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一章
9.さくせんかいぎ!
本来主人公であるアンドレアの手先になるはずだった強キャラ、切り裂きジャック。
味方にすれば百人力という彼を見事こちら側……悪役サイドに引き入れることに成功した俺は、その日からジャックを専属護衛に任命した。
ちなみに専属護衛は二人いて、ジャックの他にガウを任命している。やっぱり信頼出来る家族を二人も傍につけたら安心感が段違いだ。
けれど実は、ここで一つ不安があった。
世間を騒がせる切り裂きジャックを引き入れたとなると、ぶっちゃけ本館が黙っていないのでは……?という疑問だ。
『切り裂きジャックは本館で引き取る!お前はせいぜい一人で足掻け!』とか言って本館の人達が来たらどうしよう……と思っていたが、不安とは裏腹に、本館からはなんのアクションもなかった。
どうやら本当に俺には一切の興味がないらしい。いつもなら多少なりともしょんぼりするところだが、今回ばかりはその徹底した無関心がありがたかった。
これで安心して、ザマァエンドの対策や作戦を考えられるというものだ。
* * *
そんなこんなで、ジャックが別館で暮らし始めて早数日。
その日、俺はついに届いた“あるもの”を手に、護衛の二人を連れて忙しなく歩いていた。
さっきからじーっと突き刺さる複数の視線。
言うまでもなく、あの“切り裂きジャック”を侍らせて呑気に散歩している俺への『どういうことだってばよ……』という構成員達からの困惑の視線だろう。
それを華麗にスルーしててくてくっと庭園を進む。
少し開けた場所に出て振り返り、連れていたジャックとガウを見上げてこくりと頷いた。よしよし、二人ともちゃんと居るな。
「二人ともしゃがめ。これから三人で、秘密の作戦会議を始めるぞ」
むんっと先行してしゃがみ込み、その辺の枝を取って地面に『さくせんかいぎ』と記す。
俺の指示に従って素直にしゃがみ込んだ二人を交互に見据え、胸ポケットから取り出した封を真剣な表情で掲げた。
掲げた黒い封には紫の封蝋がされている。これは今朝本館から届いた重要な手紙だ。
「ついに届いた。俺の六歳の誕生日パーティー、その招待状が……!」
どどん!と言い放った瞬間、二人がカッ!と目を見開いた。
驚愕の表情にうむうむと頷く。二人とも早くも察したのだろう、これが俺にとって恐ろしい悪夢のような招待状であるということを……──
「えっご主人様もうすぐ誕生日なの!?なにもう早く言ってよぉ!プレゼントなんにも用意してないんだけどぉ!?」
「くッ、私としたことが何たる不覚……主の誕生日を知らずにいたとは……!」
俺の胸の内なんて何も知らないとでも言うように、二人は突如慌てだす。
いつもガミガミと喧嘩ばかりのくせに、なぜか今は「主様の欲しいものは一体何だ」やら「知らないよぉ!ご主人様ってば欲がないんだもんっ」やらよく分からない会議を仲良く始めている。
むぅ、今は三人での作戦会議の時間なのに……。
なんて、ムスッと不貞腐れた表情を浮かべると、二人はやがてそれに気が付いてあわわっと焦り出した。なんだか今日は二人とも、いつも以上に忙しないな……。
「あぁっご主人様!ごめんねぇ、きちんとお話聞くから機嫌直してぇ?ほっぺぷくってしないでぇ!」
しないでぇ!と嘆きながらも、言葉とは裏腹にジャックの手は俺の頬をむにむにっと揉んでいる。一体何がしたいんだこいつは。
ガウもガウで、呆然と俺の頬に伸ばした片手を、ハッとしたみたいにもう片方の手で抑え込んでいるし……本当に何なんだろう、右腕が疼くのかな。
「……こほんっ。落ち着けお前たち。とってもだいじな話なんだから真面目に聞け」
ほっぺをむにゅむにゅするジャックの手をぺしんっと叩き落し、気を取り直してもう一度封を掲げる。
俺のピリついた空気を悟ったのか、二人はサッと姿勢を正して聞く体勢に入った。その姿にうむと頷き、二人以外には聞かれないよう声量を落として呟いた。
「いいか。この件には……俺の命がかかっているんだ」
