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一章
2.生存作戦!忠実なる下僕をゲットせよ!
物語の序盤、初めに起こる大きな展開と言えば、やはりあれだろう。
主人公と対立する初めの悪役、つまり弟である俺と母が退場するザマァ展開。その引き金を引きやがり下さるのは俺の実の母、ディアナだ。あの強火ストーカーね。
ディアナはベルナルディ家と愛する夫を我が物とすべく、後継者に実の子を据える計画を考えた。
つまり俺を、ベルナルディの嫡男であり主人公の兄を差し置いて、後継者にしようとしたのである。
無能な悪役の弟が仮に後継者になったとして、早々に周囲に排除されるだろうに。その辺を考えない母はやっぱり無能な悪役である。しっかりしてママ。
まぁそんなこんなで実子を後継者とするべく奮闘し始める母。その過程で主人公である俺の兄を虐めに虐め抜いたりもするのだが……お察しの通り、最後には普通にやり返されてザマァエンドである。虚しい。
しかしながらこれもストーリーの大切な序章、主人公が打たれ強さを養う大事なイベントなのだ。
出来ればあまり小説の内容を変えたくはないが、少しも干渉しなければそれはそれで俺が死ぬ。兄には悪いが、このイベントは省略させてもらおうじゃないか。
俺の生存のため、兄を助けて恩を売り、ついでにちょっとだけ媚びも売る。そういう計画である。
その為にはやっぱり母をどうにかするしかない。それと同時に兄を母の魔の手から守らなければ。
うーむどうしたものか。強火ストーカーの母はどうなろうと構わないが、飛び火がこちらに飛ぶのは避けたい。ザマァエンドの対象から俺を外して、母のみを退場させるには……。
……うむ、やっぱり逃げてばかりではいられない。母をこの先野放しにしておけば、結局俺も死の結末から逃れられないのだから。
やるしかない。という訳で、俺は小説のストーリーに参戦することにした。母を何とかしつつ兄を守ったらとっととサヨナラをするつもりなので、序章だけ耐えればいい。うん、いける。できる。
そうと決まれば準備だ。きっともうすぐ、父を実家の力で説得した母から手紙が届くはずだから。
俺の六歳の誕生日パーティー。ザマァエンドの引き金となる手紙が。
* * *
六歳になるまでの数年、ザマァエンドが決まる誕生日パーティーの対策を毎日のように考えていたのを思い返す。この日々を無駄にするのだけは避けたい。
必死に生存のための策略を考えて考えて……そうして辿り着いた答えを改めて紙にまとめる。一番上にはタイトルとなる作戦名を、それはもう大きな文字でドンと書いた。
ザマァエンド回避、そして悪役生存ルートのための作戦、その名はずばり!
──『主人公に媚びを売りつつ、こっそり主人公の仲間を盗んじゃおう大作戦』である!
「むん……」
いや、待ってくれ。少し落ち着いてほしい。
なんだこのいかにも小物悪役っぽい作戦は、と思ったかもしれないが少し落ち着いてほしい。
鉛筆片手にふしゅーっと息を吐きながら、改めて作戦の内容を紙に書き連ねる。
作戦内容をざっくりと説明しよう。
俺が六年かけて考えた作戦、その内容をざっくり説明してしまうと、つまり『主人公に媚売りをして生存の確立を少しでも高めときつつ、いざという時のために主人公の仲間となる予定のキャラをこっち側に取り込んでしまおう』ということである。
……うーむ、ざっくり説明したら更に小物悪役っぽくなってしまったような……いや!そんなことはない!俺はただ生き残りに必死なだけの努力家な転生モブなのだ。うむ!
まぁせっかく小説の内容を知っていることだし、この強みを使わない手はないだろう。
小説の主人公……つまり俺の兄、アンドレア。アンドレアはストーリーが進むごとに仲間を増やしていくのだが、その仲間となるキャラ達が、それはもうとっても賢い強キャラばかりなのだ。
そして、そのうち一番目にアンドレアの忠実な部下となる人物……そのキャラこそ、小物悪役である俺を殺してザマァエンドに追い込む張本人なのである──!
