異世界マフィアの悪役次男に転生したので生き残りに励んでいたら、何故か最強の主人公達に溺愛されてしまった件

上総啓

文字の大きさ
59 / 241
二章

59.消えた側近

しおりを挟む
 
 家族との誤解も解けて、俺はルンルンッと上機嫌で自室に戻った。
 夜になって一緒にご飯を食べた後も高揚感は続いて、大切な家族と仲良しになれたことへの嬉しさはやまない。と言っても、三人でのご飯はまだ無言ばかりで気まずいままだけれど。
 とにかく、何はともあれ色々と解決してよかった。なんて、ベッドにごろりんちょと寝転がってふいにあっと思い出した。

 そういえば、これって原作の内容はこの先どうなるのだろう。
 いや、これより前から大分改変は始まっていたけれど……それよりも、序盤の悪役ボスである俺のザマァエンドがなくなったってことの方が重要だ。
 なくなった……と思ってもいいんだよな?とちょっぴり不安が湧き上がる。と言ってもいくら不安がってももうどうしようもないので、すぐにスンと切り替えた。

 たぶん、母のザマァエンドは原作と変わらず。転生直後からの目標通り、俺だけザマァエンドから抜け出すことに成功した、ということだろうか。
 母は可哀想だし、罪悪感もかなりあるけれど……正直自業自得なところもあったよなぁ、なんて父やアンドレアと話した後は思えるようになったから、悪いけれど深く同情することは出来ない。
 父とアンドレアを傷付けたのは確かなのだから、そこはしっかりと罪を償ってもらおう。


「──……つかれた」


 母のこと、家族のこと。
 色々あって、色々あったなぁって考えている今の時間。なんだかふいに疲労を感じてしまって、俺はぽとりと頭を枕に沈めた。
 今日はこのままちゃっちゃと寝ちゃいますかね……と襲い来る眠気に逆らわず瞳を閉じようとした瞬間、それは突然現れた。


「主様」

「ぴゃあっ!」


 突然死角からぬっと出てきた大柄な影にびくーんっ!と身体を跳ねる。
 トランポリンかな?と思わずツッコんじゃうくらいのびっくりジャンプに自分で照れてしまった。てれてれ。

 数秒置いて冷静に戻り、聞こえた声が聞き慣れたものであることを思い出して力を抜く。
 のそっと起き上がると、ベッド脇に耳をピクピク生やした巨体が立っていることに気付いて首を傾げた。


「ガウ。こんな時間にどうした?珍しいな、おまえが夜にくるなんて」


 現れたのはもふもふ獣人のガウ。
 ガウは基本的には常識人なやつだから、夜に来るなんていつもなら絶対にありえない。ジャックならともかく……なんて思いながらベッドからのそのそ抜け出して両腕を広げた。


「こわい夢でもみたのか?おいで、ぎゅーしてやる」

「グゥッ!かっこかわいらしい……!」


 正直とっても眠いけれど、がんばってむにゃむにゃ言いながら腕の中に誘った。
 ガウが夜にも関わらず、自分の常識を破ってでもやって来たくらいなのだから……それはもう、怖い夢を見てうえーん!となった以外考えられない。
 という訳でよーしよしと慰めてやるために腕を広げたはいいものの、ガウはコホンッと咳払いして姿勢を正し、俺の胸に飛び込んでくることはなかった。ぬーん、むねん。

 それじゃあ一体なんなのか。怖い夢を見たんじゃないなら何の用なんだ?と問うと、ガウは微かに躊躇う様子を見せてからスッと床に膝をついた。
 なにごと?と瞬く俺の足元に跪いたガウは、初めに「申し訳ございません」と深く頭を下げてとんでもない一言を語った。


「ジャックが……昼から姿を消したきり戻って来ていません」


 数秒遅れて「へ?」と反応を零す。
 まさかの報告で途端に頭がぐるぐる混乱する中、そういうことか、とひとつ納得もした。ガウが明日の朝じゃなく、無礼を承知で夜にやってきた理由がようやく出来た。


「報告する機会を窺っていたのですが……本日は一日中ご家族とお過ごしになっておられるご様子でしたので……」


 申し訳なさそうに語るガウにぶんぶんっと首を横に振る。
 確かに今日は二人と話し合ってからずっと一緒に過ごしていた。今まで家族として一緒に過ごせなかった時間を埋めるように。
 だから、ガウの言う通り報告をゆっくり聞く暇はなかったかも。もともとガウを責めるつもりはなかったけれど、むしろ完全に俺が悪かったと気付いてあわわっと頭を下げた。


