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【聖者の薔薇園-プロローグ】
181.魅了の研究成果
しおりを挟む場所は変わって、孤児院の応接室。
早速計画について語り合おうかと思いソファに座ると、トラードは初めに「そういえば」とハッとしたように声を上げた。
「ローズの件の前に…一つ報告したい事があったんだよ。来たついでにこれ貰ってくれ」
「……これは…魅了についての研究資料、ですか?」
差し出された書類をシモンが受け取る。ぺらっと開いて見せてくれるけれど、正直書いている内容は難しくてよく分からなかった。なるほど、だからトラードは僕じゃなくシモンに手渡したのか。
ペラペラと捲って瞬時に理解するシモン。はわわ…と思いながら、僕も神妙な面持ちで頷きながら文字の羅列を目で追った。理解しているとは言っていない。
資料を読み進める僕達に視線を向け、トラードが得意げに頷いた。
「うん。魔塔主の爺さんと生意気な魔術師…ルドルフとか言ったか?アイツらと情報共有して、魅了の研究進めたんだよね。そしたら超ラッキーな新事実発見しちゃったから、報告しないとーって思ってさ」
超ラッキーな新事実…?きょとんとする僕の傍らで、資料をしっかり読み進めていたシモンがふと驚いた様子で「これって…」と呟いた。
「魅了の効果は自動的に解呪する傾向にある…?」
なぬ!と資料を覗き込む。ふむふむなるへそ、読んでもさっぱりわからないでござる…。
崩れかけていた僕の神妙な面持ちを嘘と見抜いたのか、シモンが僕でもわかるようにゆっくり丁寧に説明してくれた。
どうやら魔塔とローズ達の協力で、孤児院の子供たちが研究のために観察対象になっていたらしく。何も手を加えることなく一定の期間観察した結果、魅了の効果が徐々に薄れていることが発覚したらしい。
確かに、すれ違った子供たちの会話に聖者の名前は一切出てこなかった。マーテルを崇拝するような言葉も全くなかったから、彼らが魅了をかけられていたこと自体忘れていたくらいだ。
でも一体どうして。トラードは資料の内容を補足するように説明を再開した。
「聖者が意図的に解呪してんのかそうじゃないのか。確信は無いが、たぶん後者だ。解呪したと言うより、力自体が弱まって解呪されざるを得なくなったって感じがするな」
「マーテルの力が弱まっている…?ですが、マーテルはその弱まった力を回復する為に今眠りについているんですよね?」
シモンの疑問は尤もだ。マーテルが神力回復の為に眠っているのだから、魅了は弱まるどころか更に強固になりそうなものだけれど…どうして今、魅了が弱まり始めているのだろう。
はてと瞬くと、トラードはニッと勝気に微笑んで答えた。
「こっち側についてる神サマが頑張ってくれてるみたいよ?無防備に寝呆けてるマーテルから、元々自分のだった神力をこれ幸いと奪い返してるんだと」
「ほわぁ…」
「あのぐーたら神、本当やる時はやるタイプなんですね…」
リベラ様。会う度ぐーたらが目立つけれど、元最強の神様はやっぱりやる時はやる偉い子だったらしい。能ある鷹はなんとやら、というやつだろうか。
なんだか、聖者に関する問題が僕の知らないうちに着々と解決されているような感覚が否めない…。魔塔の人たちに愛し子として期待されているだろうに、現状は本当に何の成果も挙げられていない気がする。
みんな有能すぎて出番がないなぁふむふむ、なんて思いながらしょんと肩を落とした。
マーテルが目覚めて聖者が覚醒する頃には、大半の問題がすっきり解決した状態になるのではないだろうか。そうなれば残る問題はマーテルを倒す方法と、僕の魂とマーテルの繋がりについてくらいかな。
「マーテルって奴?天下の帝国が崇拝する女神にしてはすげぇ間抜けだよなー。こっち側の神サマから奪った力と魅了だけで成り上がったガチの無能なんじゃね?」
