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一章
1.異世界マフィアの悪役次男
前世は病弱な少年だった。
生まれつき不治の病を患い、余命はたったの十五年。そしてだいたい余命通り、中学を卒業する前に死んでしまった。
家族は悲しんでくれていたと思う。最期の瞬間まで両親の泣き声は聞こえていたから、少なくとも愛されて死ぬことが出来たという点だけは満足だ。
あまりに余命が少なすぎたのは不満だったけれど。
とは言え、不幸なわけではなかった。人生の殆どを病室で過ごした俺だけれど、それなりに立派な趣味もあった。
それは読書。一人ぼっちの寂しさを生めるように、たくさんの本を読み漁った。
その中でも特に男性同士の友情……バディモノが好きだったのは、きっと友達がいなかった空虚な感覚を埋めたかったからだと思う。
そんな男性同士の友情モノ。さらにその中でも断トツでハマった小説がある。
と言っても、その小説は友情では終わらないジャンルのものだったけれど。
その“BL”小説──『暗雲を裂く華』、通称“暗華”は異世界を舞台としていて、且つマフィアが主役という斬新な小説だった。ファンタジー作品ばかりが人気作のランキングに並んでいる中、その小説だけは異質のオーラを放っていた。
当然、そんな小説を見つけてしまえば読んでしまうのが読書好きの性というもの。
その小説が『男性同士の友情』で終わらないものだと知らず読み始めた訳だが…お察しの通り、見事にハマってしまった。
クールな受け主人公アンドレアと、にこやか腹黒な攻め主人公ロキ。
裏社会を牛耳る二家の後継者である二人の危険な恋愛劇!それはもはや、異世界版『ロミオとジュリエット』と例えられるほどの壮大なラブストーリーだ。
そうして最期の瞬間も、俺はその小説のことを想っていた。
何せ遺言は「ロキアンさいこう…」である。せめて両親への感謝の言葉を紡げと今になれば思うが、これは主人公カプであるロキアンが最高すぎたのが悪い。
小説にハマっていたことは両親も知っているから、きっと俺が死んだ後に「あの子ってば最後まで馬鹿な子だったわねぇ」とほのぼの語っているはずだ。そうであってほしい。
そんなこんなで未練なく短い人生を終えたはずの俺だったが、気付くと別の人間に転生していた。
いや、待ってほしい。頭がおかしくなったわけじゃなく、本当に転生したのだ。それも前世の記憶を持ったまま。
一応日本人だったので輪廻転生への理解はそれなりにある。あるけれど、せめて前世の記憶を消してあげるのが最低限のルールじゃないかね、神様よ。
なんて呆れていた時期が俺にもありました。今となっては前世の記憶があって良かったと心底思っているけれど。
それは何故か。転生先が例のドハマり小説の登場人物、それも受け主人公の弟だったからだ。
そう、恐ろしい異世界マフィアの次男ってこと。ハードモードすぎる。
* * *
俺が産まれた国、ラッド王国。
この国の裏社会は二大ファミリーと呼ばれる二家のマフィアによって機能している。表社会でも同様に、莫大な財力と権力を有しているのは主にこの二家だ。
ベルナルディとヴァレンティノ。
二家の権力は絶対であり、また平等である。これが裏社会の暗黙の了解。
ベルナルディは受け主人公アンドレアが属するファミリー、そしてヴァレンティノは攻め主人公ロキが属するファミリーだ。
俺の転生先であるルカ・ベルナルディは、まさに二大ファミリーのうち一つであるベルナルディ家の次男だった。ちなみに役立たず故に序盤で殺される脇役である。なんでだよ。
ルカは超絶我儘だった上に、とにかく体が弱すぎた。
はっきり言ってしまえば、マフィアの家系に生まれるにおいてめちゃくちゃ相応しくないクソガキだったのだ。だからって殺さないでほしいけど。
そんなルカだが、これまた不憫設定なことに生まれた当時から『愛されない子供』というレッテルが確定していた。何故なら彼は、最低最悪な後妻から生まれた子だったからである。
話を整理しよう。まずベルナルディ家の家族構成は父、母、兄、俺である。
受け主人公である兄とは異母兄弟。