重々しく語った瞬間、さっきまで緩んでいた二人の雰囲気が突然鋭く緊迫し始めた。
ガウは無表情を崩して顔を強張らせているし、流石のジャックもいつものヘラヘラとした笑顔を消して警戒の表情を浮かべている。
二人の様子につられて息を詰めながら、この招待状がどれほど危険なものであるかを説明するため口を開いた。
「二人とも、たぶん察しているだろうけれど……俺は本館の人たちとあまり関係がよくない。特にベルナルディ家の当主である父は、俺のことをすごく嫌っている」
前提として紡いだ言葉だけでも、俺の境遇と立場を正確に察したらしい。
表情を苦く歪めた二人は、同時に困惑の色を浮かべながら問いを口にした。
「なんで当主はご主人様を嫌ってるんだろう?当主は余程見る目がないんだろうねぇ」
「同意です。こんなにもお美しい御心の持ち主である主様を嫌うなど、本館の方々は頭でも湧いているのでしょうか」
ジャックだけならまだしも、ガウまでちょっぴりアウトな言葉を吐いていることにぎょっとした。
本館の人たちに聞かれたら首を刎ねられちゃうぞ、と思いながらも、本当は少しスカッとしたなんて……そんなことは言えない。
俺からしたら自分は悪役で、本館の人たちは原作の主人公サイド、つまり正義だから。母だけならともかく、父まで悪く言おうとする考えはそもそもなかったのだ。
「ていうか、命がかかってるってどういうこと?ご主人様の誕生日パーティーでしょ?お祝いするための場なのになんでそんなに警戒してるの?」
ジャックの問いに短く溜め息を吐く。
そうだよな、そこを説明しないと、二人に協力を求めることは出来ない。情けない話だけど、きちんと話さないと。
「母は俺をベルナルディの後継者にしようと企んでる。けど、父は母の思惑なんて当然察してるはずだから……この機会に、父は俺と母をまとめて排除しようとしてるんだ」
「……うーん、それってつまりぃ……ご主人様はお馬鹿な母親のポカに巻き込まれて、腹黒当主に殺されちゃうかもしれないってことぉ?」
俺の遠回しの説明を容赦なくまとめたジャックが淡々と語る。
それに「まぁ……そういうことだ」と眉尻を下げて頷くと、ジャックは呆れ顔を浮かべて絶句した。ガウも何とも言えない表情で黙り込んでいる。
「なにそれぇ!とんだ迷惑なんですけどぉ!?ご主人様なーんにも悪くないじゃんかぁ!」
やがてジャックはぷんすか!と怒りながら地面をぽかぽかと殴る。
仕草は子供っぽくて微笑ましいけれど、拳がぶつかるたび地震の後みたいにヒビ割れる地面を見てちょっと怯えた。流石切り裂きジャック、力がとっても強いらしい。
「主様を巻き込むなど許せません。そうなる前に主様の母とやらを排除すべきです」
仮にも子供に母を消すべきと進言するガウに苦笑した。
普段はあまり血生臭い話なんてしないから特に感じていなかったけれど、そういえばここはマフィアが牛耳る世界なのだ。
親殺し子殺し。そんな事を思うのも実行するのも、この裏社会ではよくあることなのだろう。
改めて自分が置かれた状況の恐ろしさを思い知ったところで、こほんっと気を取り直す。
各々ぷんすかとあらわにしていた怒りを抑え、こちらに視線が向けられたのを確認して枝を手に取った。『さくせんかいぎ』と書かれた下に、ここ数日で考えた計画をスラスラ―ッと書き連ねていく。
「母はたぶん勝手に自滅するだろうから、こっちからは何もしない。それよりも……俺は普段、本館への立ち入りが禁じられているから、今回のパーティーはすごく貴重な時間になる。その時しかできないことをやらないとな」
淡々と説明しながら地面に記したのは『さくせんいち、あにをたすける』という内容だ。
それを見てきょとんと首を傾げた二人に、これはどういうことだと視線で尋ねられる。その反応にふふんと得意げに笑い、ずばり!と胸を張って答えた。
「これは第一の作戦だ!本館へ入ったら、まず兄を助けて媚び……いや、恩を売る!」
ぱちくり瞬く二人の耳元に唇を寄せ、三人だけの内緒の会議をこそこそと進めた。
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