異世界マフィアの悪役次男に転生したので生き残りに励んでいたら、何故か最強の主人公達に溺愛されてしまった件

上総啓

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二章

49.主人公達はとっても仲良し

 
 ロキ・ヴァレンティノ。
 人気小説『暗雲を裂く華』の攻め主人公であり、受け主人公であるアンドレアの恋人となる人物。
 原作では、ロキの初登場は二大ファミリー初の合同パーティーが舞台だった。アンドレアが十五歳の時に催されたパーティーだから……つまり今から三年後、ロキは初めてベルナルディ家と関わることになる。

 そうなるはずだったのだが──。


「ポンコツな“ご主人様”の側近だから油断したよ。まさかこんなに直ぐバレちゃうなんてね」


 わんこのロキをどこかに消し去り、突如現れたその男。
 勘違いでなければ、前世で親の顔より見た攻め主人公『ロキ』の挿絵と全く同じ……いや、正確に言えば、それを少し幼くした容姿にとても似ている。
 似ているというか、もう瓜二つだ。なにがなんだかわけわかめ、と俺ってば大混乱である。

 二大ファミリーは互いに不干渉を保っているとはいえ、決して友好的な関係とは言えない。むしろものすごーく仲が悪い方だ。
 それなのに、今まさに目の前に立つニコニコ笑顔の青年……ヴァレンティノの人間である彼は、敵陣のど真ん中に居るというのに一切の恐怖を見せていない。
 ヒーローみたいな赤い瞳を三日月みたいに歪めて、愉快気に俺を見つめていた。


「よくわかんないけどぉ、これって宣戦布告ってことでいいのかなぁ?」


 ぐるぐるーっと目を回す俺を床に下ろしたジャックが、ふいに歪んだ笑みを顔に貼り付けて呟いた。
 ゆったりとした声音とは裏腹に、ジャックは俊敏に裾に指を入れて何かを取り出す。滑らかな動きでチャキッと全貌をあらわにしたそれは、鋭い刃先をした折り畳み式ナイフだった。


「じゃ、じゃっく?そ、そんな危ないの振り回しちゃ……」


 嫌な予感をシュピーン!と感じ取った俺、すかさず冷や汗を掻きながらジャックに声を掛け……ようとした!が、もう遅い。
 ジャックは最小限の動きでナイフを構えると、瞬間移動か?と息を呑むほどの速さでロキの懐に潜り込んだ。


「──……僕の天使に触れるなよ」


 一瞬見えたジャックの表情は、いつものヘラヘラとした軽薄な笑顔ではなかった。
 感情も何もかも全部抜け落ちたみたいな、深淵を思わせる仄暗い無表情。伸ばした手はピクッと痙攣した末に完全に動きを止め、身体も本能的な恐怖で硬直してしまった。

 カキィンッ!と甲高い金属音が鳴り響き、それによる驚きでビクッと震えた身体を今度はガウにぎゅっと抱き上げられる。
 腕の中からそろりと顔を出して見据えた先には、ジャックの攻撃を短剣で受け止め、心底愉悦に塗れた笑みを浮かべるロキが立っていた。


「威勢がいいね。嬉しいよ、切り裂きジャックとは一度手合わせしてみたいと思ってたんだ」

「……ふぅん。悪いけど、別に君自体には興味ないよぉ。僕だけの甘い蜜に集る羽虫を排除しようとしてるだけだからぁ」


 ここってBL小説の世界だよね……?と思わず困惑気味に目の前の光景を眺めてしまう。
 いつの間にここはアクション漫画の世界になったのか。傍から見れば完全に主役と悪役の最終決戦だ。俺はさながらモブAと言ったところだろうか。一応序盤の悪役ボスなんだけどね……。

 ガウにむぎゅーっと抱き着きつつ、もうちょい下がろうかとさり気なく後退を指示する。
 窓際のギリギリまで下がってもらい、エアポップコーンを片手に二人の戦いを眺めることにした。
 正直、状況がまだ理解できないというか、理解が追い付かないというか。そんな感じだから、ひとまず様子を窺うことにしたのだ。


「そうだね、俺も別に切り裂きジャックと手合わせしたかっただけで、君自体には興味ないよ。俺の興味は今、そっちのご主人様で全部埋まっちゃってるからね」


 ニコッと人好きのする笑顔を突如向けられ、えっおれ!?と思わずぱちくり瞬いた。
 俺はただのモブA(但し序盤悪役ボス)だから主人公の視界には入れないでくれぃ……とあわあわ目を逸らす。そんな情けない姿を見たロキは、おかしそうにクスッと笑った。

 一連の流れを見ていたジャックは笑顔をピキッと引き攣らせ、何の前触れもなしに再び刃物を振り上げた。
 それがロキの喉元を突き刺す直前。ふいに扉が勢いよく音を立てて開かれたことで、全員の動きがピタッと止まった。


「お、おにいさま」


 無表情を険しく顰めて入ってきたのは、ついさっき寝起きで別れたばかりのアンドレアだった。
 アンドレアはベルナルディ家の邸内にヴァレンティノの人間がいるこの状況を見つめ、特に驚く様子も焦る様子もなくスタスタと足を進める。
 やがてロキとジャックの前に辿り着くと、きょとんと瞬くジャックを押しのけ、ロキの頭を思いっきりパシーンッ!と叩いた。痛そう。


「ったぁ!何するのさ、親友!」

「親友……?薄気味悪い冗談は鳥肌が立つからやめろ。昨夜の提案は完全に承諾した訳ではない。大人しくしていろと言ったのをもう忘れたのか」

「あぁもう、朝っぱらから小言が多いね君は……」


 えぇ、なに、なに、どゆことー?と更に困惑が深まり呆然とする。

 三年後に出会うはずの二人がもう出会っている。というか、もう既にイイ感じというか、仲良くなっている……?
 どうして。二人は出会ったばかりの頃だとまだお互いに不愛想で、警戒を滲ませていたはずなのに。どうしてもうこんなに息ピッタリの仲良しさんなんだ……?


「むぅーん」

「あぁっ、主様が不貞腐れておられる!お可愛らしい……!」


 全然状況が理解出来なくてムゥーッとほっぺを膨らませる。
 どうして。人物的にも今までの展開的にも、ここは『暗華』の世界で間違いないはずなのに。
 なぜか今になって、突然ストーリーが変わってきている。三年後に出会って紆余曲折の末に結ばれるはずの主人公たちは、どうしてかもう出会っている上に仲良しさんだし。恋人というよりは、本当に友達みたいだし……。


「わけわかめ……」


 大混乱すぎて頭からぷしゅーっと湯気を出す勢いだ。
 知恵熱でくらくらと身体を震わせ始めた頃、それに気が付いた主人公二人が慌てた様子で俺のもとに駆け寄ってきた。
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