135 / 423
【聖者の薔薇園-プロローグ】
179.届く報せ
しおりを挟むレオと話した翌日。
アランから届いた『兄上が元気になった』という手紙を見て、ふふんとどやりながら朝食を終えたのがついさっきのこと。
『ちょっと元気すぎな気がするけど』という最後の言葉は読まなかったことにして、本来の目的だったレオ引き籠り救済計画を無事達成した満足感に浸ったあと。
自室に戻るべくとたとたと廊下を歩いていると、シックなトランクを持ってちょうど部屋から出てきた兄様たちと鉢合わせた。
「ディラン兄さま。ガイゼル兄さま。おでかけ、ですか?」
きょとん。ぱちくりする僕に気が付いた二人は、トランクをぽいっと放り捨てて駆け寄ってきた。
がばっと抱き着きむぎゅむぎゅと抱き締めてくる二人を受け止め、よしよしなでなでと撫でてあげる。突然抱き着いてくる二人の癖にも随分慣れたものだ。
「フェリ…兄様は学園へ戻ることになった…」
「あと一年なんだから手ぇ抜くなって父上に扱かれちまった…」
そういえばと思い出す。聖者の奇襲の可能性がなくなった今、兄様達やレオが学園から一時避難する必要性もなくなったのだ。だから当然、三人は学園へ戻らなくてはならない。
忘れていた…としょんぼりしながらも、必死にきりりっとした表情を保って二人をぎゅぎゅっとした。
「あと一年。がんばったら、ずっといっ…」
ずっと一緒。そう紡ごうとして、途中でぐっと言葉を吞み込んだ。
突然俯いた僕を兄様達が訝し気に見つめてくるのが気配で分かる。けれど、顔を上げられない。
俯いた顔は真っ赤。ずっと一緒は禁句だと思い出し、むぐっと口を噤んだ。
不用意に大袈裟な言葉を言ってはいけない。ずっと一緒は、感覚的な意味か、物理的な意味かとか。ちゃんと考えて、その上で…。
「おいチビ?どうした、具合悪いのか?」
「どうしたフェリ。抱っこするか」
心配そうな二人の声にはっとして顔を上げる。真っ赤な色をすんと戻して、ぶんぶんっと首を横に振った。
ぎゅーしたい衝動をぐっと堪えて、お兄さんらしく冷静な態度を装う。装うじゃなく、ちゃんとそういう態度をとる。はりぼてじゃないよ。
むむ、ふんす。お兄さんは不用意にずっと一緒なんて言わないし、無防備にぎゅーもしないのだ。ふんすふんすと息巻いて声を上げる。
「ごきげんようです、にいさま。僕はお兄さんなので、ぎゅーはしないで、くーるに去るです」
唖然とする兄様達をそのままに、踵を返してぴゅーんとその場を走り去った。
その足で自室まで直行し、ばんっと勢いよく扉を開けて中に駆け込む。はぁはぁと息切れしながら膝に手をついていると、不意に部屋の奥からガタッという物音と共に誰かが近付いてきた。
慣れ切った気配。うにくんを器用に使って掃除をしていたシモンである。
「フェリアル様?そんなに急いで何かありましたか?」
心配そうな表情。下がった眉に、声音から既に溢れる優しさ。
全て感じた直後、突然ぶわわっと涙が滝みたいに溢れた。シモンも急な出来事にあわあわ驚き、持っていた掃除道具をほっぽって駆け寄ってくる。
むぎゅっとすかさず抱き締められ、瞬間安心する温かさにほわっと力が抜けた。
やっぱりシモンのぎゅーはとっても落ち着く。あわわっとした時の精神安定剤だ。
「全く、フェリアル様は一息する間もなく厄介事を持ち込んでくるんですから…今度は何があったんです?」
「ごめんなさい」
「大丈夫ですよ。いつもあわあわしててドジっ子なフェリアル様きゃわわ!って言ってるだけなので」
「ふむ…?」
よく分からないけれど、とりあえずおこではないらしいので安堵した。
