余命僅かの悪役令息に転生したけど、攻略対象者達が何やら離してくれない

上総啓

文字の大きさ
205 / 423
【聖者の薔薇園-開幕】

240.ウサくんの探しもの(ガイゼルside)

しおりを挟む
 

「おい、今何か聞こえなかったか?」

「……?特に何も聞こえなかった。何か鳴ったか?」

「ウサもなんにも聞こえなかったぴょん」


 気のせいか。ディランと兎の反応を見て首を掻く。
 何かを強く殴ったような、蹴ったような。そんな音が何処からか微かに聞こえた気がしたが、どうやら気のせいだったらしい。
 神官共や聖騎士達に見つからないよう辺りの音や気配に集中していたからか、感覚が機敏になり過ぎていたようだ。

 緊張なんて柄じゃねぇ。呆れながら溜め息を吐き、幻聴から気を逸らして目先に集中した。
 向かう先は皇太子が軟禁されている部屋。本音を言うとさっさとチビを探して救出したいところだが、計画の為には冷静にならざるを得ない。
 皇太子が持つ影響力は諸刃の剣。万が一魅了に屈した皇太子を神殿に悪用でもされれば、それは結果的にチビの安全を脅かす要因になる。
 不安要素を取り除くことが先決。分かっていても、チビの現状を想像する度焦燥が湧いてくる。


「さっさと行くぴょん。あのお馬鹿クマも探さなきゃいけないぴょん」

「あ?あぁ…チビの人形が一匹逃げ出したんだったか」


 不意に兎が語った言葉。チビが聖騎士のクソ共に連行された辺りから、例のクマが姿を消したらしい。こんな時に迷惑なモンだ。
 見たところ率直で素直でアホっぽいクマだったことから、恐らくチビを追って神殿に向かったのだろうが…まぁそんなことはどうでもいい。今は目先の計画に集中しねーと。


「クマは後回しだ。今は殿下の奪還作戦を遂行しなければ」

「そうだな。クマはどうでもいい。重要なのは皇太子の奪還とチビの安否だけだ」

「お馬鹿クマが今の言葉聞いたら泣いちゃうぴょん。その辺で勘弁してやるべきぴょん」


 思いのほか道徳がしっかりしたぬいぐるみらしい。人間でもねぇただのぬいぐるみのくせに、下手したら俺らより親切だ。


「ウサは皇太子どうでもいいぴょん。さっさと済ませてクマとフェリくんの捜索に励むぴょん」

「言われなくても分かってるつーの」


 皇太子がどうでもいいのは俺も同じだ。恐らく、ディランも。
 適当に言葉を返して息を吐くと、不意に手前を歩いていたディランが立ち止まった。暗がりを進んだ先。入り組んだ秘密通路を躊躇することなく歩いた先にあったのは、何度目かの分かれ道だった。

「どうした」と怪訝に問い掛ける。じっと足元を見て膝をついたディランが、首だけ振り返って足元を指さした。


「足跡だ。俺達の他にも、神殿に侵入している者達が居るらしい」


 その言葉にハッとして地面を見下ろす。石畳と土が混じったような地面には、薄らだが確かに足跡が見えた。見える分だけでも三人分、少し前にこの道を通ったようだ。
 敵か味方か。神殿の関係者か対抗する何者かは分からないが、とにかく重要なのは秘密通路の存在を知る者が俺達の他に存在して、少し前にこの場にいたという事実。

 この秘密通路がそれぞれどこに通じているのか、そこまでは調べられなかった。
 俺達はチビの居場所も皇太子の場所も、曖昧な情報しか持っていない。もしこの足跡の主達が皇太子側の人間で、少なくとも俺達の敵ではないのだとしたら。


