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二章
47.アンドレアのあんどれあ
翌朝。すっきりとした目覚めでルンルン気分の俺だったが、隣に寝そべるアンドレアとバッチリ目が合いピシッと硬直。
そういえば一緒に寝たね、とそそくさ勢いを消沈させ、サメさんをむぎゅっと抱え込んだ。
というか、なんで俺ぐるぐる巻きにされてるんだ?と首を傾げつつアンドレアを見上げる。
アンドレアはぐーすかと眠っていた俺をぎゅっと抱き締めながら、何やら眉をムスッと顰めた仏頂面を浮かべていた。
怖い夢でも見ちゃったのかな?とおどおど怯えつつも毛布から出した手を伸ばし、アンドレアの艶やかな髪を梳くように撫でる。
するとアンドレアはハッとした様子で焦点を俺に合わせ、微かに頬を緩めて「……おはよう」と呟いた。ヒェッ、至近距離での低音ボイスが腰に響く……。
「おっ、おはよう、ございましゅ……」
まさかあのアンドレアが朝の挨拶をしてくるとは思わなかったので、全然予想していなかった出来事におろおろ慌てながらおはようを返してしまった。
まだ寝惚けているのか。俺を見つめる表情がなんだかすごく穏やかだ。いつもならギロッと射殺す勢いで睨んでいるだろうに。
そわそわっと体を揺らしていると、ふいにアンドレアと俺の間にもふもふの何かがもきゅもきゅっと入り込んでくる。
なにごと?と見下ろしハッと息を呑んだ。
「ロッ、ロキぃーっ!?」
「きゅーん」とめちゃんこかわいい鳴き声を上げて尻尾をぶんぶん振る真っ白わんこ。
それは紛れもなく、生死不明で心配していた大切な家族、ロキだった。
寝惚けているのはアンドレアじゃなく俺だったのか……?と目をゴシゴシ擦ってから再び視線を向けるが、やっぱり視界にはどどんっとロキが映っている。
夢じゃない……夢じゃないっ!と明確に気付いた瞬間、俺は思わずサメさんをアンドレアの方にぽーいっと投げ出して、ロキをぎゅうっと抱き締めてしまった。
「すっごく心配してたんだぞ、ろきぃ!」
もふもふわんこが腕の中で「きゅうん」と苦し気に鳴き声を上げる。
慌てて力を緩めると、ロキは「はふっ」と息を吐いてニコーッと満面の笑顔を浮かべた。うむうむ、元気そうで何より。
「お兄さまっ、お兄さま!見てくださいっ!ぼくのだいじなわんこが帰って……って」
むふー!と表情を輝かせながら伝えようとしてハッと口を噤んだ。
そうだ、そういえばアンドレアってば、ロキのことを何故かすっごく嫌っていたんだった。
走馬灯みたいに蘇るのは、アンドレアが躊躇なくロキに銃口を向けて威嚇射撃をぶっぱなした時の様子。ぐったりとしたロキがとっても痛々しかったのを鮮明に覚えている。
覚えているのに、それなのに、俺ってばお馬鹿さんっ……──!
「あ、あの、そのぅ……」
「……その犬が、どうしたって?」
ゴゴゴゴゴ……とドス黒い怒りオーラを纏いながらロキを睨み付けるアンドレア。
その姿を見て、火照ったドヤ顔を今度はサーッと蒼白顔に切り替えた。
ぱっ!と勢いよく起き上がり、ついでにサメさんをパパッと回収してお尻でふにふにと後退る。
大切な家族たちをぎゅっと抱え込みながら涙目でじーっと視線を向けると、アンドレアはぐぅっと息を詰めて顰め顔をした。何やら動くのを躊躇しているみたいだ。
「お、おねがいしましゅおにぃさまっ!ロキころさないでぇっ、なんでもしましゅからぁ!」
ぽろぽろと大号泣しながら呂律の回らない声を紡ぐ。
嫌いな弟のお願いを聞いてくれるとは思えないけれど……半ば諦観を感じていたが、その予想とは裏腹に、アンドレアは『なんでもしましゅからぁ』のところでハッと目を瞠った。
かと思うと、何やら焦ったような怒ったような顔をして、ものすごい剣幕で俺の肩を鷲掴みする。少し痛いけれど、そんなこと今は言えない雰囲気……。
「……馬鹿ルカ。なんでもするだとか、安易に言うな」
アンドレアには毎日のように馬鹿と罵られるので、もはや『ばかぁ!?』だの『なぬーっ!』だのという反応は飛び出なくなった。
俺は超絶クールで馬鹿じゃないから、何言っとるんじゃコイツ……俺ってば超絶クールなさいきょーお兄さんなのに……と困惑するのは変わらないけれど。
ぱちくり瞬いた後、真剣な表情のアンドレアにへらぁっとした笑顔を向ける。
アンドレアのセリフの意味はよく分からないけれど、とりあえず売れる媚はこの際ちゃんと売っておこう。今がまさに媚売りチャンスだからな!