むぎゅむぎゅすりすりとシモンに擦り寄り、落ち着く香水の淡い匂いをすんすんしてふふんと機嫌を直す。
こういうの、何と言うんだっけ。シトラスみたいな爽やかな香りだ。
なんて考えて、いや、これはシモンの素の匂いかと気が付いた。香水自体はともかく、シモンの匂いは感じるだけでとっても気分が良くなる。ストレス軽減効果があるのだろうなぁ、なんて半分本気の呟きを零してしまった。
「ふふっ。俺の匂い、好きですか?」
「んむ。すき。いいかおり」
首元をすんすんすると、シモンもそれを返すように僕の頭に顔を埋めてすんすんしだした。
最早嗅ぐと言うよりは吸う、と言った方が正しい大袈裟な嗅ぎ方。すーっと吸われてあわあわしていると、シモンからのぎゅーが更に強くなった。
「っはぁ……アレですね…赤ちゃんの匂いがします…」
「む…??」
どんな匂い…?と思いながらもそっと口を閉ざす。なんだかとっても幸福そうな顔ですんすんしているから、邪魔しないでおこう。
と思ったけれど、シモンのすんすんタイムは直ぐに終わってしまった。
開け放たれた入り口から何やらぽてぽてと走って来たもふもふが、シモンの頭を器用にぼふっと蹴って吹き飛ばしたのだ。
長い耳がぴょぴょんっと揺れて、もふもふが呆然とする僕の前にすたっと着地する。数秒遅れてあわあわと部屋の中に走って来たもう一人のもふもふが、あと一歩というところでぽてっと転んでしまった。
「クマー!痛いクマー!!わーんわーんクマー!!」と叫ぶ丸い耳のもふもふ…クマくんをよっこらせと抱き上げ、よしよし痛かったねだいじょぶだいじょぶとなでなでする。
振り返り、力無く倒れるシモンをつんつんしている長い耳のもふもふことウサくんに声をかけた。
「ウサくん、どうしたの。シモンいたいいたい、ごめんなさいするの」
「ごめんなさいぴょん。ちょっときもかったから反射で足がでちゃったぴょん」
シモンにごめんなさいしたウサくんもひょいっと抱き上げる。謝れてえらい。
もふもふを軽くむぎゅむぎゅしてから、二人に用事を問い掛ける。ウサくんは手に持っていた一枚の手紙をもふっと掲げ「気になる手紙があったのでいち早くお届けぴょん」と語った。
それを受け取って裏面を見る。差出人の名が伯爵家侍従としての『トラード』になっていることに気付き、はっとして封を切った。
『緊急事態が発生した。時間があればシュタイン領の孤児院まで来てほしい』
たった一文。殴り書きのようなその文章は、文字通りの緊急事態を強く思わせた。
もふもふを一旦床に下ろしてあわあわシモンに駆け寄り、ちーんと気を失うシモンをつんつんぺしぺしと必死に起こす。ぱちっと目を覚ましたシモンは、がばっと起き上がって「奇襲ですか!?」と警戒の目を周囲に向けた。うぅん、きしゅーじゃないよ。
「シモン。きんきゅーにんむ。トラードぴんち。おでかけの準備する」
「ん…?トラードが、ピンチ…?」
ふんすと言い切って、任務の準備をすべく立ち上がった。
537
あなたにおすすめの小説
公爵家の末っ子に転生しました〜出来損ないなので潔く退場しようとしたらうっかり溺愛されてしまった件について〜
上総啓
BL
公爵家の末っ子に転生したシルビオ。
体が弱く生まれて早々ぶっ倒れ、家族は見事に過保護ルートへと突き進んでしまった。
両親はめちゃくちゃ溺愛してくるし、超強い兄様はブラコンに育ち弟絶対守るマンに……。
せっかくファンタジーの世界に転生したんだから魔法も使えたり?と思ったら、我が家に代々伝わる上位氷魔法が俺にだけ使えない?
しかも俺に使える魔法は氷魔法じゃなく『神聖魔法』?というか『神聖魔法』を操れるのは神に選ばれた愛し子だけ……?