「これはだめだ……ぜったいにあの男を俺の仲間にしないと……」
鉛筆を持つ手ががくがくと震える。
こ、これは怖がってるわけじゃないよ、武者震いというやつである。ぶるぶる……。
……まぁ何はともあれ、俺を排除する主人公の忠実なる下僕、あの男を放置して決戦の場である誕生日パーティーへ行くことは出来ない。
兄への媚売り作戦が失敗してしまう可能性が無きにしも非ず。最悪のパターンを想定して、逃亡のための仲間を増やすのは作戦の必須事項である、というわけなのだ。
そして、俺が仲間に!と考えているキャラこそがアンドレアの忠実なる部下となる人間の一人。
一時期王国中を震撼させた、スラム街が生んだ稀代の殺人鬼。
──通称、『切り裂きジャック』と呼ばれる男だ。
切り裂きジャックは狂った無差別殺人鬼……と言われているが、実は彼の殺害対象は無差別というわけじゃない。
よくよーく調べれば簡単に被害者の共通点に辿り着くのだが、まぁ加害者も被害者もスラム街の住人、言ってしまえば人間以下の立場である彼らの事件を、高尚な人間様である警備隊がマジメに調べるはずもなく……。
結果的に切り裂きジャックは単なる快楽殺人鬼として追われる日々を過ごし、そんなある日、ジャックの殺人動機や信念を察したアンドレアが彼を味方に引き込もうと動き出す。
ジャックが警備隊に追われ瀕死で隠れていたところに、主人公である兄が救いの手を差し伸べ……そうして、ジャックはまんまとアンドレアに堕ちることになるのだ。
「そのときのアンドレア、すっごくかっこいいんだよなぁ……」
アンドレアがジャックを堕とす、小説のストーリーでも特に好きなシーンだ。
スラム街の片隅、ゴミ捨て場に倒れる瀕死のジャック。そこへ近付く一つの足音。やってきたのは、艶やかな至極色の長髪を靡かせた美しい青年、アンドレア。
彼は倒れるジャックを見下すように凛と立ち、一言声を掛けるのだ。
『貴様、俺のモノになれ』
その一言にジャックの心が揺れる。
死にかけの彼に訪れた救世主。アンドレアは、呆然とするジャックに最後の一押しとなるセリフを語った。
『──貴様の動機も過去も興味は無い。殺したい奴が居るなら殺せ。その代償に、貴様は俺の肉壁となれ』
『──弾も刃も全て受け止めろ。俺が貴様の命を買う』
アンドレアは、ジャックを肉壁として買った。
敵の多いアンドレアは毎日のように攻撃を受けていた。その全てを躱すのは骨が折れる。だから、自分の代わりに攻撃を全て受け止める人形を欲した。
それに選ばれたのが、大量殺人鬼の切り裂きジャック。
彼なら使い捨てが効く。生粋のマフィアであるアンドレアはそう考えた。
そうしてジャックもまた、同じように思っていた。使い捨ての効く自分。それを活用してくれる人間が現れたことに、救いを感じたのだ。
……今度は、俺がその言葉をジャックにかければいい。
そうすれば、ジャックはアンドレアではなく俺のものになる。俺を守る忠実な部下となる。人形となる。
そうすれば、俺が生存する確率は格段に上がって……。
「……」
ふと思う。たった今思い出した小説の一節は、この世界では現実だ。
創作されたキャラクターじゃなく、生きている人間。小説ではたった数行で記されたジャックの壮絶な過去も、ここでは何年にも渡るリアルな地獄なのだ。
そんな彼を、俺の生存のためだけに人形に……?
「……だめ、だめ。俺は生きるんだ……死にたくなんて、ないもの」
浮かんだ甘い考えを振り払う。
湧き上がる迷いを断ち切るように、俺は早速ジャックを堕とすための準備を始めた。
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