「俺の方こそごめんよ……ガウ、今日ずっとそわそわしてたんだな。俺が全然時間作ってやれなかったから……」


 ごめんよーとむぎゅむぎゅしてやると、ガウはぽふっと頬を染めて首を振った。
 耳をへにゃんと伏せてかわいいやつだ。かわいいからはむはむもしてやろう、とご褒美感覚でケモ耳はむはむ。うーむ、ガウの耳はいつはむはむしてもすばらしいものだな。


「それで、ジャックはどうして消えたんだ?何か、ジャックから聞いてるか?」


 はむはむの合間に問うと、ガウは微かに荒れた息と赤い顔を通常のものに戻しながらこくっと頷いた。


「“ケジメをつけてくる”と、それだけ言い残して何処かへ」


 返ってきた答えにピタッと動きを止める。
 何となく、既視感のあるセリフのように感じた。なんだっけ?ケジメ、けじめ……。
 ガウをむぎゅーしながら悶々と考えることを数秒。しばらくして、俺はようやくその既視感の正体を思い出し息を呑んだ。


「そうだ、暗殺ギルド……!」


 思わずガウからぱっと手を離して立ち上がる。俺のハッとしたような呟きを聞いたガウは「暗殺ギルド……?」と俺の言葉を繰り返して首を傾げた。
 説明を求めている様子のガウには悪いけれど、俺もちょっぴり混乱……というよりは焦っているのであわわっと部屋を歩き回ることしか出来ない。

 忙しなく身体を動かしつつ、俺は予想外の展開にどうしようどうしようと目を回した。
 このシナリオがいずれ訪れるとは思っていたけれど、まさかこんなタイミングでだなんて。一体何がジャックのきっかけとなったのだろう……。大切な家族なのに、しっかり注視してあげられなかった自分をぽかぽかぶん殴りたい気分になる。

 まぁでも、なってしまったものは仕方ない。とにかくジャックが無事に帰ってきてくれることを祈らないと。


「おれには、何もできないし……」


 ぶつぶつと呟きながら、忙しなく動いていた身体をやがてソファにぽすっと投げ出した。
 湧き上がるのは無力感とか不安とか、後ろ向きな感情が色々。ストーリーを分かっている立場だからこそ、俺は自分が何もすべきじゃないってことを知っている。それが酷く無力だ。


「主様……?そこで寝てはお風邪を召されてしまいますよ」


 ぐでーんとソファに伏せる俺に近付いてきたガウは、どこからか持ってきたらしいもこもこのブランケットを俺の身体をひょいっと掛けてくれた。
 それに「ありがと……」とお礼を言いつつ、短い溜め息を何度も零す。あぁだめだ、不安で心配でたまらない……でも、俺が手を出すシナリオじゃないんだよなぁ……。

 原作でもあった展開だけれど、その時いまの俺の立場だったアンドレアは決して手を出さなかった。賢い主人公がそうしたということは、それが最適解だったということ。
 ここは現実。俺の独りよがりな判断で無理に手を出してしまえば、それこそジャックの邪魔にすらなってしまいかねない。下手に首を突っ込むのはやめた方がいいだろう。


「むぅーっ、うぅーっ」


 突如始まったこのシナリオは、『暗華』の作中でもかなり上位に入る悲劇が起因だ。
 今までジャックの過去については知らないフリをしていたけれど……そろそろ、向き合う時が来たのかもしれない。


「ガウ」

「はい」

「ジャック、帰ったらお疲れだろうから……あったかいご飯、用意しとこうな」

「……御意」


 これから起こるのは、切り裂きジャックによる残酷な“復讐劇”だ。
 無力な主の俺に出来るのは、全てを終えて帰ってきたジャックに、きちんと居場所を用意しておくことだけだろう。
しおりを挟む
感想 118