「足跡を追うぞ。どう出るかは結果次第だ。敵と鉢合わせれば殺す、こっち側の人間なら引き入れる」


 それでいいな、と半ば圧をかけるように念を押すと、ディランも兎も文句はないと頷いた。




 * * *




 そうして、足跡を追って秘密通路を進んだ先。
 目の前に広がる光景に全員間抜けに目を見開いて硬直した。


「ここで一体何が…」


 小さく呟くディランが一歩踏み出す。秘密通路の扉である本棚が吹き飛ばされ、秘密通路が剥き出しになった出口から。

 この部屋に少し前、誰かがいたことはまず間違いない。乱れたベッドシーツに所々倒され壊された家具、そして焼け焦げた壁の一部。複数人がここで争ったのだろうか。
 争ったということは、やはり秘密通路を抜けてここに出た足跡の主達はこっち側の人間か。神殿の関係者に見つかりやむを得ず争いになった、といったところだろうか。
 だとしても、本棚を吹き飛ばして中に入った豪快な人間であることを想像すれば、こっち側と言えどあまり手を取り合いたくはない。


「……」


 室内の様子を確認するディランと兎から離れ、少し開いた部屋の扉から静かに廊下の様子を窺う。
 案の定、この部屋の周辺の警備をしていただろう聖騎士達は全員気を失っていた。この惨事で誰一人としてこの部屋の中に入って来ないのはおかしいと思ったが、それにしても、秘密通路を進んできたのは本当にたった三人なのだろうか。

 たった三人で、これだけの聖騎士達を倒し突破したとは信じられない。


「ガイゼル。少し来てくれ」


 室内からかけられた言葉に我に返る。無言で踵を返して戻ると、そこには何やら床に落ちているものを取り囲むディランと兎の姿があった。

 怪訝に思いながらも近寄る。ディランはともかく、こっちに背を向けてしゃがみこんでいる兎の表情がよく見えない。黙り込む後ろ姿に妙な感覚を抱いたが、一体何なのか。
 覗き込むと、そこには焼け焦げた一部の綿と布、大量の灰が落ちていた。


「……何だこれ?」

「分からない。だがさっきから兎が動かない」


 だから何か意味があるものなのかもしれない。そう無表情で淡々と語るディラン。
 兎に尋ねてみるが、一向に返事が来ない。眉を顰めて様子を窺い数秒。ふと兎に表れた変化にゆっくりと目を見開いた。

 ピンと張った長い耳が垂れ下がり、チビの好きなもふもふとした毛が萎む。
 ぬいぐるみだ、泣くことなんてない。分かっているのに、その時の兎の震える後ろ姿は、まるで人間が涙を流しているかのように見えた。

しおりを挟む
感想 1,721

あなたにおすすめの小説

公爵家の末っ子に転生しました〜出来損ないなので潔く退場しようとしたらうっかり溺愛されてしまった件について〜

上総啓
BL
公爵家の末っ子に転生したシルビオ。 体が弱く生まれて早々ぶっ倒れ、家族は見事に過保護ルートへと突き進んでしまった。 両親はめちゃくちゃ溺愛してくるし、超強い兄様はブラコンに育ち弟絶対守るマンに……。 せっかくファンタジーの世界に転生したんだから魔法も使えたり?と思ったら、我が家に代々伝わる上位氷魔法が俺にだけ使えない? しかも俺に使える魔法は氷魔法じゃなく『神聖魔法』?というか『神聖魔法』を操れるのは神に選ばれた愛し子だけ……? どうせ余命幾ばくもない出来損ないなら仕方ない、お荷物の僕はさっさと今世からも退場しよう……と思ってたのに? 偶然騎士たちを神聖魔法で救って、何故か天使と呼ばれて崇められたり。終いには帝国最強の狂血皇子に溺愛されて囲われちゃったり……いやいやちょっと待て。魔王様、主神様、まさかアンタらも? ……ってあれ、なんかめちゃくちゃ囲われてない?? ――― 病弱ならどうせすぐ死ぬかー。ならちょっとばかし遊んでもいいよね?と自由にやってたら無駄に最強な奴らに溺愛されちゃってた受けの話。 ※別名義で連載していた作品になります。 (名義を統合しこちらに移動することになりました)

悪役令息を改めたら皆の様子がおかしいです?

