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【聖者の薔薇園-プロローグ】
204.黒騎士
しおりを挟むじーっと向けられる視線。もしや…と自分に指をさすと、二人の瞳がすっと細められる。グリードがきょとんと首を傾げて僕を見つめ、やがてはっと息を吞んだ。
「あ、あれ?もしかして…ひ、姫…?」
恐る恐るというようにかけられる問い。僕がぴたっと固まったまま何も言えずにいると、二人が代わりにこくりと頷いた。
呆然とするグリードを見上げてあわあわと瞳を揺らす。どうしよう、お姫様じゃなくてがっがりさせてしまったかもしれない。グリードは可愛いお姫様を求めて帝国まで来たのに、実際にはその正体が女の子ですらなかった…なんて。
大きなショックを受けていることだろう。申し訳なくなってそわそわ体を揺らしていると、不意にグリードが感激した様子でぷるぷる震えて突如跪いた。
僕の目の前に、まるで餌を待つわんちゃんみたいに。
「姫!!あなたが姫だったのですね!!お会いできて光栄です姫!!」
「う、うむ」
「えぇ…うるさ…」
「やかましい犬だね」
あれれ、意外と好印象…?ぱちくりしながら何とか頷き、キラキラッと瞳を輝かせるグリードの尻尾ぶんぶんをぽーっと見つめる。どうやら本当に喜んでいるようだ。少なくとも、姫の正体に気落ちしている様子は見られない。
そもそも本当に自分がグリードの求める姫なのかどうか。そこも曖昧で確実とは言えない。とはいえリベラ様の愛し子という情報を聞く限り、恐らく…グリードの言う姫が自分であることに間違いはないだろう。
呼ばれ慣れない『姫』という敬称にもじもじそわそわしつつ、グリードのキラキラ視線からそーっと目を逸らした。
「そもそも、グリードはどうして帝国に…と言うか、フェリに会いに来たの?リベラ様から下った神託って、具体的にどんな内容だったのかな」
僕がもじもじ頬を染めていることにいち早く気が付いてくれたライネス。
すかさずグリードの気を引くような質問を口にしてくれたことに、内心ふわわーっと尊敬の感情を抱いた。さすがライネス、ベテランお兄さんだ。
グリードが「あぁ、それは…」と答えながら立ち上がった瞬間、とたとたと駆け出してシモンにむぎゅっと抱き着く。ひょいっと抱き上げられ、いつもの安心安全な定位置に収まってほっと息を吐いた。やっぱりここは落ちつくでござるなー。
安全地帯に収まったので緊張をほわっと解き、グリードの説明を真剣に聞く態勢に入った。ふむふむなるへそー。
「そんなに仰々しい内容じゃありませんよ。姫の情報と、リーベルタースから黒騎士を一人帝国に送れって。姫に危機が迫っているとかで、まぁ言ってしまえば助っ人みたいなものです」
僕の情報と、くろきし?についてを神託から指示されたみたいだ。
神から人への干渉は基本タブーだけれど、今回に関してはどうにか許しをもぎ取ったらしい。
舞台である帝国とは関係ない、隣国の人間を聖者の問題に巻き込む。これはリベラ様にとっても、かなりギリギリの干渉だったに違いない。
だからこそ一人しか認められなかったということもあるのだろうけれど…何にしても、リベラ様にはありがとうを伝えないと。今は聖者を超える戦力が少しでも多く必要だから。
それに、偏った宗教観の帝国とは違う国から味方が来るのは、正直とても有難い。
どうやってリベラ様にお礼言おうかなーと考えていると、ふとシモンが何か気になった様子でグリードに尋ねた。
「その黒騎士…って、何なんですか?」
「あぁ、シモン様は黒騎士知らないんですよね。黒騎士っていうのは、突出した闇属性覚醒者に与えられる称号のことですよ。普通の奴は持ってない、五感の特殊能力があるんです」
「それって……」
黒騎士は称号。基準は、他の闇属性の人達は持っていない五感の特殊能力。
シモンが持っている突出した視力。視界範囲内なら、どれだけ遠くの対象でも見えてしまう便利な能力のこと。
あれ?それならもしかして、レオも黒騎士ということになるのかな。それを口にしそうになって、慌てて堪えた。
そうだ、レオは表向きには光属性だけを語っているから、闇属性の能力は秘匿しているんだった。あぶないあぶない、せーふ。
「とは言え、この情報はかなり極秘のものでして…特殊能力自体、知っているのはリーベルタースの一部の黒騎士達だけなんです」
ゲーム…リベラ様が見せてくれた預言書では、特殊能力は周知されていないと書いていたはず。
けれど考えてみればゲームは帝国を舞台にしたもので、それ以外は全て世界の範囲外と言っていい扱いだった。帝国だけが世界として描かれているような。
だから、僕が知らない事実が他国にあってもおかしくはない。闇属性の特殊能力が、実は隣国では知る人物が少なからずいたということも。
「知っているのは黒騎士だけって、君も黒騎士ってこと?」
不意にライネスが口にした問いでぐるぐる思考がぴたっと止まる。
そろりと視線を向けると、グリードは得意気にニコッと笑って頷いた。
「俺、めちゃくちゃ耳良いっす!!」
犬なのに、嗅覚じゃないんだ……とは言わなかった。おくちちゃっく。
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