あなたにおすすめの小説

この世界は僕に甘すぎる 〜ちんまい僕(もふもふぬいぐるみ付き)が溺愛される物語〜

COCO
BL
「ミミルがいないの……?」 涙目でそうつぶやいた僕を見て、 騎士団も、魔法団も、王宮も──全員が本気を出した。 前世は政治家の家に生まれたけど、 愛されるどころか、身体目当ての大人ばかり。 最後はストーカーの担任に殺された。 でも今世では…… 「ルカは、僕らの宝物だよ」 目を覚ました僕は、 最強の父と美しい母に全力で愛されていた。 全員190cm超えの“男しかいない世界”で、 小柄で可愛い僕(とウサギのぬいぐるみ)は、今日も溺愛されてます。 魔法全属性持ち? 知識チート? でも一番すごいのは── 「ルカ様、可愛すぎて息ができません……!!」 これは、世界一ちんまい天使が、世界一愛されるお話。

性悪なお嬢様に命令されて泣く泣く恋敵を殺りにいったらヤられました

まりも13
BL
フワフワとした酩酊状態が薄れ、僕は気がつくとパンパンパン、ズチュッと卑猥な音をたてて激しく誰かと交わっていた。 性悪なお嬢様の命令で恋敵を泣く泣く殺りに行ったら逆にヤラれちゃった、ちょっとアホな子の話です。 (ムーンライトノベルにも掲載しています)

捨てられた生贄オメガ、魔王城で極上の『巣作り』始めます!~不眠症の魔王様、私のクッションで爆睡して溺愛モードに突入~

水凪しおん
BL
「役立たずのオメガ」として冷遇され、血も涙もない魔王への生贄として捨てられたリノ。 死を覚悟して連れてこられた魔王城は、寒くて硬くて、居住性最悪のブラック環境だった!? 「こんなところで寝られるか!」 極限状態で発動したオメガ特有の『巣作り本能』と、神業レベルの裁縫スキルが火を噴く! ゴミ同然の布切れをフカフカのクッションに、冷たい石床を極上のラグマットにリフォーム。 すると、不眠症で常にイライラしていた魔王ザルドリスが、リノの作った「巣」のあまりの快適さに陥落してしまい……? 「……貴様、私を堕落させる気か」 (※いいえ、ただ快適に寝たいだけです) 殺されるどころか、魔王様に気に入られ、気付けば城中がリノの虜に。 捨てられた生贄オメガが、裁縫一つで魔王城を「世界一のマイホーム」に変える、ほのぼの逆転溺愛ファンタジー!

キュートなモブ令息に転生したボク。可愛さと前世の知識で悪役令息なお義兄さまを守りますっ!

をち。「もう我慢なんて」書籍発売中
BL
これは、あざと可愛い悪役令息の義弟VS.あざと主人公のおはなし。 ボクの名前は、クリストファー。 突然だけど、ボクには前世の記憶がある。 ジルベスターお義兄さまと初めて会ったとき、そのご尊顔を見て 「あああ!《《この人》》、知ってるう!悪役令息っ!」 と思い出したのだ。 あ、この人ゲームの悪役じゃん、って。 そう、俺が今いるこの世界は、ゲームの中の世界だったの! そして、ボクは悪役令息ジルベスターの義弟に転生していたのだ! しかも、モブ。 繰り返します。ボクはモブ!!「完全なるモブ」なのだ! ゲームの中のボクには、モブすぎて名前もキャラデザもなかった。 どおりで今まで毎日自分の顔をみてもなんにも思い出さなかったわけだ! ちなみに、ジルベスターお義兄さまは悪役ながら非常に人気があった。 その理由の第一は、ビジュアル! 夜空に輝く月みたいにキラキラした銀髪。夜の闇を思わせる深い紺碧の瞳。 涼やかに切れ上がった眦はサイコーにクール!! イケメンではなく美形!ビューティフル!ワンダフォー! ありとあらゆる美辞麗句を並び立てたくなるくらいに美しい姿かたちなのだ! 当然ながらボクもそのビジュアルにノックアウトされた。 ネップリももちろんコンプリートしたし、アクスタももちろん手に入れた! そんなボクの推しジルベスターは、その無表情のせいで「人を馬鹿にしている」「心がない」「冷酷」といわれ、悪役令息と呼ばれていた。 でもボクにはわかっていた。全部誤解なんだって。 ジルベスターは優しい人なんだって。 あの無表情の下には確かに温かなものが隠れてるはずなの! なのに誰もそれを理解しようとしなかった。 そして最後に断罪されてしまうのだ!あのピンク頭に惑わされたあんぽんたんたちのせいで!! ジルベスターが断罪されたときには悔し涙にぬれた。 なんとかジルベスターを救おうとすべてのルートを試し、ゲームをやり込みまくった。 でも何をしてもジルベスターは断罪された。 ボクはこの世界で大声で叫ぶ。 ボクのお義兄様はカッコよくて優しい最高のお義兄様なんだからっ! ゲームの世界ならいざしらず、このボクがついてるからには断罪なんてさせないっ! 最高に可愛いハイスぺモブ令息に転生したボクは、可愛さと前世の知識を武器にお義兄さまを守りますっ! ⭐︎⭐︎⭐︎ ご拝読頂きありがとうございます! コメント、エール、いいねお待ちしております♡ 「もう我慢なんてしません!家族からうとまれていた俺は、家を出て冒険者になります!」書籍発売中! 連載続いておりますので、そちらもぜひ♡