  *  ゆるゆ
BL
王太子から伴侶(予定)契約を破棄された瞬間、前世の記憶がよみがえって、悪役令息だと気づいたよ! しかし気づいたのが終了した後な件について。 悪役令息で断罪なんて絶対だめだ! 泣いちゃう! せっかく前世を思い出したんだから、これからは心を入れ替えて、真面目にがんばっていこう! と思ったんだけど……あれ? 皆やさしい? 主人公はあっちだよー? ユィリと皆の動画をつくりました! インスタ @yuruyu0 絵も動画もあがります。ほぼ毎日更新 Youtube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます。動画を作ったときに更新 プロフのWebサイトから、両方に飛べるので、もしよかったら! 名前が  *   ゆるゆ  になりましたー! 中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー! ご感想欄 、うれしくてすぐ承認を押してしまい(笑)ネタバレ 配慮できないので、ご覧になる時は、お気をつけください!

超絶美形な悪役として生まれ変わりました

みるきぃ
BL
転生したのは人気アニメの序盤で消える超絶美形の悪役でした。

この世界は僕に甘すぎる 〜ちんまい僕(もふもふぬいぐるみ付き)が溺愛される物語〜

COCO
BL
「ミミルがいないの……?」 涙目でそうつぶやいた僕を見て、 騎士団も、魔法団も、王宮も──全員が本気を出した。 前世は政治家の家に生まれたけど、 愛されるどころか、身体目当ての大人ばかり。 最後はストーカーの担任に殺された。 でも今世では…… 「ルカは、僕らの宝物だよ」 目を覚ました僕は、 最強の父と美しい母に全力で愛されていた。 全員190cm超えの“男しかいない世界”で、 小柄で可愛い僕(とウサギのぬいぐるみ)は、今日も溺愛されてます。 魔法全属性持ち? 知識チート? でも一番すごいのは── 「ルカ様、可愛すぎて息ができません……!!」 これは、世界一ちんまい天使が、世界一愛されるお話。

伝説のS級おじさん、俺の「匂い」がないと発狂して国を滅ぼすらしいい

マンスーン
BL
ギルドの事務職員・三上薫は、ある日、ギルドロビーで発作を起こしかけていた英雄ガルド・ベルンシュタインから抱きしめられ、首筋を猛烈に吸引。「見つけた……俺の酸素……!」と叫び、離れなくなってしまう。 最強おじさん(変態)×ギルドの事務職員(平凡) 世界観が現代日本、異世界ごちゃ混ぜ設定になっております。

義兄の愛が重すぎて、悪役令息できないのですが…!

ずー子
BL
戦争に負けた貴族の子息であるレイナードは、人質として異国のアドラー家に送り込まれる。彼の使命は内情を探り、敗戦国として奪われたものを取り返すこと。アドラー家が更なる力を付けないように監視を託されたレイナード。まずは好かれようと努力した結果は実を結び、新しい家族から絶大な信頼を得て、特に気難しいと言われている長男ヴィルヘルムからは「右腕」と言われるように。だけど、内心罪悪感が募る日々。正直「もう楽になりたい」と思っているのに。 「安心しろ。結婚なんかしない。僕が一番大切なのはお前だよ」 なんだか義兄の様子がおかしいのですが…? このままじゃ、スパイも悪役令息も出来そうにないよ! ファンタジーラブコメBLです。 平日毎日更新を目標に頑張ってます。応援や感想頂けると励みになります。   ※(2025/4/20)第一章終わりました。少しお休みして、プロットが出来上がりましたらまた再開しますね。お付き合い頂き、本当にありがとうございました! えちち話(セルフ二次創作)も反応ありがとうございます。少しお休みするのもあるので、このまま読めるようにしておきますね。   ※♡、ブクマ、エールありがとうございます!すごく嬉しいです! ※表紙作りました!絵は描いた。ロゴをスコシプラス様に作って頂きました。可愛すぎてにこにこです♡ 【登場人物】 攻→ヴィルヘルム 完璧超人。真面目で自信家。良き跡継ぎ、良き兄、良き息子であろうとし続ける、実直な男だが、興味関心がない相手にはどこまでも無関心で辛辣。当初は異国の使者だと思っていたレイナードを警戒していたが… 受→レイナード 和平交渉の一環で異国のアドラー家に人質として出された。主人公。立ち位置をよく理解しており、計算せずとも人から好かれる。常に兄を立てて陰で支える立場にいる。課せられた使命と現状に悩みつつある上に、義兄の様子もおかしくて、いろんな意味で気苦労の絶えない。

