元気すぎな気がするけど』という最後の言葉は読まなかったことにして、本来の目的だったレオ引き籠り救済計画を無事達成した満足感に浸ったあと。

 自室に戻るべくとたとたと廊下を歩いていると、シックなトランクを持ってちょうど部屋から出てきた兄様たちと鉢合わせた。


「ディラン兄さま。ガイゼル兄さま。おでかけ、ですか?」


 きょとん。ぱちくりする僕に気が付いた二人は、トランクをぽいっと放り捨てて駆け寄ってきた。
 がばっと抱き着きむぎゅむぎゅと抱き締めてくる二人を受け止め、よしよしなでなでと撫でてあげる。突然抱き着いてくる二人の癖にも随分慣れたものだ。


「フェリ…兄様は学園へ戻ることになった…」

「あと一年なんだから手ぇ抜くなって父上に扱かれちまった…」


 そういえばと思い出す。聖者の奇襲の可能性がなくなった今、兄様達やレオが学園から一時避難する必要性もなくなったのだ。だから当然、三人は学園へ戻らなくてはならない。
 忘れていた…としょんぼりしながらも、必死にきりりっとした表情を保って二人をぎゅぎゅっとした。


「あと一年。がんばったら、ずっといっ…」


 ずっと一緒。そう紡ごうとして、途中でぐっと言葉を吞み込んだ。
 突然俯いた僕を兄様達が訝し気に見つめてくるのが気配で分かる。けれど、顔を上げられない。

 俯いた顔は真っ赤。ずっと一緒は禁句だと思い出し、むぐっと口を噤んだ。
 不用意に大袈裟な言葉を言ってはいけない。ずっと一緒は、感覚的な意味か、物理的な意味かとか。ちゃんと考えて、その上で…。


「おいチビ?どうした、具合悪いのか?」

「どうしたフェリ。抱っこするか」


 心配そうな二人の声にはっとして顔を上げる。真っ赤な色をすんと戻して、ぶんぶんっと首を横に振った。
 ぎゅーしたい衝動をぐっと堪えて、お兄さんらしく冷静な態度を装う。装うじゃなく、ちゃんとそういう態度をとる。はりぼてじゃないよ。

 むむ、ふんす。お兄さんは不用意にずっと一緒なんて言わないし、無防備にぎゅーもしないのだ。ふんすふんすと息巻いて声を上げる。


「ごきげんようです、にいさま。僕はお兄さんなので、ぎゅーはしないで、くーるに去るです」


 唖然とする兄様達をそのままに、踵を返してぴゅーんとその場を走り去った。

 その足で自室まで直行し、ばんっと勢いよく扉を開けて中に駆け込む。はぁはぁと息切れしながら膝に手をついていると、不意に部屋の奥からガタッという物音と共に誰かが近付いてきた。
 慣れ切った気配。うにくんを器用に使って掃除をしていたシモンである。


「フェリアル様?そんなに急いで何かありましたか?」


 心配そうな表情。下がった眉に、声音から既に溢れる優しさ。
 全て感じた直後、突然ぶわわっと涙が滝みたいに溢れた。シモンも急な出来事にあわあわ驚き、持っていた掃除道具をほっぽって駆け寄ってくる。
 むぎゅっとすかさず抱き締められ、瞬間安心する温かさにほわっと力が抜けた。

 やっぱりシモンのぎゅーはとっても落ち着く。あわわっとした時の精神安定剤だ。


「全く、フェリアル様は一息する間もなく厄介事を持ち込んでくるんですから…今度は何があったんです?」

「ごめんなさい」

「大丈夫ですよ。いつもあわあわしててドジっ子なフェリアル様きゃわわ!って言ってるだけなので」

「ふむ…?」


 よく分からないけれど、とりあえずおこではないらしいので安堵した。
 むぎゅむぎゅすりすりとシモンに擦り寄り、落ち着く香水の淡い匂いをすんすんしてふふんと機嫌を直す。

 こういうの、何と言うんだっけ。シトラスみたいな爽やかな香りだ。
 なんて考えて、いや、これはシモンの素の匂いかと気が付いた。香水自体はともかく、シモンの匂いは感じるだけでとっても気分が良くなる。ストレス軽減効果があるのだろうなぁ、なんて半分本気の呟きを零してしまった。


「ふふっ。俺の匂い、好きですか?」

「んむ。すき。いいかおり」


 首元をすんすんすると、シモンもそれを返すように僕の頭に顔を埋めてすんすんしだした。
 最早嗅ぐと言うよりは吸う、と言った方が正しい大袈裟な嗅ぎ方。すーっと吸われてあわあわしていると、シモンからのぎゅーが更に強くなった。


「っはぁ……アレですね…赤ちゃんの匂いがします…」

「む…??」


 どんな匂い…?と思いながらもそっと口を閉ざす。なんだかとっても幸福そうな顔ですんすんしているから、邪魔しないでおこう。

 と思ったけれど、シモンのすんすんタイムは直ぐに終わってしまった。
 開け放たれた入り口から何やらぽてぽてと走って来たもふもふが、シモンの頭を器用にぼふっと蹴って吹き飛ばしたのだ。
 長い耳がぴょぴょんっと揺れて、もふもふが呆然とする僕の前にすたっと着地する。数秒遅れてあわあわと部屋の中に走って来たもう一人のもふもふが、あと一歩というところでぽてっと転んでしまった。

「クマー!痛いクマー!!わーんわーんクマー!!」と叫ぶ丸い耳のもふもふ…クマくんをよっこらせと抱き上げ、よしよし痛かったねだいじょぶだいじょぶとなでなでする。
 振り返り、力無く倒れるシモンをつんつんしている長い耳のもふもふことウサくんに声をかけた。


「ウサくん、どうしたの。シモンいたいいたい、ごめんなさいするの」

「ごめんなさいぴょん。ちょっときもかったから反射で足がでちゃったぴょん」


 シモンにごめんなさいしたウサくんもひょいっと抱き上げる。謝れてえらい。
 もふもふを軽くむぎゅむぎゅしてから、二人に用事を問い掛ける。ウサくんは手に持っていた一枚の手紙をもふっと掲げ「気になる手紙があったのでいち早くお届けぴょん」と語った。

 それを受け取って裏面を見る。差出人の名が伯爵家侍従としての『トラード』になっていることに気付き、はっとして封を切った。


『緊急事態が発生した。時間があればシュタイン領の孤児院まで来てほしい』


 たった一文。殴り書きのようなその文章は、文字通りの緊急事態を強く思わせた。
 もふもふを一旦床に下ろしてあわあわシモンに駆け寄り、ちーんと気を失うシモンをつんつんぺしぺしと必死に起こす。ぱちっと目を覚ましたシモンは、がばっと起き上がって「奇襲ですか!?」と警戒の目を周囲に向けた。うぅん、きしゅーじゃないよ。


「シモン。きんきゅーにんむ。トラードぴんち。おでかけの準備する」

「ん…?トラードが、ピンチ…?」


 ふんすと言い切って、任務の準備をすべく立ち上がった。

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