前世が飼い猫だったので、今世もちゃんと飼って下さい

夜鳥すぱり
BL
黒猫のニャリスは、騎士のラクロア(20)の家の飼い猫。とってもとっても、飼い主のラクロアのことが大好きで、いつも一緒に過ごしていました。ある寒い日、メイドが何か怪しげな液体をラクロアが飲むワインへ入れています。ニャリスは、ラクロアに飲まないように訴えるが…… ◆いつもハート、エール、しおりをありがとうございます。冒頭暗いのに耐えて読んでくれてありがとうございました。いつもながら感謝です。 ◆お友達の花々緒さんが、表紙絵描いて下さりました。可愛いニャリスと、悩ましげなラクロア様。 ◆これもいつか続きを書きたいです、猫の日にちょっとだけ続きを書いたのだけど、また直して投稿します。

悪役令嬢の兄でしたが、追放後は参謀として騎士たちに囲まれています。- 第1巻 - 婚約破棄と一族追放

大の字だい
BL
王国にその名を轟かせる名門・ブラックウッド公爵家。 嫡男レイモンドは比類なき才知と冷徹な眼差しを持つ若き天才であった。 だが妹リディアナが王太子の許嫁でありながら、王太子が心奪われたのは庶民の少女リーシャ・グレイヴェル。 嫉妬と憎悪が社交界を揺るがす愚行へと繋がり、王宮での婚約破棄、王の御前での一族追放へと至る。 混乱の只中、妹を庇おうとするレイモンドの前に立ちはだかったのは、王国騎士団副団長にしてリーシャの異母兄、ヴィンセント・グレイヴェル。 琥珀の瞳に嗜虐を宿した彼は言う―― 「この才を捨てるは惜しい。ゆえに、我が手で飼い馴らそう」 知略と支配欲を秘めた騎士と、没落した宰相家の天才青年。 耽美と背徳の物語が、冷たい鎖と熱い口づけの中で幕を開ける。

ブラコンすぎて面倒な男を演じていた平凡兄、やめたら押し倒されました

あと
BL
「お兄ちゃん!一肌脱ぎます!」 完璧公爵跡取り息子許嫁攻め×ブラコン兄鈍感受け 可愛い弟と攻めの幸せのために、平凡なのに面倒な男を演じることにした受け。毎日の告白、束縛発言などを繰り広げ、上手くいきそうになったため、やめたら、なんと…? 攻め:ヴィクター・ローレンツ 受け:リアム・グレイソン 弟:リチャード・グレイソン  pixivにも投稿しています。 ひよったら消します。
誤字脱字はサイレント修正します。
また、内容もサイレント修正する時もあります。
定期的にタグも整理します。

批判・中傷コメントはお控えください。
見つけ次第削除いたします。

悪役令息を改めたら皆の様子がおかしいです?

  *  ゆるゆ
BL
王太子から伴侶(予定)契約を破棄された瞬間、前世の記憶がよみがえって、悪役令息だと気づいたよ! しかし気づいたのが終了した後な件について。 悪役令息で断罪なんて絶対だめだ! 泣いちゃう! せっかく前世を思い出したんだから、これからは心を入れ替えて、真面目にがんばっていこう! と思ったんだけど……あれ? 皆やさしい? 主人公はあっちだよー? ユィリと皆の動画をつくりました! インスタ @yuruyu0 絵も動画もあがります。ほぼ毎日更新! Youtube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます。動画を作ったときに更新! プロフのWebサイトから、両方に飛べるので、もしよかったら! 名前が  *   ゆるゆ  になりましたー! 中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー! ご感想欄 、うれしくてすぐ承認を押してしまい(笑)ネタバレ 配慮できないので、ご覧になる時は、お気をつけください!

処理中です...