悪役令息ですが破滅回避で主人公を無視したら、高潔な態度だと勘違いされて聖人認定。なぜか溺愛ルートに入りました

水凪しおん
BL
BL小説『銀の瞳の聖者』の悪役令息ルシアンに転生してしまった俺。 原作通りなら、主人公ノエルをいじめ抜き、最後は断罪されて野垂れ死ぬ運命だ。 「そんなの絶対にお断りだ! 俺は平和に長生きしたい!」 破滅フラグを回避するため、俺は決意した。 主人公ノエルを徹底的に避け、関わらず、空気のように生きることを。 しかし、俺の「無視」や「無関心」は、なぜかノエルにポジティブに変換されていく。 「他の人のように欲望の目で見ないなんて、なんて高潔な方なんだ……!」 いじめっ子を視線だけで追い払えば「影から守ってくれた」、雨の日に「臭いから近寄るな」と上着を投げつければ「不器用な優しさ」!? 全力で嫌われようとすればするほど、主人公からの好感度が爆上がりして、聖人認定されてしまう勘違いラブコメディ! 小心者の悪役令息×健気なポジティブ主人公の、すれ違い溺愛ファンタジー、ここに開幕!

有能すぎる親友の隣が辛いので、平凡男爵令息の僕は消えたいと思います

緑虫
BL
第三王子の十歳の生誕パーティーで、王子に気に入られないようお城の花園に避難した、貧乏男爵令息のルカ・グリューベル。 知り合った宮廷庭師から、『ネムリバナ』という水に浮かべるとよく寝られる香りを放つ花びらをもらう。 花園からの帰り道、噴水で泣いている少年に遭遇。目の下に酷いクマのある少年を慰めたルカは、もらったばかりの花びらを男の子に渡して立ち去った。 十二歳になり、ルカは寄宿学校に入学する。 寮の同室になった子は、まさかのその時の男の子、アルフレート(アリ)・ユーネル侯爵令息だった。 見目麗しく文武両道のアリ。だが二年前と変わらず睡眠障害を抱えていて、目の下のクマは健在。 宮廷庭師と親交を続けていたルカには、『ネムリバナ』を第三王子の為に学校の温室で育てる役割を与えられていた。アリは花びらを王子の元まで運ぶ役目を負っている。育てる見返りに少量の花びらを入手できるようになったルカは、早速アリに使ってみることに。 やがて問題なく眠れるようになったアリはめきめきと頭角を表し、しがない男爵令息にすぎない平凡なルカには手の届かない存在になっていく。 次第にアリに対する恋心に気づくルカ。だが、男の自分はアリとは不釣り合いだと、卒業を機に離れることを決意する。 アリを見ない為に地方に移ったルカ。実はここは、アリの叔父が経営する領地。そこでたった半年の間に朗らかで輝いていたアリの変わり果てた姿を見てしまい――。 ハイスペ不眠攻めxお人好し平凡受けのファンタジーBLです。ハピエン。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。