余命僅かの悪役令息に転生したけど、攻略対象者達が何やら離してくれない

上総啓

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【聖者の薔薇園-開幕】

220.再会の日

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「……」


 ついに訪れた今日。
 自室の窓にべったり張り付き、見下ろした先の正門をじーっと見つめ始めて小一時間が経った頃。無言で張り付いていたところを背後から不意にぺりっと剥がされ、むぎゅっと抱えられてしまった。


「む……」

「まだ朝ですよ。早くても昼以降でないと着かないと手紙が来たでしょう」

「むぅ…」


 それはそうだけれど。むぅっと口を尖らせて無言の抵抗。ぱたぱた足を動かしてうにゅうにゅ腕の中から脱出し、振り返って背後のシモンと対峙した。

 ぐぬぬ…っと睨んでみるが効果はいま一つ。怖がるどころか真顔でツーッと鼻血を垂らすシモンに僕の方が怖くなってしまった。どうして睨まれて鼻血を…?
 恐怖を感じた時に鼻血が出てしまう現象って、よくあるのかな。そんなことを考えながらスタスタとシモンの横を通り過ぎ部屋の入り口へ。
 背後から「どこへ行くんです?」と慌てた様子で尋ねるシモンに短く答えた。


「庭園。兄様達が帰ってきたら、すぐに分かるから」


 最近は授業が忙しくて、お花のお世話を庭師さんに任せていた。
 けれど今日は、兄様達が帰ってくるということで授業はお休み。せっかくだからお水をあげて待っていよう、と判断しそそくさと部屋を出た。




 * * *




 正門がよく見える、本邸正面の庭へ進む。天気は快晴、お花もいつもより数倍元気そうだ。
 シモンを連れて花壇まで歩いていると、ふと正に向かっている方角から聞き慣れた複数の声が聞こえてきた。はっとして歩みを速め、半ば駆け足気味にその場所に向かう。
 開けた場所に出てすぐ、その中央に四つのもふもふを確認し思わず立ち止まった。


「この生意気猫!勝手に他人様の敷地に入ってきて花を踏み荒らすとは何たる愚行!姫に代わってお仕置きしてやる!」

「なんだみゃこの犬野郎!踏み荒らしてなんてないみゃ!ちゃんと慎重に草のとこだけ歩いてきたみゃ!ミアはそういうところしっかりしてる賢い猫だみゃ!」

「それ草じゃなくてシロツメクサぴょん。フェリくんが大事によしよししてる立派な花だぴょん」

「最低クマ!ご主人様のお花ぐちゃぐちゃにするなんて最低猫クマ!」


 なにごと。シモンと一緒にぴたーっと動きを止める。じーっと目を凝らした先には、見覚えのあるまん丸猫ともふもふわんちゃん、そして二人のぬいぐるみがいた。

 それぞれふみふみと地団駄を踏んだりぽてぽてと飛び跳ねたり、ぷにぷにボディでがーんと青褪めたりと様々だ。何か事件があったことは確かなようだと察し、硬直を解き輪に近付く。
 足音に気が付いて振り返ったもふもふたちがハッとした様子で駆け寄ってきた。


「姫!ここは危険です!実は侵入者…いや、侵入猫が現れまして!」

「だっ、だからミアは怪しい猫じゃないみゃ!!」


 ぷにぷに、ぽてぽて、もふもふ。
 素敵な光景にぷるぷる体が震え始める。視界の端でシモンが苦笑したのが見えたけれど、構わずもふもふの中にバッ!とダイブした。
 もふっと全身が柔らかい感触に沈み、ぺしゃーっとなりながら深呼吸。うーむ、よきよきな空気でござる。


「みゃっ!?」

「うわっ!姫!?」


 ぴょんやらクマー!やら楽しそうな声が聞こえてゆったり起き上がる。
 もふもふぬいぐるみを二人どっちもむぎゅーっと抱き締めうりうり攻撃。ぷにぷにみゃーちゃんはほっぺでうりうり、人型のわんちゃんは耳と尻尾をもふもふっと満喫して解放してあげた。

 四人ともぷしゅーっと倒れ込み、なんだか事件後の光景みたいになってしまった。
 もふもふしすぎたかなと反省しながらしゃがみこみ「何があったの」と問い掛ける。本当に今更すぎる質問だけれど。
 僕の問いに即座に復活した四人が起き上がり、それぞれ目配せしてからミアが初めに話し始めた。それにしてもミア、久しぶりだみゃー。


「ミアは一足先に帰ってきたみゃ!もうちょっとで着くって伝言、ご主人様から頼まれましたみゃ!」

「え……この猫、マジで姫のお兄様の使い魔なんですか?」

「だからそうだっつったろだみゃ。お前の耳は飾りかみゃ?」

「ぐっ…!優れた聴力を小馬鹿にされるとは屈辱的な…っ!やっぱり猫は嫌いです!!」


 知らないうちにグリードとミアは犬猿の仲になってしまったみたいだ。ミア、お猿さんじゃないのに。

 お互いにビリビリした空気の二人から視線を移し、今度はぬいぐるみペアのウサくんとクマくんに事情を聞いてみる。二人はどうしてここにいたのかな。
 いつもならこの時間、クマくんが部屋でぐーすか眠ってウサくんはその子守りをしているはずだけれど。今日は眠くなったのかも。

 なんて思いながらの質問。二人が…というよりクマくんがにんまり笑って、えっへんどどどやぁと答えた。


「ご主人様が水やりをするという情報ゲットしたクマ!クマは偉いからお手伝いをしようとジョウロにお水を汲みに行ったんだクマ!」

「実際は重い重いって煩くて、ウサが水汲んでここまで持ってきたぴょん。なんにもしないからこいつは正直邪魔だったぴょん」

「なっ!余計なこと言うなクマ!クマだってがんばったクマ!」


 ぽてぽて。足をふみふみするクマくんをよしよしと抱き上げる。がんばってくれたのねありがとねー。
 ウサくんの頭もなでなで。お水運んでくれてありがとねと伝えると、長い耳が一瞬照れたようにふにゃりと垂れ下がった。


「フェリちゃん…シロツメクサふんじゃったみゃ…ごめんなさいみゃ…」


 不意にとことこ歩いてきたミアが足元でぷにゃーと項垂れる。沈んだ様子のミアをよっこらせと抱き上げ、ぷにぷにしながらシロツメクサの元に進んだ。
 花壇の花と一緒にお世話していたシロツメクサ。小さいけれど形や色が綺麗だから気に入っている、とっても可愛いお花だ。どうやらミアはそれを雑草と思って踏んでしまったらしい。

 覗き込んでみると、確かに丸い足跡が残る場所のシロツメクサは元気なく倒れてしまっていた。


「う、うぅ…ごめんなさいみゃ…ミアがまんまるなばかりに…面目ないみゃ…」

「ダイエットしろぴょん。猫にしてはお前、ちょっと丸すぎるぴょん」

「わかってるみゃ!ミアが一番分かってるんだみゃ!でも無理なんだみゃ…!マカロンもケーキも全部美味すぎるのが悪いんだみゃー!」


 いいのよだいじょぶよと頭をなでなで。まんまるぷにぷに。
 シロツメクサにも一緒にお水あげようねと言うと、ミアは涙目でこくこくぷにぷにと頷いた。よきよき、次気を付ければそれでよし。

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