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【聖者の薔薇園-プロローグ】
183.ローズとアップルパイ
しおりを挟む「む…!?もふもふ!ふかふか!」
「この座席ね。フェリの為にもふもふ仕様に新調したんだ。父上の助言と母上の後押しもあって」
「大公家総出でフェリアル様を囲いに来てません??」
馬車の中。繊細な細工が施された黒い椅子は、何故か一席だけもふもふなメルヘン仕様になっていた。全体的に黒と金が基調とされた中、ぽつんと真っ白ふわふわ席があるのは少し目立つけれど。
座ってもいい?と聞くと返ってくる勿論の言葉。そわそわともふもふ座席に座ると、おしりがふかぁっと沈んで後ろに倒れそうになった。
これはあれだ、人をだめにするもふもふだ。座ってから二秒ほどしか経っていないのに、もう体も頭もふにゃふにゃしてきた。
「もふ…もふもふ…」
「もふもふに沈むフェリアル様マジきゃわ…」
隣にライネスが腰掛ける。シモンはそれを見てむすっとした表情を浮かべながらも、渋々といった様子で向かいの椅子に座った。どうしたのだろう、シモンもふかふか座席に座りたかったのかな。
ふわふわ、もふもふ。もごもご呟きながら椅子を堪能していると、やがて馬車がUターンして動き出した。窓から見えた景色の動きにあれ?と首を傾げる。
進行方向はさっきまで孤児院や伯爵邸の方だったのに、なぜかくるりんして僕の帰路の方へ走り始めた。どうしてだろう、道を間違えたのかなとぱちくりして問い掛けた。
「ライネス。どこいく?」
「うん?あぁ、実は大したことない用事があったんだけど…本当に大したことないから今度でいいや。せっかくフェリに会えたんだし、仕事なんかしてる場合じゃない」
仕事の方が大切なんじゃ…とも思ったけれど口にはしない。そう語るライネスの顔がとっても嬉しそうだから。
まぁいいかぁ、とこくこくして椅子に座り直す。気を抜くとすぐにだらーんっておしりが下がっていくから危険なのだ。このままこっくり寝落ちてしまいそうで。
もふもふを手で撫でながら、そういえばさっきの質問に答えていなかったと思い出した。僕はこんなところにこんな格好で何しに来たのか、という問いに。
「僕、トラードにあいにいった。ローズの誕生日、びっくりさぷらいず大作戦のため」
「うん?ローズの誕生日?へぇ、トラードってそういうこと気にするんだ。意外だね」
去年までは気にしてなかったみたい、と言うとライネスがやっぱりと苦笑した。
ローズの誕生日パーティーをすることになったけれど、やり方が分からないトラードに協力することになったのだと軽く説明する。プレゼントを手に入れる役になったのはいいけれど、肝心のプレゼントが未だに決まっていない。そう言うと、ライネスはきょとんと首を傾げた。
「ローズの好きなものとか知らないのかな。トラードとローズって相棒だよね?」
「そういうのは、きょーみなしって言ってた」
「そういうところ淡白だよねあの二人…」
ライネスはうーんと悩むような仕草を見せて、やがてそういえばと声を上げた。
「好物かどうかは分からないけど…ローズの好きなもの、心当たりくらいならあるよ」
「む!なぬ、おしえておしえて」
予想外の収穫に目を見開く。まさかトラードじゃなくライネスがローズの好物を知っているとは。
このタイミングでライネスに会えたのは運が良かった。そわそわ擦り寄りながら尋ねると、ライネスはなぜか顔を手で覆ってそっぽを向いてしまった。暑かったかなとあわあわ離れると、冷静な表情が戻ってにこっと笑顔を向けられる。よかった、元に戻った。
気を取り直してとひとつ咳払いをして、ライネスが心当たりについてを教えてくれた。
「多分だけど。ローズの好きな食べ物、アップルパイだと思う」
「……あっぷる、ぱい…?」
ズキッと不意に頭が痛んだ。
前世でプレイしたゲーム…最近は現実と認識して正しい記憶を思い出したせいか、薄れかけていたゲームのシナリオの内容。その中のローズの物語。
もう大分薄れて思い出すのが困難だけれど、何かがあった気がする。ローズとアップルパイ、その言葉で頭が痛くなったから、きっとこの二つの言葉には深い関係があるはずだ。
正直なところ、ローズのルートは何度もプレイしたわけじゃないから、他のルートの記憶よりも薄れるのが早いのはそういう理由もあるのだと思う。こんなことならもっと何度もやっておけばよかったと、後悔してももう遅いけれど。
「もっとききたい」
ローズの過去に繋がる重要な話だとすれば。
真剣な表情でねだると、ライネスはぱちぱちと瞬いた後に微笑みを浮かべて頷いた。
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