ベルナルディのトップに君臨する父が溺愛していた前妻は、ある日ファミリーの抗争に巻き込まれあっさりと命を落とした。
前妻だけを愛していた父は絶対に後妻は取らないと豪語していたのだが、まぁ人生そうそう思いのままにはいかないもので。
ベルナルディの人間達に慕われた彼女が亡くなった傷も未だ癒えない頃、事件は起こった。
とある日、なんと『ベルナルディ家の血を引く子を孕んでいる』と語る女が本家の門を叩いたのだ。その女性が俺の実の母というわけ。
母は由緒正しい公爵家の令嬢で、父にガチ恋していた強火ストーカーだった。
前妻の訃報を耳にした母はこれ幸いとばかりに父の精液を膣に流し込み…そう、母は父の精液をどこからか盗んでいたのだ。ガチのストーカー過ぎてこの話を思い出すだけで泣きそう。恐怖で。
そんなこんなで都合よく父の子、つまり俺を孕んだ母。
そうはならんやろ、と思うだろうがふわふわっとした感じで信じてほしい。何度も言うが、ここは小説の世界である。
この世界は魔力でDNA検査っぽい何かも出来るので、見事に俺の血筋は証明されてしまった。
流石にベルナルディの血を引く子を野放しにすれば、最強遺伝子でなんかとんでもない人間が首輪無しで世に放たれてしまう可能性も少なくない。その心配もあったために、父は俺を認知する他なかったのだ。
なんか…なんかほんとごめんよパパ。
公爵令嬢を孕ませたということもあって、俺だけ渡してお前は失せろということも勿論できなかった父は、嫌々ながらも母を後妻に受け入れることに。
そんなこんなで俺、ルカ・ベルナルディの短い人生は幕を開けた。
重い出生すぎて草も生えない。
さて、ここからが俺の爆誕から今現在に至るまでのお話である。
案の定と言うべきか、でしょうねと言うべきか。赤ん坊の俺は生まれて早々本館からかなり離れた別館に移されてしまった。
ちなみに母は実家の力を使って本館に残ったらしい。
赤ん坊の頃から意識がはっきりしていた俺は、当然自分の冷遇されっぷりもしっかりと見て聞いていた。
別館付きの構成員達の冷たい目と態度に何度心折れそうになったか…ここまで必死に媚売って生き伸びた自分を褒め称えたい。
気を付けたのは使用人や構成員たちへの接し方。とにかく常に穏やかに、けれどマフィアの子らしい冷静さを保ち、且つ我儘は決して言わず。
それを数年徹底してきた。時折庭で摘んだ花をプレゼントしたり、すれ違ったら必ず挨拶をしたり。そんな何気ないことも気を抜くことなく努力した結果どうなったか……
うむ、かなーりとっても成功しすぎてしまった。
いや、漠然とした答えに悶々としてしまうだろうけれど、どうか聞いてほしい。本当にかなーりとっても成功しすぎたのだ。
使用人は毎日俺の隠し好物である甘いスイーツを作るようになったし、別館を守る構成員たちは俺を視認する度嬉しそうに手を振ってくるようになった。
たまに敷地内に侵入してきた敵が俺に襲い掛かると、みんな鬼の形相で敵をボコボコにするほど。
とりあえずは原作のように、別館の人たちにすら嫌われるシナリオは回避出来た。
表向き平和な金持ち生活を手に入れたのである。たまに刺客が襲ってくるけど。
そんなこんなで上手く最悪のプロローグは脱却出来たし、この調子でパパ達とも仲良くなるぞー!
……とはもちろんならない。マフィアと関わるなんて御免である。怖いしガクブルだ。俺もマフィアの子なんだけれども。
我儘は言ってないしパパにとっても大人しい次男になれたはず。原作のようにクソガキ故に殺される未来はほぼ回避したと言っていいだろう。
という訳で、ぜひそのまま冷遇放置して俺のことを忘れてくれたらハッピーエンドなんだけどなぁというのが現状の本音。
なんて思っていたけれど…まぁそんなに上手くいかないのがリアルな人生というもの。否が応でも鬼のパパ達と関わる機会がついに来てしまったのだ。
それはずばり、俺の六歳の誕生日。
ついにストーリーが動き出し、ザマァエンドになるとはもちろん知らない母が、自爆一直線の愚策を着々と巡らせ始めたのだ。
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