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一章
3.寡黙なガチムチ獣人奴隷
「ルカ様ァ!!外出されるとは本当なのですかルカ様!?」
「ルカ様!お外はとっても恐ろしい世界なのですよ!愛らしいルカ様が俗物に触れるなど……あぁ!悍ましい悍ましい!!」
「ルカ様!我らの天使ルカ様!何か欲しい物があるなら我らが命を賭してでも手に入れます故!どうか!どうかお考え直しを……!」
朝っぱらからなんて騒がしいのか。そんなことを当人の立場でふと思ってしまった。
ベルナルディ家の敷地を出て城下町……それより下にあるスラム街へ向かう。そう宣言した今朝。
俺は別館の門の前で、別館付きの使用人や構成員達に囲まれていた。完全に道を塞がれてしまっている。
産まれてこの方ベルナルディ家の敷地外になんて出たことがなかったからか、彼らの母性やら何やらが大爆発してしまったらしい。まぁ別館に仕えているのは全員男だけど。
とはいえ、俺を赤ん坊の時から見守り育て上げてくれたのはこのガチムチママ達だ。
俺を冷遇する血の繋がった両親をもはや親とは呼べない以上、俺にとっての父やら母やらを敢えて呼称するなら、あの二人より彼らの方が相応しい。
今だって、俺のことをこんなにも心配してくれている。実の両親はきっと、六歳の誕生日パーティーの話が出るまで俺のことを覚えてすらいなかっただろうけれど。
それでも、いや、だからこそ。よりガチムチママ達の存在の重要さが際立つというものだ。
「ありがとうみんな。でも心配しないで。俺もそろそろマフィアとして、ここで生き残るための行動を始めないと。みんなもわかるでしょ……こほんっ、わかるだろ?」
そう言うと、俺を囲むガチムチ達が一斉にギクッと肩を揺らした。
かと思うと仲間内でチラチラと目配せをし初め、最後に俺に視線を戻してしょんぼりと眉尻を下げる。分かりやすすぎていっそ清々しい。
彼らも当然分かっているのだ。俺がベルナルディの血を引く以上、いつかは血みどろの舞台の上へ否が応でも放り込まれる。
その為の対策を今から始めるのはなんらおかしくない。寧ろ得策と言えることを。
「ルカ様……あぁ、我らのルカ様がいつの間にこんなにもご立派に……」
俺を取り囲んでいたガチムチ構成員の中の一人、リーダー格のスキンヘッドのガチムチが前へ出る。
膝をついて切なげに歪む強面を前に、俺は思わずふにゃっと頬を緩めて両腕を伸ばした。小柄な体では、膝立のガチムチにすら手が届かず、ちょっぴりムッとしながら指示を出す。
「……かがめ。ぎゅってする」
「グゥッ!!」
何やらおかしな呻き声を上げるガチムチスキンヘッドが少し屈む。
すかさず両腕を太い首に回してぎゅっと抱き着き、耳元で「ありがとう」と囁いた。
「みんなの……こほんっ、お前たちのおかげで、今までぎりぎり生き残ってこられた。今度は俺がお前たちを守る番だ。とってもつよーい仲間を増やしてくるから、まっていろ」
そう言ってニヤッと得意げに笑う。すると、ガチムチ達は嬉しそうに笑って……とはならず、なぜか失礼にも『ほんとに大丈夫かなこの子……』みたいな目で俺を見つめ始めた。失敬な。
「ほんとうだぞ。ほんとうにつよーい仲間を連れて帰ってくるんだからな」
むっとしながら念押しすると、ガチムチ達は何やら微笑ましいものを見るような目でウンウンと頷いた。完全に舐められている。むっきー。
悪役っぽくクールにぷくっとほっぺを膨らませ、これは何を言っても今は信じてもらえそうにないなとこれまたクールに判断して溜め息を吐いた。
仕方ない。実際につよーい仲間を彼らの前に連れてきた方が早そうだ。そう考え、俺はガチムチ達の間を縫っててくてくと門を踏み越えた。
「あッ!ルカ様!お待ちをー!」
壁のような図体と野太い声で俺を引き留めるガチムチ達は全てスルー。
あらかじめ門の前に用意していた馬車にしゅぴーんと飛び込み、駆け寄ってくるガチムチの群れからスッと目を逸らして馬を走らせた。
* * *
そうしてやってきたのは、アンドレアと切り裂きジャックの出会いの場、スラム街。
真っ黒なローブを着込んでフードも目深に被り、ベルナルディの子であることをしっかりと隠す。こんなところで正体を顕にしてしまったら、色々と悪い人たちに狙われかねない。
きちんと辺りを警戒して進まなければ。
「それじゃあいくぞ。ガウ」
「御意」
馬車を下りてすぐ。スラム街の入り口で、俺はがくがくと震える体を隠しながら護衛のガチムチ構成員に声を掛けた。
引き締まった筋肉隆々な褐色の身体に、大きな傷が刻まれた強面の顔面、煌びやかな金の短髪。そこから生える、丸っこい二つのふわふわな耳。
そして何より……明らかにその筋の者だとわかる圧倒的な『闇』のオーラ。
彼は虎獣人のガウ。この世界だと獣人は家畜同然の奴隷だから、ガウの身分も表向きは一応奴隷だ。
二年前、別館の門の前で倒れていたガウを俺が拾って別館付きの構成員にした。
ガウはいつも何を考えているのかよく分からない。必要最低限のことしか話さないし、動かない。常に表情が崩れることは無く、俺が動くと無言で付いてくる。
下賤な獣人だからと、別館の構成員達は初めのころ、ガウのことをよく思っていなかった。
すぐに捨てて殺処分した方がいいと、ガウの目の前で語るデリカシーのないガチムチ構成員たち。
全員の頭をぺしっと叩いて『そんなことしない。ガウは俺のだ』と言うと、みんな何も言わなくなったから良かったものの……ちょぴっとは気を遣うということを学んでほしいものだ。
「ガウ。目的地まで少し距離があるから、お前はそこにつくまで俺を守ってね」
「御意」
禍々しい空気のスラム街を進みながら、斜め後ろに控えるガウに声を掛ける。
相変わらず「御意」しか言わないガウだけれど、屈強なガチムチ構成員が傍にいるというだけで安心感は格段にアップする。何を考えているのか全く分からない彼だけれど……連れてきてよかった。
ほっと息を吐きながらガウのローブの内側に潜り込み、俺の顔と同じくらいある大きな手をきゅっと握る。
ガウの小指に俺の五本指が余裕で収まってしまうくらいの体格差。少しムッとしつつも、スラム街のおどろおどろしい空気は怖いので素直にガウにくっついていようと身を縮ませた。
「……」
「むっ?ガ、ガウが迷子にならないように、主人の俺がしっかり手を握ってやらないとな。うむ」
珍しく頭上からジーッと強い視線を感じて、俺は慌てて誤魔化しの言葉を口にした。
そんな誤魔化しにも興味はないのか、はたまた俺自体にそもそも興味が無いのか。ガウは無言でスッと視線を逸らして、何事もなかったかのように再び目の前を見据えた。
見上げた先にある無表情に変化はない。ただ、手を繋がれて嫌がる素振りを見せることなく、手を振り払うような仕草も見せない。そんなガウにふにゃっと頬を緩める。
スラム街を歩いていることへの恐怖も、ガウにくっついたお陰かほんの少しマシになった。
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