「まぁそうでしょうねぇ…正直、頭は弱いと思います」
「ぶっちゃけ帝国唯一の汚点ってやつだろ。女神のクソ具合知られたら他国に笑われるだろうな」
唐突に始まるマーテル悪口大会。
まぁまぁふたりとも落ち着くのじゃと宥めて、マーテルの内容よりも楽しい会話をしたいなと話を戻した。
「けんきゅーけっか、わかった。大作戦のお話する!」
「あ、そうですね。作戦会議しましょうか。こんな詰まらない話じゃなくて」
「悪いね壮大に話脱線させちゃって」
二人が研究資料をそそくさとしまう。それに合わせてふふんとソファに座り直し、司会者の如くぱんぱんと手を叩いて議論開始の合図を出した。
「じゃあ…まず誕生日パーティーってどんなことするのか教えてくれる?」
「うむ。お部屋かざりいっぱい。ケーキもぐもぐ。プレゼントわくわく。おめでとぱちぱち」
「パーティー会場を花や風船で飾り付けて、タルトやチョコケーキといった沢山のケーキを共に食し、誕生日プレゼントを主役にプレゼントし、クラッカーを鳴らしておめでとうと声を掛けます。と言っています」
「お前すげぇな」
「フェリアル様語翻訳一級を取得してるので」
誕生日パーティーの醍醐味と言えば、やっぱり皆でもぐもぐ食べるケーキとプレゼントだろう。それとおめでとぱちぱちも。
特にプレゼントは気持ちが相手に伝わりやすいからよき。手作りの小物とか、毎日身に着けられるといつでも嬉しい気持ちを味わえるから好きだ。
ケーキは好みによるけれど、おすすめはチーズケーキだよと伝えた。とってもおいしくておすすめなのだよ。
トラードは一通り聞くと真剣そうに頷いて、どこからか取り出したメモ帳に会話の全てをかきかきする。適当そうに見えるけれど、こう見えてトラードは意外と真面目だ。特にローズや家族のことになると尚更。
「ケーキは適当に作って、飾り付け?はリアム達に任せるとして…問題はプレゼントだなぁ」
きょとん。首を傾げて問い掛ける。
「ローズのすきなもの、なにかある?」
「それが分かんねぇんだよ…つーか、アイツに好きとか嫌いとかって概念そもそもあるのかねぇ…って、そんくらいのレベルでさ」
困った。好きなものが何一つ分からないなんて。せめて趣味とかよく食べる料理とかだけでもと聞いてみたけれど、やっぱり詳しい答えは返ってこなかった。
ローズは良くも悪くも一定で変化がなくて、現代で言うロボットのような淡白な日々を送っているらしい。
ご飯は特に注文も無く、出されたものを出されただけ食べる。残すこともおかわりすることもない。
趣味と言えば暗殺業だけで、休日どこかに行く様子もする様子もないのだと。
「むー…」
「困りましたね…」
うーんうーん…と数秒続く三人分の唸り声。やがてトラードが顔を上げると「まぁ悩んでても分かるわけじゃないし…」と話を切り出した。
「とりあえず、ローズの好物とかは俺が調べとく。飾り付け?とかはリアム達に任せるとして…問題はプレゼントだな。無断でここ離れたら疑われるし、誤魔化しもアイツには効かねーから」
ふむ…プレゼント。
確かにトラードがプレゼントを買うには少し危険かもしれない。
ローズに察知されないよう計画を進めなければならないから、なるべくトラードの動きを不自然にしてはいけない。
となると、ここはやっぱり僕の出番だ。
「僕、プレゼントてにいれる」
「おっ、マジか!」
「うむ。まじまじ」
そもそも僕は、トラードのお手伝いをすべく今日ここに来たのだ。
出来ることがあるなら何でもする。それがローズを喜ばせるためのことなら尚更。ローズの無表情をばっちり崩して笑顔にさせてみせる。
ふんすと息巻き、ぱあっと顔を輝かせるトラードにこくこく頷いた。
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