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【聖者の薔薇園-プロローグ】
閑話.シモンを休ませたい話(2)
しおりを挟むシモンがおかしい。
朝から青褪めたり溜め息を吐いたり。何か嫌なことをしてしまっただろうかと思い尋ねても、返ってくるのは「大丈夫ですよ」という力無い笑顔だけ。
本当に心当たりがないから焦燥だけが大きくなる。気が付かないうちに酷いことを言ってしまったのかもと思い返してみても、それらしいセリフが全く浮かばない。シモンは一体何に傷付いたのだろう…。
とにもかくにも、シモンのことはやっぱり休ませてあげた方がいいだろう。元気のない姿を見て更に膨らむ決意を胸に、まずはシモンを仕事から遠ざけねばと行動を開始した。
「シモン。おへや入っちゃだめ。よきって言うまで、立ち入りきんし」
「え……?」
朝食の後。早速いつものように掃除に取り掛かろうとしたシモンを慌てて止める。何か口実を…と探しながら口を動かし、反射的に立ち入り禁止という極論を口にしてしまった。
あ、と思ったけれどもう遅い。言ってしまったものは仕方がないからと、訂正はせずにそのままじっとシモンを見つめることにした。
シモンは数秒呆然と固まっていたけれど、やがておずおずと頷いてよろよろその場を離れていく。やっぱり具合が悪いんだ、しっかり休めるといいな。なんて思いながら、静かに部屋を出て行くシモンをじーっと見送った。
「……フェリくん。なにしてるぴょん?」
「ウサくん」
よーしおそうじでもしようかなーとふむふむ考えていると、ふとウサくんが近付いてきた。
部屋の隅でぐーすか眠るクマくんのお守りをしていたらしい。流石ぬいぐるみの中で一番ベテランお兄さんに近いウサくん。見た目はかわいくても中身はとってもかっこいい。憧れだ。
シモンが出て行った扉に向けていた視線を僕に移し、ウサくんがふと口にしたその言葉。きょとんとするウサくんにえっへんと答えてあげた。
「シモン、元気ない。だからおやすみさせる。僕、一人でもだいじょぶよってしょーめーするの」
ふんすと胸を張る。ウサくんはなるほどぴょんと頷き、けれど何処か納得がいかないのか小さく首を傾げた。どうしたのだろう、何か気になることでもあるのかな。
「……それ、シモンは望んでるぴょん?」
「む?体調わるいとき、やすむべき」
「ぴょん…確かに、具合が悪いなら休むべきぴょん」
「うむ。シモンねむねむ。僕、ひとりでがんばる」
そして元気になったシモンをびっくりさせて『すごいです天才です!』をどどんと言わせてあげるのだ。
いくら僕とシモンはいつも一緒だよふすふすと言っても、流石にシモンが不調の時は別。そういう時は一緒じゃなくて、きちんと休ませてあげるべきだ。
だからこそ、今回は僕がシモンに証明してあげる。僕だって一人でもなんだってできるのよーと。そうすればシモンは、ちょっぴりだけでも僕をベテランお兄さんとして認めてくれるはずだ。
「うーむ…でも何だか空回ってる気がするぴょん…」
「からまわり?ぐるぐる?」
ウサくんとぐるぐる語り合いながら、あっちをふきふきこっちをふきふき。
時間をかけてシモンの仕事である掃除をしっかりこなした後。
シモンの立ち入り禁止令を取り下げるべく部屋を出ると、なんと扉のすぐ横にぽつんとシモンが立っていた。
所在なさげに、元気もなく。しょんぼりと立っていたシモンは、僕が出てくるなり嬉しそうに振り向いてぱあっと笑顔を浮かべた。
「フェリアル様!もう大丈夫ですか?もう俺、入っても良いでしょうか!」
「う、うむ。大丈夫。はいってはいって」
「ありがとうございます!!」
本当に嬉しそうだ。よかった、僕がお掃除している間にきちんとお部屋で休めたみたいだ。
よきよきと頷いてシモンを迎え入れる。部屋に入って何やら見渡したシモンは、ふと笑顔を消して微かに震え始めた。
「あ…あの…なんだか、部屋がとっても綺麗…ですね」
「む!うむ。僕、ふきふきした。一人でお掃除もできるの」
「あぁ…そう、なんですね…掃除をお一人で…すごいですね…」
しょんぼり…と肩を落とすシモン。ふむ…どうやらまた元気がなくなってしまったみたいだ。
もしかして掃除が足りなかったのかな。シモンから見れば全然掃除できていない、だめだめな出来だったとか…?
どうしよう。ごめんなさいした方がいいかな…上手にお掃除できなくてごめんなさい…?うーむと悩んでいると、震えていたシモンがふとがっくし項垂れて踵を返した。
慌てて「シモン?」と呼び止める。
いつもなら掃除が終わった後は『一緒におやつでも食べましょうか!』とるんるん気分で提案してくれるのに。それかもしくは、庭園をお散歩とか。
けれど今はそんなことを提案できる空気じゃなそうだ。シモンはどんよりと振り返り、再び力無い笑顔を浮かべて細々と答えた。
「特に仕事は無いみたいなので…俺は廊下で待機しているので、何かあったら呼んでください…」
「そ…そっか…うん。わかった…」
そっかそっか…シモンは元気ないから、一緒におやつ食べる気力も庭園をお散歩する体力も残っていないんだ。
残念…と唇を引き結びつつ、とぼとぼ出ていくシモンを見送った。
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