どうせ余命幾ばくもない出来損ないなら仕方ない、お荷物の僕はさっさと今世からも退場しよう……と思ってたのに?
偶然騎士たちを神聖魔法で救って、何故か天使と呼ばれて崇められたり。終いには帝国最強の狂血皇子に溺愛されて囲われちゃったり……いやいやちょっと待て。魔王様、主神様、まさかアンタらも?
……ってあれ、なんかめちゃくちゃ囲われてない??
―――
病弱ならどうせすぐ死ぬかー。ならちょっとばかし遊んでもいいよね?と自由にやってたら無駄に最強な奴らに溺愛されちゃってた受けの話。
※別名義で連載していた作品になります。
(名義を統合しこちらに移動することになりました)
悪役令息を改めたら皆の様子がおかしいです?
* ゆるゆ
BL
王太子から伴侶(予定)契約を破棄された瞬間、前世の記憶がよみがえって、悪役令息だと気づいたよ! しかし気づいたのが終了した後な件について。
悪役令息で断罪なんて絶対だめだ! 泣いちゃう!
せっかく前世を思い出したんだから、これからは心を入れ替えて、真面目にがんばっていこう! と思ったんだけど……あれ? 皆やさしい? 主人公はあっちだよー?
ユィリと皆の動画をつくりました!
インスタ @yuruyu0 絵も動画もあがります。ほぼ毎日更新
Youtube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます。動画を作ったときに更新
プロフのWebサイトから、両方に飛べるので、もしよかったら!
名前が * ゆるゆ になりましたー!
中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!
ご感想欄 、うれしくてすぐ承認を押してしまい(笑)ネタバレ 配慮できないので、ご覧になる時は、お気をつけください!
この世界は僕に甘すぎる 〜ちんまい僕(もふもふぬいぐるみ付き)が溺愛される物語〜
COCO
BL
「ミミルがいないの……?」
涙目でそうつぶやいた僕を見て、
騎士団も、魔法団も、王宮も──全員が本気を出した。
前世は政治家の家に生まれたけど、
愛されるどころか、身体目当ての大人ばかり。
最後はストーカーの担任に殺された。
でも今世では……
「ルカは、僕らの宝物だよ」
目を覚ました僕は、
最強の父と美しい母に全力で愛されていた。
全員190cm超えの“男しかいない世界”で、
小柄で可愛い僕(とウサギのぬいぐるみ)は、今日も溺愛されてます。
魔法全属性持ち? 知識チート? でも一番すごいのは──
「ルカ様、可愛すぎて息ができません……!!」
これは、世界一ちんまい天使が、世界一愛されるお話。
伝説のS級おじさん、俺の「匂い」がないと発狂して国を滅ぼすらしいい
マンスーン
BL
ギルドの事務職員・三上薫は、ある日、ギルドロビーで発作を起こしかけていた英雄ガルド・ベルンシュタインから抱きしめられ、首筋を猛烈に吸引。「見つけた……俺の酸素……!」と叫び、離れなくなってしまう。
最強おじさん(変態)×ギルドの事務職員(平凡)
世界観が現代日本、異世界ごちゃ混ぜ設定になっております。
義兄の愛が重すぎて、悪役令息できないのですが…!
ずー子
BL
戦争に負けた貴族の子息であるレイナードは、人質として異国のアドラー家に送り込まれる。彼の使命は内情を探り、敗戦国として奪われたものを取り返すこと。アドラー家が更なる力を付けないように監視を託されたレイナード。まずは好かれようと努力した結果は実を結び、新しい家族から絶大な信頼を得て、特に気難しいと言われている長男ヴィルヘルムからは「右腕」と言われるように。だけど、内心罪悪感が募る日々。正直「もう楽になりたい」と思っているのに。
「安心しろ。結婚なんかしない。僕が一番大切なのはお前だよ」
なんだか義兄の様子がおかしいのですが…?
このままじゃ、スパイも悪役令息も出来そうにないよ!