「でもっ!ぼく本当に、お兄さまのおねがいならなんでもできますっ!」
「なッ……」
「お兄さまのためだもの。あんなことやこんなこともっ、お手のものですっ!」
そう、肩たたきとか膝枕とかねっ!
ほれほれアンドレア、俺の媚売り効けー効けーっ!と念じながらむっふーっとドヤ顔を浮かべる。
逆らうつもりなんてありませんよーわんこも含めて無害ですよーというのを必死にアピールすると、アンドレアはやがて真っ赤な顔でぷるぷると震え始めた。
……む?にしてもどうして震えているのだろう?寒いのかな。
「……本当に俺のことが好きで堪らないのだな。かわいい奴……」
「…………?」
手の甲で口元を多い、頬を真っ赤にしてごにょごにょ呟くアンドレア。
ぱちぱちっと瞬いて首を傾げるが、アンドレアはごにょごにょとお経みたいに何かを呟いたまま視線を向けてくれない。
もしかしてアレか?俺を試しているのか……?
何でも出来るというのなら今ここで証明してみせろっ!とか、漫画とかでよく見るあの展開なのか……!?
むぅ……それなら仕方あるまい。この俺が媚売りを華麗に成し遂げてみせようぞ!
なんて、字面だけ読めばめちゃくちゃ情けないセリフをどどんっと胸中で宣言しながら、俺はふんすふんすと息巻き四つん這いでアンドレアに近付いた。
「まかせてくださいっ……お兄さま……!」
遂行すべきはずばり、肩たたきっ!
のそのそ進んで背後に回って、アンドレアの肩をぽふぽふっと叩けば任務完了……!とやる気を漲らせて進む速度を速めた瞬間、それは起こってしまった。
「──はぇっ?」
突如、ハイハイ歩きに失敗してズルッと身体が倒れ込む。
頭からアンドレアに突っ込む前に、慌てて突撃地点の予測を開始した。むむぅ……むッ!?
「んなぁッ!」
まずい!このままでは俺の頭部がアンドレアのあんどれあにクリーンヒット!
ただでさえ初っ端から殺意を向けられてザマァエンド一直線だというのに、アンドレアのあんどれあにまでドジって攻撃なんてしてしまえばいよいよ待ち受けるのは“死”のみ!
えっ!この状況からでも入れる保険があるんですか?あるって言ってぇ!と脳内はぐるぐる大混乱。
しかしながら『火事場の馬鹿力だけは主人公並み』でお馴染みのおれ、アンドレアのあんどれあにクリーンヒットする直前に、反射で両手を翳すことに成功した!
「ふぉぉっ!」
なんとか頭突きの回避だけはできた!できた……が、ここで新たな問題大発生である。
「……」
「……あ、その」
「……」
「これは、ちがくてですね」
頭突きクリーンヒットは回避したが、その代わりに起きてしまった結末に冷や汗たらたら。
翳した手でアンドレアのあんどれあにソフトタッチ、な目の前の光景を前に、俺はサーッと青褪めながら身体を震わせた。
ソフトタッチした瞬間、手のひらに確かに伝わったふにゅっとした感触。意図せず両手でむぐっと包み込んでしまったこの状況を一体どう突破すべきか。
ロキの視線もさっきからめちゃくちゃ感じるし、これはマズイ。
アンドレアの表情も確認することが出来ない。息子さんを握り締めたまま見上げられるわけないじゃん?だれかたすけて、切実に。
「──……け」
「け?」
沈黙の末、アンドレアの声が微かに聞こえて首を傾げる。
勇気を振り絞って恐る恐る見上げようとした瞬間、スゥッとお腹いっぱいに息を吸ったアンドレアが勢いよく叫んだ。
「──出て行けッ!!」
おっかなびっくりな怒声に慌てて「ぴゃぁいッ!」と返事をしてベッドから飛び降りる。サメさんもロキもすっかり忘れて、俺は涙目で部屋を飛び出した。
終わった……俺の人生、完全終了間違いなし……がくっ……。
──ポンコツなあの子が去った後の寝室。
至極色の長髪を翻して前傾姿勢になっているのは、普段の威厳やらクールな雰囲気が消え失せたアンドレア。
普段の俺なら無様だと嘲笑っているところだが、一部始終を見ていただけに笑いが微塵も湧かないどころか同情の視線しか向けられない。
……本当にあの子はポンコツで、アホくさくて、とんでもない小悪魔だ。
「──正直、勃った?」
「聞くな!クソがッ……!」
震えながら身を丸める好敵手が流石に憐れ過ぎたので、あの子が置いていったサメを持って大人しく退室することにした。
……暴発寸前のソレを処理する時間も必要だろうし。
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