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二章
33.超絶クールなヒーロー、おれ!
アンドレアに抱っこされながら辺りをきょろきょろ。
見慣れた真っ白いもふもふを見逃さないよう真剣に見渡していると、ふいに頭上から視線を感じてきょとんと顔を上げた。
「ど、どうかしましたか、お兄さま」
じーっと俺を見つめていたのは綺麗なアメジストの瞳。
表情を読み取りづらいその瞳からは何も感じられなくて、思わずビクビクと身体を震わせながら問い掛ける。するとアンドレアは俺の恐怖を察したのか、ぱちくりと瞬いて呟いた。
「……?何故震えている。寒いのか」
この鈍感にぃに……自分のとてつもないオーラ自覚してないんじゃろか……。
そんな強過ぎる目力で睨まれたら誰でも怯えるじゃろうに……と思わず困惑の表情を浮かべると、それを見たアンドレアも俺と同様不思議そうに首を傾げた。
まさか『いいえ!おにいさまが怖くて震えていました!ぶるぶるー!』なんて言えるはずもないのでむぐっと口を噤む。
俺が何も言わずに俯いている姿を見て何を思ったのか、アンドレアはやがて何かを悟った様子でこくりと頷いた。
そんな『おーけー理解理解!』みたいな顔をして一体何をするつもりなのか。
アンドレアの動向をビクビクしながら窺っていると、何故かアンドレアはふいに、俺を抱いたまま器用に脱いだ上着で俺の身体をぐるりと包み込んだ。
「……風邪を引いては厄介だ。これを着ろ」
着ろ、と言いながらも着せる気は全くないらしく、アンドレアは上着で俺をぐるぐると簀巻きにした後に満足げに頷いた。むむぅ、ちょっとまてぃ。
気分は調子に乗って略奪を繰り返したのち、とっても怖いマフィアにお仕置きされて捕らえられた山賊だ。
布や紐でぐるぐる巻きにされ連行される……きっと傍から見たらそんな情けない姿に捉えられていること間違いなしだろう。
超絶クールな悪役次男のはずなのに、どうして俺はぐるぐる巻きにされて主人公に担がれているのか……気丈に前を向きたいけれど、涙目しょぼぼんが止められない。
「ぐすっ、ぐすっ……おれ、ぜんぜんかっこよくないよぅ……」
「……?何を言っている?お前が格好良かった時など一度もない」
がーんッ!と再び顔が青褪める。い、いくら嫌いな弟だからって、そんなにきつく当たらなくてもいいじゃんかよぅ!
無表情でバッサリ切られてしまったことが悲しくてうわーん!と涙が溢れる。プライド?なにそれおいしいの?である。むん……。
しくしくめそめそする俺が気に入らなかったのか、アンドレアはぐぬぬ……といったように眉を顰めて唇をへの字に引き結んでしまった。
何やら歩く途中にたくさんのたんぽぽを摘んで手渡してくれるけれど、突然どうしたのかとこっちは困惑である。
仏頂面でたんぽぽを絶えずプレゼントしてくれる行動の意味が理解できない。これも罠の一つなのだろうか。
「……子供は理解出来ない生き物だ。笑ったかと思えば直ぐに泣く」
きみも子供じゃろがい、とツッコミそうになったがぐっと堪える。
まぁでも確かに、アンドレアを“子供”という大きな括りに入れてしまうのは少し違和感があるかも。とはいえ、アンドレアが大人かと聞かれればそういうわけでもない。
……自分がまだ子供だって、ちゃんと理解していないのかな。ふとそんな考えが湧いたけれど、すぐにその思考を振り払った。
少なくとも、アンドレアに嫌われた弟である俺が首を突っ込むことじゃない。
「……犬は見つかったか」
「ふぇ?はっ!」
ぐるぐるとアンドレアについて考え込んでいたせいか、本来の目的をちょぴっとだけド忘れしてしまっていたみたいだ。
ふいに掛けられた問いでハッと我に返り辺りをきょろきょろ。そうだ、俺ってばロキを探しにきていたんだった。
もふもふ、もきゅもきゅな俺のわんこはどこじゃろかーと忙しなく視線を彷徨わせていると、ふいにアンドレアが一瞬顔を強張らせて立ち止まった。
常に余裕そうな無表情を浮かべるアンドレアにしては珍しい動き。どうしたのかとぱちくり瞬くと、俺を抱くアンドレアの腕にぎゅうっと強く力が籠った。
緊張、しているのだろうか。あのアンドレアが……?
「お兄さま、なにか、こわいのですか……?」
ぐるぐる巻きで動きを制された状態のまま、ひょこっと顔を出して問い掛ける。
アンドレアは眉尻を下げて問う俺を静かに見下ろすと、瞳をスッと柔く細めて首を横に振った。
「……怖いわけではない、ただ……」
ただ?意味深に紡がれる低い声の続きをじっと待つ。
アンドレアはとある一点の方向を無言で見つめ、やがて警戒を滲ませた低く這うような声で答えた。
「──……嫌な気配がする」
そう語るアンドレアの顔があまりにも強張っていたものだから、俺はビクビクッと情けなく震えながらアンドレアにしがみついた。
ぐるぐる簀巻きにされていた布の中からひょこっと腕を出し、むぎゅーっと抱き着くこと数秒。
やがて、アンドレアが見つめる方向にある茂みがガサゴソと揺れた。
「うぅっ!」
な、なんだ!なにが出てくるんだっ!
怖くてカタカタ震えながらも、アンドレアだけに恐怖を押し付けるわけにもいかず気丈に視線を上げる。
いくら身体には年の差があるとは言え、本当はアンドレアより俺の方がお兄さんなのだ!
ここでぷるぷる隠れるのはお兄さんらしくないっ、かっこよくない!
というわけで、俺はぱたぱた抵抗してアンドレアの腕の中から抜け出し、あぴゃーっ!と涙を溢れさせながらバッ!と腕を上げて叫んだ。
「ぐぬぬぅっ……お兄さまはぼくが守るっ!」
背後にアンドレアを隠してドドンッと宣言する。
涙目でむぐむぐと嗚咽を堪えながら待つこと数秒。シーンと静寂が広がった空間に、やがて茂みをガサゴソ掻き分け何かが現れた。
刺客かどこぞのマフィアか!?
えぇぃままよっ!幼気な子供であるアンドレアに手を出すやつは、誰であろうとこの超絶クールなお兄さんである俺が許さんっ!
「お兄さまを倒したくばっ、ぼくのしかばねをこえていけぇぇっ!」
「──きゅーん」
「ぐぬぬぅ……む?」
この際だし超絶かっこいいセリフでも決めておこう。
死の気配を前にそう考えクワッ!と言い放った直後、何やらめちゃんこ可愛い鳴き声が聞こえてポカーンと力が抜けた。
「な、なっ、ななっ!」
茂みから現れたわたあめ。
もふもふもきゅもきゅっとした真っ白の身体に、クリクリの赤い瞳。
ぶんぶんっと揺れる尻尾とピクピク立っている耳を見て、俺は思わずぶわわぁっと号泣してしまった。
「ろっ、ロキぃぃ!!」
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