ファンタジーラブコメBLです。
平日毎日更新を目標に頑張ってます。応援や感想頂けると励みになります。
※(2025/4/20)第一章終わりました。少しお休みして、プロットが出来上がりましたらまた再開しますね。お付き合い頂き、本当にありがとうございました!
えちち話(セルフ二次創作)も反応ありがとうございます。少しお休みするのもあるので、このまま読めるようにしておきますね。
※♡、ブクマ、エールありがとうございます!すごく嬉しいです!
※表紙作りました!絵は描いた。ロゴをスコシプラス様に作って頂きました。可愛すぎてにこにこです♡
【登場人物】
攻→ヴィルヘルム
完璧超人。真面目で自信家。良き跡継ぎ、良き兄、良き息子であろうとし続ける、実直な男だが、興味関心がない相手にはどこまでも無関心で辛辣。当初は異国の使者だと思っていたレイナードを警戒していたが…
受→レイナード
和平交渉の一環で異国のアドラー家に人質として出された。主人公。立ち位置をよく理解しており、計算せずとも人から好かれる。常に兄を立てて陰で支える立場にいる。課せられた使命と現状に悩みつつある上に、義兄の様子もおかしくて、いろんな意味で気苦労の絶えない。
悪役令息ですが破滅回避で主人公を無視したら、高潔な態度だと勘違いされて聖人認定。なぜか溺愛ルートに入りました
水凪しおん
BL
BL小説『銀の瞳の聖者』の悪役令息ルシアンに転生してしまった俺。
原作通りなら、主人公ノエルをいじめ抜き、最後は断罪されて野垂れ死ぬ運命だ。
「そんなの絶対にお断りだ! 俺は平和に長生きしたい!」
破滅フラグを回避するため、俺は決意した。
主人公ノエルを徹底的に避け、関わらず、空気のように生きることを。
しかし、俺の「無視」や「無関心」は、なぜかノエルにポジティブに変換されていく。
「他の人のように欲望の目で見ないなんて、なんて高潔な方なんだ……!」
いじめっ子を視線だけで追い払えば「影から守ってくれた」、雨の日に「臭いから近寄るな」と上着を投げつければ「不器用な優しさ」!?
全力で嫌われようとすればするほど、主人公からの好感度が爆上がりして、聖人認定されてしまう勘違いラブコメディ!
小心者の悪役令息×健気なポジティブ主人公の、すれ違い溺愛ファンタジー、ここに開幕!
有能すぎる親友の隣が辛いので、平凡男爵令息の僕は消えたいと思います
緑虫
BL
第三王子の十歳の生誕パーティーで、王子に気に入られないようお城の花園に避難した、貧乏男爵令息のルカ・グリューベル。
知り合った宮廷庭師から、『ネムリバナ』という水に浮かべるとよく寝られる香りを放つ花びらをもらう。
花園からの帰り道、噴水で泣いている少年に遭遇。目の下に酷いクマのある少年を慰めたルカは、もらったばかりの花びらを男の子に渡して立ち去った。
十二歳になり、ルカは寄宿学校に入学する。
寮の同室になった子は、まさかのその時の男の子、アルフレート(アリ)・ユーネル侯爵令息だった。
見目麗しく文武両道のアリ。だが二年前と変わらず睡眠障害を抱えていて、目の下のクマは健在。
宮廷庭師と親交を続けていたルカには、『ネムリバナ』を第三王子の為に学校の温室で育てる役割を与えられていた。アリは花びらを王子の元まで運ぶ役目を負っている。育てる見返りに少量の花びらを入手できるようになったルカは、早速アリに使ってみることに。
やがて問題なく眠れるようになったアリはめきめきと頭角を表し、しがない男爵令息にすぎない平凡なルカには手の届かない存在になっていく。
次第にアリに対する恋心に気づくルカ。だが、男の自分はアリとは不釣り合いだと、卒業を機に離れることを決意する。
アリを見ない為に地方に移ったルカ。実はここは、アリの叔父が経営する領地。そこでたった半年の間に朗らかで輝いていたアリの変わり果てた姿を見てしまい――。
ハイスペ不眠攻めxお人好し平凡受けのファンタジーBLです。ハピエン。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。